鈴木敦士の発言 (消費者問題に関する特別委員会)

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○参考人(鈴木敦士君) 弁護士の鈴木敦士です。
 本日は、参考人として意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
 着座にて失礼いたします。
 消費者契約法及び消費者裁判手続特例法の改正案について、日頃から消費者相談を受け、訴訟を代理し、また特例法に基づく裁判について特定適格消費者団体を代理した立場から課題を述べて、課題になっている事柄についてそれを解決する方法について私見を述べたいと思います。
 この法案の評価を述べるに当たって考えるべきことは、現に発生している消費者被害の予防や回復にどのように役立つのか、不足する点はないのかということです。
 消費者契約法に関しては、平成二十八年の改正では、重要事項の拡充ですとか過量契約の取消し権、あるいは意思表示を擬制する条項の十条前段への例示など、平成三十年改正では、不安をあおる告知などの取消し権、解釈権付与条項の無効など、骨となる改正がありました。しかし、今回は、検討会の報告書で示された困惑類型の脱法防止規定や判断力不足の取消し権、十条前段の例示の拡充など、骨となる部分が実現されていない言わば骨抜きの改正となってしまっており、被害の予防、回復のためには極めて不十分であります。さらには、消費者契約全般に適用される民事ルールとして一定の原理原則、プリンシパルを示すべきであるのに、過度に規定が細分化しており、被害回復のために活用しにくいものとなっているという課題があります。
 消費者裁判手続特例法については、制度の利用促進に役立つ様々な工夫がされており、被害の回復の実効化という観点からは評価できるものです。もっとも、将来課題とされた通知の費用負担の問題、あるいは対象消費者の情報の第三者からの取得、事業者の違法な事業活動や財産状況の情報の行政機関や第三者からの取得などは、本制度によって被害回復を実効化するためには継続的な検討が必要です。加えて、消費者被害の回復に不足がないのかという観点からは、民間団体が行うものであるということからくる費用倒れになるものは取り組めないという課題、あるいは特例法の手続では対応困難な悪質業者に対する被害について対応できないという課題があります。
 それでは、これらの課題を解決する方策について私見を述べます。
 まずは、消費者契約法の改正についてです。
 消費者契約法の改正の課題はこれまで審議の中でも再三指摘され、消費者庁からは、消費者契約法が果たすべき役割、あるいは法体系全体の中で消費者法が果たすべき役割や、各法律の実効的な役割分担などを含めて骨太の議論を行うというふうにしています。その中では、消費者の様々な脆弱性を踏まえた制度の在り方、あるいは契約締結時以外の適用場面の拡大等、既存の枠組みにとらわれないルールの設定の在り方についても検討するとしています。
 しかし、これに加えて、努力義務の規定を活用すること、困惑類型の脱法防止規定や判断力不足の取消し権については、骨太の議論をするまでもなく実現可能な問題として迅速な検討を行うことが必要であると考えます。
 まず、努力義務の活用です。
 先日の審議の中でも、努力義務では不十分ではないかということが再三指摘され、いや、努力義務を規定することで足りると消費者庁からは答弁がありました。
 思うに、現に発生している判断力の不足した消費者に付け込んで不要なものを買わせて生活を立ち行かなくさせるというような相談が実際になくなり、あるいはサブスクリプションの解約方法が分からないというような相談が実際になくなるんであれば努力義務でも構わないというふうに思います。努力義務で足りるというのであれば、消費者庁は、単なる周知広報を超えて、あまねく事業者に対して努力義務を守らせるべく強力に指導を行うべきだというふうに思います。努力義務で足りるということを相談数の減少という事実で示していただきたいというふうに思っています。法的効果があればそれによって実現を図るということができますけれども、努力義務規定は法的効果がないので、消費者庁の創意工夫による実現のための努力が求められるんだろうというふうに思います。
 次に、困惑類型の脱法防止規定と判断力不足の取消し権の迅速な検討です。
 困惑類型の脱法防止規定については、まさに困惑類型ですから、従来からの消費者契約法の枠組みの中での議論だというふうに思います。判断力不足の取消し権も、消費者契約法の位置付けや各法律の実効的な役割を検討しても、統一的な消費者法典を作るとかそういう話でない限りは、消費者に関する取消し権を消費者契約法に置くのがふさわしいということになるように思われます。理論的にも、民法上の公序良俗の無効の一類型である暴利行為論の具体化というふうに位置付けることも可能なように思われます。
 結局のところ、要件が明確化されれば規定ができるものだというふうに考えますので、骨太の議論などと言って時間稼ぎをしてはいけないというふうに思います。
 ところで、特定商取引法では、契約を締結させるため、人を威迫して困惑させてはならないといって禁止行為としています。禁止行為には罰則があって、行政処分の対象になります。また、判断力不足に乗じ契約を締結させること、迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘することなどは指示行為となっていまして、指示行為は違反をすれば行政処分が行われ、それに従わなければ罰則があります。行政処分の根拠は法律による行政の原理から見ても明確でなければならないはずでありまして、既にそのような規定があることからこれは明確なものだというふうに理解されると思います。行政処分の根拠規定と同程度に明確であれば、取消し権の根拠規定としても十分なはずです。行政処分の根拠規定以上に要件の明確化を求める理由がないというふうに思います。行政は適切に判断できるけれども、消費者はクレーマーもいるから要件をより明確にしなければいけないというような官尊民卑の思想ではないかと、それは問題であるというふうに思います。行政処分の根拠と同程度に明確であれば、事業者はある行為をすべきかどうかということは判断できるので不都合はないはずです。
