志水芙美代の発言 (消費者問題に関する特別委員会)
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○志水参考人 市民のための公益通報者保護法の抜本的改正を求める全国連絡会の幹事をしております、弁護士の志水芙美代と申します。
本日は、意見を述べる機会を与えていただき、誠にありがとうございます。
当連絡会は、市民の目線で、安心して通報ができる環境を法制度により整え、企業活動の適正化を図ることなどを目指す団体で、約十年前の二〇一五年に設立されました。また、私個人としては、先ほど山本先生から御報告のありました、この度の法改正につながる公益通報者保護制度検討会、こちらにおいて委員を務めさせていただきました。
本日、私からは、通報者を支援する活動をしている弁護士の立場から、公益通報者保護法の改正案について意見を述べさせていただきます。
まず、改正案は、令和二年の法改正の際に今後の課題とされた点について一定の対応をしておりますので、通報者保護を前進させるものとして一応の評価はできますが、依然として課題が多く残されていると考えております。本日は、時間の制限もありますので、特に重要度が高いと考える課題に絞ってお話をさせていただきます。
まず、課題として最も大きいと考えておりますのは、配置転換などへの対応です。
実務上、通報者に対する不利益取扱いは、事実上の嫌がらせや配置転換の態様で行われることが多いです。既に今国会でも何度か取り上げられております日弁連の公益通報相談の集計結果に表れておりますし、それだけではなく、消費者庁が公表している内部通報制度に関する意識調査、就労者一万人アンケート調査の結果においても、勤務先の法令違反行為について勤務先や外部に通報、相談をした後に不利益取扱いを受けたとの回答では、上司や同僚からの嫌がらせ、人事評価上の減点、不利益な配置転換が上位三位を占めております。
また、企業の危機管理を支援する株式会社エス・ピー・ネットワークが実施した実態調査でも、過去に通報者に対する不利益取扱いが確認されたことはありますかとの質問に対し、回答社の一三・一%があると回答し、その具体的内容として、通報者探索、報復的人事異動、通報者への誹謗中傷などが挙げられています。
このように、様々な媒体で異なる対象、方法によって得られた結果で共通して通報者が受ける不利益取扱いとして、配置転換の問題が浮かび上がっていると言えると思います。
これは通報相談に当たる弁護士の実感としても、通報した後、配置転換により孤立化させられたり、あるいはキャリアが閉ざされたりして退職を考えざるを得なくなるといった御相談によく接することがございます。したがって、この点への抑止、救済策が盛り込まれなければ、実務上、通報者が置かれた苦しい状況は余り改善しないのではないかというふうに懸念をしております。
その上で、抑止として刑事罰、救済として立証責任転換の問題がありますので、それぞれについて意見を申し上げます。
まず、刑事罰については、構成要件の明確性と当罰性の観点から、ある程度対象行為を限定することは必要であると思われますが、配置転換と事実上の嫌がらせを一律に外すべきではないと考えます。
壮絶な人格権侵害と評価できるような事例が存在することは、先ほどお話しになった串岡さんのケースを典型に、実際に存在するものです。その上で、一定の限定的な要件を付した上で、配置転換も直接罰の対象とするのか、あるいは、不利益性のある配置転換について、是正命令を介在させる形で間接罰を設け、慎重な運用を可能とすることなどが考えられるのではないかと思っております。
次に、立証責任転換の対象についてです。
通報者が配置転換の無効を主張して争う場合に立証すべき内容は、一点目として、通報が本法の公益通報に該当すること、二点目として、本法の保護要件を満たすこと、三点目として、配置転換が不利益な取扱いであること、この三つに加え、現在の法律では、四点目として、配置転換が公益通報を理由とすることの立証責任も通報者側にあります。つまり、仮に、立証責任の対象に配置転換を含めるというふうな法改正をした場合においても、配置転換であれば何でもかんでも転換されるわけではなく、通報者が不利益性を立証することが前提とされているわけです。
配置転換の場合、仕事外し、部下外しといった活躍の場を奪って孤立させるような異動が、給与そのままに、水準を下げずに行われることもあり、通報者にとって、不利益性の立証自体も負担がかなり重いケースがあります。一点目、二点目として申し上げた公益通報該当性や保護要件該当性の立証も容易ではありません。
