石川智久の発言 (資源エネルギー・持続可能社会に関する調査会)
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○参考人(石川智久君) よろしくお願いいたします。日本総合研究所の石川でございます。(資料映写)
今日は大変貴重な機会を与えていただき、誠にありがとうございます。
私のバックグラウンドとしましては、基本的に経済学でありましたり経済政策をバックグラウンドにしております。その観点から、脱炭素についていろいろ考えていることをお話しさせていただきたいと思っております。また、私の意見だけではなく、当社全体としても、当研究所全体としても脱炭素に関しては非常に真剣な問題意識を持っておりまして、その我々の研究なり、またシンポジウムなどで通じて得た知見なども交えて御説明したいと思っております。
今日のタイトルは、公正な移行に向けて留意すべきポイントというところでございまして、公正な移行という言葉についてはまた後ほど説明いたしますが、脱炭素が進む際においては、やはり極力経済的なダメージなり、あと人々の幸福感を極力阻害しないような形で進めていく必要があるのではないか、それに向けてどのようなことを具体的に注意すべきかといったことをお話しさせていただきたいと思っております。
皆様の資料の次のページになりますが、世界はこの二十年ぐらい脱炭素に向けて着々と動きを進めてきたと思っております。もちろん、非常に足が速いというわけではないんですけれども、一歩一歩進めてきたという感じはあったと思います。
しかしながら、皆様御案内のとおり、皆様の資料二ページにありますけれども、脱炭素には今ちょっと逆風が吹いているというようなところであります。皆さん脱炭素の話をすると、総論賛成ではあるんですが、各論になるとどうしても悪影響を受けてしまう地域やセクターが反発するわけです。当然ながら彼らにも生活があるので、その気持ちは非常によく分かるところがあります。
こうした中、EUは公正な移行メカニズムを導入しまして、悪影響が大きい地域を中心に、事業転換や研究開発、労働者の成長セクターへの就業促進やリスキリングなどを支援しております。もちろん、ヨーロッパにおいても景気が大分最近厳しくなる中、ちょっと脱炭素どころではない空気もあることも事実です。そうした中、かつてほどの熱意も少し失われてはきてはいるのかなと。ただ、看板自体は掲げておりますし、大きく変えるというよりは現実的な路線で極力脱炭素を進めていきたいといった政策スタンスではあると思います。
一方で、トランプ政権が発足しましてからは、脱炭素に対しては非常に後ろ向きな対応となっています。
このように、脱炭素については少しこの一年間ぐらいで雰囲気が変わったことも事実であります。
では、なぜこうやってヨーロッパなりアメリカが脱炭素に対して後ろ向きになってしまったかというと、やはり人々の反発が強いということがあると思います。その背景にあるのが、やはりここの文書にも書いておりますが、脱炭素に伴って悪影響を受ける地域であったりセクターが非常にたくさんあるということになります。そういう意味では、こうした現状を把握して、こうした悪影響を受ける地域、セクターの不満を減らしていく、そういったことを具体化することが急務ではないかというのが私の今日の話の大きな方針でございます。
では、タイトルにあります公正な移行とは何かというところでございます。皆様の資料の三ページ目のところなんですけれども、脱炭素への移行では、もちろん環境、新しいサービスが生まれるのも事実です。再生可能エネルギーであったり太陽光パネルであったり、そうしたものが進む一方で、使われなくなる技術とかサービスが生まれてきます。座礁資産化というちょっと厳しい言葉になるんですけれども、そうすると、そこに関わってきた方々の仕事も失われていくわけです。
こうした中、国際社会では、失業などによる経済的不利益を回避するジャストトランジション、公正な移行の議論が進展しています。海外では結構このジャストトランジションというのは議論は進んではいるんですけれども、まだ我が国ではそれほど進んでいない議論なのかなと。ジャストトランジションという英語がちょっと抽象的な英語というか、ちょっと分かりにくいというところもあって、それほど議論は進んでいないところはあると思います。ただ、我々が脱炭素に進んでいくのであれば、こういう極力不利益を被る人を減らしていくジャストトランジションというのがとても重要になると思っています。近年は、労働者の観点からだけでは、元々が労働者の話だったんですけれども、それだけではなく、地域や社会全体で何をすべきかといった議論に変わってきているということを伝えておきます。
