平澤明彦の発言 (農林水産委員会)

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○平澤参考人 おはようございます。平澤でございます。
 今日お話しさせていただきますのは、私からも、一人目と同様、食料供給困難事態対策法案のお話でありますけれども、簡単に、私の研究ですけれども、ここ十年か二十年ほど主に欧米の農業政策の研究をしておりまして、その一部でスイスの食料安全保障政策の紹介などもいたしております。それ以外ですと、世界の穀物自給率であるとか、あるいは日本の食料安全保障関係の政策のこれまでの展開であるとか、そういったようなことも研究しておりまして、そういったようなことから、食料安全保障アドバイザリーボードであるとか、あるいは、食料・農業・農村政策審議会の専門委員などもさせていただいております。
 今日は食料安全保障の話ですけれども、私からは主にお話が三つございまして、一つが今回の法案の大きな背景でございます。二つ目が今回の法制化にどんな期待をしているかということ。三つ目が、法案の範囲外でございますけれども、スイスなどでやっている不測時の予測システム、これもかなり重要ではないかということ。その三つのお話をさせていただきます。
 まず、背景についてですけれども、スライドの一を御覧ください。
 不測時対策の必要性と書いてございますけれども、日本にとって何が問題かといえば、やはり農地が足りないということであります。それでこれだけ食料安全保障が大きな問題になっているわけですね。
 そうしますと、農地が足りないというのは二つ影響がありまして、もちろん農地が足りないわけですから、物理的に輸入をしないとやっていけないということですね。今輸入している食料は日本の農地の二倍ほどございますので、本当に足りないということでございます。
 もう一つは、やや見落とされがちですけれども、実は、農地が少ない国というのは農業の競争力が非常に弱いという傾向が強いです。国際経済学では、一般的に、資源の豊富な産業ほど競争力が高いという傾向にございますので、農地が足りない国は農業の競争力が弱いということになるわけですね。そうしますと、やはり輸入に依存が高まっていくということで、農地が足りない、非常に日本にとって農地は貴重な資源でありますけれども、残念ながら元が取れないということで、それが耕作放棄になってしまっているという状況があるという、この二つが日本にとっては大変な問題になっているわけでございます。
 実際、日本は輸入が必要であるということで、第二次大戦以降の、戦中なり戦後なり、あるいは七三年の大豆禁輸といったときのことを思い返してみますと、いずれもやはり輸入が止まってしまう。でも、それだけではないんですね。そのときに国内生産も弱っている。その二つがそろうと大変な食料危機になるということであります。ですから、この二つを何とか確保する必要があるということですね。
 高度成長以降、日本はお金があって、たくさん輸入が幾らでもできて、アメリカは食料が余っているという状況が続いてきたわけですけれども、残念ながら、そういった情勢はもう変わってきているということでございまして、日本の経済的地位は低下して買い負けが増えて、一方で国内の生産基盤はどんどん脆弱化してきている。世界的にも、気候変動なり、国際情勢の悪化とか、いろいろな不確定要因がございますので、いろいろ心配事が増えているという状況でございます。
 そこへもってきて、やはり食料安全保障だということで、今般、いろいろ法律が、改正案なり法案が出ているということでございます。今、一番下の黒の四角のところに参りましたが、一番ですね、今、基本法の改正案が出ていますが、国内生産と輸入と備蓄をバランスよくやるんだということなんですが、国内生産、実はこれは農地が足りないんですよね。それから輸入も頑張るといっても、これは日本の主権が及びません。そして最後、備蓄ですけれども、やはり、これは短期的な対策にすぎず、しかも物資のみで、それをどう配るかというところまで入っていないわけですね。
 そうすると、やはり不測時にどうするかということは別途考えておかないといけないということでございまして、それが今回の法案であるというのが二でございます。
 実は、不測時、最悪の場合には国内で増産を図るということになります。あるいは、平時から国内生産をしっかりしていくということになりますと、やはり、日本では、非常に少ない資源である農地をきちんと確保するということが大事でありまして、そこが、今回、私の範囲外でありますけれども、もう一つの農地関連の法案、こちらの方で農地の確保を目的規定にするとかいったようなことが入っているというのは、そういった背景になっているということでございます。
 続きまして、二枚目でございます。
 一方、海外情勢、私がふだん研究していますヨーロッパでは何が起きているかということであります。それはここ十数年、大分様子が変わってきております。
