吉田宣弘の発言 (憲法審査会)
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○吉田(宣)委員 公明党の吉田宣弘です。
本日も憲法審査会が開催されましたことに、森会長始め各党各会派の幹事の皆様の御尽力に深く感謝を申し上げます。また、本日、意見表明の機会を与えていただきましたことに重ねて御礼を申し上げます。
さて、本年活発に開催された憲法審査会においては、緊急事態条項の創設、自衛隊と憲法、国民投票法改正について熱心な議論が展開されてきたと承知しております。今後これらの論点を深めていく必要があると感じておりますが、併せて意識しておきたいことは、デジタル化と人権、グローバル化と憲法であると思い、本日、私は、グローバル化と憲法について意見表明させていただきたく存じます。
言うまでもなく、憲法は国家の基本法です。芦部信喜先生の言葉をかりれば、憲法とは国家という統治団体の存在を基礎づける基本法であるが、その中で特に憲法学が対象とするのは、近代に至って一定の政治理念に基づいて制定された憲法であり、国家権力を制限して国民の権利、自由を守ることを目的とする憲法であるとお述べになられておられます。このように、憲法学は、国家、より正確に言えば近代主権国家を前提としているように思われます。
しかし、約二十年前にアントニオ・ネグリ、マイケル・ハートにより書かれた大著「帝国」には、ソビエト連邦の障壁がついに崩壊を迎えたすぐ後、私たちが目の当たりにしてきたのは、経済的、文化的な交換の抗し難く不可逆的なグローバル化の動きだった、市場と生産回路のグローバル化に伴い、グローバルな秩序、支配の新たな理論と構造、一言で言えば新たな主権の形態が出現しているのだと記されており、著者は、これらグローバルな交換を有効に調整する政治主体のことであり、この世界を統治している主権的権力のことを帝国と名づけ、単独国家の主権を超越する現象として現れた新たな主権的権力を考察しています。
また、主権以外にも、グローバル化の研究対象は多岐にわたります。すなわち、政治、経済、市場、社会、文化、教育、環境、安全保障などですが、これらの全てが憲法と関連する事項です。
さきに述べたように、憲法学は近代主権国家を前提としてきたと思われます。しかし、グローバル化によってこの前提の自明性が失われつつあるのではないでしょうか。
日本国憲法は人権を最大限保障するメカニズムを構築していますが、その究極の目的は、十三条の個人の尊厳の実現にあると存じます。この個人には外国人も含まれると考えます。
現在、日本社会はグローバル化し、都会では日常において外国人を見かけないことはありません。実際、出入国管理庁によると、令和三年六月末時点で、二百八十二万三千五百六十五人の外国人が日本に在留しています。近年コロナの影響で減少していますが、十年前と比較しても三七%以上増加しています。
加えて、外務省の統計によると、海外在留邦人数は令和三年の百四十三万四千九百人で、日本の総人口の約一%以上が外国で生活していることになります。こちらもコロナの影響で近年減少傾向ですが、十年前と比較しても七・六%以上増加しています。アフターコロナが到来すれば、両者の数字は再び増加傾向に転じるのではないでしょうか。
このような傾向下にあって、外国に在留する日本人、日本に在留する外国人の市民権はいかなる方式が最も合理的かという議論が憲法学界で行われているとお聞きしました。そして、市民権の問題は、国籍制度と表裏の関係にあります。
この点、日本国憲法には国籍に関する規定が二か条存在します。国籍法定主義を定めた十条と、国籍離脱の自由を定めた二十二条二項です。
まず、国籍離脱の自由について、佐藤幸治先生の憲法の教科書によると、本条の自由には無国籍になる自由は含まれないと解されているとのことです。このような帰結は、無国籍者は、医療や教育、財産的権利へのアクセスだけでなく、移動の自由にも支障を来すものであるし、無国籍者の地位に関する一九五〇年条約及び無国籍者の削減に関する一九六一年条約からも、各国政府が無国籍の防止に尽力することには合理性があり、妥当だと考えます。
次に、日本の国籍制度について見てみるに、国籍法十一条一項は国籍の自動喪失制度を規定しています。
一般的に、憲法上の一定の意思ないし行為が○○の自由として保障されている場合には、論理必然的に○○しない自由も包含するものと解されています。そうであれば、国籍離脱の自由は国籍離脱しない自由も保障されていることになり、国籍法十一条一項は、文理上、憲法二十二条二項との関係性で問題が生じる余地があるように思います。
そして、グローバルな人の移動の増加に伴い、憲法学説も変化を見せつつあるようです。
憲法審査会でも大変にお世話になっている長谷部恭男先生は、国籍法抵触条約はその前文で、人は一つの国籍を有すべきであり、かつ、一つの国籍のみを有すべきであるとするが、国籍唯一の原則、現在、世界各国のほぼ半数は二重国籍を許容していると論じ、芦部先生は、正確には高橋和之先生だと思われますが、最近の急激な国際化の動きは、国籍唯一の原則に基づく従来の厳格な重国籍防止の考え方に波紋を投げかけていると指摘しておられます。
国際法上も、欧州国籍条約が重国籍を許容し、国際法の原則である国籍唯一の原則は大きく揺らいでいるとの指摘もあります。
以上、述べてまいりましたが、公明党はもとより、弊職においても、日本も多重国籍を許容すべきと考えているわけではありません。グローバル化する国際社会の中で、グローバル化する日本の現状に日本国憲法がどう対応していけるのか、この憲法審査会において議論がなされる余地があるのではないかと思い、意見表明させていただきました。
日本国憲法には、国際協調主義も掲げられています。混迷する国際情勢の中で、日本が国家として、国民、世界市民にその権利を、その資格をどのように整理していけるのか、グローバル化の観点から今後も議論させていただきたくお願いを申し上げ、私からの意見表明とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。