水島郁子の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(水島郁子君) 大阪大学の水島でございます。本日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。
 私は労働法及び社会保障法を専門としておりますので、法学者の立場から雇用保険法等の一部を改正する法律案について意見を述べさせていただきます。
 改正案は、雇用保険の適用拡大、教育訓練やリスキリング支援の充実、育児休業給付の給付増を支えるための安定的な財政運営の確保等を行うことを内容とします。本日は、雇用保険の適用拡大の点を中心に意見を申し上げます。
 雇用保険の被保険者は、雇用保険法四条一項に、雇用保険の適用事業に雇用される労働者で、適用除外に該当しない者と定められています。六条に適用除外の規定があり、一週間の所定労働時間が二十時間未満の者、同一の事業主に継続して三十一日以上雇用されることが見込まれない者、季節的に雇用される者で四月以内の期間を定めて雇用される者又は一週間の所定労働時間が二十時間以上三十時間未満である者、昼間学生、国や地方公共団体に雇用される者等が規定されています。失業のリスクや失業による生活困難のリスクが相対的に低い者が適用除外されていると解されます。
 現在、適用除外される者のうち、短時間労働者に着目して、以下申し上げます。
 雇用保険は、自らの労働により賃金を得て生計を立てている労働者が失業した場合の生活の安定を図る制度であるとの考えの下、雇用保険制度が発足した昭和五十年当時、雇用保険の被保険者となる者は、所定労働時間が通常の労働者のおおむね四分の三以上かつ週二十二時間以上、年収五十二万以上、雇用期間につき反復継続して就労する者でした。すなわち、雇用保険が適用される短時間労働者は、正社員と就業実態が比較的近い者に限定されました。
 サービス経済化の進展とともに短時間労働者の労働力の重要性が増し、就業形態の多様化を踏まえ、平成期に入ると、短時間労働者への適用拡大が進みます。まず、所定労働時間を四分の三以上とする要件がなくなり、その後、年収要件が廃止され、雇用期間については、数次の改正により三十一日以上の雇用が見込まれる者になりました。
 このように、短時間労働者への雇用保険適用は拡大傾向にあります。もっとも、一週間の所定労働時間の適用下限を週法定労働時間の二分の一とする取扱いは、雇用保険制度発足当初から維持されています。そこで、週法定労働時間の二分の一に達しない働き方をする者は、失業のリスクや失業による生活困難のリスクが低く、保障の対象とする必要がないのかが問題となります。
 さて、雇用保険の適用に当たっては、保険とは、同種類の偶発的な事故にさらされている人々がこの危険の分散を図るために集団を構成するものとの立場を取り、雇用保険が自らの労働により賃金を得て生計を立てている労働者が失業した場合の生活の安定等を図る制度であることから、生計維持者を同種類の危険にさらされている人々とし、週の法定労働時間が四十時間であること等を考慮し、週所定労働時間二十時間を適用の下限とするとされています。この説明には一定の合理性と説得力がありますが、一週間の所定労働時間が二十時間未満の者を雇用保険の適用から排除する決定的な理由となるかは疑問です。
 雇用保険は保険原理を活用していますから、同種類の危険にある者を対象とすべきことはそのとおりです。雇用保険が労働者を対象とし、非労働者、労働者でない者を対象としないことは、まさに同種類の危険にさらされている状況にないからです。
 それでは、労働者の中で、失業について同種類の危険にある者とそうではない者を区別できるのでしょうか。
 これまで、生計維持思想に基づく判断が行われてきました。生計維持者であるか否かを基準とし、その具体的な判断基準が週法定労働時間の二分の一、すなわち週所定労働時間二十時間でした。
 確かに、雇用保険制度が発足した頃は、正社員たる男性が世帯の唯一の生計維持者である男性片働き世帯が労働者世帯の大多数でした。主婦パートという言葉に象徴されるように、世帯における妻、母である女性の就労は、主婦を本業としつつ家計補助的にパート就労するのが一般的だったと言えましょう。このような世帯の状況、働き方の実態を前提とすれば、雇用保険の適用対象者を生計維持者に限ることは妥当ですし、合理的でした。
 しかし、共働き世帯は増加しています。また、ワーキングプアに象徴されるように、一人の収入では生計を維持できない世帯も見られます。世帯の生計維持者は必ずしも一人ではありません。働き方の選択や、病気や障害、高齢、育児や介護の責任といった諸事情により、生計維持者の立場にある方があえて週所定労働時間を短くして働くケースも考えられます。また、専門能力を活用して短時間で高収入を得る方もいらっしゃいますし、パートタイム・有期雇用労働法の改正等により短時間労働者の処遇が改善されていることも考えますと、短時間労働者が低所得者であり生計維持者に当たらないとは単純に言えないと考えます。
 このように考えると、一週間の所定労働時間が二十時間未満であることをもって生計維持者に当たらないとして失業のリスクが低いとすることは、もはや適切でないと考えます。私は、労働者の週所定労働時間が二十時間未満であっても世帯の生計維持に貢献している者が多くいるはずであり、それゆえ、これらの労働者も失業という同種類の危険にさらされていると考えます。
 さて、雇用保険は社会保険ですので、厳格な保険原理は必ずしも求められないと考えます。また、一例を挙げますと、雇用保険の主たる保険事故である失業は、その時々のマクロ経済情勢の影響を受け、好況時、不況時といった一定の時間経過の中でリスクを分散しているとも言えますが、このような不況時における失業リスクは、同時に多くの者にリスクが生じるという点で、保険原理で述べられる偶発的な事故とは少々意味合いが異なるように思われます。したがって、雇用保険が保険原理を活用していることを理由に同種類の危険にさらされている集団の同質性を強く求め、週法定労働時間の二分の一以上という基準に固執する必要性はそれほどないと考えます。
