山本敬三の発言 (消費者問題に関する特別委員会)

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○参考人(山本敬三君) 済みません。ありがとうございます。山本敬三です。
 本日は、貴重な発言の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
 最初に、自己紹介を兼ねまして、消費者契約法の改正に関するこれまでの経緯を確認させていただきます。
 平成二十一年から民法の債権法改正に関する審議がスタートしまして、私もこの審議に参加しましたが、そこで消費者契約法の規定を民法に取り込むべきかどうかという検討も行われました。しかし、最終的にそのような提案は採用されず、平成二十六年夏には債権法改正の方向性がほぼ明らかになりました。
 そうした改正の動向を見極めた上で、平成二十六年八月に消費者契約法の見直しについて消費者委員会に諮問があり、平成二十六年十一月に専門調査会が設置されて検討が始まりました。私はこの専門調査会で座長を拝命いたしまして、この頃から検討に関わっています。
 そこから先は御承知のとおりで、まず一致が得られやすい事項について平成二十八年に消費者契約法の第一次改正が行われました。その後、積み残した課題について専門調査会で審議を再開し、その検討を踏まえて平成三十年六月に消費者契約法の第二次改正が行われました。同じ時期に成年年齢の引下げに関する民法改正が行われましたので、それへの対応も一部、第二次改正で図られています。
 しかし、この第二次改正でも検討課題が残り、衆参両院の特別委員会で附帯決議が行われたのを受けて、令和元年十二月に消費者契約に関する検討会が設置され、令和三年九月まで検討を行いました。私はこの検討会の座長も拝命し、検討に関わりました。
 このような経緯がありますので、参考人として私に求められているのは、これまでの経緯、とりわけこの検討会での検討から見て、今回提出されている法律案をどのように受け止めるかということに関する所見だろうと思います。
 以下、そのような観点から所見を述べさせていただきます。
 まず、平成二十八年第一次改正と平成三十年の第二次改正でどのような改正が行われたかということを配付資料で整理してお示ししておきました。これは今回の改正の前提に当たりますが、詳しい説明は省略させていただきます。
 そこで残された検討課題、次のページですが、のうち最も大きなものは次の二つでした。
 一つは、合理的判断ができない事情の不当な利用に関する課題です。いわゆる付け込み型不当勧誘取消し権の創設に向けて更に検討する必要があることが附帯決議でも指摘されました。
 もう一つは、九条一号の平均的な損害の額に関する課題です。平均的な損害の額の意義などの要件についても必要に応じて検討しながら、特に立証責任の負担軽減に向けて検討する必要があることが指摘されました。
 ほかにも課題はありますが、検討会ではこうした課題について検討することが求められました。
 時計数字のⅢです。この検討会がこれまでのものと少し違っていますのは、多様な委員によって多角的な検討が行われたことです。今回は、法学者でも商事法や憲法の研究者が含まれていますし、経済学や心理学の研究者、さらにITの専門家も含まれています。現代における消費者契約に関する先端的な問題を幅広く、かつ掘り下げて検討する体制が取られていたことは特筆に値することだと思います。
 更に特筆に値するのは、この検討会での検討を通じて、現実に生じている問題に対処するために、規制が過少になってもいけないが、同時に、社会経済活動に対して規制が過剰になってもいけないという議論の枠組みを共有し、冷静かつ理性的な議論を行うことができたということです。消費者問題に関する議論といいますと、何か消費者側と事業者側が角を突き合わせて論争しているという印象があるかもしれませんが、この検討会での検討はそれとは違うものであったというのが座長を務めた者として実感するところです。
 検討会では最後に報告書を作成していますが、これはそれぞれの項目について、考えられる対応となお書きという二つの部分から構成されています。
 考えられる対応では、条文案に近いところまで詰められれば詰めるけれども、それが難しいときには一致が見られる考え方の方向性を留意事項とともに示す、その上で、なお書きでは、考えられる対応としてまとめることに反対まではしないものの、それとは異なる意見があったことを示し、法制化に当たっての考慮を求める、そのような趣旨で整理されています。
 条文案まで詰めるのが難しかったものが少なくありませんが、これは、第一次改正、第二次改正でも積み残された困難な課題についての検討であったことから、やむを得ない面もあったと言うことができます。
 この検討会報告書の考えられる対応と今回の法案を対照してみますと、次のページですが、次のように整理することができます。
