増田悦子の発言 (消費者問題に関する特別委員会)

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○参考人(増田悦子君) 公益社団法人全国消費生活相談員協会の増田でございます。
 消費生活相談員を構成員とする団体としてこのような機会をいただき、感謝申し上げます。
 消費者契約法についてですが、ここに至るまで、長期間にわたって検討していただき、報告書の取りまとめに大変御苦労されました山本先生始め委員の皆様、消費者庁には感謝したいと思います。
 平成二十八年改正、三十年改正を経て、難しい課題が残されていましたので、報告書を踏まえた法律が、法案が成立することを期待しております。
 しかしながら、消費生活相談の現場を担う者として、この報告書が今回の改正案に反映されていない点、また以前より求めている点について意見をお伝えしたいと思います。
 私たち消費生活相談員は、消費者からの相談を受けたときに、なぜ断ることができなかったのか、なぜ相談しなかったのか、なぜそこから退去できなかったのかと思うことがしばしばあります。鍵を掛けられた部屋で監禁されているわけではなく、勧誘から解放された後には友達や親に相談する時間もあります。勧誘が複数回にわたることもあるため、会わなければよいのです。事業者からは、長時間掛けて説明して十分理解してもらった、普通に理解力のある人だ、何回も積極的に会って説明を聞いてくれた、嫌だったら断ってほしかった、いつでも断ることができたはずだなどと反論を受けます。
 行動の事実だけを聞くと、普通はそのとおりだと思うでしょう。しかし、相談者の行動についてなぜなのかを確認するために様々な聞き取りをすることによって、その相談者の置かれた状況や気持ちを理解することができ、相談者の判断ミスや浅慮だけではなく、その状況を作出した事業者の行為を把握することができます。
 第一に、提案されている困惑類型の改正案では救えないケースが多くあり、包括的な受皿規定を設ける必要があると考えます。
 今回の改正案においては、取消しが認められる行為として、勧誘を受けている場所において、威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害することという提案がされていますが、勧誘する場所で威迫してという要件が適用されるケースは非常に限定的です。
 自分を変えるためにはまず自分で判断すべきだ、もう成人なんだから自分で決めることが大事だ、商品やサービスの内容を十分に説明できずに相談すると心配を掛けるだけだから今は相談しない方がいいよ、もうけて親をびっくりさせよう、きれいになって驚かせようよなどと言われて、親や友人などの第三者に相談する機会を失っています。これらについて威迫という評価を得ることは難しいと思われます。また、今は威迫するということはほとんどなく、親切で信頼感をつくりつつ勧誘することが多くあります。相談をさせないという意味では同程度の問題性があるにもかかわらず、適用が困難です。
 また、改正案においては、取消しが認められる行為として、勧誘することを告げずに、任意に退去困難な場所であることを知りながら同行し勧誘をすることという提案がされていますが、消費生活相談においては、勧誘することを告げたか、任意に退去することが困難な場所か、同行したかについて詳細に確認する必要があり、それぞれ争いになるだろうと推測します。
 例えば、社会人一年目、知人にもうかる話があると呼び出された、投資用USBの勧誘で、その業者の責任者から説明を聞いた、投資の説明、勉強は早くからした方がよいと長時間勧められ、疲れて断り切れずに契約した、代金は貯金と消費者金融から借りて払い、USBを受け取ったが、先物の学習教材で、とてもできないと後悔したというような事例があります。
 若年者の場合、相手との関係からきっぱり断って退去するということができないという状況がほとんどです。最近はウエブによる勧誘が多くありますが、電話勧誘販売と同様に、簡単に断れない状況が作出されています。また、この事例は、長時間の勧誘により疲れてしまい、通常の判断力を失い、その場から解放されたいという気持ちから契約に至っています。二十代の社会人であり、普通の判断力を持つ人も、状況によっては意思決定がゆがめられるということがあります。
 最近は、後出しマルチと称されるものや副業の契約など、連鎖販売取引に該当しない事案がたくさんあります。消費者契約法の活用が必須です。消費生活相談員が事業者と交渉するに当たって、要件が一つでも欠けていたり適用されるかどうか微妙な判断であったりの場合は、相談者の状況を説明して説得するしかありません。問題性は同様であるにもかかわらず、要件が具体的になればなるほど説得が困難になります。
 また、消費者の心理状態に着目した規定が必要と思います。
 一般的、平均的な消費者であれば締結しない契約であっても、事業者の不当な働きかけにより消費者の意思決定がゆがめられて契約に至った場合について、消費者の取消し権を設ける必要がありますが、この度の改正案には盛り込まれていません。
 例えば、便器の水が流れなくなり、ネットで検索して基本料金九百五十円とあったので連絡したところ、作業員が来訪した。ポンプを使うので八千円、便器を取り外す必要があるので二万五千円、今度は下水道管の詰まりのため二十五万円と言われた。仕方ないと思い承諾したが、高過ぎるというような事例があります。