 取消し権行使されたとしても事業者は争うことはできるわけで、最終的には裁判所によって判断されます。情報の量及び質並びに交渉力の格差のある消費者が訴訟を起こすことは容易ではないという、この点で事業者は有利な立場にいます。消費者の取消し権行使は個々の事案にとどまりますけれども、行政処分は一般的な行為全体が対象になります。行政処分の場合には、執行停止がなければ有効だと扱われて刑罰の威嚇もあります。消費者による取消し権行使と行政処分では、行政処分を争う方が事業者にとっては格段に負担が重いはずです。
 このような事情に照らせば、行政処分の根拠規定よりも取消し権の根拠規定が明確でなければならないという理由はないのではないかというふうに思います。
 確かに、消費者にとっては一見分かりにくい規定になるかもしれませんが、要件が明確であっても、個別の事案をその要件に当てはめるためには相応の法的な訓練が必要ですので、要件が明確であってもなくても一般消費者が権利行使をするには困難はあります。そこは消費者相談の拡充によって対処すべきものだというふうに思います。
 先般の議論では、威迫により相談を妨げるという規定について、消費者庁は、想定される相談は全て規定するのだと、特に除外するものは考えていないと言いながら、個別列挙するということにこだわっていました。思うに、方法のいかんを問わず相談することを妨げてはいけないというのは、それは概念として明確なはずです。あるいは、消費者の行為が相談に当たるかどうかを判断するのに相談の方法が規定されていなければ判断ができないというものでもないと思います。要件を明確化するために、そもそも方法を規定する必要はないと思われます。
 このような無意味な要件明確化はやめるべきだというふうに考えております。要件明確化についての考え方を改めれば、骨太の議論をしなくても困惑類型の脱法防止規定と判断力不足の取消し権は規定ができるはずだというふうに考えます。
 次に、骨太の議論について幾つか意見を述べます。
 まず第一に、行政手法の活用です。
 従来の消費者契約法の枠組みにとらわれずに議論するということであれば、不適切な勧誘について包括的な規定とともに具体例を例示して行政処分の対象とするというようなことも検討すべきだと思います。
 第二に、差止め請求です。
 差止め請求権については、平成十八年改正で創設されて以来、消費者契約法に関しては見直しがされていません。差止め請求の対象の拡大や違法行為をやめた場合の差止め請求の在り方であるとか広告規制に関しての立証責任の軽減方法など、検討すべきことが多くあると思います。
 第三に、消費者的事業者の保護です。
 この問題は、消費者概念の在り方として平成三十年改正の附帯決議でも取り上げられています。一例を挙げれば、零細業者が必要のない高機能のサーバーを高額な価格で売り付けられてリースやクレジット契約をされるであるとか、虚偽、誇大な勧誘によってフランチャイズ契約をしてしまうなどというような問題です。
 第四に、民法、債権法改正で消費者の特則として議論されていた事柄も踏まえて検討するべきだというふうに思います。
 先日の審議でも話題になった商品、サービスの販売に付随する与信契約の取消しなどはまさにその例ですけれども、複数契約の無効、取消しとか継続的契約の任意解除権などは平成三十年改正の附帯決議にも取り上げられています。
 第五に、消費者契約法の位置付けを考えた場合、個別性がやや強くて消費者契約法に規定するのがふさわしくないという問題もあるかもしれません。
 折しも、平成二十八年の特定商取引法改正の施行が平成二十九年十二月でして、本年は五年後見直しを開始する時期です。特商法の改正と連動して検討することを求められると思います。骨太の議論が骨太の改正案に結実することを期待します。
 消費者裁判手続特例法の改正についても、課題を解決する方策について私見を述べます。
 民間団体が行うことによる費用負担の問題と、民事手続で悪質業者に対応するのは困難であるという、この二つの課題について検討するべきだというふうに思います。
 民間団体が行う以上、活動の費用を確保しなければいけないので、費用倒れになるような事案には取り組めません。被害額がごく少額の事案では、多数の届出がなされにくく、手続に係るコストが回収が困難になります。そこで、オプトアウト型の制度にするなどの改善が必要だと考えます。
 また、民事訴訟では、原告である団体が事業者の所在を突き止め、どのような事業活動をしていたのかを明らかにして、その違法性を指摘して、財産を探して仮差押えをする必要があります。民間団体の調査には限界があり、悪質業者に対する対応としては不十分です。行政が違法な収益を吐き出させて被害者に配分する制度をつくる必要があります。消費者庁では、執行部門も含めた特設チームをつくって法制化に向けて検討すべきだと考えます。
 以上のとおり、対応すべき課題は多岐にわたるわけですが、抜本的議論には時間が掛かるとして課題を先送りすることなく、努力義務の実現のための努力をしつつ、取消し権の迅速な検討と違法収益吐き出し制度の創設に向けた検討に早期に着手していただきたいと思っております。
 私の意見陳述は以上です。

発言情報

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発言者: 鈴木敦士

speaker_id: 28342

日付: 2022-05-18

院: 参議院

会議名: 消費者問題に関する特別委員会