北岡伸一の発言 (予算委員会公聴会)
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○北岡公述人 北岡でございます。
こういう機会をお与えいただきまして、誠にありがとうございます。
最初に、今日は主として防衛予算についてお話をしたいと思うのでありますが、それをお話しするに当たって、私のバックグラウンドについて一言二言触れさせていただきたいと思います。
私は、学者としていろいろ専門分野はございますが、その専門の一つは軍事史であります。ここに書いてあるような本を、特に一番目と三番目は研究書なんですけれども、こういうことを書いております。
また、政府の関係でもいろいろな仕事をしてまいりました。例えば、特命全権大使、国連代表部次席代表というのをやっておりましたが、このときは、安保理改革というのに関連して、これは世界の安全保障に非常に関係の深いものでありました。また、この頃は今と違ってPKOが非常に盛んでありまして、スーダンのダルフールのPKOとかその他のPKOをセットアップするということにもいろいろ関係いたしました。また、この年の、私がいるときの二〇〇六年の七月というのは、北朝鮮のミサイル発射に対して初めて非難決議が通ったときでありまして、これもいろいろ関係いたしました。
さて、日本の国内におきましては、安全保障と防衛力に関する懇談会というのをよくつくりまして、それでもって大綱を議論するということがあるわけなんですけれども、それに幾つか参加いたしました。例えば、二〇〇九年に麻生内閣のときに参加したんですが、政権交代でそれは大綱には反映されませんでした。二〇一〇年、一二年というのは誤植でありまして一三年であります、二〇一八年と、その後三回参加したんですが、この二〇一〇年に括弧がついているのは何かというと、これは正式の閣議決定でつくられた安防懇ではなかった。これは実は、民主党政権のときに、別途、民主党の中枢から要請を受けてタスクフォースに加わったものであります。
ついでに申し上げますと、私は基本的に自民党の方々と一緒に仕事することが多かったです。しかし、安全保障というのはできれば超党派で進めていきたい、真っ当なことを考えられる方とは是非誰とでも協力したいという考え方から、これにも参加いたしました。一定の成果は上げたと思います。
例えば、これまで、このとき冷戦が終わって二十年たっているにもかかわらず、まだ、陸自は北海道が中心だったんですね。それはおかしい、南方重視に転換すべきだというのを取り入れられたのはこのときであります。自民党政権ではそれはできなかったんです。それは、自民党の先生方が、それまでよくやってこられたんですけれども、地元を説得するのに大変な苦労をされた、それを変えられないという事態があって、私が陸自中心、北海道中心は転換しようということを書くと、すぐいろいろな自民党の先生方から、ちょっと、北岡さん、ああいうことを言うのはやめてくれませんかというリクエストがよく来たものであります。これは、いわば、客観的に言いますと政権交代のメリットなんですよね。政権交代の結果、それまでのしがらみと違うこともできる。悪いこともあるんですけれども、もちろん。
一三年、一八年と安倍内閣で安防懇をやっておりまして、一三年は座長、一八年は座長代理でございましたが、今回も、NSSからインフォーマルのヒアリングで、どういう意見がいいかというのをいろいろ申し上げたわけであります。
もう一個は、これまた民主党時代に、いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会というのを岡田外務大臣から委嘱されましてやりまして、一定程度、幾つかのことを明らかにできたつもりであります。
もう一つは、最後に書きましたのは、安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会というのは、御案内でしょうか、結果的に集団的自衛権行使の一部解禁ということにつながった懇談会の我々の報告であります。柳井判事が座長、私が座長代理でやっておりまして、最初、一度、安倍内閣、第一次で失敗しまして、第二次で実現したというものでございます。
こういうことがあったということを踏まえてお話ししたいと申し上げたいのでありますが、私は今回の防衛予算に全体として賛成でございます。支持したいというふうに思っております。