 まず、報告書の第二、平均的な損害の三、解約時の説明に関する努力義務の導入、第三、不当条項の二、サルベージ条項、五、消費者の解除権に関する努力義務、第四、消費者契約の条項の開示の二、定型約款の表示請求権に係る情報提供の努力義務、三、適格消費者団体の契約条項の開示請求、第五、消費者契約の内容に係る情報提供の努力義務における考慮要素はほぼ法案化されていると見ることができます。
 それに対して、第一、消費者の取消し権の二、困惑類型の脱法防止規定、三、消費者の心理状態に着目した規定、第二、平均的な損害の五、立証責任の負担を軽減する特則の導入は、報告書の考えられる対応の一部が法案化されるにとどまっていると見ることができます。
 さらに、第一、消費者の取消し権の四、消費者の判断力に着目した規定は、報告書の考えられる対応では取消し権の創設が示されていましたが、改正法案では法案化されていません。ただ、改正法案三条一項二号で年齢、心身の状態を努力義務の考慮事由として追加されていますので、その限度での手当てがされています。第二、平均的な損害の二、平均的な損害の考慮事由の列挙、第三、不当条項の三、所有権等を放棄するものとみなす条項と、四、消費者の解除権の行使を制限する条項も法案化されていません。ただ、これらについては現行法の解釈に委ねられることになりますので、逐条解説等で指摘がされる可能性があります。
 以上の改正案は、検討会報告書から見ますと、考えられる対応の全部又は一部を法案化しようとしているものですので、全て速やかに成立することが期待されます。
 もっとも、法制化に至っていない事項が残されていますが、これについては、もう何よりもまず法制化に至っていない理由ないし原因を整理、分析する必要があります。
 まず、第一、消費者の取消し権についての二、困惑類型の脱法防止規定と、次の三、消費者の心理状態に着目した規定が法制化に至っていない原因はほぼ共通しています。これらについては、対象となる行為をルール、つまり要件を特定した規定として過不足なく定式化することが必要であるとしますと、それは難しい。正常な事業活動は取消しの対象とならないようにする必要があるわけですが、評価の余地のない要件でそれを定めることが必要であるとしますと、それは極めて難しい。そこに原因があると言うことができます。ただ、特に、次のページの③ですが、特に成年年齢引下げに伴う問題が今後実際に生じてくるようであれば、こうした課題を克服するための方策を速やかに検討する必要があります。
 次の四、消費者の判断に着目した規定については、規定の必要性については一致が見られていたのですが、民法の意思能力、行為能力の規定との違いを明らかにする必要があります。報告では、判断力が低下していなければするはずがないと考えられる行為を要件とすることで差別化を図ろうとしたのですが、ここでも、取消しを認めるための要件として十分な確定性を備えることが必要であるとしますと、それは備えていないと見る余地が残っていました。
 次に、第二、平均的な損害については、そもそも平均的な損害とは何であり、どう算定されるかが明らかでない。消費者に立証責任を課すのも問題ですが、事業者に立証責任を転換しますと事業者も立証に窮することになる。そもそも平均的な損害を不当性の判断基準とすること自体が問題であって、それに代わる基準を設ける必要があるということだと考えられます。
 第三、不当条項については、十条の第一要件に例示するものを追加しようとしたわけですが、第一要件は本来、任意法規の適用によるのと異なるということです。ところが、例示は、それ自体として不当性を推認できるものであることを要求しますと、単に任意法規と異なるだけではなく、不当性を示す評価的な要素を挙げる必要が出てきます。しかし、そうすると第二要件と重複が生じる。このジレンマの解決は極めて困難です。むしろ、不当条項のリスト化については、評価の余地を伴う基準を用いた規定とすることを検討する必要があると考えられます。
 次のページ。最後に、今後の課題、特に、今後骨太の議論が必要であるということが言われていますので、私からは何がそこでの課題と考えられるかということをお話しさせていただきたいと思います。
 まず、法体系の中での民法及び消費者契約法の位置付けと役割について再検討ないし再確認が必要と考えられます。
 民法は法体系全体における私法の基本法に当たります。そうした私法の基本法に求められる役割は、市民社会におけるプリンシプルを提示する、行為規範を提示する、紛争の事後的な解決規範を提示するところにあります。特に、紛争解決規範の提示は私法に固有の任務であって、他の法では代替できません。
 最初にも少しお話ししましたように、民法の債権法改正では消費者契約法の規定を民法に取り込むことが検討されましたが実現しませんでした。格差の考慮を定める一般的な規定を民法に定めることも実現しませんでした。としますと、格差を考慮したプリンシプルや紛争解決規範は民法の外に求められることになります。しかし、民法の外で格差のある関係一般を規律することは不可能です。そこで、消費者契約に限ってプリンシプルと紛争解決規範を提示する法、それが消費者契約法だと言うことができます。民法と特商法を始めとした個別的な特別法の間に消費者契約法を定めた意味はここにあると言うことができます。
