中川正春の発言 (憲法審査会)
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○中川(正)委員 私からも、まず、こうした調査に派遣をしていただいたこと、感謝を申し上げたいと思います。
フランス、アイルランド、そしてフィンランド、各国で、私なりに、特に印象に残った事柄を、短い時間ではありますが、七分間で報告をしたいと思います。
まず、フランスです。
フランスでは、憲法改正や法案作成に関連する三つの機関について、その役割が特に有効に働いているということを感じました。具体的には、コンセイユ・デタ、内閣事務総局、そして憲法院であります。
コンセイユ・デタは、行政裁判の最高裁判所としての役割と、政府が法案を作るときの諮問機関、法律顧問としての役割を併せ持つといいます。しかし、政府からは独立した機関でありますので、最高行政裁判所の役割を持つところから、日本の内閣法制局とは少し性質が異なるということになります。
一方で、政府の機関である内閣事務総局が首相に対する法律顧問の役割を担っており、これが日本の内閣法制局に近いかもしれないと説明がありました。
さらに、憲法院があります。憲法院は、成立後、公布前の法律の合憲性審査を行うと同時に、事後審査制であるQPCでは、法律が国民の諸権利を侵害しているとみなされる場合に当該の法律を違憲無効とする二つの権限を併せ持つ機関であります。
憲法と法律、また人権擁護に関連してこれだけのチェック機能を駆使しながら憲法を運用する体制に深く感銘を受けました。
翻って、日本の実情に強い懸念を持ちます。憲法判断を避ける裁判所や政府の方針に沿った理論武装を担うということ、こんなことをともすると使命とするような内閣法制局だけで本当に適切な憲法や法律の運用ができているのか、自問しなければならないところだと思います。
次に、緊急事態条項であります。
フランスでは、憲法の緊急事態条項は実際上はさほど重要視されていないというブドン・パリ・サクレー大学教授の言葉がありました。憲法上の緊急事態条項よりも、緊急状態法などの一連の法律が議会や司法のコントロールの下で運用されているということが言及されました。緊急時に発動される例外的な政府の権力であっても、それを縛ることが必要だとすれば、憲法よりも法律で規定する方が実情に合った柔軟な対応が可能になるということであります。
一方で、憲法改正の提起や起案はどこからなされるのかという問題であります。
フランスでは大統領のイニシアチブで行われる場合が多いことなどが報告されましたが、私は、議会や国民がこれによって分断されるという可能性が高いということではないかという疑念を持ちました。
次に、アイルランドであります。
アイルランドでは、市民議会が話題となりました。先ほど会長からも御報告のあったとおりであります。この市民議会は、ランダムに選出された九十九人の市民と一人の議長から成り、国民投票が想定されるような課題について、専門家や市民運動家、また課題の当事者などから幅広く意見聴取しながら議論を重ねる中で、マスコミ報道などを通じて国民の理解を得ながら提言をまとめることが想定をされています。
ともすると、政策がポピュリズムに流されて政争の具に使われるということなども懸念される現代社会あるいは現代政治において、政治闘争とは一線を画した市民議会がアイルランドではうまく機能しているように思われます。私たち日本の民主主義にとっても、工夫の余地があるように思われました。
憲法の緊急事態条項については、更にはっきりした見解が述べられました。
ケニー・トリニティー・カレッジ准教授の言葉をかりれば、憲法の国家緊急事態に関する条項を適用するより、期間を限定した上で、その緊急事態に応じた法律を制定することによって措置を行うというプロセスが取られているとのことであります。また、仮に憲法に規定がなくとも、国家緊急権は行政府に内在しているとアイルランドの裁判所は断定すると思うとの見解が出てきました。
安全保障分野では、アイルランドは中立国としての立場を取っており、NATOへの参加はしないという姿勢であります。
EU関連条約批准のための憲法改正が、アイルランドがEUの共同防衛に参加する義務を負うと国民に誤解されたために、国民投票で否決された経緯があります。そのため、EU関連条約を批准しても、憲法二十九条でEU共同防衛への不参加を規定することとして、EUに加盟しても共同防衛への義務を負うものではないということを改めて国民に説明をして、二回目の投票では可決をされたといいます。
市民議会もなかった時代。憲法改正や国民投票では、その内容について国民的な議論が広く行われ、内容が十分に理解されなければならないという示唆ではないかと思います。
フィンランドであります。
フィンランドは、一九九五年にEUに加盟し、一九九九年には憲法に当たる基本法を制定しました。EU加盟では、国民の間で意見が割れたために国民投票によって結論を得ましたが、NATO加盟では、国民の七〇%以上が加盟への支持を表明していたから国民投票は行われなかったと説明がありました。
また、フィンランドのNATO加盟で専守防衛という基本理念がどうなったかという問いに、クーセラ国防省防衛政策局長からは、防衛軍は国や国民を守るための組織であり、他国に対して兵力を駆使して侵略や攻撃などを計画したり実行したりはしない、それを専守防衛と言っている、しかし、NATOも同じ政策を取っているので、それと協調したものになっているというような解釈あるいは説明があり、防衛費が増大していくことに国民の理解を得ていきたいという発言もありました。
ロシアのウクライナ侵攻を自分事に捉えるフィンランドがNATOに加盟した背景は、せっぱ詰まったものであります。アイルランドのNATO非加盟、中立政策維持や専守防衛政策に対するこだわりと、このフィンランドは対照的な対応になっています。
フィンランドでは、ヘルシンキの町の中心部に設置されたシェルターも視察をいたしました。集合住宅にはシェルターの設置が義務づけられて、公共のものと合わせると、ヘルシンキでは、住民の六十万人を超えて、通勤者や旅行者の数も入れた九十万人を収容できるとしています。
ふだんは子供向けのスペースや球技場として使われているシェルターも、有事の際の空調、二重扉、水、発電設備、簡易トイレやベッドが整備をされて、二週間は耐える前提となっています。有事の際には、まず国民の命を守る。ここから出発するフィンランドの安全保障の本気度、これを見た気がいたします。
今回の視察を通じて、それぞれの国の憲法は、各国の歴史と環境が深く関わって明文化され、時代の変遷の中で試行錯誤を重ねながら、その時々の運用がなされてきていること、これを実感をいたしました。
私たちも、日本の歩んできた歴史を振り返って、未来に対してより発展した世界観を示すことのできる憲法議論を目指していくことを改めて確認をし、報告にしたいと思います。
以上です。ありがとうございました。