山本隆司の発言 (消費者問題に関する特別委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○山本参考人 山本と申します。
 東京大学大学院法学政治学研究科の教授として行政法を研究しております。
 私は、昨年、消費者庁に置かれた公益通報者保護制度検討会、以下検討会と申しますけれども、この座長を務めました。また、令和二年の公益通報者保護法の改正時には、消費者委員会に置かれた公益通報者保護専門調査会、以下専門調査会と申しますけれども、ここで座長を務めました。
 本日は、今回の法改正案につきまして、令和二年の法改正と比較しながら意見を述べさせていただきます。
 まず、昨年の検討会についてですが、検討会は、令和二年の改正法の施行状況と、次の段階の法改正について検討する目的で設置をされました。委員として、消費者団体や連合、経団連、商工会、公益通報に関わる実務に携わる弁護士、それから、公益通報が多くの法分野に関わっていますので、各法分野の専門家が参加をいたしました。本日参考人として御出席の方の中にも委員が含まれております。昨年末に報告書が取りまとめられ、報告書で具体的な方向性が示された事項は今回の法改正に全て反映されております。
 検討会での議論及び今回の法改正案の全体について、まず三点申し上げたいと思います。
 第一は、令和二年の法改正との関係です。
 令和二年の法改正は、平成十八年に公益通報者保護法が施行されてから十四年後のことでした。長年改正されておりませんでしたので、この専門調査会では非常に多くの論点について検討することになりまして、とても苦労いたしました。
 それでも、通報を理由とする不利益取扱いに対する抑止、救済の制度について、意見はまとまりませんで、改正法に盛り込まれませんでした。こういった形で、重要な問題が積み残されました。今回、令和二年の改正法の施行から二年たたないうちに検討会が設けられたということにはこういった背景があります。
 そして、令和二年当時に積み残されたテーマを含めて、昨年の検討会では議論が大きく進展をいたしました。その背景には、第二点としてこれから申し上げる通報者保護をめぐる国際的な潮流がありました。
 平成三十年に専門調査会の報告書が取りまとめられた翌年の二〇一九年の十月、EUの通報者保護指令が成立をしました。EU指令はEUの加盟国に対して拘束力を持ちますので、加盟国は指令の内容を次々に国内法にしています。
 日本に直接関わる国際文書としては、同じ二〇一九年に日本を議長国として開催された大阪サミットで、公益通報者保護のためのG20ハイレベル原則が採択をされました。また、昨年の五月には、国連人権理事会ビジネスと人権作業部会の訪日調査報告書が公表され、日本は、公益通報者保護法の見直しによって通報者の保護を強化するように勧告を受けております。
 こうした国際的な潮流に沿った公益通報者保護制度の整備が、日本の事業者が投資家や取引先から国際的な信頼を得るために必要不可欠であるということが、昨年の検討会での委員の共通認識でした。
 第三に、昨年の検討会で議論に当たり注意した点について申し上げます。
 検討会では、幾つかの種類の違法行為に対して刑事罰を新設する意見を踏み込んで示しております。ただし、刑事罰というのは非常に重大なペナルティーですから、違法行為の中でも刑事罰を科すに相当するものかどうか、また、刑事罰を科される行為の範囲を法律で明確に定められるかどうかということも慎重に検討いたしました。
 それから、刑事罰の話に限らず、一方で公益通報を保護、促進するということ、他方で事業者の組織を適切に運営することを、個別に細かく調整しバランスを取らなければならない問題があります。こうした問題について、法律に一般的な規定を置くことが適切かどうかも慎重に検討いたしました。さらに、公益通報者保護制度の中の各要素のバランスにも留意をいたしました。
 以下では、具体的に、検討会の報告書及び今回の法改正案の内容のうち、四点に絞ってお話をいたします。
 第一に、事業者が公益通報を適切に扱う体制の整備義務です。
 この義務の法定が令和二年の法改正の中心でした。その体制整備義務の制度の中でも中核なのが、公益通報対応業務従事者の指定義務、通報者を特定する情報についての従事者の守秘義務、それから、守秘義務に違反した従事者個人に対する刑事罰でした。
 しかし、制度上、従事者を指定していない事業者に対する刑事罰は定めていないというアンバランスがございました。実態を調査したところ、非上場の事業者を中心に、従事者を指定していない従業員数三百人超の義務対象の事業者が一定程度存在する、中には従業員数千人超の事業者もありました。こうした状態に対応するために、今回の法改正案では、事業者に対する消費者庁の立入調査、命令、命令違反の場合の刑事罰を定めております。
 第二に、通報を阻害する要因への対応、特に通報妨害や通報者の探索の禁止です。
 こうした行為は、場合によって民法上の公序良俗違反や不法行為になり得るものですけれども、それでも令和二年の法改正時には意見がまとまらず、法制化されていませんでした。今回の法改正案では、これらの行為の禁止を明確に定めています。
 昨年の公益通報者保護制度検討会では、さらに、探索を行った事業者や行為者に対する刑事罰を規定すべきとの意見もありました。しかし、不利益取扱いや、さきに述べた、従事者に限って刑事罰が科される通報者情報の漏えいと比較をして、探索それだけでは様々な行為が想定をされ、刑事罰を科すことが相当とは言えないのではないか、難しいのではないかということがあり、合意に至りませんでした。