さて、今のは非常に美しい話ではあるんですが、公正な移行というのはとても難しいところであるのも事実です。過去、日本において公正な移行的な話があったのは、脱炭鉱であります。当時、エネルギーを石炭から石油に移し替える、それが日本が国際競争力で、国際競争で勝つためには重要だという議論がありました。それで脱炭鉱が非常に進むわけです。
そうすると、当然ながら、炭鉱の地域が非常に苦しくなるということがあります。皆様の資料の四ページにありますが、石炭でにぎわった夕張市の人口がこの石炭生産量とほぼ比例するような形で大きく減っていきます。一方で、田川市の方はそれほど大きく減っていないというところでありまして、答えを言うならば、田川市の方は新たな産業を見付けてきて、ある程度トランジションがうまくいった。一方で、夕張は、夕張市も努力はしたんですけれども、それがうまくいかず、結果として大きく人口は減っていった、地域も衰退していったということがあります。
じゃ、脱炭鉱から得られる教訓というのは何かというところなんですけれども、皆様の資料の五ページ目にありますが、企業の中では、セメントなどに事業転換をしたり、また観光業でうまく復活した会社があります。しかしながら、新たな産業を見付けられなかったところは倒産したということがあります。また、雇用においては、炭鉱労働者中心に失業者が増えたということもありますし、失業はしなくても、仕事を求めて元々のふるさとから離れてしまったということもあります。地域経済は、石炭産業がなくなることによって、そこに納入していた人の仕事も失われていくと。そういう意味では、負の産業波及、波及効果があったわけでありまして、炭鉱労働者向けの産業なども衰退しました。そうなってくると、産業もない、人もないとなると、自治体も大変になるということがあります。そういう意味で、ある意味、きちんと企業が残っていくような形にならなければ、脱炭鉱で起きたような、うまくいったところと失敗したところの差が出てくるというのが教訓であると思います。
一方で、脱炭鉱からの教訓としましては、脱炭鉱と脱炭素では置かれている状況が違うというところがあります。もちろん、この脱炭鉱というのは一つのモデルケースではあるんですけれども、六ページの図表にありますが、脱炭鉱は石炭中心ですけれども、脱炭素は非常に多くの様々な産業を見ていかなきゃいけない。産炭地域だけではなくて、多くの地域に関わります。また、我が国の経済は、外部環境として、昔は高成長だったのが、低成長とか人口減少だったといったところがあって、そういった意味では困難が非常にあるというところがあります。
一方で、ただ、技術的な面で見ると、脱炭鉱よりは脱炭素の方が様々なオプションがあるという意味では、うまくイノベーションを発揮することができれば、速やかに公正な移行が行われることもできると。また、人口動態が人口減少になるというところにおいては、失業者がそれほど増えないといった可能性もあるということがあります。もちろん、新たな技術者が育成しにくいというデメリットもあるんですけれども、人口増加時代とはかなりフェーズが違うということで、当然ながら、脱炭鉱をベースに考えながらも、現代に合わせて進化させていかなければいけないということでございます。
脱炭鉱からの教訓としては、脱炭素への示唆ということは、今言った話をまとめたような話になるんですけれども、脱炭素は様々な地域や産業が影響を受けますと。先ほど申し上げましたとおり、今様々な技術が進んでおりますので、イノベーションによって生き残ったり、逆に市場を大きくするようなことも可能性としてはあるんではないかと思います。
当然ながら、ただ、そこにうまく乗っかっていかないと、ビジネス環境の変化に乗り遅れて倒産する企業も出てくるといったこともあります。一般的に言われることなんですけれども、ビジネス環境の変化があったときには、人材や研究開発力がある大企業は産業転換しやすいんですけれども、中小企業はどうしても独力での対応は厳しいというところはあると思います。そういう意味では、大企業向けの政策と中小企業向けの政策が変わってくる、そういったことは考えられると思っています。
また、先ほど人手不足の話をしましたけれども、人手不足というのは、失業が発生しにくいということもある一方で、所得の高いところに人が流れていって人手不足が深刻化するといったところもあるので、そういう意味では、人手不足をどのように対応していくのかというのは少し難しい話題になってきております。
続きまして、留意すべきポイントでございます。
産業の観点、企業の観点、地域の観点、この三つの観点から説明していきたいと思います。
産業の観点からいいますと、基本的に、二酸化炭素の話をするときにはたくさん二酸化炭素を出しているところが目に行くんですけれども、産業や排出規模は大きくなくても排出削減が難しい産業というのもあるわけです。例えば、農業などがその例に挙げられると思います。こういったところに対して余り厳しいことを言うと、なかなか簡単にはいかないと。また、自動車なども、非常に製品ライフサイクル的にも難しいというところもありますし、高度ないろいろな技術の集合体であることを考えると、単純に減らせといっても簡単に減るものではないといったものがあります。つまり、産業ごとによって特性が違う中、産業別のアプローチも必要になっていくのではないかというのが一つの留意すべきポイントです。
