諸富徹の発言 (経済産業委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○諸富参考人 先生方、おはようございます。京都大学の諸富でございます。
今日は、こういう機会をいただきまして、ありがとうございます。
お手元に資料を配付していただいていますので、それに沿ってお話をさせていただきたいと思います。
本法案ですけれども、非常にすばらしいと言ってしまえばそれまでなんですが、高く評価をしております。こういう形で包括的なパッケージになってくるということで、エネルギー、環境、気候変動問題というのはまさに包括的な、経済全体を左右する問題になってきておりますので、やはり包括的に、資金調達の在り方、政策手段、エネルギーの在り方、産業の在り方を含めた法案になっているというのは非常に重要な点だと思います。
それから、特にカーボンプライシング、CPと略しておりますが、これがついにこういう形で導入されたという点、これは画期的でございます。これは本当に、私も環境省の委員会にずっと属して議論してまいりましたが、なかなか産業界の方々の理解を得ることができず、前に進まない状態でした。それがついにこれで導入されることになって、非常に意義深いと思います。
また、この中で、特に排出量取引と炭素賦課金、税が今、賦課金という形になっているわけですけれども、これでほぼ経済全体がカバーされます。また、カーボンプライシングはこれで、導入されたもので終わりではなく、段階的発展を三〇年代からされることになっている点、それから、排出量取引については、私も十年以上前に、福田首相の頃でしたけれども、一度盛り上がったときに議論に参画いたしましたが、結局そこは挫折いたしました。それから時間を経てこういう形で入った、これも本当に画期的ですね。
あと、少し後で若干触れますが、EU―ETS、欧州の排出量取引を範に取りながら、優れた設計になっていると思います、ETSですね。
そういう意味では、日本の気候変動政策上、この法案は量、質の両面で非常に大きな前進になることは間違いないと思いますし、また、気候変動政策が単なる環境政策ではもはやなくて、これはほとんどイコール産業政策になっている。まさにこの委員会が経済産業委員会ですけれども、この委員会で付議されているということ自体がそういう象徴であるというふうに思います。
一方で、若干クリティカルな視点から申し上げますと、しかし、この法案を国際的な文脈に置いてみますと、先端的で世界を引っ張っていける法案かというと必ずしもそうではないかもしれないということを、若干問題提起をさせていただきたいと思います。
本当でしたら、この法案でもって遅れを取り戻して一挙に抜き去るというところが欲しかったところですが、実は、この法案がようやく実現したところ、世界を見渡してみたら、もっと世界は先に進んでいたというのが実情ではないかと思います。
脱炭素は、少し後で申し上げますように、実はもう二十一世紀の経済産業の競争軸の中心そのものになってきております。つまり、これまでは、脱炭素化するということはコストが増大する、産業の足を引っ張るという観念でございましたが、もうこの認識は全く覆さなきゃいけなくなってきているということですね。逆に、これに遅れれば産業として落後し、失われた十年、二十年、三十年と言われてまいりましたが、さらに、四十年、あるいは失われた半世紀になりかねないということになります。
具体的にどのようなことを考えているかといいますと、次のスライド、五ページ目に参りますが、ニコラス・スターン、これはスターン報告で有名なLSEの教授ですけれども、彼の報告書がございまして、そのすぐ下にカラーの図を転載しております。
これは何をイメージしているかというと、主要な、脱炭素にとって、産業にとってキーとなる技術がいつ転換点を迎えるか。ティッピングポイントというふうに英語で言いますが、要は、技術的に確立するだけではなくて、マーケットに入ってくるかということです。
丸で印がついている点がそのティッピングポイントに到達する年です。これは大体、電力はもう既に再生可能エネルギーが既存の発電コストを下回る、二〇一八年に欧米ではもうそこに来ているということですね。その後、自動車、交通関係が二〇二五年前後にティッピングポイントが来て、そして、エネルギー集約型産業、鉄鋼を始めとする集約型産業のティッピングポイントは何と二〇三〇年頃にはもうやってくるということでございます。
ということで、我々の想像している以上に、もう二〇年代に勝負がついてくる、勝負がついてくるといいますか、勝負はまだつかないんですけれども、技術開発のめどがついてくるということがここでのポイントでございます。
