平木大作の発言 (憲法審査会)
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○平木大作君 公明党の平木大作でございます。
憲法と現実のかい離というテーマで、四月二日に続いて意見表明したいと思います。
このテーマを象徴するのが、近年活発化する裁判所における違憲審査であります。東京大学の宍戸常寿教授によれば、二十世紀の間、五十年以上あった運用期間において五件にとどまった法令違憲判決が、今世紀においては最初の十五年で肩を並べ、以後も増え続けております。法令違憲判決は、三権分立の枠組みにおいて司法権が立法権の決定を覆す行為であることから、従来より非常に慎重に運用が行われてまいりました。そうした前提に立つとしても、法令違憲判決が相次いでいる理由は、一つには、人権侵害とみなせるシビアな状況に対して裁判所としても踏み込んだ判断を迫られているということ、同時に、不作為のまま、そうした状況に真摯に向き合おうとしない立法府の鈍い人権感覚にしびれを切らしているからではないでしょうか。
四月二日の当審査会で、私は、同性婚を認めない民法などの規定について、個人の尊厳が損なわれているとして、憲法十四条や二十四条二項などに違反するとの判断が続いていることを指摘させていただきました。現時点で五つの高裁全てで違憲判決が下されており、明年にも最高裁での判断が示される見込みであります。
この国は自分という存在をないがしろにしているのではないか、どうして自分らしい生き方が尊重されないのかと絶望的な思いを抱えてきた当事者にとって、高裁で五件の違憲判決が出そろった今なお、国会の議論や同性婚訴訟の状況なども注視していく必要があるとする政府答弁は余りにも冷淡に響いています。この間、同性カップルの公営住宅の入居や病院での面会、手術の同意などに道を開いたパートナーシップ制度が自治体の間で広がりを見せ、人口カバー率がおよそ九三%に迫ってきたことは、国会の不作為をより際立たせています。
そして、個人の尊厳に関わる憲法的課題は同性婚にとどまりません。旧優生保護法をめぐる裁判では、令和四年、大阪高裁が国に対して初の賠償を命じ、さらに昨年、最高裁は、立法当時から違憲だったと断じる判決を下しました。これ以上、立法府の不作為によって個人の尊厳に関わる問題を放置しておいてよいはずがありません。
ローマ法の大家である木庭顕先生が高校生を相手に行った授業を収録した「誰のために法は生まれた」という名著があります。かつて一人の学生として法学部の授業になじめず勉強に身が入らなかった私にとっても、木庭先生の授業は、難解でほとんど理解することができませんでしたが、知的刺激に満ちて、毎回わくわくしながら臨んだ数少ない授業の一つでありました。日本国憲法を含む近代法体系の骨格となり、法的思考の基盤を形成してきたローマ法の占有の論理に立ち返って精緻に思考することは、現在、日本の直面する法的課題に対処する上でも極めて有用であると考えます。
最も弱い個人に肩入れするものとして法が生まれ、権力と利益をめぐって個人を犠牲にしようとする動きにあらがう仕組みとして政治が誕生したとする木庭先生の整理を踏まえれば、当憲法審査会において真っ先に取り組むべきは、個人の自由と人権における憲法と現実の乖離の解消ではないでしょうか。人の苦痛に共感できる想像力こそが政治を行う上で不可欠の素養だとする木庭先生の御指摘を真摯に受け止めたいと思います。
さて、次の大災害がいつどこで起きてもおかしくない我が国において、緊急事態における国会機能の維持というテーマが重要であることは論をまちません。しかしながら、先述した個人の尊厳に関わる問題については司法の動きを注視しながら最高裁判決が出るまで放置し、もう一方で、緊急事態時における任期延長の議論に専心する姿というものは、国会議員が自分たちの身分保障にきゅうきゅうとしているようにしか今の国民の目には映っていないことに私たちはもっと自覚的でなければなりません。
最後に、戦後長らくこの国の憲法論議の中心であり続けてきた憲法九条と自衛隊をめぐる問題についても言及しておきたいと思います。
逐語的に読んだ九条の文言と最も乖離した状態にあるのが我が国最大の実力組織である自衛隊の存在であります。この乖離を解消し、一部にある自衛隊違憲論を終わらせるために、九条を改変して、その存在を明記すべきとする主張があります。
しかしながら、今や多くの国民が自衛隊の活動を理解し、支持する状況下において、九条改変という国論を二分するテーマに挑むことは、多大なる政治的エネルギーを使うことのみならず、施行以来、営々と議論が積み重ねられ、形作られてきた憲法解釈の安定性を揺るがす危険性があり、賛成できません。
一方で、戦後の国際秩序が転換期を迎え、厳しさを増す安全保障環境における自衛隊の使命と役割について、憲法との関係において議論していくことは極めて重要であります。この点について、現在も続くウクライナ戦争を受けて、ロシアの安全保障政策を専門とする東京大学先端科学技術センターの小泉悠准教授は、今回の戦争は古色蒼然とした侵略戦争がいまだに起き得ることを示した、現代の国家闘争は古いものから新しいものまで無数のバリエーションを取り得る、その全てに対応しようとすれば際限なき軍拡となり、相手の恐怖を駆り立て破滅的な軍拡競争に至るだろう、対応の優先付けと歯止めの論理が必要だと指摘をしています。
目まぐるしく世界情勢が変転し、急速に技術が進歩する中にあって、日本の平和と安全を守るためにも遅滞なく必要な対応を行う必要があります。そこにおいて重要なのは、何を優先してどこまでを許容するのかという歯止めの論理を明確にしておくこと、精緻でクリアな基準を持っておくことであります。
改めて、自衛隊は我が国最大の実力組織であります。内閣や国会による自衛隊の民主的統制を確保することは、国民主権の原理からも重要であり、これを自衛隊法等の法律だけでなく憲法が定める統治機構の中に位置付けることについては検討に値することを申し述べて、発言を終わります。