 七〇年代、八〇年代は、ヨーロッパは食料が余っておりまして、アメリカとの間で輸出競争で問題になっているという状況でしたから、食料安全保障のことは余り考えていませんでした。冷戦が終わると、もう食料の心配はない、そういう考え方が主流だったわけです。ところが、二〇〇〇年代後半から世界的に需給が逼迫傾向に転じまして、値段の高い情勢がずっとそれ以来続いています。そうした中で、ヨーロッパでもやはり食料安全保障を考えておかないといけないというふうに変わってきて、政策の方針もそれに合わせて、ここ十年ほどで大きく変わってまいりました。
 そこへ、二〇二〇年以降、不測の事態が続いているわけですね。コロナがあり、異常気象が続き、ウクライナがありということであります。その結果、EUもかなり新しいところへ踏み込んできています。特に、パンデミックで実は食料の流通がかなりおかしくなったということがございました。日本と違って、EUは土地がたくさんありますので、食料もおおむね自給しているから大丈夫だろうということで、不測時の対策を持っていなかったんですね。
 それで何が起こったかというと、不測時にいろいろな役所が、いろいろな国が勝手に行動して、情報が共有できないということが生じまして、一部の国が勝手に国境を閉じたり、いろいろなことが生じたわけです。それではまずかろうということで、今、慌てて、ここ二年ほど頑張って不測時の食料安全保障の対策計画というのを作っているところで、今いろいろなリスクの棚卸しなどをやっているということでございます。やはり、たとえ自給していても、そういった対策は必要ということでございます。
 もう一つはスイスでございますけれども、スイスは輸入が多いですし、用心深い国ですので、以前から不測時対策はしっかりやっているんですが、最近、異常気象の影響が非常に大きいです。国際河川であるライン川、こちらは干ばつで水位が下がりまして、物が十分運べないということになってきて、肥料だの燃料だの餌だのの輸送が思うようにいかないというので、備蓄の放出も考えなければといったような事態も生じています。それ以外のいろいろな事態もありますので、スイスでは、不測事態に対応する人員を増強しまして、さらに、今後、食料備蓄を増やすかどうかといったようなことも検討を開始しているということでございます。こちらは必ずしも合意が得られていない状況でありますけれども、検討中ということですね。
 そして、この十年、二十年の間、そういった不測事態の政策というものがヨーロッパでも出てきているわけですけれども、以前とは様相が違ってきています。かつては、第二次大戦と冷戦を通じて、戦争が起きたらどうするという感じの法律だったんですね。今はそうではないわけです。というのは、今見てきましたように、パンデミックなり気候変動、あるいは、もう一つ心配されているのは原子力災害ですけれども、そういった非常に多彩なリスクが出てきていて、これらに対応していかなければいけないということでございますので、戦争に限らず、食料関係のリスク一般に関して対応していくというふうに変わってきているわけです。
 例えば、ヨーロッパでは、EUでは、今、リスクで一番心配されているのは気候変動であります。特に南欧など、極端な干ばつや洪水が続いている上に、今後、気候変動で更に状況が悪化していくと考えられているわけです。
 続きまして、三ページに参りまして、法案への私なりの期待をまとめてみました。
 一つは政府の対策本部、これは大変期待しております。
 どういうことかといいますと、今までの仕組みですと、農水省の管轄外の事態にはふだんはなかなか対応できないのですね。事が起これば、そちらの本部が立ち上がって、そこに協力という形になるのでしょうけれども、食料安全保障の本体の方で扱うということがなかなかできない。そうしますと、実際に非常にまずいと思われる震災であるとか原子力災害とか戦争といった事態に、積極的にやっていけるのかという心配を私は持っていたわけであります。これが、政府の対策本部もでき、平時から省庁横断的な準備も可能であるということになると、そういったリスクへの対処が非常にやりやすくなるのではないかということが一点でございます。
 もう一つが平時から準備ができるということで、これは渡辺参考人が言っておられましたので、そんなには申しませんけれども、やはり、平時からいろいろやっておくということは非常に重要でありまして、データも集まるしということですし、あるいは、そういった法律がありますよということであれば、平時から自発的に民間部門の方でも対応が進む可能性があるかなということが期待されます。
 次に、これも渡辺参考人とやや重複するのですけれども、やはり、マクロで、全体で供給を確保するというのは最重要なのですけれども、それで民間を駄目にしてしまうと駄目なわけですね。民間の事業は今非常に複雑にしていますので、市場経済の方でうまく回るところは回していただいて、それをいかに全体の供給の確保とバランスを取っていくかということをきちんとやらなければいけないわけです。