もう一つは企業の観点でございまして、中小企業や財務体力が限られる企業はなかなか簡単に自分たちの本業は変えられない、そういった難しい問題があります。また、会社、最近は経営者が高齢化していたり後継者が不在の会社が増えています。そういった会社はなかなか事業転換が起きにくいというところがあります。私も多くの中小企業の経営者の方とお付き合いがありますが、大体、後継者が替わるときに新しいことをすることが多いです。そういう意味では、後継者不足というのは脱炭素を進めるのに当たっては一つの障害になっていく、一つのハードルになっていく可能性は私はあるんではないかと思っています。
地域の観点からでいうと、大都市であれば、若い人も多いですし、働く人もある、研究機関も充実しているといった面がありますが、特に地域によっては、先ほどの磐田先生の話にもありましたが、小さな自治体であったり過疎に近い自治体でありますと、人手不足も深刻ですし、教育機関や専門企業へのアクセスも非常に難しくなってきます。また、労働者の高齢化も地方ほど厳しくなるといったところもあります。そういう意味では、大都市と地域で格差が生まれてしまう、そういったリスクもあるということは留意すべきだと考えています。
次のページのポイントです。
この公正な移行に関しては、企業だけではなく、やはり地域で協力していくということが当然大事になります。その理由の一つとしては、地域によってかなり産業構造が違うということが挙げられます。この九ページの左側の図表が都道府県別の県内生産でありますけれども、この色付き部分がもう御覧のとおり、非常に違うわけですね。そうなってくると、当然ながらCO2が出ている部門の構成比も変わってくるというところがあります。つまり、地域ごとによって政策をアジャストしていくということが非常に重要になるというのが九ページにあるこの左右の図表でございます。
続きまして、じゃ、地域の起点で取り組むときにはどういうことを注意すべきかというところなんですけど、十ページ目のところなんですが、やはり、これは企業だけでもできませんし、先ほどのお二人の先生のプレゼンにもありましたが、地方公共団体だけでも進まない話であります。そのためには、やはり、自治体、企業、労働者、金融機関、大学等がしっかりと議論を行い、問題意識を共有した上で連携して取り組んでいくことがとても重要になってくると思います。
ちょっとこの中にも加えるべきだったなと反省しているんですけれども、やはり消費者、市民の声も入れていくというのがすごく大事です。やはり、地域でビジョンを作っていくということに関しては、多種多様な主体が議論をしていって、みんなが腹落ちするということがとても重要になってくると思います。私も地域の創生の仕事などをやったことがありますが、やはりみんなが一つの方向を向く、みんなで議論をしていくということが、話を進ませることが重要でありますので、地方版政労使会議など、様々なプラットフォームを使っていくことが非常に重要になると思っています。
十一ページ目になるんですけれども、じゃ、企業を超えた取組にはどのようなことをするのかというところにあるんですが、産官学金の連携もありますし、地域レベルで脱炭素のロードマップを作っていく、また経営難の会社については事業承継やMアンドAを行うことで速やかに技術や労働者を守っていく、また円滑な労働移動を支えるような仕組みをつくっていくということをやりまして、企業の新陳代謝はあったとしても、失業する人が減る、また倒産して財産を失う経営者が出てこないようにする、そういったことが非常になっていくというふうに考えております。
次のページでございますが、今回の脱炭素に向けて、これからの日本の経済改革、構造改革を考えるときに当たっては、少子高齢化ということはきちんと考えていかなければいけないと思っております。
この少子高齢化と脱炭素が与える影響というところなんですが、このチャートにありますが、左側においては、技術者や労働者が不足した場合というのはイノベーションが低迷して脱炭素の遅れにつながっていくと。また、インフラの整備が遅れたりとかしますと、温暖化の被害が深刻化していくなど様々な課題になっていきます。少子高齢化にうまくアジャストした政策といったものも議論していく必要があるんではないかと思っています。