特に、私は、この中心は反撃力であるというふうに思っております。反撃力という言葉自体、実は、ほかにもおられるかもしれませんが、私の周辺では私が言い出しっぺでございます。最初に、二〇〇七年にある財団の提言に反撃力を持つべきだということを書きまして、全く反応がありませんでした。一本だけアメリカ大使館から電話がかかってきました。これは具体的に何を考えておられるんですかと。曖昧な返事をしましたけれども、そういうことがありました。
しかし、政府の中では、二〇一三年にこれをやるべきだと安防懇で主張しまして、二〇一八年、僅か五年前であります、四年数か月前の会議でもこれを主張して、そのとき私は明確にメモにして提出したんですね。そのエッセンスはここに書いてあるとおりです。専守防衛の精神を維持しつつ、万一攻撃された場合には直ちに反撃を加えて第二撃を防ぎ、あわせて他国が日本を攻撃することを思いとどまらせるようにすべきだ、そういう反撃力を持つことが必要だということを提言して、このとき、いろいろな方の反対というか消極的な態度で取り入れられなかったのを私は残念に思っておりますけれども、今回、これが取り入れられてよかったなというふうに思っておる次第であります。
といいますのも、それまでは、北朝鮮の脅威が一番で、これに対する主たる防衛方法はミサイル防衛だという考え方だったんですね。しかし、常識的に考えて、それは不可能なのであります。世界で最も発達したミサイル防衛はイスラエルのアイアンドームだと思いますけれども、これだって撃ち落としはあるわけであって、それは、パレスチナのガザから飛んでくる非常にちゃちなミサイルを撃ち落とすのでも撃ち漏らしがある。まして北朝鮮は、たくさん発射できる、変化球も投げる、もう無理だと。ですから、それよりは、もし撃ってきたら反撃するぞというのを持つのが安全保障の常道であります。これでいくべきだというふうに思っておりました。
これに似た考え方に、敵基地攻撃能力という言葉がございます。これは、鳩山一郎内閣のときの国会答弁で、座して死を待つよりは発射直前にこれをたたくことは許されるという答弁なんですけれども、それがずっと引きずっていて、私はいかがなものかと思っているんですね。
といいますのは、当時と今とでは技術が違うわけであります。今はどこから撃ってくるか分からない。穴に入っているんです、大体。地下に入っている。それを事前に察知してたたくということができるのか。それは、当時の技術水準でアメリカの圧倒的な力があれば、当時は僅かに可能だったかもしれないけれども、今はほとんど無理だと。ですから、私は、もっとはっきり、どこが攻撃の着手とかというよりも、先制攻撃はしないということを明言したらいいんじゃないかと思っております。
実際、こっちがミサイルを撃ったって届くのに時間がかかるわけですから、相手の発射直前にたたくというのは無理なんですよね。これを、世界で、方々でフェイクニュースが飛び交って、日本が先制攻撃してきたと言いまくる国があるに違いないのであります。それよりも、最初の第一撃はミサイル防衛でなるべく防ぐ、その後、もし撃ってきたら、でも反撃するぞと。その際は敵基地に限る必要はないと私は思います。敵基地をたたいても、ほかにも基地はいっぱいあるわけですね。また、さらに、攻撃の中枢みたいな軍事施設はいろいろあるわけです。それは、国際法の範囲内でたたく権利を留保するというのが私の議論でありまして、こういうことを言うと、日本が先に先制攻撃したらどうするんだという御心配もあるかもしれませんが、核兵器を持っている大国にこっちから攻撃するということは常識的にあり得ないのであります。自殺行為であります。真珠湾よりひどいと思います。
それから、どうやって、先制攻撃をしないか。これは首相の宣言等でやればいいのではないかと思います。繰り返しますが、発射直前にたたくというのは、法理的には可能ですが、事実上不可能だと。それははっきりと、先制攻撃はしないと言う方がいいのではないかと思います。
また、これについて、歯止めがないと言う方があるんですけれども、歯止めはあります。国際法です。シビリアン、軍事目標以外はたたかない。今、ロシアがウクライナの燃料基地や発電所をたたく。こういうことはしてはいけないというのは常識であって、歯止めはあるのです。
また、こういうことをすると周辺国の軍拡を招くという御批判がありますが、これは間違いでありまして、軍拡はもう既に先にあるんです。我々がそれに対応しているだけです。
