丸山泰弘の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(丸山泰弘君) 丸山泰弘と申します。立正大学法学部で刑事政策と犯罪学を専攻しております。
本日は、意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
正直に本音を申しますと、ここで意見を述べることについては最後まで悩んでおりました。大麻使用罪の新設にはふだんから疑問を持っていますが、最近の大麻に関する事件や大麻に似せた成分に関する事件報道を見るに、多くの市民も厳罰化を望んでいるのであろうと想像するからです。
確かに、よく分からない物質に対して不安を抱き、それを犯罪化することでコントロールをしなければならないのではないか、そして刑罰でコントロールできるのではないかと考えることは、これまでの薬物教育から考えるに不思議なことではないように思います。
しかし、事、薬物の末端使用者に対して、必ずしも刑罰による対応は効果を出しておりません。二〇二三年十一月二十五日に、世界的トップジャーナルの一つであるザ・ランセットにおいても、多くの国が、犯罪化は健康に悪影響を及ぼし、確立された公衆衛生のエビデンスに反しているが、各国の薬物政策は依然として刑事罰に頼ろうとしていると指摘しています。
そして、今日の議論のように、薬物として一まとめにして危険なものとすること自体に問題があります。なぜなら、一言で薬物と言っても、自然由来で二千年以上にわたって使用されてきたものもあれば、人工的にケミカルに作り出されたものもあるからです。ましてや、化学式を少し変えるだけで、人が服用することを前提としないものまで薬物として一緒のもののように考えてしまうことになるからです。
例えるならば、ある刑事司法に関わる少年がいたとして、補導された段階や家庭裁判所に送致された段階、少年鑑別所に送致された段階、保護観察処分になった段階、少年院に送致された段階、少年刑務所に送致された段階と、いずれの段階でいろんな問題の深さは違うんですが、一くくりに犯罪少年と言っているようなもので、そうすることで、注意してこれを見ていかないと、無駄な差別につながっていくかもしれません、助長するかもしれないというような疑問を持っています。
次に、大麻を取り巻く政策の話に戻ります。
大麻に関して検索をしていただければ、国際的に大麻の取扱いが非犯罪化や非刑罰化に向かっていることが容易に分かることでしょう。それらの政策を取る国は、思い付きや行き詰まった結果、政策を選んだのではなくて、科学的根拠に基づき、より問題使用を減らすにはどうしたらいいかを考えた結果であることが分かります。
冒頭でも触れたとおり、私は刑事政策、犯罪学を専攻しており、特に、薬物の末端使用者に対する薬物政策の在り方を研究してもう二十年以上になります。刑事罰を土台にした薬物政策の在り方、刑事罰に依存しない薬物政策の在り方について研究をしてまいりました。
特に、アメリカの薬物犯罪専門の裁判所であるドラッグコートというのがありますが、こちらの研究を進め、毎年世界中から七千人の規模で研究者や実務家が集まって議論を行っている全米ドラッグコート専門家会議というものにも定期的に出席している数少ない日本人の一人です。さらに、留学中には、約二年間にわたってこのドラッグコートの内部から研究を行いました。
一方で、刑事罰に依存しない薬物政策の在り方を検討する国際団体の学術大会にも数多く出席しております。これらの調査や研究から得られた知見は、国内学会やアメリカ犯罪学会、ヨーロッパ犯罪学会など国際学会でも報告する機会をいただいており、一定の認知を得ております。
こういった知見や国際的な薬物政策の観点から、この度の大麻施用罪、いわゆる大麻使用罪の新設がどのような問題を含んでいるかについて意見を述べさせていただきたいと考えています。どうぞよろしくお願いします。
では、論点に入る前に、本法案のどこに反対でどこに賛成なのかについて最初に整理をしておきたいと思います。
まず、本法案の主軸が、医療的ニーズへの対応とその研究を進めるため改正がなされることに対しては賛成の立場です。それらの医療的ニーズに応えることと、大麻使用罪という個人使用に対して新たな罰則の規定を設ける問題とは全く別のものであると考えています。それを一緒に議論することで混乱を招く可能性が高いということを危惧しています。なぜなら、本法案に反対することが、この医療的ニーズの発展にも反対しているかのような印象を与えるからです。そうではありません。