また、次のページ、十三ページ目のところではあるんですが、脱炭素においては、製造業や建設業の人の技術が非常に重要になります。製造業は脱炭素に適した製品を作っていくという意味で非常に重要ですし、建設についても、先ほどの磐田先生のプレゼンにもありましたけど、建物をこうやって省力化していくとかゼロエミッション化していくとなると、高度な建設技術者も必要になるわけです。
ただ、このように製造業や建設業で働く人が減っていくと、その分、その研究開発が遅れていくリスクが出てきます。ここの部分をどうやって人を手当てしていくのか、人が減っていくのであればどうやって生産性を上げていくのか、そういったことは非常に重要になってくるんではないかというふうに考えております。
続きまして、十四ページ目のところであるんですが、私、経済の研究をしているんですけれども、最近はGDPを増やすという話も当然あるんですが、それを最低限として、その後はウエルビーイングを上げていこうというのが経済の世界では当たり前になってきております。地域幸福度の導入などについてもかなり研究が進んできております。
私自身も、最近のこの幸福度の研究においては、経済だけではなく、みんなの主観的な幸福度などについてアンケート調査を使って測っていくとか、いろんな方法があります。ですので、先ほど申し上げましたような形で地域に新産業をつくっていく際には、地域の幸福度も測ることによって、ただ経済的な面ではなく、明るい脱炭素を図っていく、そういったことが持続的な脱炭素に向けて非常に重要になるのではないかというふうに考えております。
残りの時間、短くなってきましたので、私なりにこの調査会における提言を言いたいと思います。ここにある五点でございます。
今まで言ってきた話から導き出せる結論ではあるんですけれども、一つは、公正な移行については、脱炭素という観点だけではなくて、やはり新しい仕事をつくっていくという意味では、産業競争力の強化、新産業の創出ということが重要になります。そのためには、環境だけではなく、産業、労働、教育、地域といった様々な分野の施策が必要です。そのためには、司令塔となる行政組織をつくっていくことが必要ではないかというふうに考えております。
その横串を刺す行政組織の在り方は、多分いろいろな方法はあるとは思います。内閣府なのか内閣官房なのか、それとも、はたまた別途省庁をつくるか、そこはいろんな議論はあるとは思うんですけれども、何らかの形で横串を通していくということが重要ではないかというふうに考えております。
また、取り残されるリスクの高い主体は一体どこであるのかということをきちんと特定して、きめ細かな政策を行っていくということも重要だと思っています。それを踏まえた上で、産業別ロードマップ、産業構造の将来見通しを明確化することによって、政策の見える化をしていく、またEBPM的な政策を進めていくということも重要だと思っています。
そして、公正な移行に向けた多面的な政策の枠組みをつくっていく、また、重要であると思いますし、国がある程度大きなロードマップを作った後には、その後は各自治体で地域起点の公正な移行を進めていくといったことがとても重要になっていくというふうに我々は考えています。その意味で、一から四のところは基本的に国の政策、五番が自治体の政策というふうにうまく役割分担をしていくことが重要ではないかというふうに考えております。
最後に、まとめでございます。
脱炭素社会に向けては、技術革新はとても重要なんですけど、それだけでは実現できません。取り残されるリスクのある主体に対して、移行支援といったことが非常に重要になっていくと思っております。
また、脱炭素社会への移行が難しいのは、多排出セクターだけではなくて、農業のような技術的に難しいセクターや、製品ライフサイクル全体で見て複雑なセクターなどが考えられます。また、経営資源が乏しい企業なども大変厳しくなります。そういう意味では、セクターや企業規模別にちゃんと対応策を作っていくことも重要だと考えています。
そして、個別企業では越えられない課題については、企業を超えた地域全体の取組が必要です。また、仕事がどんどん変わっていくのであれば、最近、ディーセントワークという言葉があります。やりがいのある人間らしい仕事を増やしていくというのがとても重要ではないでしょうか。せっかく新たな仕事が生まれるわけです。そこをディーセントワークにするための労働法制などはどうなるかといったことも国民的な議論が必要であると私は考えております。
そして、公正な移行については、産業競争力強化と併せてシナジーを高めていく。
さらに、何度も言っておりますが、地域ごとに課題は異なっておりますので、画一的な対応ではなく、地方自治体が自主的に動けるような枠組みにしていく必要もあると思っています。そのときには、ただ単に経済だけではなく、人々の幸福度まで見た多面的なことをやることによって、日本中の人々が脱炭素に協力したいと考えていけるのではないかというふうに考えております。
私からの御報告は以上でございます。御清聴ありがとうございました。