山下貴司の発言 (憲法審査会)
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○山下委員 自由民主党の山下貴司です。
私は、議員になる前、憲法担当の司法試験考査委員として、先日の参考人質疑の両参考人を始め、様々な憲法学者の学説に敬意を持って触れる機会がありましたが、その経験に照らしても、立法府の一員として、先日の長谷部参考人の参議院の緊急集会に関する御見解を正解とするわけにはいきません。
その理由は、長谷部参考人の御見解は、憲法の明文に基づかないものであるばかりか、緊急集会という権限の不十分な機関による国会の片翼飛行を憲法に規定のないまま期限の定めなく長期化させかねないものであり、さらに、後日、裁判所が類推適用について違憲判断をすることが排除できないからです。
先日御指摘したとおり、従来の通説は、任期満了時の緊急集会条項の類推適用については、憲法制定に深く関与した佐藤達夫元法制局長官や長年司法試験委員を務めた佐藤幸治京大名誉教授を始め、消極的でいらっしゃいました。さらに、類推適用を認める学者にあっても、緊急事態における緊急集会の存続期間や権限については、解釈が混沌としている状態であり、いざとなったときに実務がよるべき通説、判例は存在しません。
そして、長谷部参考人提出資料七百七ページで指摘されるように、緊急集会で取られた措置を裁判所が遡及的に違憲無効と判断することも排除されていません。裁判所が、明文に反する任期満了時の緊急集会の開催や手続を違憲と判断し、緊急集会で成立した法律、予算を遡及的に無効と判断した場合、大混乱となります。
長谷部参考人は、長期にわたって選挙を先送りしなければならない状況が実際に発生し得るか疑問とされましたが、これは、まさに東日本大震災で地方自治体の首長や議会の選挙をあらかじめ最大で七か月間延長した我が国の経験を踏まえない御見解であり、しかも、同様の立法措置では憲法上の国会議員の任期延長はできないことは、閣議決定に基づく質問主意書答弁でも度重ねて述べられた解釈であります。
そして、緊急集会の権限が限られていることも問題です。既に指摘されているところに加え、例えば、緊急事態で総理が欠けている場合、通説では、緊急集会での総理大臣の指名を認めておらず、また、総理の臨時代理は、閣僚の任免権など総理の一身専属権は行使できません。緊急集会が継続する間は、総理が指名できないばかりか、財務大臣や防衛大臣など枢要閣僚が欠けても新たな閣僚は任命できないのであります。
あり得ない話ではありません。関東大震災発生当時、加藤友三郎総理は一週間前に死去しており、後任の山本権兵衛総理は、大命降下に基づき震災発生翌日に任命され組閣し、国難を乗り切ったのです。現行憲法上は、衆議院ならぬ参議院の緊急集会では、そのようなことはできません。
また、緊急事態による国会の機能不全が長期化した場合の規律も不明であります。
長谷部説によれば、法は不可能事を要求しないことを根拠に、解散の日から四十日という憲法の明文を超えることは許容されるとし、緊急集会の継続期間を憲法上限定しない立場です。
この立場によれば、逆に、緊急集会が続く間、国会議員の身分を持たない閣僚から構成される、しかも衆議院の信任に基づかない内閣が長期間居座ることが可能となります。そもそも、法は不可能事を要求しないとの理屈を用いれば、国会議員の任期の定めを超えることも憲法は許容するとの解釈すら成り立ってしまいます。このような極めて抽象的な法理論を根拠に憲法の明文を逸脱できるとするのは、立憲主義に反すると考えます。
また、そもそも、定足数に満たない場合、緊急集会すら開くことはできません。首都直下型地震により、参議院議員の多くが死傷や交通途絶などにより本会議に出席できない場合です。こうした場合に、憲法制定時の先人が検討したように、緊急政令の必要がないかも議論する必要があります。
今私たち立法府に問われているのは、審査会でも繰り返し指摘されている、想定された緊急事態における国会の機能不全にどのように対応するかです。憲法の明文や制定経緯に反し、通説、判例とも言えない安易な緊急集会の類推解釈論にすがって何の手当てもせず、憲法に基づかず、違憲との司法判断を招きかねない立法不作為を漫然と続けるのか、それとも、憲法の枠内で緊急事態に対応するため、九割の国家が憲法に規定しているように、立法府の責務として憲法に緊急事態条項を明記するのか。立憲主義を守る観点からいずれの立場が我々立法府に求められているかは明らかであります。
その上で、緊急事態条項については、当審査会において、各党から相当な意見の蓄積がなされております。
そこで、会長にはお願いでございますが、緊急事態条項について各党より出された主な意見を衆議院法制局に取りまとめさせ、国民に見える形でこの論点についての議論を行うことができるようお取り計らいをいただきたいことをお願いして、私の意見といたします。