北神圭朗の発言 (憲法審査会)
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○北神委員 私からも、今回の調査団に参加させていただいたこと、皆さんに心より感謝を申し上げたいと思います。
私からは、フランスとアイルランドにおけるコロナ対策に関する緊急事態対応の在り方に絞って、御報告申し上げます。
両国のコロナ対策に共通しているのは、法律のみによって国民の権利制限をしていることです。それぞれの憲法には、資料もお配りしておりますけれども、立派な緊急事態条項がありますが、コロナという事態が条文上の要件を満たさないため、これを適用できず、もっと言えば、この条項に根拠を求めずに、あくまで法律で私権を制限しています。
私の問題意識は二つありました。
一つは、コロナという事態が憲法上の緊急事態条項に当てはまらなくても、緊急事態においては権利制限ができるという制度が既に憲法にあったからこそ、法律で権利制限をしやすかったのではないか。二つ目は、立憲主義の観点から、本来は憲法に感染症対応の緊急事態規定を新たに設ける方が望ましいのではないかというものでした。
フランスでは、ブドン教授は、憲法上の緊急事態条項は、ほとんど使われなくても有用な条文であり、例外的事態に対処するためにはもちろん必要不可欠なものであると、憲法上の緊急事態条項の必要性は認めています。
他方、緊急事態の場合に限らず、法律によって自由を制限する根拠は究極的には憲法三十四条に求められる、同条一項には、市民の公的な自由に関する権利について法律を定めることができるとあり、市民に自由を与えられるのであれば、それを制限することも可能との解釈ができる、憲法院の判決でも、立法府が緊急事態に関する法律を作ることを憲法は排除していないとされている旨、発言がありました。
加えて、私から、感染症対応などを対象とする緊急事態条項を新たに憲法に規定すべきではないかと問いました。これに対しては、憲法の主たる要素の一つは個人の権利等の保障で、もう一つは統治機構、これで十分ではないかと思っている、緊急事態に関する規定も必要だと思うが、憲法では大きな原則のみを定め、細かい技術的な部分に関しては立法府に委ねる方がよいと思う旨、考えを示されました。
元老院のブッフェ法務委員長にも同じ問題意識を投げかけました。同委員長は、緊急事態で憲法、法律のどの規定を用いるか、あるいは用いないのかは、多くの権限が政府に移譲されているという観点を踏まえて、そのときの深刻さの度合いによって決定される、長期の場合には政府だけで決めることはできず議会の関与が必要だ、また、議会の決定は常に憲法院の監視下にあるため、複数の階層、段階において審査が行われるという歯止めがある旨、回答がありました。
次に、アイルランドです。
こちらの憲法にも、戦争、内乱に限ってはいますが、権利制約ができる二十八条三節三項があります。コロナの事態はこの対象にならず、現実には保健法の改正で対応しています。
まず、保健省に対し私から、法律のみで権利制限ができたのは、憲法に、戦争、内乱に限ってはいるものの、緊急事態において平時より厳しい人権制限を可能とする根拠規定があるからなのかと問いました。同省のオフロイン法律顧問より、アイルランドでは憲法上の権利は非常に重視されているため、戦争のような極端な場合を除いては権利制限をちゅうちょする、さらに、そもそも、公衆衛生の文脈で憲法改正といっても、どのような条文にすればよいのかなど多くの困難がある、これまで感染症以外でも様々な権利制限が行われているが、裁判所はこれらを憲法違反だと判断しておらず、今回の権利制限は目新しいものではない旨、回答がありました。
トリニティー・カレッジのケニー准教授にも同じ質問をしましたら、憲法には絶対的な人権というものがない、一つには共通善、もう一つには公的な秩序又は道徳のために人権が制限され得ることが規定されている、裁判所はそれらの人権制限と達成される共通善との比例性審査を行うが、緊急事態時には共通善が大きいので、より厳しい人権制限が正当化される、このように立法で人権を制限することができる旨、説明がありました。
あえて私から両国でのやり取りを総括するならば、一つは、まず、両国とも憲法上の緊急事態条項を法体系に持っておくことは重要、あるいは当然だと認識されていると改めて確認ができました。
二つ目は、といっても、それぞれの憲法上の緊急事態条項の要件は限定的であり、フランスでは、条文にございますけれども、公権力の適正な運営が中断されているかどうか、アイルランドでは戦争、内乱に該当しているなど、適用の判断基準となっています。
三つ目、他方、感染症など緊急事態の対象を広げるためにあえて憲法改正すべきではないかという点については、その必要性を認識している発言はありませんでした。
四つ目は、法律で権利を制限する憲法上の根拠としては、フランス、アイルランドも我が国憲法第十三条の公共の福祉に似た条文に求めています。
最後に、五つ目、法律で権利制限をする際の権限濫用のおそれについては、議会が関与していることや、憲法院や裁判所の憲法判断が十分に機能していること、つまり、両国とも三権分立などの制度に対する信頼が厚いと感じました。
以上、私の報告を終わります。ありがとうございます。