二〇一四年だったと思うんですけれども、私は中国のある高官と話したことがあるんですけれども、大使館の方ですが、向こうの方は、当時、二〇一四年だったと思うんですけれども、一四か五ですね、日本政府、安倍内閣が防衛費を増やしたことを批判したんですね。私は驚いて、今回増やしたのは一%かそこらだ、あなたのところは毎年二桁、一〇%増やしているじゃないか、何でそんなことが言えるんだと言ったら、その人は平然として、我々は前から同じ政策だ、日本は新しい政策になったと言うんですけれども。こういう国を相手にしてそんな議論をしていてもしようがないですよ。相手が軍拡をしているわけでありまして、これに対する対応が必要だと。
確かに軍拡競争は好ましくありません。しかし、戦争はどういうときに起こるか。相手が絶対勝てると思ったときに起こるんですね。ですから、こちらの抑止力を上げておく。はっきり言ってしまえば、中国が簡単に勝てると思ったら、戦争が起こる可能性が高まるわけです。もし、結構手ごわいなというふうに思えば、ためらいます。中国は、伝統的にも軍事力の行使に慎重な国です。短期に絶対勝てると思わない限り、多分やらない。絶対とは言いませんが、やらない確率が高い。
したがって、私は、平和を守るためには、一見逆説に聞こえるかもしれませんが、こちらが行き過ぎない程度の抑止力を持つことが一番平和への道だというふうに思っております。
さて、今回の防衛予算でもう一つ評価したいのは、施設の老朽化対策とか弾薬の不足を補う備蓄とか、そういう地味な分野に手をつけられたことであります。これは大変重要だと思います。言い換えれば、今までの政策には大きな欠点があったということであります。つまり、日本はGDP一%という大枠がある、他方で、アメリカとの日米関係のよしみ等々で、アメリカから高い武器を買うんですよ。また、どうしても、軍人には最先端の武器を買いたいという欲求があるんですよね。戦前の大艦巨砲主義で、あるんです。その結果、その真ん中が抜けてしまうわけです。
どんな小さな国も、自分たちの身の丈に合った軍備を動かせる、バランスの取れた軍備、これがよろしいんですよね。ところが、日本は、先端の武器はある、しかし予算は限られている、その結果、ぼろぼろの兵舎にいて、弾薬を貯蔵する場所がない、今のウクライナでやっているような消耗戦は全くできないということになっているわけで、これに対応したのは私は大変結構だろうというふうに思っております。また、これに併せて、さらに、慢性的な人員不足でありますから、私は人件費、手当をもっと増やすべきだというふうに思っております。
さて、以上が留保つきながら賛成なんですが、二番に私の懸念を申し上げたいと思います。それは、はっきり申し上げて、増強した軍備を使いこなせるのかという危惧であります。
ここで申し上げたいのは、シビリアンコントロールということであります。シビリアンコントロールということは、軍事が動きにくくすることではありません。軍事の暴発を防ぐと同時に、必要な場合にはきちっと使いこなす、これがシビリアンコントロールであります。
シビリアンが暴走することもあるんです。例えば、ヒトラーもスターリンもシビリアンです。スターリンは大元帥だけれども、基本的にはシビリアンだし、ヒトラーは伍長だけれどもシビリアンです。
近くはイラク戦争のときに、国防長官のラムズフェルドさんは割合少ない兵力でやれると言って、これに対して、プロフェッショナリズムの観点で反対したのがシンセキ陸軍参謀総長でありました。結果的に、これはシンセキさんが正しかったんですね。アメリカが少ない兵力でやった結果、イラクは大混乱に陥ったわけです。ISまでできて、今日のシリアの混乱につながる状態になってしまった。だから、プロフェッショナリズムの論理は非常に重要なんですよね。世界情勢を見渡したプロの軍人と、そして軍事をよく知ったシビリアン、そういう組合せがないとうまくいかないわけであります。
それを前提に言いますと、政府、内閣の側に不足なところ、不安なところがたくさんございます。使いこなせるかという中で、一つだけ具体的に申し上げます。たくさんあるんですけれども、一つだけ申し上げますと、よく台湾有事のことを話される方があります。私は、可能性はあると思いますが、絶無ではないと思いますが、日本にある米軍が仮に出動するとすると、そのときは事前協議が必要なはずであります。その事前協議というのは今まで一度もやったことがないんですよ。事前協議というのは、誰からリクエストが来て誰がオーケーと言うのか、そういう準備はしているのかというのが私は大変不安であります。それはやはりやっておくべきではなかろうかという気がいたします。
それから次に、更にお願いしたいのは、ほかにもいろいろ課題があったなと思うんですね。