本法案は、いわゆるTHCについて麻薬として認定し、その嗜好的な個人使用の罰則については従来の大麻取締法で規制されていた単純所持などの上限よりも重く、五年以下から七年に変更になるものであって、刑罰を厳罰化するものを含んでいます。こういった刑罰の在り方やその運用については、厚生労働委員会で医療的な展開を検討する法案と抱き合わせで行うのではなく、法務委員会でしっかりとした議論と国際的な基準で確立されている科学的根拠に基づいた検討を行っていただきたいと考えています。これらの問題とは分断して検討されることを望みます。
次に、多くの場面で見聞きするコメントから、前提として共有しておきたいことがもう一つあります。「ダメ。ゼッタイ。」のような、初期使用を防ぐことを集中した、威嚇をすることで抑えてきた教育からもたらされた議論というのは、薬物使用者イコール犯罪者、若しくは薬物使用者イコール依存症で困った病人であるとして語られることが多いという点です。しかし、国連は二〇一六年のドラッグレポートにおいて、薬物使用者の約八九%は問題使用にさえ至っておらず、残りの一一%についても、医療的なケアが必要な人はそのうちで六人に一人ほどであるという報告をしています。
そういった現実がある中で、問題使用者に至ってない人が多数であるにもかかわらず、それらの人をも巻き込んだ対応が強制的な介入なのか、仮に介入が必要だとしても、それが刑事罰によらなければならないのかといったことが世界中で議論がなされています。むしろ、国際的に人権問題と指摘されているのは、薬物が生活に支障を来して生活がままならなくなったのではなくて、刑事司法が介入することでその人の生活を奪っているのではないかということが指摘されているからです。
また、先ほど紹介した著名な医学雑誌ザ・ランセットに二〇一〇年に掲載されたデイビッド・ナットの論文では、他人の害悪と自分の害悪について危険度を調べたところ、最も危険な薬物はアルコールであると結論付けています。その研究によれば、大麻の危険度は他の薬物と比較したランキングで八位であって、日本でも自由に使用できるたばこの六位よりも危険度は低いとされています。この研究から得られる示唆としては、違法か合法かの分かれ目は必ずしも薬物の危険度が高いか低いかで分けられているのではないということです。
では、大麻は危険なものではないという単純な結論でいいのでしょうか。厚生労働省などが示すように、大麻も過剰に摂取すると体に様々な影響を与えることはあると思います。それならば、確かに問題使用が増えることを防ぐ方がいいかもしれません。しかし、本研究で大事な点としては、同じ基準で他の薬物も同時に検証することが大事だということです。大麻が危険であるというような調査をアルコールやたばこで一緒の基準で行えば、もっと大変な数字として表れてくるかもしれないからです。
薬物に限らず、過剰に摂取すれば体に良くないものは多いです、世の中に。例えば、しょうゆや水であっても過剰摂取すれば体に支障を来します。それらを制限し、うまく付き合って生活していくのに、刑事罰が果たして必要でしょうか。
また、よく語られることとして、非犯罪化や非刑罰化を訴える国は、薬物使用者の対応ができなくなったからでも、諦めたわけでもありません。むしろ、科学的根拠によれば、より問題使用を減らすことができるのは、刑事罰ではなく教育と福祉と社会保障であるとしているんです。
日本のように厳罰化を目指す国も、刑事罰以外の方法を取る国も、目指すべきゴールは問題使用で苦しむ人を減らすということで一致しています。つまり、ここにいる、この会場にいる使用罪新設に賛成の皆さんも、使用罪新設に反対の皆さんも、薬物の問題使用を減らしたいという考えは一緒なんです。
では、問題使用で苦しむ人を減らすにはどうしたらいいのでしょうか。国連を始め国際的な研究団体や非犯罪化にかじを切る国々は、その答えが刑事罰ではないという方法を選択したということです。むしろ、徹底した取締りと厳罰で対応しようとした薬物戦争ですね、いわゆるウォー・オン・ドラッグスは失敗であったということが多く報告されています。依存症者が増え、刑事司法に巻き込まれることこそ生活を失うことになっていき、孤立を深めるからです。
以上、持ち時間の半分以上を使ってしまいましたが、本法案の大麻使用罪の諸問題について意見を述べる前提として皆さんと共有していただければ幸いです。
それでは、本法案の大麻使用罪新設に対して懸念することについて、時間の都合上、二点だけ述べさせてください。
まず、立法事実がどこまであるのかが不明瞭であるということです。
世界の薬物政策の流れに反する形で今から大麻の使用罪を新設しようとするからには、裏付けられた立法事実が必要ではないでしょうか。若年者の検挙人員が増加しているのではないかということがよく議論されていますが、それについては、私の、お手元の資料にある拙稿で検討しているとおり、若年者を集中的に検挙しているのではないかという可能性が高いことや、薬物事犯者全体で見れば検挙人員は横ばいであり、より深刻な事件へとつながっているということは出ていません。むしろ、薬物政策として注目すべきは、検挙人員ではなく、その周辺の数字であろうと思います。
