井上善博の発言 (予算委員会公聴会)
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○井上公述人 私は、ただいま九州の福岡県で旅館、ホテルの組合の理事長として務めております。そして、この度、全国の旅館、ホテルの組合の連合会の次期会長として、ちょうどこの二月に選出をしていただき、この春以降からその職を務めさせていただくという大変若輩な人間でございます。
さて、私の宿でございますが、九州の福岡県そして大分県の県境の朝倉市というところにございます。目の前には、九州一の大河、筑後川が流れております。その筑後川の川原で、昔のことですから、鶴が湯あみをしたということで、原っぱに鶴ということで原鶴温泉と名づけられております。
私の宿の創業は明治十八年、一八八五年でございます。明治、大正、昭和、平成、そして令和と、大変細々でありますが、私の先祖から、この宿屋家業、旅館業を営んでおります。
その間には、さきの大戦を経験をし、ちょうど私の地元、朝倉、甘木には大刀洗という飛行場がございました。私の亡くなった祖母は、昔のことですから、GHQ、当時の占領軍の方々が私の宿にも泊まりに来ていたそうです。昭和の話ですから、田舎の話ですから、そんなアメリカ軍の方々、白人の方、黒人の方を初めて見たということを私によく話をしてくれました。
そして、敗戦後、昭和二十八年には、その九州の大河、筑後川が大氾濫を起こして、私の宿も全流したそうです。それから何とか歯を食いしばって、大きな水害を経験し、再建し、ちょうど昭和四十年代、五十年代に、今のいわゆる鉄筋コンクリート型の旅館として何とか親から引き継いで、現在に至っておる次第でございます。
近年を考えますと、特に私ども九州では、熊本地震の大きな災害がございました。そして、私の地元でも、ちょうど衛藤先生、いらっしゃいますけれども、日田も含めた九州の北部豪雨というものがございました。
そういったような経験をしてきたわけでございますけれども、これまでそういったような大きな経験がございましたが、このコロナの三年間は、私のような、明治とか大正、昭和から続く旅館の仲間にとっては、大変厳しい状況の期間を過ごしてまいりました。
私は、日本の宿文化というのは、それ自体が、世界中が憧れる、世界の人たちが憧れる、そして日本が世界に誇り得る最大の売りではないかと思っております。先人の方々がつくり上げてきたすばらしい文化を将来に引き継いでいく責務があると考えております。
このコロナの三年間、コロナの発生時より、緊急事態宣言や蔓延防止法など度重なる発令により、人の流れ、人流が止まりました。当然ながら、私ども旅館業、宿泊業は、お客様を迎える、そして初めて仕事になる、そういったことからすると、大変多くの機会損失がなされました。
さらに、一番つらかったのは、先ほどから連合の方々もお話ししていますが、お仕事に来ていただいている従業員の方々、パートさん、アルバイトさん、その方々に、お休みを、仕事をしなくていい、コロナがうつるからということで出勤を止める、そういったような大変心苦しい思いもしてまいりました。
しかしながら、ここにお集まりの国会議員の先生方、そして観光庁の皆様が、このコロナ禍を経験しても、観光が国の成長戦略の柱である、地域活性化の切り札である、そういったことに変わりはないということを御発言をいただいたり、そういったお言葉に本当に勇気づけられて、我々もそのことを信じてやみません。頑張ってまいりたいと思っております。
旅館は千三百年を超える歴史を有するとともに、我が国が、長い歴史の中で、世界に類を見ない、独自の宿泊形態、宿文化をつくり上げてまいりました。国が観光立国を目指すとともに、世界でも我が国の観光が大変注目をされている昨今、日本の自然や、また、和食を代表とする食事、神社仏閣、様々な文化遺産など、魅力が先生方の御地元の全国津々浦々にあると言えます。世界でオンリーワンの宿文化も、我が国の、ある意味ではキラーコンテンツであると確信をしております。
現在、ハイアットとか、いわゆる世界で有名な外資系のホテルチェーンも旅館のブランドを立ち上げようとする動きがございます。まさに、そのことは、世界中が旅館に注目し始め、我が国の宿に着目をしているという証左であると考えます。外資系の資本がよいとか悪いとか、そういったのは切り離し、まさに事実として、海外の人々、そしてその企業が我が国の宿の魅力に気づき始めているという事実があります。
でも、残念ながら、我々日本人、日本の人々、そして何よりも我々旅館の経営者が、この魅力についてまだまだ気づいていないという事実もございます。例えて申すならば、外見だけ旅館のような宿を造ることは技術的、建築的には可能かもしれませんが、長い長い歴史に基づく、そして地域の伝統、文化、価値に基づく、地域に根差した、兼ね備えた旅館が一度なくなると、もう二度と再生することは不可能でございます。
いろいろな地域の旅館は、我が国の宿文化、地域の歴史、文化に裏づけられた固有のストーリーが集約された、地域のストーリーが集約されたショーケースであると考えております。
こうした背景を踏まえて、国の成長戦略の柱、地域活性化の切り札と言われる宿泊産業は、宿を中心とした地方創生を実現させ、強い責任感を持って取り組まなければならないと考えております。
たくさんの課題が山積しているのも事実でございます。今後は、こうした課題を一つ一つ解決していくことが必要でございます。コロナ禍で大きな打撃を受けた宿泊産業でございます。いち早く立て直す、そういうことが大事であります。
この場をかりて、いろいろなお礼を申し上げたいことがございます。