私は、NSCができるときもいろいろお手伝いをしたんですけれども、そのときの大前提は、これができたら、更にこれを補強するための情報機関、それは当時は想定ではヒューミントですけれども、情報機関がやはりもっと要るんじゃないか。さらには、今は、もっとAIを使ったオープンソースによる情報機関がないとまずいんじゃないかというふうに思うのであります。そっちもちゃんとやってくださるんでしょうか。
それから、首相の周りに、やはり、自衛隊員が直に、自衛隊の幹部が、連絡が入れるシステムがあるんでしょうか。
実は、三・一一のときに、あの大事件が起こって自衛隊が大いに活動しなくちゃいけないときに、菅首相の周りにそういう方がいなかったんですね。私がちょっとおせっかいを焼いて、そこに知人の元自衛隊の人に入ってもらう仕組みをつくったことがあります。それがないと、せっかくの立派な軍備をつくっても役に立たないということであります。
次に、もう短いんですけれども、財源問題の話です。
いかにして国民の理解を得るかというのは大変重要であります。私は、今既に公債がこれぐらいありますから、万が一戦争になったらもっとお金が要りますから、できるだけ財政の健全化は一定程度目指したいので、やむを得なければ増税ということもあり得ると思いますが、その間、やはり、無駄の削減といいますか、これまでの財政のやり方に無駄はなかったのかということをよく点検していただきたい。
特に、最近のコロナで一体どれぐらいお金が出たか。私もJICAを預かって、年間千五百億とかの予算でやっている中で、そんなにお金が出るのかとびっくりするような金額が出て、それが消費を喚起するはずが実は貯蓄に回ったというのがたくさんあるわけで、コロナ対策なんかで出したお金がどれぐらい有効に使われたかということをちゃんと検証してほしい。
総理はよく、丁寧に説明するとおっしゃいます。丁寧な説明は結構だけれども、それよりも、こういうときにこういうお金は使った、これは効果があった、なかった。初めてのことなので、なくてもしようがないです。間違ったらまたやり直せばいいんです。間違いだったらやり直す、大前提を検証するということです。その努力を是非お願いしたいというふうに思っています。
また、自衛隊の中あるいは既定の予算の中で見直すものがないのかということも見直してほしい。
ここがメモになかったのは、あえてやはり言おうかなと思って言うのは、例えば沖縄の基地の移転問題であります。あれは、想定、十年以上先にできるんですよね。一体お金は幾らかかるか。今、事態は緊迫しているんじゃないですか。十年以上先に完成するものにお金をつぎ込む余裕はあるんでしょうか。
これは、私が親しかった岡本行夫さんがかつて非常に働かれた。岡本さん、あれは今でもベストの案だと思うかと、亡くなるちょっと前に聞いたことがあるんです。いや、あの頃はベストの案だったんだけれどもなというのが彼の答えです。ですから、常に軍事というのは今ベストかどうかということを考えていくべきというふうに思っております。
最後に、失礼ながら、内閣の責任もあるけれども国会の責任もあると思うんです。
今年は、かつて大規模な政治改革をやってから約三十年なんですよね。あの頃、大変な政治改革が沸騰して、選挙制度を変えて、大変なことがあったんですけれども、国会審議の効率化も当時よく言われたものなので、是非考えていただきたい。閣僚出席義務の軽減とか、外務大臣がもっと海外に行けるようにするとか、いろいろなことをやってほしい。
それから、今、国会審議が官僚の大変な重荷になっております。例えば、私が教えておりました東京大学から霞が関に優秀な人材が行っていたのが、どんどん減っています。どんどん辞めています。つい最近も、私の優秀な教え子が一人、外務省を辞めました。この環境では子育てできませんというのがその理由です。それは全体として国力に大変なダメージです。そういうことをやめて、もう少し効率的に、今日の新聞にも載っていましたけれども、締切り時間までに通告が来る比率は二〇%だというんですよね。それをもうちょっと何とかしていただきたい。
さらに、一言だけ、失礼ながら余分なことを申し上げるかもしれませんが、全体のスリム化を考える中で、政治改革、私は政治学者として申し上げますが、日本のように二院制で、同じような選挙システムを取っている国はありません。ほとんどないと思います。ですから、参議院はなくすというのは憲法改正が必要ですけれども、例えば参議院の定数は九十四にするというようなことは不可能ではありません。というようなスリム化の努力を、これだけ国民に負担をお願いするんだから、内閣でも国会でも是非負担をお願いしたいというふうに申し上げます。
ありがとうございました。(拍手)