山下貴司の発言 (憲法審査会)
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○山下委員 自民党の山下貴司です。
本日未明にも首都圏で震度五強の地震がありました。今後、関東大震災級の首都直下型地震が発生する確率は、誰も否定できません。大災害など非常事態において、総選挙が行えないまま、衆議院の任期満了により衆議院議員が存在しなくなる事態を我々国会は想定する必要があります。
このような場合に、憲法五十四条二項、三項の参議院の緊急集会が開けるかについては、私は、憲法の文理、そして次に緊急集会制度の立法経緯、そして、判例や政府解釈など何らの公権的解釈がなく、学説も有力な学者の間で分かれていること、そして、類推適用できないと司法判断された場合の措置の効力及びその萎縮効果に照らし、極めて慎重に検討すべきであり、任期満了時の対応を憲法上明確化した緊急事態条項が必要と考えます。
まず、文理上、参議院の緊急集会を定める憲法五十四条二項は、「衆議院が解散されたときは、」と明文で定めており、五十四条も全体として衆議院の解散に関する条項であって、緊急事態に関する条項ではありません。憲法の文理上は、任期満了時に参議院の緊急集会を開くことができると解することは困難であります。
そして、この立法経緯について、憲法制定の実務担当者であった佐藤達夫元法制局長官が、昭和三十四年、内閣の憲法調査会で述べたところによれば、衆議院の解散その他の事由により国会を召集することあたわざる場合に緊急の必要あるときに内閣令で対応するという案を日本側は提出しておりましたが、GHQから、非常時には幅広い委任立法や英米法流の不文法としての非常大権を使えばよいという考えで、否定されたということであります。
これに対し、日本側は、委任では賄えない場合があり得る、全ての場合、憲法の枠の中で処理をするような形を整えておかないと将来恐ろしいことになると主張したところ、やっと、解散中の場合だけについて緊急集会の規定を認めようということになった、任期満了は時期が分かっておるから解散時ほどに深刻な問題はない、だから軽く見ていたと述べられ、参議院の緊急集会制度が特に衆議院解散の場合のみに厳密に限定して認められ、衆議院任期満了時の緊急集会が憲法上想定されていなかったことを明らかにしています。
もちろん、緊急集会が衆議院満了時にも許されるかについて、判例はありません。内閣法制局も検討はしたが、参議院の緊急集会の制度は、極めて特殊な変則的、異例の措置であって、解散という予期しない事態の場合に限って、特に明文の規定をもって認めたものであり、それ自体として抑制的に運用されるべきものであるため、消極的に解すべきとの考えもあり、結論を得るに至っておらず、いずれにせよ、公権的解釈はありません。
学説上も、長谷部早大教授を始め、類推解釈を認めようとする見解もありますが、元最高裁判事で憲法学の権威であった伊藤正己東大名誉教授、司法試験委員を長く務められた佐藤幸治京大名誉教授などを始め、従来の通説は、憲法に明文の根拠がないこと等を理由に、このような場合であっても、緊急集会を認めることには否定的であります。
このように、公権的解釈もなく学説が分かれているにもかかわらず、明文や立法経緯に明らかに反する類推適用による衆議院任期満了時の緊急集会を強行しても、事後的に司法判断により緊急集会条項の類推適用が否定された場合、その緊急集会の下で成立した法律、予算などの効力が遡及的に否定されるおそれがあります。
この点、緊急集会を適法に開いた場合には、憲法五十四条三項に定める衆議院の同意が得られなかった場合の効果については将来効と解する学説が有力ですが、裁判所が類推適用を否定して、そもそも緊急集会の要件を欠くと判断した場合は、緊急集会で定めた法律、予算が遡及的に無効となり、大混乱を生ずるということもあり得ます。
この点、長谷部教授編に係る「注釈日本国憲法」で、衆院任期満了時も緊急集会を認める立場の土井真一京大教授ですら、緊急集会の要件を欠いていることを理由として衆議院が不同意とした場合には遡及効を認めないことには疑問がある、裁判所が当初から無効と判断することは妨げられないと解すべきとしています。
裁判所が類推解釈による緊急集会による措置を遡及的に無効と判断する余地がある以上、安易な類推解釈に頼るべきでなく、緊急事態について、憲法において明確化しておく必要があります。
加えて、緊急事態の時期と規模によっては、衆議院のみならず、参議院の半数も任期満了により不存在となる事態があり、そして、残る参議院も死傷や交通途絶等で緊急集会の定足数を満たさず、法律も予算も審議できない事態が長期化する事態もあり得ます。
こうしたことを考えれば、国会が機能不全となる事態が長期化する場合に備えて、我々国会としては、憲法上、議員任期の延長を含め、緊急事態条項を定めるべきことを申し上げて、私の意見とします。