北神圭朗の発言 (憲法審査会)

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○北神委員 私の方は、緊急集会を七十日以上延長できるかという論点に絞って意見を申し上げます。
 結論から申し上げますと、大石参考人の発言、すなわち、参議院の緊急集会が両院同時活動の原則に対する例外を成すものであることを考えますと、その存続期間は、憲法上、やはり最大で七十日という制約に服すると考えるのが合理的であろうとの意見に賛同します。
 他方、これに対して、長谷部参考人の反対論は、次の二点に分解できます。
 一つは、緊急事態の恒久化を防ぐために平常時と非常時とは明確に区分されるべきであり、後者の場合には七十日を超えることも許される。
 二つ目には、なぜ許されるかといえば、五十四条一項は単なる調整規定であり、非常時にまで生真面目にこだわらなくてもいいんだという意見であります。そもそも七十日と定めている理由は、解散した後に内閣が何かと理由をつけていつまでも総選挙を実施しない、あるいは、総選挙後いつまでも国会を召集しないことが起こり得るからだけの話だという意見です。
 この一点目につきましては、確かに緊急事態の恒久化は防がなければいけません。そのために、平常時、非常時をはっきり分けなければいけないのも全くそのとおりです。しかしながら、問題は、この目的ではなく、長谷部参考人の主張する手段で果たして緊急事態の恒久化は防止できるのかということです。
 というのも、長谷部理論によりますと、内閣は単独で、今は非常時だと決められます。もっと怖いのは、平常時にいつ戻るのかという判断も内閣の一存で決まります。国会の意思は一切反映されません。加えて、非常時のみならず、憲法が求める両院同時活動の原則の例外状態も恒久化されかねません。
 非常時を理由に、衆議院に多数がない場合、時の政権が参議院の緊急集会で法案などを押し通す誘惑に駆られないと誰に言えるのか。実際、一九四八年、第三回国会において、吉田総理は、言うことを聞かない衆議院を解散して、緊急集会で予算の議決を図ろうとしたことを我々も思い出すべきであります。
 次に、二点目です。
 五十四条一項は単なる調整規定であって、拡大解釈をしてもいいのか。
 長谷部参考人の御著書「憲法の良識」には、調整規定ではなく訓示的規定だという表現を使いながら、五十四条一項については、何にもなければ法律の条文どおりにしてください、もし何か正当な理由があって、どうしてもこの日数が守れなくなったとしても違法にはなりませんと。続いて、七十日の期限を切る理由として、昔のヨーロッパ諸国の話になりますが、例えば国王が議会を解散した後、全く議会の選挙をしようとしないとか、選挙はしたけれども自分たちにとって都合のいい結果ではないので新しい議会を召集しないといったことが歴史的な事例としてありました、そうならないよう、きちんと日数を区切って総選挙をして、選挙後に新しい国会を召集しなさいと書いてあるだけなのですとあります。
 確かに、樋口陽一東大名誉教授も、「注解法律学全集」の中で、少し違う視点から、解散による総選挙の場合だけ、本条、第五十四条で憲法が直接に定めを置いているのは議会制の歴史を反映していると指摘した上で、解散をした後の選挙結果が行政府にとって望ましいものではないときに再度の解散をあえてするようなことすらあったからであると、過去の事例で裏づけています。
 いずれの説を取るにせよ、五十四条一項は内閣の権力濫用を防止する規定であり、日数を限定しているのはそれなりに重たい事柄だというふうに考えます。これを、単なる調整規定あるいは訓示的規定にすぎず、内閣だけが非常時だと判断することで延長できるという解釈が許されるのかと首をかしげざるを得ません。
 この疑問に対して、阪口正二郎一橋大学大学院教授は、「憲法改正をよく考える」の第三章「改憲論と「生ける憲法」」の中で、参考になる考えを示しています。
 すなわち、憲法の条文には、大別して、明確で解釈の余地が余りないものと、曖昧で解釈の余地を残すものがあると原則論を披瀝した上で、憲法五十四条一項は、ちょっと中略しますが、相当程度に明確な条文であり、解釈の余地は余りない、他方、表現の自由を保障した憲法二十一条のような条文は、解釈の余地を残し、解釈によって時代の変動に対応する場合が多いと、まさに我々のこの議論に示唆を与えてくれています。
 以上を踏まえると、条文そのものの性質からして、今の解釈の話ですね、また日数の限定が権力濫用防止のための趣旨であることからして、五十四条一項は厳格に解釈されるべきであり、緊急集会が七十日間を超えることは難しいというふうに考えます。
 また、百歩譲って七十日を超える解釈が可能だとしても、長谷部参考人が強調してやまない、平常時と非常時を明確に区別することにより緊急事態の恒久化を防止する目的を実現するためには、その区別の判断が内閣だけに委ねられる解釈運用は手段として危ういと言わざるを得ません。
 こうしたことから、七十日間を超える選挙困難事態に対しては、緊急集会という手段よりも、憲法上、国会における事前の厳格な手続と事後の司法による関与を要件とする議員任期の延長制度の明文化が望ましいと考えます。これは、今述べてきた五十四条一項の法律解釈論の観点からもそうですし、また、内閣に対する国会の統制を図るという観点からもそうですし、さらには、憲法の二院制の原則の観点からも望ましいと考えます。
 以上です。
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発言情報

speech_id: 121104183X01320230601_014

発言者: 北神圭朗

speaker_id: 4662

日付: 2023-06-01

院: 衆議院

会議名: 憲法審査会