 トイレの詰まりなど暮らしのレスキューサービスの契約では、消費者の慌てる心理、断れない心理に乗じた取引が行われています。訪問販売に該当すると判断される場合であっても、事業者は要請があって来たのだから訪問販売ではないと主張してトラブルが解決しない現状があります。事業者交渉するに当たっては、特定商取引法だけでなく消費者契約法が必須です。
 そして、消費者の判断力に着目した取消し権が提案されていませんが、以前より喫緊の課題でした。
 独り暮らしの自分の家に布団の販売業者が訪問してくる。敷布団の下に敷くカーペット、次に掛け布団、肌掛け、シルク毛布、またその次に光触媒ケットなどを勧められ、これまで総額百七十万円の契約をした。既に百二十万円払っている。先日来訪した親戚が、たくさんの布団を見ておかしいんじゃないかと言ったという相談があります。
 高齢者の場合は、契約締結過程の記憶が定かではなく、不当勧誘による取消し事由を把握することが困難なことが多くあります。加えて、成年後見制度が十分に利用されていないことや、判断力低下の発見が遅れる傾向にあることから、認知症の診断を受けている消費者は少数です。判断力が曖昧であっても事業者との受け答えはできるので、後日、事業者は、はきはきと返事をしていたので判断力は十分だと思ったと主張します。しかし、必要ではない高額な商品を契約することは通常の判断力を持って意思決定をしたとは考えられません。判断力が衰えた高齢者の記憶が曖昧な状態に対し、事業者のみが主張できる立場となり、消費者と事業者との格差は更に広がることになって、救済はおよそ困難です。客観的に見て、生活に支障を来してまで不必要な契約をした場合についての取消し権が必要です。また、このような事例においては、過量販売における商品の同種の考え方についても検討が必要だと考えます。
 次に、平均的損害についてですけれども、平均的損害の算定は長年にわたって消費生活相談において懸案事項となっています。今回の報告書における平均的な損害を算定する主要な考慮要素として、商品、権利、役務等の対価、解除の時期、契約の性質、契約の代替可能性、費用の回復可能性などを列挙する提案がありました。この提案は、消費者にとって平均的な損害について具体的にイメージができるし、事業者もまた違約金を定める際の参考になり、一定の解決が期待できると考えています。将来の検討課題としては、平均的な損害の額の立証責任の転換を望みます。
 高齢化、成年年齢引下げ、デジタル化という社会において、高齢者、若年成人、障害者など脆弱な消費者が多くいます。加えて、新しい商品やサービス、新手の勧誘方法など、消費者を取り巻く環境が目まぐるしく変化し、誰でも脆弱な消費者になる可能性があります。
 報告書の冒頭、報告書の取りまとめに当たってでは、消費者の脆弱性には消費者の属性に基づく恒常的、類型的な脆弱性と、消費者であれば属性を問わず誰もが陥り得る一時的な脆弱性とがある、消費者の有する合理性には限界があること、消費者の思考に関する二重過程理論、さらにはデジタル化や複雑化する消費者取引に対する消費者のリテラシーの限界等を踏まえつつ、消費者が事業者との健全な取引を通じて安心して安全に生活していくためのセーフティーネットを整備する視点が欠かせないと、消費者視点の、消費者の本質についての指摘がありました。
 これまでに、被害が発生する原因の一つとして、消費者の不注意があること、そのため、消費者教育の必要性が指摘され続けてきました。もちろん、消費者の不注意はあり、消費者教育は必須です。しかし、消費者教育では防ぎ切れないことがあります。どんな人でも様々な願望があり、その願望がかなえられるという勧誘により誘引されることは特別なことではありません。特に、社会経験が少ない若年者や根拠を確認する方法を知らない高齢者等の場合は顕著です。
 また、様々な状況によって、通常の判断力を持つ人も一時的に判断力が低下します。この誰もが持つ消費者の本質の指摘は、消費者と向き合い、消費生活相談を知る者としては非常に納得感があります。今後起こり得る様々なトラブルに対して、この指摘を反映した消費者契約法であるべきだと考えます。
 次に、消費者裁判特例法についてです。
 本協会は、消費生活相談員の団体であると同時に適格消費者団体ですけれども、今後、特定適格消費者団体となるかどうかについてはまだ検討中です。
 この度の改正案に賛成し、早期の成立を望みますけれども、その上で、御検討いただきたい点について述べます。
 情報開示についてです。
 事業者による消費者への個別通知が義務付けとなりますが、事業者が個別通知をしない場合や事業者が消費者の連絡先を持ち合わせていず連絡できない場合など、クレジットカード会社など第三者の持つ情報を開示してもらう制度がなければ広く救済することは困難です。
 加えて、事業者の代わりに特定適格消費者団体が消費者に連絡することが求められますが、その費用は被告、事業者が負担する仕組みを検討していただきたいと思います。
 また、情報提供の拡充について、近く特商法及び預託法の情報は提供されるようになりますが、景品表示法も情報提供の対象としていただくこと、共通義務確認訴訟において、団体の請求が認容されて相手方の金銭支払義務が確認された以降の財産に関する情報開示について御検討いただきたいと思います。特定適格消費者団体が独自に情報を収集することは限界がありますので、行政機関が保有する情報を特定適格消費者団体に提供することによって迅速な被害回復が図られると考えます。
 以上です。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 増田悦子

speaker_id: 31867

日付: 2022-05-18

院: 参議院

会議名: 消費者問題に関する特別委員会