このような立証負担の実情も踏まえた上で、通報者保護や情報の偏在是正の観点からは、公益通報該当性、保護要件該当性、配置転換が不利益な取扱いであることというそれだけでも大変な立証を通報者が行った場合に、配置転換が公益通報を理由として行われたことの立証責任を事業者側に転換することが適切であると考えます。この転換された状況であっても、とても通報者が優遇されているとは言い難く、せめてこれくらいは転換して立証負担の軽減をということです。
これまでの政府答弁では、労働法制との平仄を踏まえると、配置転換などについて、公益通報を理由とすることの立証責任を事業者に転換することは現状困難との御説明がございました。
しかし、公益通報者保護法は、労働関連法制の中でも、通報者を特に保護して通報を促進し、国民生活の安心、安全を実現しようとする特別な立法です。そういった通報者保護という政策的観点や、あるいは差別禁止の観点からは、必ずしも既存の労働法制と平仄をそろえる必要はなく、保護を一歩進めることが妥当であると考えております。
なお、配置転換も立証責任転換の対象とする場合においては、配置転換は、報復の意図を隠すために次の異動を待って実行される場合も多いという実情がございますので、一年の期間制限は短過ぎると考えております。
次に、別の論点として、通報のための資料収集、持ち出し行為の免責の点についても述べさせていただきます。
改正法案では、資料収集、持ち出し行為の免責に関する規定は入っておりません。この状況では、たとえ改正法に基づいて、公益通報自体を理由とした探索が禁止され、また、解雇、懲戒に対して刑事罰や立証責任の転換が行われたとしても、別途、資料収集、持ち出し行為を理由として探索や懲戒などがされるということになれば、それが本法の適用上、許容されかねないということになれば、法改正事項の実効性を損ねるリスクのある問題だと考えております。
この点についても、これまでの政府答弁では、裁判所においては、通報との関連性や通報者の動機、行為の態様、影響などを総合的に勘案して判断していることを前提に、一定の要件の下、免責する規定を設けることは現状困難であり、事案ごとに事情を総合勘案の上、判断することが妥当であるとの御説明がございました。
しかし、この点はむしろ、裁判例上、考慮要素がある程度示されているのであれば、それを要件化して法文などに明記することが必要ではないかと思います。その要件の具体的当てはめが個別事案ごとになることは当然ですけれども、最終的に個別考慮になることを理由に免責要件を法定できないということにはならないというふうに考えます。
次に、体制整備義務が法的義務となる事業者の範囲についても述べさせていただきます。
日本は中小企業が多く、三百人超という基準のままですと、多くの事業者が対象外となってしまいます。他方で、国民生活の安心、安全に関わるという意味では、中小事業者も当然ながら重要な役割を担っています。ここは、人数基準を百人程度にまで下げ、対象事業者を広げることが必要であると考えます。この点、既にEU指令においては、労働者五十人以上の民間事業者は内部通報経路の確立義務を負うというふうにされております。
保護される通報者などの範囲についても意見を述べさせていただきます。
改正法案で通報者の範囲がフリーランスにまで拡大されたことは前進ですけれども、中小規模の法人で継続的契約関係を打ち切られるリスクのある弱い立場の法人は、通報しても保護されません。また、通報内容を裏づける供述の協力をしてくれる通報者の同僚なども保護されないままです。この点も、EU指令などを参考に、保護される者の範囲を拡大する検討をしていただきたいと考えております。
最後に、提案されている改正案附則第九条で施行後五年後の見直しとなっていることについても意見を述べさせていただきます。
一般的に、法律の制定から施行までに二年近くが空くことが多いことからしますと、五年後見直しでは、次の改正までに少なくとも七年近くが空くことになってしまいます。
この五年とされた理由について、この度の改正に盛り込まれている刑事罰の適用状況や立証責任転換の裁判の状況を見るに当たり、裁判に時間がかかることが考慮されているようですが、重要な改正事項はこの二点にとどまりません。また、改正課題として指摘されながら手当てされなかった論点、これは先ほど課題としてお伝えしたものが多く含まれておりますけれども、これについて改正がされなかった場合、反動のように問題状況が膨らむ可能性もあるわけです。
そういった問題に適切に対応するためには、見直しが七年近く後になるのは遅きに失すると言わざるを得ませんので、ここは、令和二年改正時と同様に、三年後見直しとしていただきたいと考えております。
私からは以上となります。ありがとうございました。(拍手)