コロナ発生時以来、政府の皆様、先生方には、雇用調整助成金の支給やゼロゼロ融資の実施、我々の日々の商売、日々の雇用、キャッシュフローを支えていただきました。GoToキャンペーン、県民割、ブロック割など旅行支援をたくさん講じていただき、インバウンドの需要が消滅した中で、それに代わる国内需要の喚起をしていただきました。持続化給付金や宿泊事業者による感染防止対策など、直接的な支援の形をしていただきました。そして、経産省の事業再構築補助金でございますが、多くの事業者がワーケーションの施設やグランピングなど新しい取組を始めることに、大変前向きに御支援をいただきました。
そして、この度の高付加価値化事業では、令和二年度に五百五十億円、令和三年度に一千億円、さらに、昨年末に御成立をいただいた補正予算では、一千五百億円という大変破格の御予算を組んでいただきました。我々、宿のリノベーションを通じた地域の面的再生、高付加価値化を大いに御支援をいただいたところであります。
私の地元である福岡県の原鶴温泉でも、この高付加価値化補助金を利用させていただいております。
先ほどお話ししましたが、さきの九州北部豪雨等で、私の後輩の宿、泰泉閣という旅館がありますが、そちらもなかなか投資ができなかった、なかなか金融機関がお金を貸さなかったわけであります。それも、今回のこの高付加価値化の事業の採択を受けてからは、何とか金融機関の御理解が進み、融資が実行をされ、そして、ただいま設備投資をしている真っただ中でございます。
我々の業界もそうですが、人手不足の問題が取り上げられております。今回の高付加価値化補助金に参画した施設は、工事を終了し、新しいお風呂つきの客室だとか、そういったような付加価値のある客室を造ったりして宿の利益が向上したと聞いております。その利益を従業員に還元させて、待遇を従来よりも改善していく、そして、それをもって募集を行う、そういった動きも出てきております。また、よく、スマートフォンでも見られますけれども、多くの我々の宿や施設が写真やホームページを掲載して、若い方々の採用も増えているという話も聞いております。
これから、人手不足の解消の実現に向け、賃上げの原資を生み出せるよう、高付加価値化やDX支援を通じた収益力向上の下支えをお願いしたい、そのように思っております。
さて、まだ引き続き、高付加価値化補助金を活用して、賃上げの原資を生み出して人手不足を解消したいと考え、取り組んでいるところでございますが、よくホテル様等で、百室ほど客室があるホテルが、人手不足、ベッドメイキングがいない、そういったようなことで八割しか稼働できない状況もあると聞いております。
人手不足については、何よりも我々の業界が魅力ある業界に生まれ変わらなきゃいけない、賃金を引き上げるといった自助努力が必要であると思っております。現在宿泊業に従事する人々に、そしてこれから就職を考える若い方々に宿泊産業で働くことの意義や矜持を伝えてほしい、これこそ、国の皆様とともにできる、そういうことを考えております。
また、宿泊業について、ちょっと懸念する問題について述べたいと思います。
我々の業界が力を合わせて今頑張っている中、いわゆる民泊でございます、サテライト民泊、つまり、地域の文化を体現していないような宿泊スタイルが推進されております。そういう動きに非常に懸念を持っております。
先ほど申し上げたように、宿というのは、単に旅行者に泊まる場所を提供することではなく、我々は地域の文化を旅行者に伝達するという目的があります。そういう気概で仕事に当たっておりますので、国の方でも、各地域の自治体の皆様に、これから、こういう違法民泊等を、御理解いただき、取り締まるなど、引き続きの強化をお願いしたいと思っております。
昨年の十月から水際対策を大幅に緩和していただき、さらには全国旅行支援を開始をしていただき、インバウンドについてはまだまだ回復途上にあるものの、大変大きな目で見ると、国内需要は、対コロナ前で比較をして、同等程度までに回復をしてきております。しかしながら、地域を細かく見ると、大変濃淡、格差があるのも事実でございます。我々の仲間の中には、当面、資金繰りに、やりくりする、大変苦労している旅館もたくさんあるのが事実です。
政府の皆様には、こうした資金繰りに苦慮している事業者に支援が行き渡るよう、細かい金融措置を講じていただきたい。再度お願いを申し上げたいと思っております。
人口減少、少子化、高齢化を迎え、消費者の人々の嗜好が大きく変化する中、我々宿泊産業も、こうした時代の波に合わせて変革が必要であると思っております。地域を守るために必要な様々な経営や運営の在り方、つまりは所有と経営の分離、事業継承、事業譲渡、事業再編等も一定は必要になってくると思っております。単に金融的な視点での事業再生は絶対にやってはいけないと思っておりますし、旅館を始めとする我が国の宿泊産業の存在意義を深く理解していただいた上で、地域を持続可能なものにするような事業再生の支援もお願いしたいと思っております。
こうした問題解決と並行して、我々宿泊産業は、今後、より一層地域の方々と結びつきを強め、中心となって地域の再生、地域創生を実現していかなきゃならないと思っております。
最後に、国内旅行に求められていくのは、全国どこでも一緒の画一的な地域ではなく、個性あふれる魅力を持った、持続可能な地域にすることだと思っております。地域固有の伝統、文化、価値等に基づく魅力を生かしたまちづくり、そして、そうしてでき上がった地域が持続可能な地域となるような仕組みづくりが求められております。まさに、将来へ引き継ぎ、域内人口の維持、増加につながるものではないだろうかと思っており、今回の高付加価値事業を大いに活用し、地域の再生、地方再生に取組を進めたいと思っております。
今後とも、観光庁を始めとする政府の皆様方と一体となって、宿泊産業を我が国の基幹産業に、宿を中心とした地方創生を実現させる、我々の先人が残してくれたこのすばらしい宿文化を将来世代に引き継ぐ、そのような強い決意の下に、一歩一歩、取組を進めていきたいと思っております。
御清聴ありがとうございました。(拍手)