次のスライド、七ページ目に参りますけれども、これは、世界で大規模な脱炭素投資プロジェクトが次々と行われていくというのが二〇二〇年代の動向ということになります。
これは世界地図で、再エネの賦存量が多いところが濃いブルーになっているわけですけれども、ポイントは、丸で点が落とされている、そして、図の左、右と下、ボトムに国旗がずらっと並んでおりますが、これが脱炭素投資の巨大プロジェクト。これは網羅的なものではないというふうに文献ではエクスキューズしておりますが、こういったものがどんどん入ってくる。欧州では、水素還元製鉄のプロジェクトが次々と行われていきます。
また、操業開始は大体二〇二四年から三〇年前後になっておりまして、これも、二〇年代後半に続々とこういうプロジェクトが立ち上がってきて始まっていく。これは大体、実証炉的な側面が強く、本当に商業的に乗ってくるのは二〇四〇年代に実はなるんですけれども、ただ、こういったものが既にもう始まっている、競争は始まっているというのがこのスターンの報告書のメッセージなんですけれども、こういうことになってきて、こういうスピード感でもう進み始めているということでございます。
皆様よく御存じの米国インフレ抑制法案、IRAというふうに言いますけれども、これも非常に大きな、アメリカの脱炭素転換を一挙に促進する。大逆転といいますか、アメリカというのはエネルギーじゃぶじゃぶの経済だったんですけれども、これで一挙に大逆転みたいな感じでございます。
このGX推進法案が、果たして温室効果ガスを本当にIRA並みに減らせるのかどうか。
先ほど大橋先生から政策評価という話も出ましたが、本当は、次のページに出てくるスライドにあるような、こういったモデルによるシミュレーションが次々と出てきていまして、GX推進法案はどこまで減らせるのか、そのときにGDPに対する影響はどうなるのかということについて、もっと政策評価が、マクロ的な評価も行われるべきではないかなというふうに思います。
ここで見ますと九枚目、十枚目にありますように、このIRAが入ってくると、今までの経路を大幅に引き下げていくことになります。
それで、二〇三〇年の五〇から五二%減というアメリカのNDCに沿った目標は、これだけでは、単独では到達しないんですが、大幅に近づいてくるということです。ほかの政策手段も組み合わせることによってその到達も視野に入ってくるということで、この二〇年代、アメリカの経済は大幅に脱炭素経済に転換をする十年になっていく。これで大体ギャップの三分の二を埋めることができる、目標までの間ですね。
次のスライドに参りますが、これで何が起きるかというと、圧倒的に再エネ、太陽光と風力が劇的に投資額が増加していく、巨大なインセンティブをかけています。それから電力系統投資、水素投資、これが急激に増加をしていく。それによって雇用も、再生可能エネルギーや系統を中心に、この投資が雇用を大幅にもたらすということです。
この法案の更に恐ろしいのは、アメリカの国内投資に巨大な経済インセンティブを与えていまして、昨日かおとといの日経新聞に出ていましたが、続々と欧州勢も日本勢も工場をアメリカに建設し出しているということで、工場をアメリカに建設させる法案でもあるんですね。これは製造業を取り合う、そういう競争がもう始まっているということです。
十三ページに参りますが、そういうことで、二十一世紀の脱炭素経済で日本は勝てるのかということですね。
そもそも、欧州については既に知られていますので、ついにアメリカもここに乗ってきたということの中で、日本がここに乗っかっていけるかということで、二〇年代に少なくとも欧米はもう脱炭素経済へ移行する道筋をつけてきたということですね。日本は果たしてこれでそれに行けるのかということでございます。そういう意味で、政策評価の点でこれがいかなる効果を持つのかが、その評価が、ちょっと数量的な評価がないために私もいかんとも言い難いんですが、若干不安があるところでございます。
再エネ中心になっていく、それからエネルギー集約型産業の脱炭素化も徹底的に進むということが明快になってきました。また、再エネ、系統、水素への巨大投資が二十一世紀の脱炭素経済の骨格をつくっていくことも明らかになってきていて、それが競争軸を形成していくということで、このスピードについていけるかというのが課題でございます。
そういう意味で、カーボンプライシング、二八年に炭素賦課金、三三年頃にようやくオークションというスピードで、二〇年代はほぼ影響しないということで、もちろん産業支援は始まるわけですけれども、このスピード感にどうもついていけていないのではないかというのが不安でございます。
