黒江哲郎の発言 (安全保障委員会)

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○黒江参考人 黒江でございます。
 まず、衆議院の安全保障委員会という大変大事な委員会の場で意見を述べさせていただく機会を頂戴しましたことを心から御礼申し上げます。ありがとうございます。
 早速でございますが、私からは三点、我が国が抱えております将来課題ということでお話しさしあげたいと思います。
 一つは、トランプ二・〇への対応。二つ目は、核問題への対応。最後は、これは国内問題でございますが、人口減少社会に対応しながら自衛隊としてどのように人的資源を確保するかという三点でございます。
 駆け足で恐縮でございますが、早速、トランプ二・〇に対してどう対応するのかということでございます。
 今、もう既にモチヅキ先生からも詳細なお話がございましたけれども、トランプ政権の百二十五日の間になされました相互関税、あるいは、ウクライナ戦争の調停を起因としました米欧関係の破壊といいますか、あるいは国際枠組みからの米国の離脱といったことで、国際秩序の混乱を招いている。
 これについては、先生がまさに御指摘されたように、これまで戦後の自由主義、民主主義を基調とする国際秩序を米国がリードしてきたわけですが、そのリーダーシップというものを自ら放棄しているというところの懸念でございます。これが最終的にはといいますか、国際安全保障の面では同盟あるいは国際協調の機運が後退する、あるいは、国際経済の面では保護主義が台頭する、そういう懸念が生じているということであります。
 他方、これがダイレクトに北東アジア地域にどのように影響を与えるかといいますと、恐らく米中対立というのが現在のトランプ政権といいますか、トランプさんの頭の中の大半を占めておることであろうと考えられますので、米国として中国を最大の戦略的競争相手と位置づけている限りは、アメリカと亀裂が入ってしまったヨーロッパ地域とはかなり様相が異なるんだろうというふうに考えております。
 これが日米同盟にどのように反映されるのか、あるいは日米同盟をどうやっていくのかということでございますけれども、これも、既にモチヅキ先生からも御指摘がありました、あるいはメアさんからもお話がございましたけれども、現在、特に日米間では、もちろん難しい関税交渉は行われておるわけでございますけれども、首脳間でも閣僚間でもこの百二十五日の間では基本的に良好な対話が行われている。これは非常にいい材料だろうと思います。
 特に日本の防衛ということを考えたときに、北東アジア地域で中国、ロシア、北朝鮮という核を持った権威主義国家に隣接しているという地政学的な位置からすると、我が国の防衛にとって、米国との同盟関係は必要不可欠でございます。これは、特に核のことを考えればすぐに分かることだと思います。自衛隊と米軍との間の指揮統制枠組みの向上でありますとか、あるいは日米の防衛産業協力を更に進める、こういうことで日米共同対処体制の充実強化を図っていく。
 なおかつ、これもメアさんから指摘がございました。近年、我が国は、同盟の中において我が国側のより大きな責任の分担ということを図ってきたわけでございます。これを着実に続けていくことが必要かなと思います。もちろん、こういったことをやることは、何も中国と戦うということではなくて、中国と我々が事を構えずに済むようにする。
 これは現在の吉田統合幕僚長が常々言っておることでありますが、自衛隊の任務について、自衛隊が刀を抜くとき、武力を使うときというのは任務の半分は失敗しているんだと。自衛隊は、刀を抜かないで済むように、日々刀を研いでいるんだということを常々いろいろな場で申しております。これはまさに抑止力の本質だと思います。
 我々は、自衛隊の能力を強化し、あるいは日米同盟の信頼性を向上することで、この地域の安定を図る、武力衝突がないようにこれを抑止する、そういう目的でこういう政策を進めていくべきであると考えております。
 駆け足で済みません。二点目、核の脅威の増大でございます。
 現在の状況を見ますと、核の拡散は進んでいる。これは北朝鮮を見れば明らかです。あるいは、イランの懸念というのもございます。中国は着実に核軍拡を進めております。他方で、軍備管理・軍縮交渉は、米ロ間の交渉が停滞しておるように、ほとんど進んでいない。そればかりか、ウクライナ戦争ではロシアが核を使用するという威嚇を大っぴらにしておる。さらに、北朝鮮は、戦場で使いやすい戦術核を増産する、そういうことをやっている。
 そういう中で、昨年、被団協が、大変喜ばしいことですが、ノーベル平和賞を受賞した。このこと自体は、被爆の実相を伝える活動が世界的に評価されたということで、大変すばらしいことだと私は思います。
 ただ、ノルウェーのノーベル平和賞の委員会が、なぜこれは受賞したのか、そういう理由を説明した文書がございますけれども、その中で彼らが述べておりますのは、核使用のタブーが失われつつある、こういう危険な時期だからこそ平和賞を被団協に差し上げることが大事なんだ。ある意味、危機感の裏返しが今回の被団協の受賞だったというふうなことを言っております。
 これに対して、我が国の核政策は、非核三原則の堅持、米国の拡大抑止、核の傘ですね、これに期待する、それから軍備管理・軍縮を進めるという三本柱になっております。これについては、一九七〇年にNPTに署名して、その頃からの核政策と全く変わっておりません。これは、ヨーロッパ地域ほどの危機感、東側の非常に大きな通常戦力に直面していた西ドイツが積極的に米国の核を西ドイツの中に持ち込もうとした、そういう交渉を彼らはしたわけですけれども、そういう事態とは全く違っていたわけです。
