房安強の発言 (厚生労働委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(房安強君) 日本弁護士連合会の房安と申します。本日はこのような機会をいただき、誠にありがとうございます。
日弁連は昨年二月に雇用保険の抜本的拡充を求める意見書を採択しました。本日は、この日弁連意見書の視点から意見を述べます。
まず、基本的な視座を述べます。
憲法二十七条一項の勤労の権利は、生存権を基本理念とし、労働によって生計を立てる権利です。具体的には、労働者は国に対して労働の機会の提供を要求し、それが不可能なときは相当の生活費を請求する権利であると解釈されています。
失業時の生活保障が不十分ですと、労働者は経済的な必要に迫られ、労働条件の悪い就労先に就職せざるを得なくなり、労働市場における労働条件全般の低下につながります。失業時の生活保障は、労働者が自身の能力、経験に見合ったやりがいのある仕事、ディーセントワークに就く機会を拡大させ、憲法二十二条一項の職業選択の自由を実効化するものです。
そして、これら勤労の権利や職業選択の自由の根本には、自らの生き方や人格を自らの価値観の下に形成していくという個人の尊重や幸福追求権、すなわち憲法の核心的価値が存在します。
失業は、社会経済政策、景気変動や労使のマッチング等によって必然的に生じます。つまり、失業は、社会全体の構造からすると、個人にとっては基本的に不可避です。これが、国の財政や労使負担に基づく社会保険制度、社会的連帯の必要性の根拠となります。
ここでいう労使のマッチングには、今の職場の労働条件や就業環境が悪い、自分の適性に合わないなどの理由で、より良い職場、ディーセントワークを求めて転職することも含むべきと考えます。安易な離職は望ましくないとしても、各人がより良い生活や生き方を求めて離職すること、労働条件や就業環境が悪い企業から逃げるように退職することは尊重されなければなりません。このような離職者への給付を著しく限定する現行制度は、職業選択の自由などの人権尊重や社会構造上の失業の必然性の見地から再検討されるべきと考えます。
さて、日弁連意見書の問題意識の出発点は、失業手当の受給者割合が極めて低いことです。失業手当の受給者割合は、一九八四年まで五〇%を超えていましたが、制度改正の積み重ねにより大きく低下し、二〇二二年度は二二・八%となっています。
改正法案の大きな目玉は、雇用保険の適用対象が週の所定労働時間十から二十時間の労働者に拡大されることです。従前、雇用保険の適用対象外のため失業手当を受給できなかった労働者が受給できるようになれば受給者割合は改善するはずです。パート・アルバイト労働者へのセーフティーネット拡大は、日弁連意見書の見地からも肯定的に評価できます。
しかし、改正法案においても昼間学生の適用除外はそのまま残されています。日弁連意見書では、アルバイト等で生活を維持している学生等が増加しているにもかかわらず学生が適用除外となっていると指摘しています。
学生は学業が本分であり、労働によって生計を立てる労働者たるべきではないというのは原則です。そうであるならば、本来、高等教育無償化や給付型奨学金の抜本的拡充により、学生が授業料や生活費に困らない体制を整えるべきではないでしょうか。労働によって生計を立てている学生が多数存在する実態を前提とすれば、昼間学生のみ雇用保険の適用を除外し続け、仕事先を失って生活に窮しても失業給付を受けられないのは不当な扱いではないでしょうか。この不当性は、労働時間週十時間以上の労働者に適用拡大された後こそ、より顕在化すると考えます。
それでは、この度の適用拡大により、受給者割合は本当に改善するのでしょうか。
ここで参考となるのが、過去の適用拡大の歴史です。一九七五年の雇用保険法の制定以来、非正規雇用の増加を背景に、いわゆる非正規労働者は漸進的に適用対象に包摂されてきました。具体的には、二〇〇九年三月、二〇一〇年四月の改正により、有期雇用労働者の多くは一般被保険者となりました。
被保険者が増えたならば、受給者も増えて受給者割合は改善するはずです。しかし、非正規労働者への適用が拡大しても受給者割合は低いままでした。被保険者となっても、失業時に受給できなければ保険料を取られるだけ損となり、労働者の福祉向上にはつながりません。
受給者割合が低い主な原因は、受給資格要件の厳格性、所定給付日数の短さ、正当な理由のない自己都合退職の場合の二か月間の給付制限の三つだと考えられます。いずれも、特定受給資格者、特定理由離職者は例外的に大きく優遇されています。これらの改善がない限り、適用拡大は労働者の福祉向上にはつながらないと思われます。
改正法案は、給付制限を一か月に短縮する運用改善を予定しており、これにより、受給者割合につき一定の改善効果が望めます。しかし、その他の点では現行制度を維持したままであり、受給者割合の上昇につながるか不安が残ります。
ここで、特定受給資格者、特定理由離職者の区別には以下の問題点があります。
まず、区別の限界の曖昧性です。退職勧奨や故意の排斥、著しい冷遇は、そもそも認定基準や限界が十分に明らかでなく、職場の人間関係が嫌になったという自己都合退職との限界は曖昧です。