 これを、戦争中の統制経済のように、かつてのようにトップダウンでやってしまうと、やはり経済の息の根が止まってしまう可能性がありますので、そこをいかにうまくやるかということで、例えば、今回の法案ですと、事業者に自発的にまずは計画を作っていただいてというような形を取っていますけれども、例えば、そういった形で、やはり民間の力をきちんと生かしていくという仕組みを組み込んでいくのが重要であろうと思うわけです。
 最後になりますけれども、こういった法案審議自体が、やはり、こういった問題に対する社会の意識の醸成であるとか、あるいは社会的合意の形成であるとか、そういったことにつながっていくと思いますので、大いに期待しているところであります。
 次に、四ページでございまして、不測事態の予測システムということでございます。
 こちら、スイスは既にそういう種のものを持っているのですけれども、実は、これはそう簡単な問題ではございませんで、ふだん農業で物を作っている、ふだん輸入しているのとは違うことをして、しかも、いろいろなものを組み合わせてどうやって供給していくか。これを、農水省の演習ですといろいろな部署の人が数十人集まって相談するんですけれども、当然ながら、大勢集まると結論はなかなか出ません。ただ、実際に事があれば、最適な答えを迅速に出して、事態が刻々と変われば対応していかなければいけないということです。今日的には、やはりこれはコンピューターの力をかりた方がいいのではないかと率直にそう思うわけであります。
 例えば、スイスの例からすると、まず、一人当たりの熱量なり栄養の供給はどうなるのか、それがちゃんと出てこないと、そもそも今回の法案で出ているような供給の確保とか政策の発動にもつながらないわけです。
 さらに、それをどうやって供給していくのかというと、これは非常に複雑でありまして、備蓄を取り崩して、輸入を増やして、代替品目を作って、国内で何をどれだけ増産して、そうすると自然と減る品目も出てきます。あるいは、本当にいざとなったら飼料米を人間が食べてしまうとか、餌がなくなったら家畜を早期に屠畜する。これで肉が出てくるとか、あるいは肥料が足りないかもしれないとか、こういったようなものをいろいろ入れて、じゃ、今月はどうなって、半年後どうなって、一年後どうなるんだということを考えていかないといけないということでございます。
 是非こういったものをきちんと、まずは予測システムがあって、それを基に人間が判断していけるということになればいいのではないかということですし、平時からこういうものがあればいろいろなシナリオ分析もできるということになると思います。
 ただ、恐らく非常に大変な作業であろうと思いますし、スイスでは非常に長い、少なくともここ二、三十年はずっと開発を続けているという状態だと思いますので、早めに始めるということと、息長くやっていけるようなノウハウを蓄積できる研究者の手当て、この辺が非常に重要ではないかと思うわけであります。
 最後のスライドであります。こちらは御参考ですけれども、関連する施策ということで、元々農水省は食料自給力指標というのを作っております。国内生産で最大限供給可能なカロリーは一人当たり何カロリーですかということですけれども、不測時の予測モデルというのは、これとちょっと考え方が近いわけですね。ただ、自給力指標というのは、シナリオが二通りか三通りあって、その結果の数字だけなわけですけれども、予測モデルは、これをもっといろいろな要素を膨らませて、なおかつ臨機応変に変えながらいろいろなシミュレーションが、できれば短時間でできるということですので、非常に機動性が増す、いろいろな可能性が考えられるということになると思います。
 それともう一つは、実は、前回の大きな食料危機であった一九七三年のとき、これを契機にして、農水省ではかなり先進的な世界食料需給モデルを作りました。今回はそれとは違って、不測時の予測モデルということで、下に表がありますけれども、性格がかなり違っているんですね。二つを対比すると分かりやすいのですけれども、世界のモデルですから、当然、世界で長期的な趨勢を見て、しかも、これは国際市場で価格で均衡していくという考え方ですが、今回のモデルは国内で短期で突発的なものを扱う、そして、今回は場合によったら市場が機能しない、価格がつかないような事態も対象にしてやっていかなければいけないということですね。なので、かなり特殊な仕組みが必要になるということだと思います。
 ただ、いずれにせよ、独自のシナリオ分析が可能になるということで、こういうものが実現すれば大いに助けになるのではないかと思う次第であります。積極的な御検討をお願いできればと思います。
 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 平澤明彦

speaker_id: 34900

日付: 2024-05-09

院: 衆議院

会議名: 農林水産委員会