枝野幸男の発言 (憲法審査会)

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○枝野委員 本院において、初代憲法調査会長を務めて以来、長きにわたって憲法議論の中心を担われた中山太郎先生が御逝去されました。哀悼痛惜の念に堪えません。
 私は、中山調査会長、調査特別委員長の下で、会長代理、野党筆頭理事を務めました。熱心に海外調査が行われた時代で、毎年のように一週間を超える海外調査に御一緒するなど、院外も含め、党派を超えて温かい御指導をいただきました。
 中山先生が中心を担われていた時代は、意見の違いはあっても、建設的な議論が進められました。調査会の最終報告書は、全会一致にこそならなかったものの、その文言の一つ一つを、議決には反対した会派も含めて、全ての会派で丁寧に協議し、客観的で中立的な報告書として取りまとめることができました。だからこそ、その報告書に基づいて、難しいとされてきた特別委員会の設置と国民投票法制定に向けた議論をスムーズに進めることができたのです。
 私はあの当時、このままの議論を進めていけば、十年程度のうちに初めての憲法改正国民投票に至るのではないかと、ある意味で期待していました。残念ながら、二〇〇七年、国民投票法採決に至る経緯で、中山会長が十年近く積み重ねてこられた合意形成の努力が壊され、いわゆる強行採決となりました。中山委員長を先頭とした委員会の現場とは別のところで、当時の官邸を始めとする与野党の政治的駆け引きに巻き込まれてしまったものです。
 私は、一日も早く国民投票法採決の傷を癒やし、中山方式とも呼ばれた建設的な議論が回復することを望んできました。しかし、残念ながら、今日に至るまで、むしろ強引かつ独善的な議論と運営が拡大し、合意形成の機運がますます乏しくなっていると言わざるを得ません。
 中山方式とは、現状のように、ただ形式的に、あるいは国会対策的に野党を巻き込もうとしたものではありません。そのような考えでは、憲法について、よい方向に変わるなら変えるべきという立場の私はともかく、現行憲法は変えるべきではないという立場が明確な政党を含めて、全ての政党の担当者が中山会長を信頼し、立場を超えて建設的に議論するなどという状況はつくれるはずがありませんでした。
 中山先生には、憲法と立憲主義に対する謙虚で深い御認識がありました。憲法は与野党などの政治的立場を超えて権力を拘束するものであり、主要政党間の対立点にしてはならないということです。どの勢力が多数派となろうと従うべき規範が憲法である以上、違いを強調するのではなく、一致点を探して、その一致点から議論を進めるという認識が共有されていました。
 憲法制定権力である主権者国民に対する謙虚な姿勢でも一致していました。衆参両院で三分の二を構成できたとしても、そこに至る経緯で国民を巻き込んだ十分な合意形成がなされていなければ、国民投票で否決されるおそれがある。このことを中山先生は十分過ぎるくらい御理解されていました。そして、特に初めての国民投票で否決される事態となれば、憲法をめぐる議論が更に混乱し、我が国の民主主義に救い難い傷となることを恐れていました。
 このような中山先生の御認識と、困難な時期に外務大臣を経験されるなど、幅広い御経験に基づいた懐深いお人柄があったからこそ、建設的な議論が進んだのです。
 私にとっても、中山先生に御指導、御厚情を賜ったことで、党派、意見の違いを超えた得難い貴重なものを幾つも学ばせていただくことができました。御逝去の報に接し、この場をかりて改めて敬意を表しますとともに、心から御礼申し上げます。
 昨今の憲法審査会の状況を見るに、中山先生の時代には遠く及ばないにしても、あの当時とは似ても似つかぬ状況で、私個人としては、建設的な合意形成について、悲観的を超えて絶望しています。真摯に憲法を考えられるなら、中山先生の爪のあかでも煎じて飲まれたらよいのではないでしょうか。
 今後の議論に向けて、中山先生に学んで、具体的に一点だけ提起いたします。各党各会派がそれぞれに改憲案を提起し、主張をぶつけ合うというのは、真に国民を巻き込んだ幅広い合意形成をする上で超え難い障害になるということです。
 もちろん、民主政治の基本は、各党派間で主張をぶつけ合い、競い合うことにあります。しかし、選挙などで競い合うことが避け得ない中、合意形成が重要なはずの憲法において、そして憲法が重要であればあるほど、一つの政治勢力が自分たちの主張を強く示せば、他の政治勢力との妥協が困難になります。どの党の提案が出発点になり、どの党の主張で修正されたなどという国会対策的なプロセスが注目されれば、真の合意形成に向け、超え難い障害となります。
 ですから、どこかの党派の案をベースに議論するのではなく、議論の方向性を一致できそうなテーマは何なのかという点から全ての会派間で真摯に議論し、その合意に基づいて、会派間で段階的に方向性を確認しながら順次具体化していく。条文案などというものは、このようなプロセスで内容的な合意形成がなされた上で初めて審査会全体で作業をすべきもの。これが、憲法調査会から調査特別委員会に至る中で、中山会長を中心に考えられていた合意形成プロセスです。
 議論を進めることについて一致できそうなテーマは何か、そして方向性について合意できそうなテーマは何か、このことは既に示されています。それは中山調査会の調査報告書です。あらゆる論点について、思いつきのような議論ではなく、幅広い各国の状況や歴史的経緯なども含めて調査し、議論した上でまとめられました。充実した内容である上に、その時点における合意形成の見通しについても示されています。
 繰り返しますが、この報告書は、議決に賛成した会派にとどまらず、議決には反対した会派の代表も含めて文言を整理しており、その記載事項については全会派が事実上一致していたと言えます。
 報告書から二十年近くが経過して、本院を構成する党派にも変化があり、議員の構成も変わりました。憲法についての新たな議論もあります。そのままで全て通用すると言うつもりはありません。しかし、幅広い、真の合意形成に向けて建設的な議論を進めるのであれば、少なくとも、そのスタートラインはここにあることは間違いありません。
 この機会に、中山先生の最大の御業績の一つとも言える衆議院憲法調査会の報告書を全ての皆さんに再度、まさか、二度や三度は読んでおられると思いますが、再度御熟読いただき、ここをスタートラインに、合意形成可能な論点と方向性はどこにあるのか、もう一度考えていただくことを強く望んで、発言といたします。

発言情報

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発言者: 枝野幸男

speaker_id: 10425

日付: 2023-03-30

院: 衆議院

会議名: 憲法審査会