原昌登の発言 (厚生労働委員会)
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○原参考人 おはようございます。東京の吉祥寺にある成蹊大学で労働法を担当している原昌登と申します。
今日は、こうした機会をいただき、誠にありがとうございます。
私は、労働法の中でも、ハラスメントの法律問題を中心に研究しております。論文を執筆するほか、実務との関わりでは、厚生労働省の職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会や、東京都のカスタマー・ハラスメント防止条例に関する会議体などに委員として参加してきました。そこで、今回は、ハラスメントの問題を中心に意見を述べさせていただきたいと思います。
お手元の配付資料を御覧ください。まず、配付資料の一のところです。基本的なことから確認いたします。
職場のハラスメントは、言うまでもなく、労働者の人格を傷つける許されない行為です。しかし、実態は多様で、人によってイメージも様々です。
法的なアプローチで考えますと、まず、1のように、被害者に対する民事上の賠償責任があります。加害者には、不法行為を行ったという責任が生じ得ます。また、企業など使用者にも、加害者の雇主としての使用者責任や、被害を受けた従業員の安全に対する配慮に十分でない点があった、すなわち安全配慮義務違反があったなどとして、賠償責任が生じ得ます。
また、2のように、刑法上の犯罪に当たる場合には刑事責任が生じる可能性もあります。
そして、3として、典型的な四種のハラスメントには防止措置義務の定めがあります。
そこで、一の(二)を御覧ください。
1に挙げた四つの類型、セクシュアルハラスメント、すなわちセクハラ、妊娠、出産に関するマタニティーハラスメント、つまりマタハラ、そして育児休業や介護休業などを理由とする育児介護ハラスメント、そしてパワーハラスメント、すなわちパワハラ、以上については、企業など事業主に防止措置義務が課されています。これらは、社会的に許されないものとして共通認識が醸成されてきた各ハラスメントについて、措置義務そして行政による指導などを実施するものです。
なお、セクハラは男女差別の禁止、マタハラと育児介護ハラスメントは育児や介護と仕事の両立、パワハラは働き方改革と、それぞれ大きな施策の中の一つとして、括弧内に挙げた法改正において措置義務化が図られてきました。その際、各ハラスメントの概念、つまり定義の明確化が必要になるわけですが、法律とそれを受けた指針で実施されています。
このように、防止措置義務を設けるということ、すなわち法制化をする意義としては、2を見てください。
まず、事業主の取組により、職場のハラスメントに関する啓発や対策が社会全体で進みます。同時に、ハラスメントをやってはいけないという規範意識も社会で醸成されます。なお、二〇一九年には、労推法だけでなく均等法、育介法も改正され、国、企業など事業主、経営者や役員、労働者の四者に、ハラスメントに関する責務規定、要は、問題への関心、理解を深めること、取組を進めていくことなどに関する努力義務が定められたことも、規範意識の醸成につながったと言えます。
それでは、二として、カスタマーハラスメント、すなわちカスハラの問題について申し上げます。
まず、実態は極めて深刻です。そこに挙げた厚生労働省の実態調査によりますと、過去三年間で十人に一人の労働者が経験したと答え、相談件数が増加したと答えた事業主が全体の四分の一近くもあったにもかかわらず、何も取組をしていない事業主が半数以上です。
また、カスハラは、いわゆるBトゥーCの関係だけでなく、企業間のBトゥーBの関係でも生じます。BトゥーCでは企業は主に被害者側となりますが、BトゥーBの場合、企業は被害者にも加害者にもなり得ますので、一層注意が必要となります。
次に、2にあるように、カスハラは労働者、顧客、事業主、この三者にとって大きな不利益であることを再度確認する必要があります。
まず、aの労働者の心身が傷つけられ、そこに挙げたような大きな悪影響があるわけです。また、bの顧客にも不利益が生じます。カスハラを見聞きすることによる精神的な苦痛ですとか、そういった不利益ですね。そして、cの企業など事業主にとっては、労働者の不利益は事業主にとっても大きな損失でありますし、また、b、顧客との関係でいえば、顧客満足度の低下といったことも懸念されます。ひいては、事業の継続も脅かされることになるでしょう。
資料の裏面、二ページ目に行きまして、3ですね、労働者が傷つくことを放置すれば、事業主は安全配慮義務違反の賠償責任を負う可能性もあります。
そうしますと、(二)の1にあるように、カスハラ対策は必要不可欠で、まさに喫緊の課題と言えます。しかし、現時点では防止措置義務の対象とはなっておらず、パワハラ指針で対策が望ましいとされるにとどまっています。やはり、何かよりどころがないと、企業として、また労使として、対策を進めにくいということは否めません。社会全体で対策を進めていくためには、法制化が不可欠です。
そこで、今回の改正法案の意義について見ていきます。カスハラに関するポイントは、大きく三点ございます。
まず、事業主への防止措置の義務づけですが、さきに見たとおり、措置義務化によって、社会全体での取組が実現できます。改正実現後は、指針で措置内容を明確にし、行政が様々な支援を行うことも不可欠です。
次に、カスハラを法律で定義づけることに意味がございます。そこに定義を抜粋しておきましたけれども、定義の明確化により、今後の事業主の取組や行政の指導が容易になります。これまで、厚生労働省がカスタマーハラスメント対策企業マニュアルなどで周知啓発に取り組んできた内容も意識されたもので、広く受け入れやすい定義と言えます。
なお、各事業主が法律をベースに社内規程などでカスハラを定義づけていくということは、カスハラではない正当な要求、クレームなどとカスハラの区別を明確にするという意味もあります。対策が進むことによって、正当な要求なども言いにくくなってしまうのではといった顧客、消費者などの不安に応えるものです。定義づけがしっかりなされることで、カスハラではない正当な要求には丁寧に対応しつつ、許されないカスハラには毅然と対応するといったことが期待できます。
最後に、3の責務規定、これはパワハラなどと類似の規定ですが、国、企業など事業主、経営者や役員、労働者に、顧客なども加えた五者を対象とした点が特徴的です。行為者になり得る顧客などに対して、法律を根拠に幅広い周知啓発が可能になります。例えば、消費者教育の充実化といった、厚生労働省のみならず、関係省庁が広く連携する際の基礎にもなると言えます。
それでは、三として、就活セクハラについて申し上げます。
これは、要するに、就職活動中の学生、すなわち就活生などは、まだ従業員ではなく、現行のセクハラ防止措置義務の直接の対象ではないということが背景にあります。他方で、就活生に対する非常に悪質な事例もしばしば報じられております。
そこで、カスハラと同じく、防止措置義務と責務規定によって、社会全体への周知啓発が進みます。企業が対策を進めれば、就活生も安心して就活に取り組めますから、採用活動の円滑化、企業にとっては人材の確保という効果も期待できます。これは、転職活動中の皆さんを守ることはもちろん、これからを担う若い学生たちの未来を守ることにもつながりますから、今回の均等法改正にも大きな意味があります。
最後に、四ですが、労推法の中に、何人も職場における労働者の就業環境を害する言動を行ってはならないこと、要するに、何人も職場のハラスメントを行ってはならないということについて、明文で盛り込まれることに意味があります。これはつまり、ハラスメントをやってはいけないという規範意識を更に強く後押しするもので、今後の様々な対策の基礎になると考えられます。
以上のように、今回の労推法、均等法等の改正の実現は、社会にとって極めて望ましいことであると考えております。
私からは以上です。(拍手)