よく語られることとして、日本は諸外国に比べて生涯使用率が低く、薬物問題で困っている国をまねる必要はないというようなものがあります。果たして本当にそうでしょうか。私はその意見には懐疑的です。
まず、日本の生涯使用率の数字の出し方は、基本的に調査員による対面の聞き取り調査が主流になっています。諸外国では、一定の範囲の下水調査を行って、一定の範囲でどの程度の薬物が溶け込んでいるかということから推定値を出します。一方、聞き取り調査で行ったアンケートで、厳罰化がこのように求められる日本において一体どれだけの人が正確に使ったということを答えるでしょうか。
さらに、皆さんがよく御存じのとおり、日本の自殺者数は世界でもトップクラスにあり、精神病院の病床数も断トツで世界一位です。つまり、日本では、潜在的に生きづらさを抱え、薬物のニーズの高い人が多いことが容易に想像できます。現に、オーバードーズで搬送される人が多く、市販薬や処方箋の問題も注目されています。本当に日本は薬物の問題を抱えていないのでしょうか。
また、安易な使用は駄目だという意識付けのために、まず違法にして、その後医療につなげるのが大事だという意見もあります。再使用を罰則として利用せず回復支援につなげるというような、例えばドラッグコートの運用のようなものが日本でも許されるならば、その可能性はあるかもしれません。しかし、日本の刑事司法はそのような運用が実務的に現実に行われるでしょうか。
二〇二三年十一月十日に、すぐそこにある参議院会館で開催されたイベントがありました。人質司法に関するイベントです。全国から多くの人質司法サバイバーが集結されて、刑事司法に巻き込まれたことによる不利益が語られていました。その後に医療につなぐといっても、多くの大事な時間と物が私生活から奪われて、刑事司法が介入することで生きづらさを深めていく現状がありました。ましてや、昨今の過熱する報道からデジタルタトゥーが残されて、社会復帰が困難になる一方ではないでしょうか。
さらに、国連やランセットは、薬物の犯罪化は健康問題を悪化させ、依存症問題を深刻化させることを訴えています。つまり、問題使用を減らすために医療につなげたいという思いと事実が異なっているということです。
何度も繰り返しますが、ここにいる全員が薬物の問題使用を減らしたいという思いなのは一緒なのだから、科学的根拠によってより問題使用を減らすとされている方法を取るべきではないでしょうか。
もう一つの法案の懸念についてです。
本法案では、大麻取締法の中に使用罪を新設するのではなく、麻薬及び向精神薬取締法の麻薬というもののカテゴリーにTHCを含め、規制するというものです。医療的ニーズに応えるために、医療用麻薬としてここに含むことで医療目的として活用しやすく、嗜好的な使用についても罰則が付けられるという点からこちらに入れざるを得なかった、その方がメリットがあったというふうに説明をされます。これは一理あるかと思いました。
この麻薬という他の薬物と同じカテゴリーに入れてしまうことで、刑事司法実務で起きるであろう問題を心配しています。よく分からないものを薬物といったものでくくったり、麻薬と一くくりにすることになるからです。ほとんどの場合、多くの人が、何が覚醒剤で何がフェンタニルであるのか、それぞれにどのような薬理効果と問題があるのかを分けて理解する人は少ないと想像します。私自身も薬学や医学を専攻している者ではありませんので、それを詳しく説明し切ることはできません。
これが裁判になったときはどうなるでしょうか。法案によれば、THCは麻向法に言うオピオイドやフェンタニルなどと同じ麻薬というカテゴリーに入っていくことになります。大麻の弊害は少ないということを理解しないまま他のハードドラッグと同じ麻薬に入っていくので、裁判では重罰化されることが起きるのではないでしょうか。少なくとも、法曹三者がこれに詳しいとは思えません。現に、裁判ではどの薬物がどのように危険なのかを立証せずに、薬物が危険というのは周知の事実であるという一言で済ませていることが多いように思います。
最後に一言だけ。薬物問題は、目の前の違法薬物の使用が止まることだけがゴールではないです。使用が止まってもすぐに自殺してしまう人もいるからです。そのため、薬物政策を考える際には広く学際的に考える必要があります。仮に非犯罪化後に大麻使用が一時的に増えたように見える国も、市販薬や処方箋のオーバードーズが減っていたり、緊急搬送される人が減っていたり、薬物関連で亡くなるということが減っているということを見ることが大事です。
是非、厳罰化をして失敗をした諸外国と同じ道を歩むのではなく、医療や社会保障、公衆衛生、教育、いろんな問題として捉えていただければ幸いです。
以上です。御清聴ありがとうございました。