次に、多く存在する不本意な退職が正当な理由のない自己都合退職に分類される点です。厚生労働省の調査からも、労働条件や就業環境が悪い、職場環境が悪いことからやむを得ず離職に踏み切る労働者はそれなりの割合を占めています。体調不良や出産、育児、介護等が正当な理由になるのに対し、劣悪な職場から離職するのが正当な理由にならないとの区別に正当性があるのか疑問です。
更に大きいのは、証明、証拠の問題です。退職勧奨や故意の排斥、著しい冷遇を事業者が認めることはまれで、特に労使の主張が対立した場合は、証拠資料がなければ特定受給資格者として認められません。録音等の証拠資料を離職前に用意できる労働者は少数です。
以上の問題点がありますので、特定受給資格者以外の労働者の失業時の生活保障について、モラルハザードの懸念があるといってそこまで著しく低水準とする合理性が十分にあるのか疑問です。
受給資格要件に少し焦点を当てます。
改正法案が適用拡大対象とする労働時間週十から二十時間の労働者は、離職までの雇用期間が短い労働者の割合が多いと見られ、失業時に受給資格を満たさない者が多くなると想定されます。受給に必要な被保険者期間十二か月は失業保険の適用条件である三十一日以上の雇用期間よりもかなり長いですので、離職しても失業手当が支給されない者は必然的に多くなります。日弁連意見書の意見の趣旨一、二〇〇七年改正前と同じく一律に離職日前一年間に被保険者期間が通算して六か月以上あれば受給資格を認めるべきは、改正法案が適用拡大対象とする労働者にこそ特に当てはまります。
所定給付日数に少し焦点を当てます。
データによりますと、失業者のうち失業期間が六か月以上の者は四割余りを占めます。他方で、失業者のうち失業手当の受給者割合は二割余りで、さらに、その三分の二の受給者実人員の所定給付日数は百五十日以下です。実際の失業期間と比較しても、失業手当の所定給付日数は短いと言えます。また、特定受給資格者の事実認定の問題、区別の不合理性、曖昧性の問題はさきに述べたとおりです。
改正法案は、所定給付日数につき現行制度の維持を前提としますが、適用拡大の対象となる労働時間週十から二十時間の労働者は所定給付日数が九十日となる者の割合が多くなると見込まれ、これは、適用拡大にもかかわらず受給者割合が上がらない要因となり得ます。よって、日弁連意見書、意見の趣旨二、基本手当の所定給付日数を大幅に引き上げ基本的に百八十日以上とすべきは、改正法案による適用拡大後にこそより強く当てはまります。
給付制限について述べます。
データによると、自己都合退職による二か月や三か月の給付制限を受けた者は、初回受給者の約三分の二を占めます。二か月の給付制限を課されると、待機の七日間や手続に要する時間を合わせて、離職から約三か月間無収入となります。すると、失業時に三か月間の生活費に相当する貯蓄がなければ、失業手当の受給以前に生活に窮し、労働条件が悪くても直ちに再就職する必要に迫られることになります。貯蓄がない世帯が全世帯の二割から三割を占める中で、失業手当の受給のためには受給開始までの貯蓄が必要という逆説的な状況は不合理です。
この度、自己都合退職による給付制限の一か月への短縮が行政通達の変更により予定されています。これは、給付制限の期間は一か月に短縮すべきとする日弁連意見書、意見の趣旨四が実現するものとして、とても高く評価できます。しかし、通達変更後も、離職から受給開始まで二か月間が必要となります。貯蓄のない世帯の問題、職業選択自由の実効化、特定受給資格者の区別の問題点などからすると、自己都合退職の給付制限期間の更なる縮小や撤廃も今後は検討対象とされるべきと考えます。
兼業・副業労働者について簡単に述べます。
現行の高年齢被保険者の特例では、いずれの就業先も労働時間が週二十時間未満で、二つの就業先を合計して二十時間以上となる場合に適用対象となります。しかし、改正法案では、ここの二十時間が単純に十時間と変更されますので、現行法では十五時間の就業先が二つある場合に特例により合算できたところ、改正後はこの合算ができなくなります。改正法案は合算制度を縮小するものであり、兼業・副業労働者への適用拡大の動きに反します。少なくとも、この点は、複数の就業先の全部ないし一部が労働時間週十時間以上であっても合算制度の対象とするなどの法改正が必要と考えます。
一般被保険者についても、単純に高年齢被保険者の特例と同様の制度を導入するのではなく、複数の就業先の全部ないし一部が労働時間が週十時間以上であっても合算制度の対象とする制度の導入を今後検討いただきたいと考えます。
最後に、国庫負担について簡単に述べます。
求職者給付の国庫負担割合は、以前は四分の一が本則でしたが、二〇二二年改正により、雇用保険財政の悪化時以外は四十分の一とされました。つまり、国庫負担は基本的に財政平常時の給付に充てられる財源ではなくなりました。雇用政策に係る国の責任は、雇用保険の財政平常時においても果たされなければなりません。国庫負担割合を四分の一に戻すべきです。
その視点でこの度の改正法案を見ますと、育児休業給付に係る国庫負担割合を本則の八分の一に戻すことは評価できます。しかし、介護休業給付については八十分の一とする暫定措置を令和八年度まで継続することとなっており、この点、大いに問題があります。厚生労働省は、これに関して、介護休業給付の規模が七十七億円余りにすぎないと述べておりますが、問われているのは、仕事と介護の両立支援に関する国の本気度です。規模が小さいならなおさら、本則の八分の一に戻し、国としての姿勢を示すべきです。
私の意見は以上です。