 私は、一週間の所定労働時間が二十時間未満の者も世帯の生計維持に貢献する者であり、労働者として同種類の危険にさらされていると捉えるべきと考えます。一週間の所定労働時間が二十時間未満の者を雇用保険の被保険者から除外する決定的な理由はもはやないと考えます。私見の立場からは、週の所定労働時間が十時間以上二十時間未満の労働者に適用拡大する法改正は、短時間労働者の生計との関わりを適切に評価し、雇用のセーフティーネットを拡大する点で評価します。
 現行制度の下では、複数の事業所で雇用される労働者は、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。週所定労働時間が二十時間以上の雇用関係がなければ、例えば一の事業所で十六時間、別の事業所で十二時間働く兼業労働者は、現在、雇用保険の被保険者とはなれません。法改正により、このような働き方をする兼業労働者も雇用保険の被保険者となります。法改正による適用拡大をこの観点からも私は評価し、支持いたします。
 次に、教育訓練やリスキリング支援の充実に係る法改正について意見を述べます。
 教育訓練給付は、労働者が離職することなく教育訓練を受講することに資するものです。もちろん、教育訓練に専念するために離職するケースもあります。労働者が自分の働き方やキャリアを見詰め直し、キャリアアップを自発的に行うことは、失業の回避や労働力の有効活用といった点で雇用保険制度にとってもメリットがあると考えます。
 法学者の立場から申し上げますと、教育訓練給付は保険制度の中でやや異質です。というのは、教育訓練給付は、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合を保険事故とする、つまり、保険事故を自らつくり出した場合に給付を行うもので、これは社会保険の本来の考え方になじまないと言えます。
 このような保険事故を設けた背景には、主体的に教育訓練を受講しようとする労働者を直接支援するには保険給付の形式が適切であるとの判断があり、その帰結として自ら職業に関する教育訓練を受けた場合を保険事故とせざるを得なかったと考えます。このことは理解しますし、政策的な観点からは適切であったと私も思いますが、教育訓練給付の保険事故が自ら積極的につくり出すものであることは、一般的な意味での保険事故としては異質であると言わざるを得ません。
 また、社会保険は、被保険者全体で生活危険に備え、貧困に陥らないよう予防するものであり、セーフティーネットの機能がありますが、教育訓練給付の対象となる多様な訓練の中には、高収入を得るためのキャリアアップにつながるものもあるように思われます。それは、セーフティーネットの機能に直接関係するとは思われません。この意味でも異質と考えます。
 さて、雇用保険法のコンメンタールによれば、教育訓練給付は、労働者の雇用の安定及び就職の促進を図る上で労働者自らが主体的に職業能力開発に取り組むことが重要となる中で、その際の費用負担が広く労働者共通の問題、リスクとなっていることを踏まえ、必要な給付を行うものとされます。
 つまり、教育訓練給付のリスクは費用の負担にあり、そのように考えると、キャリアアップを目指すのか転職目的なのかにかかわらずリスクが生じるとも考えられます。キャリアアップにより失業の危険がほぼなくなり、高賃金が得られれば職業の安定が図られますが、これは雇用保険の目的に合致します。したがって、教育訓練給付を雇用保険で行うことは正当であり、保険事故としての異質ゆえに否定されるものでないと考えます。
 前置きが長くなりましたが、今回の法改正では、自己都合で退職した者が教育訓練を自ら受ける場合は、自己都合による給付制限をせず基本手当を受給できるようにすること、インセンティブ強化のため、教育訓練給付金の給付率を受講費用の最大八〇%に引き上げること、そして、在職中に教育訓練のための休暇を取得した場合に、訓練期間中の生活を支えるため新たな給付金を創設することです。
 この給付金について意見を申し上げます。
 労働者の主体的な能力開発をより一層推進するためには、労働者が生活費の不安なく教育訓練に専念できることが重要です。新たな給付金は、労働者が自発的に教育訓練に専念するために仕事から離れる場合で、離職せず教育訓練を受けるための休暇を取得した場合に、訓練受講を支援するため、基本手当に相当する給付を教育訓練休暇給付金として支給しようというものです。
 教育訓練休暇給付金は、離職することなく、すなわち労働者の身分を保持したまま教育訓練に専念でき、基本手当に相当するものですので、一定期間に限られるものでありますけれども、訓練期間中の生活支援も受けられるものであり、教育訓練に専念したい被保険者にとって理想的です。
 なぜなら、教育訓練により現在の職場における処遇改善を期待することができますし、転職活動にも資するからです。仮に受講の成果が十分なものでなくても、現在の職場に残れる、すなわち仕事を失わないというメリットもあります。雇用保険制度としましても、被保険者が失業せずにキャリアアップして失業の心配がない状況をつくり出すことにはメリットがありますので、そのような被保険者に前倒して基本手当相当分を支給することは合理的、合目的的であると考えます。
 最後に、育児休業給付を支える財政基盤の強化について一言申し上げます。
 育児休業給付の国庫負担割合は、本則八分の一のところ、暫定措置として八十分の一とされていることにはかねてから疑問を持っておりました。法改正により国庫負担割合が本則に戻ることは大変喜ばしく思います。男性の育児休業取得者が増加するだけでなく、男性の育児休業期間が長くなることが大いに期待されるところでありまして、それに対応するために、育児休業給付を支える財政基盤を強化することが必要です。本則料率を引き上げ、本則に戻す改正を私は強く支持いたします。
 以上をもちまして、私の発言を終了します。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 水島郁子

speaker_id: 9290

日付: 2024-05-07

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会