 次に、消費者法の中での消費者契約法の役割については次のように整理することができます。
 まず、消費者法では紛争を予防するための行為規制が必要です。これを国が公法的規制として定める場合はルールの明確化が不可欠です。しかし、国が一手に引き受けるのではなく、ステークホルダーの協働によるルール形成が現在では重要になっているように思います。また、私法規範による行為規範の形成も私法が果たし得る役割の一つです。努力義務も、プリンシプルを示すという意味もありますが、そうした行為規範を形成する一つの手段として位置付けられます。
 消費者法の中でも、先ほど示した消費者契約に関するプリンシプルや紛争解決規範を形成する必要があります。これが、消費者契約法に固有の役割です。ここで、ルール化、つまり要件、効果を具体的に特定して規定するという手法では、プリンシプルの提示はもちろん、紛争解決規範としての役割を十全に果たせないことを理解する必要があります。個々の問題領域に即した紛争解決規範ないし救済規範の形成は個別的な特別法に委ねるべきであって、それを全て消費者契約法に取り込もうとしますと、消費者契約に関して公正な解決をもたらす紛争解決規範を提示するという役割が十全に果たせないことになります。
 最後に、民法に定められた規範を消費者契約に即して具体化する規定、あっ、違いました、済みません、民法の特別法としての消費者契約法の意義と可能性、これも見直す必要があります。
 その上で、まず民法に定められた規範を消費者契約に即して具体化する規定を定めることも許容すべきです。消費者契約法には、民法では認められないけれども、消費者契約では認められるもののみを定めると考える必要はないということです。現行消費者契約法では、不実告知による取消しなどはそうした規定の例として位置付けられます。
 今後の課題としては、例えば、消費者の脆弱性は人間の脆弱性そのものであり、消費者のみに当てはまる事柄ではないため、消費者契約法に規定すべきではないと、そういうように考えるべきではないということが挙げられます。
 また、消費者契約に関する考慮から、民法の括弧付きの伝統的な枠組みから離れた要件、効果を設定することも許容すべきです。つまり、消費者契約法も民法の伝統的な枠組みに従う必要があり、その枠組みを超えた規律を設けることは許されないと、そう考えるべきではないということです。ただし、そうした規律を設けるためには、基本に立ち返った丁寧な検討が必要になります。現行消費者契約法では、六条の二の取消しの効果は民法の基本的な規定を修正したものです。
 今後の課題としては、まず脆弱性を考慮した救済規定の創設が挙げられます。取消しが認められるのは意思表示の瑕疵がある場合に限られるのか、錯誤・誤認、畏怖・困惑、意思無能力・制限行為能力では捕捉されない意思形成の障害を意思表示の取消し事由として認めることはできないかということが問題となります。
 また、救済方法の柔軟化も課題です。無効、取消しとは異なる契約の拘束力からの解放を認める制度を創設することができないか、取消しについても割合的解決が認められないか、取消しに代えて原状回復的損害賠償に限った損害賠償責任を認める規定を創設できないかといったことが問題となります。
 最後に、より大きく根本的な問題について所見を述べて、締めくくりとさせていただきます。
 御承知のように、一九九〇年代末から二〇〇〇年代にかけて、事前規制から事後規制へということが言われました。それが現実に何をもたらしたかということですが、事前規制が事後規制にスライドし、むしろ規制が強化されたのではないかということです。その結果として、管理社会化が進み、自由な活動が阻害されている面があるのではないかと思います。また、事前規制の考え方が事後規制に及んできて、私法規範の個別ルール化が進行しています。しかし、その結果として、公正な紛争解決の実現が阻害されている面があるのではないかと思います。
 しかし、事前規制から事後規制への本来の目的は、活力ある自由な活動を促進し、公正な社会を実現することだったはずです。事後規制については、むしろ私法によるプリンシプルの提示と紛争解決規範による公正な解決への信頼を再確認する、ただし、悪質な参入者を排除するための行為規制は別途強化する、これが今後の方向性ではないかと考えます。
 私からは以上です。

発言情報

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発言者: 山本敬三

speaker_id: 14563

日付: 2022-05-18

院: 参議院

会議名: 消費者問題に関する特別委員会