また、ロードマップも拝見しておりますが、ロードマップは矢印がいろいろ年ごとに書いてあるんですが、何々化というふうに書いてあるんですが、何年までに何々を実現というふうに書いていないんですね。なので、そこの実現も不確実、不透明な印象を持っております。
あと、供給に非常に偏重しておりまして、供給対策は十分になされているんですが、需要サイドでこれから大きなイノベーションの可能性がございます。家庭、ビル、それからEV、蓄電池といったところ、需要サイドで非常に大きなイノベーションが起きるんですが、そこが果たして十分かという点がございます。
さて、ここから、カーボンプライシングに沿って、私のコメントをさせていただきます。十五枚目です。
排出量取引制度、これは先ほど言いましたように、非常によく設計されています。ポジティブな思考に沿ってといいますか、先駆的企業が、自主参加、自主目標ではあるんですが、積極的にこれに到達してその情報公開を行うことを規定していまして、これは大橋先生が御尽力されたところだと思いますが、これが投資家に評価され、資金調達上の優位性を獲得できるということで、どんどんプラス思考に誘導していく。コンプライ・オア・エクスプレーン、罰則はないんだけれども、きちっと説明してねということですよね。また、NDCに沿って直線的な目標を掲げなさいということになっていまして、これはなかなか野心的だなというふうに思います。なので、排出量取引制度はなかなか、自主であるということですが、制度設計としては非常にいい感じではないかなと思っています。
ただ、何せ参加、目標設定、遵守の全てが自主的です。やりたい人はやるけれども、やらない人はやらないという状態ですね。なので、このままでは十分、目標遵守へのインセンティブは弱いし、また、自主のままでは、やる人はやるけれども、やらない人はやらないということで、競争上の公平性が担保できないという問題があるのではと。
そういう意味では、やはり第二フェーズでは参加を義務化すべきではないか。第一フェーズはトライアルなのでいいんですけれども、第二フェーズはきちっと目標設定、遵守については義務化をして、未達に対してはペナルティーを科すべきじゃないかと思います。
また、賦課金が二八年に入ってまいりますが、ETSとの連携を図るべきではないかなと思います。つまり、例えばEU―ETSを念頭に置きますと、排出量取引にきちっと参加をする企業は賦課金については免じる、あるいは大幅に減免する等の組合せを行うことで、積極的に排出量取引に入ってプレーするようにというインセンティブをかけるべきじゃないかと思います。
十七枚目に入ります。
賦課金の方ですけれども、こちらは、ちょっと疑問に思うのは、これが財源調達手段なのか、それとも政策手段なのかということでございます。答えは両方ということになるんでしょうけれども、もし目標設定がきちっとなされているのであれば、それに十分なインセンティブとして税率ないしは料率が設定されるべきであります。
ちょっと一枚戻って十六ページですが、GX関連の製品の価格と化石燃料由来の製品の価格には差があって、カーボンプライシングが入っていくことによって、将来的にはこの価格差は埋められるんだということになっています。ただ、これを埋めるための税率というのは相当高くなります。いろいろな試算が出ております。
そうすると、一方で、このGX関連法案の説明によると、エネルギー関連の公的負担が下がる範囲においてカーボンプライシングを入れるんだ、つまり、トータルのエネルギーコストは上げないんだということになっているわけです。ということは、税率に上限が課されているわけで、ここが十分な税率水準になるかどうかという点が不安な点でございます。
最後に、公正な移行ということで申し上げますが、こちらについては若干触れるだけで終わらせていただきたいと思います。
これは、ワックスマン・マーキー法案といいまして、オバマ政権のときの排出量取引制度のプログラムの中で、排出枠を売って得た売却収入で労働者の支援、低所得者の支援を行うことが明快にプログラム化されていました。どれぐらいの枠を売って、どれぐらいの収入を得て、どういうプログラムを実施するか、詳細に定まっていました。残念ながら、GX推進法案はここが非常に弱いと思います。
細かい内容はここに書いておりますが、大まかに、失業した人への支援、低所得者への支援、そして産業構造転換で大きな影響を受ける地域への支援、これらで構成されること。これは、本格的に産業構造転換をやるのであれば、この点も併せてきちっとGX推進法案の中に盛り込まれるべきだと考えます。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)