 加えて、通報のために必要な資料収集、持ち出し行為についても、社会的相当性を逸脱せず、目的外で利用しない限り免責されるという規定を法律に設けるべきという意見もありました。
 しかし、専門の委員は、事業者の所有権や占有の侵害が通報者の判断で行われると、情報管理や企業秩序に対して悪影響を及ぼすおそれがあるため、窃盗罪、不正アクセス禁止法違反、個人情報保護法違反など個々の犯罪の成立要件との関係をよく整理し、免責の具体的な要件を検討する必要があるという意見でした。
 また、令和二年の法改正で、資料収集、持ち出しの必要性を小さくするということも考慮して、通報が保護されるための要件を緩和していました。行政機関に対する通報は、証拠によって示される真実相当性がなく、単に通報対象事実があると思料するという場合にも、氏名等を記載した書面を提出すれば保護するという制度です。
 こうした理由から、検討会は免責の一般的な規定を設ける提案はしませんでした。
 第三点ですが、通報を理由とする不利益取扱いに対する抑止、救済の制度です。
 こうした制度について、令和二年時の専門調査会では主に二つの点を議論しました。
 一点目は、通報から一年以内の解雇について、通報を理由とするものでないことの立証責任を事業者側に転換するということでした。これは解雇に限定をした議論でしたが、それでも委員の間で意見は一致せず、実現に至りませんでした。
 二点目は、事業者の不利益取扱いに対する行政措置を定めるということでした。しかし、そのために必要な行政機関の体制の構築にめどが立たず、これも実現しませんでした。
 これらの点について、今回の法改正案では、通報があったことを事業者が知ってから一年以内の解雇及び懲戒について、通報を理由とするものでないことの立証責任を事業者側に転換する、それから、通報を理由に解雇及び懲戒を行った法人及び個人に対する刑事罰を定めるということとしております。
 もっとも、昨年の検討会では、ヒアリングの中で、実際の不利益取扱いとしては配置転換や嫌がらせが多いという主張があり、これらについても立証責任の転換や刑事罰を法定すべきではないかという議論がありました。
 しかし、配置転換については、国際比較をした場合の日本の特徴を考慮する必要がございます。
 日本の現状では、配置転換が、人材育成や適材適所の観点から、事業者の人事上の裁量によって定期、不定期に頻繁に行われます。個々の事案で、配置転換が不利益取扱いに当たるのかどうかという判断自体、容易ではありません。
 これに対して、アメリカやEU諸国では、個々の労働者の職務内容や勤務地などをあらかじめ定める、いわゆるジョブ型の雇用がかなり広がっており、配置転換をする際には事業者に慎重な判断が求められていると思います。
 また、国際的に制度を比較すると、日本は、通報が保護される要件が緩やかに法定されており、保護される通報をしやすい状況にあります。先ほど申し上げた、行政機関への通報の保護要件がその一例です。
 こうした状況において立証責任の転換や刑事罰が制度化されますと、労働者が通報を理由とする配置転換であると主張する場合に備えて、事業者が配置転換の正当な理由を説明するために、解雇や懲戒と同程度に準備をしておく必要が生じます。このことは、事業者にとっては大きな負担となり、人事の支障になるおそれもあります。対応できる企業ももちろんあると思いますけれども、不利益取扱いに関する立証責任の転換や刑事罰は中小企業も含めた全ての事業者が対象になるという点に留意が必要です。
 それから、嫌がらせにつきましては、その範囲が不明確と言わざるを得ません。それから、公益通報を理由とする嫌がらせに限って立証責任の転換や刑事罰を制度化する理由というものがなかなか見出し難いという問題もあります。
 第四に、昨年の検討会では、逆に濫用的通報者に対する刑事罰についても議論しました。これは令和二年の法改正時には議論されなかったテーマですが、先ほど述べた、EU指令が悪意ある虚偽の通報に対して罰則を規定したことが、昨年の検討会での議論の背景にありました。
 しかし、現実に問題とされている濫用的通報行為が刑事罰を科すに値する行為なのか、また、刑事罰の法定によって抑止されるのかという点については、実態を踏まえた検討が必要です。それなしに刑事罰を定めますと、通報を過度に抑制するおそれがあります。そのため、昨年の検討会では、濫用的通報について、まずは実態調査をよく行って、その結果を踏まえて必要な検討を行うということを提言しました。
 以上、四点申しましたように、引き続き調査検討が必要な論点もありますが、法改正については、必要な知見が全てそろい、全ての当事者が納得する形で法改正が実現する環境が整うまで待ってから行うという、いわば完璧主義のアプローチと、少しずつでも迅速に法改正をしていく漸進主義のアプローチが考えられます。
 昨年の検討会では、全ての委員から、漸進主義で法制度をよりよいものにしていくべきだという合意をいただきました。また、私は、令和二年の法改正時に、十四年ぶりということがあって大変苦労したという経験からも、漸進主義で考えております。まずは、この内容の法改正を早急に行い、国際的な動向にもキャッチアップするということが重要ではないかと考えております。
 国会での審議におきましても、こうした私たちの思いに御理解を賜れば幸いです。
 以上で私の意見陳述を終わります。(拍手)

発言情報

speech_id: 121704536X00620250422_002

発言者: 山本隆司

speaker_id: 11819

日付: 2025-04-22

院: 衆議院

会議名: 消費者問題に関する特別委員会