 今、実際に日本の核政策はどうなっているかというと、核の傘についてはアメリカが宣言している。有事になったら日本に核の傘を差しかけますよと宣言している。これを日本側として信じている。他方、同じような非核保有国である韓国は、最近の核の危機的状況を受けまして、米韓間で急速に核協議を進展させておるわけでございます。これと比べただけでも、日本の核政策の不在とまでは言いませんけれども、非常に低調な状況というのが分かると思います。
 これに対しまして、政府も、二〇二二年の国家安全保障戦略に従いまして、拡大抑止協議を充実させるということで、昨年、まさに木原先生が大臣として行かれました、拡大抑止協議の閣僚レベルでの実施というところまでこぎ着けた。さらには、ガイドラインの策定といったことで拡大抑止の実効性向上の政策を徐々に進展させている。ただ、これで本当に十分なのかという議論はあり得ると思います。
 また、核軍縮に向けて、外務省さんを中心に、NPT体制の堅持、あるいは核兵器材料の規制、あるいは核実験の包括的禁止といった様々な総合的な政策を進めておりまして、これは大変すばらしいものだと私は思いますけれども、こういう政府の努力がなかなか脚光を浴びていない。
 この原因は、(3)のところにありますけれども、我が国においては、核抑止論と核廃絶、核軍縮の議論が水と油の関係で全く交わらない。抑止論者は、核廃絶であるとか核軍縮というのは理想的かもしれないけれども現実的ではないという形で、ある意味、言葉は過ぎますけれども、冷笑的な目で見ている。他方、核廃絶論者は、核兵器の非人道性を強調し過ぎる余り、核抑止という言葉を聞いただけでこれを忌避するような傾向がある。
 こうした対立は私は大変不健全なものだと思っております。これだけ核の脅威が高まっているのに国内的に議論が盛り上がらないこと自体が私は問題だと思います。
 そういう意味で、この二つの議論の対立を克服することが一つの課題だろう。議論のきっかけとして、これまで核については非核三原則しかなかったわけですが、こういったことを機に我が国の核政策の基本指針を改めてまとめることが必要ではないかと思います。
 ところが、あくまでも究極の目標は核の廃絶である。これを明示した上で、他方、現存している核兵器を使わせないためにどうしたらいいのか。そのために二つのやり方があるでしょう。一つは核抑止であり、もう一つは核軍縮を進めることである。この二つのやり方は、やり方は違いますけれども、二つとも現存する核を使わせないための方策である。そういうことを政府としても国民的な合意の上できちんと位置づける。
 その中で、既に二〇一〇年に岡田外務大臣が指摘しましたけれども、非核三原則の第三原則はそもそも問題をはらんでおるわけです。ここについて深掘りして、第三原則をどうするのかということを核政策の基本指針の中で明らかにしていく。そういう努力が必要ではないかと思います。
 最後に、人口減少社会への対応ということでございます。
 これも各先生は御案内のことだと思いますけれども、二〇二三年の自衛官の採用は目標の半数にとどまりました。これに対応して、ここ二年ほど、自衛官の処遇改善に防衛省あるいは政府挙げて取り組んでいる。これは私が現役の頃にはとても考えられなかったような進展でございまして、すばらしい努力だなと思っております。
 他方、もちろん処遇改善の進展は歓迎すべきことですが、これだけで人的基盤の強化につながるのか、解決できるのかというと、なかなか難しい面がある。
 それで、これから必要なことは、自衛隊を支える社会基盤を強化すること、自衛隊自身の組織を変革すること、さらに、官民協力を進めること、この三点だと思います。
 ここに社会基盤の強化ということは様々書きましたけれども、要は、例えば自衛隊法には、自衛官は職務上の危険を回避してはならないという規定があります。これは言葉を換えると、当然、国民の代表である国会で決まった法律がそう言っているということは、国民が自衛官に対して、命を惜しんではならない、そういう義務を課しているということでございます。
 こういうことをたくさんの人が認識しているのか。そういうまさに等身大の姿を国民の間できちんと認識を共有していただく必要があるだろう。そのために教育であるとか広報が大事だと考えております。その上での処遇の改善、それに見合った代償措置を自衛官に対して行うことが必要だろうと思います。
 自衛隊の組織の改革というのは、人が少ない中で戦わないといけないわけですから、自衛隊員、自衛官にしかできないことをやる組織にしていく。もっとはっきり言うと、戦闘機能に特化した組織にしないといけない。なおかつ、これには無人装備であるとかAIを活用して人手を減らすということを組み合わせる。
 それと同時に、現在の、自衛隊の中で採用して教育して育てていく、そういう一貫した人育ての考え方を修正したらどうか。外部の有為な人材をどんどん登用できるような柔軟な人事制度が必要だろうと思います。
 あわせて、予備自衛官制度を更に見直して戦力化していく。これは、毎年ごとの訓練の中身を充実させること、あるいは予備自衛官への手当を充実させること、あるいは企業への補償ということが含まれると思います。
 最後の官民協力につきましては、これは単純に言いますと、社会全体が人手不足なのに、日本社会が直面している課題はどんどん難しくなり、増大しておるわけです。だとすると、解決するために関係者が協力するしかないわけです。
 災害時に自助、共助、公助といった形が非常に大事だと言われておりますけれども、武力攻撃事態も全く同じだと思います。平素から民にできることはアウトソーシングを進める。さらに、有事の作戦所要にも民間企業の協力を得る。そのために、企業のリスクに対応するような制度を設ける。そういったことがこれから必要だろうと思います。
 駆け足になって大変失礼いたしました。以上でございます。(拍手)

発言情報

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発言者: 黒江哲郎

speaker_id: 32516

日付: 2025-05-30

院: 衆議院

会議名: 安全保障委員会