大内兵衞の発言 (予算委員会公聴会)

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○大内公述人 鈴木委員長の御命令によりまして、昭和二十二年度の追加豫算に關する私の所見を申し上げます。質問がいろいろありますので、その全部にわたることはできませんが、ただ全體的な豫算をどう見るかという私の考えを申し上げます。國民の一人として申し上げるつもりでありますから、特にどの黨派の意見を代表するということはありません。
 まずこの豫算の歳出の方から見ていきますと、經費は三類にわけることができると思います。第一類は終戰處理費三百二十二億、賠償施設補助費が四十億、給與改善費が五十四億、公共事業費が五十二億、この合計が四百六十八億であります。これが追加豫算の過半を占めております。いわゆる固有の財政豫算あるいは財政資金に關する豫算であります。完全に消費的な性質をもつております。第二類は價格調整費百五十八億圓、貿易資金への繰入金が五十五億圓、船舶運營會の補助費が六億圓、農地改革補助費が六億圓、復金の出資が四十億圓、合計二百六十五億圓、全體の約三割、このすべては民間の事業を維持したり、あるいは保護するための政府の出資であります。簡單に補助費と言つていいでありましよう。第三は鐵道通信特別會計の赤字を補填するための繰入金、これは八十五億圓であります。これは政府が事業を經營しておつて、それにお金が足りないから、それを一般會計から補充するという經費であります。
 さてこの三つの經費のうち第一類の大部分については、いわゆる行政整理が問題となるのでありますが、いろいろな事情から、その節約は非常に困難であろうかと思います。しかしこの經費が何がゆえにかように殖えたかと言いますと、それは簡單にはインフレーシヨンのためであります。そしてこれが殖えても、國民經濟は少しもよくなることはないわけであります。またそれに對してこれが殖えるとインフレーシヨンはどうなるかといえば、むろんこの支出の全部が、ほとんどインフレーシヨンを促進する原因になるのであります。しからば第二の事業費、産業補助金はどうであるかというと、これは今までやつておつた民間事業が、物價騰貴のためにこのままではやつていけないから、また金を出してやつて、その困難をいくらか救つてやるという金であります。すなわち簡單に言えば、民間が損をしておるのを政府が補つてやるという金であります。これと機構が少し違つておりますけれども、やや似た金はいわゆる復興金融金庫えの出資で、これはこの豫算では四十億となつておりますけれども、本豫算では七十一億でありますから、合計百十億の金を政府が復金に出すということであります。復金はこの百十億圓の金をもとにして、今年中に五百六十五億圓の厖大な資力をもつて産業を保護するという話であります。つまり問題はこれでどのくらいの産業が起るかということであります。政府及びこれに關係しておる人々の辯護する議論によりますと、かようにして何百億というたくさんの金を出すと産業が起つて、たいへん物がたくさん出てインフレがとまるかもしれないというのでありますが、しかしかりにそういう議論がほんとうであるとしても――ほんとうではありませんが、それが相當の時間がかかることは疑いない。しかるに一方金の方はどんどんと今年中に出ていくわけでありまして、その出ていつた金は、一旦は多少資本金的に使われるかもしれませんが、必ずや單なる貨幣として、單なる購買力として市場に出るのでありますから、これが非常な猛烈な勢いをもつてインフレーシヨンを促進する原因になるということは、疑いないところであります。
 第三類の金はどうかと申しますと、この第三類の金は、つまり赤字の尻ぬぐいの金であります。しかもごく一部分の尻をぬぐうのであります。すなわち鐵道會計及び通信會計、この兩會計の本年度の資金不足額は二百九十億圓ということになつております。そうしてこれに政府が八十何億かの金を出しましても、たいへんな不足があるわけでありまして、その不足のほとんど全部は日本銀行から直接借入れるということになつておる。すなわちこの點から二百億圓ばかりの新しい紙幣がインフレートするということは疑いありません。以上歳出の側における國の豫算の性質を見ますと、簡單に言えば、前内閣のインフレーシヨン政策を、そのままに踏襲しておるものである。そればかりでなく、大々的に追加し、擴張しておるものであるということが言えます。それは第一には官業の赤字がたいへん多いけれども、これを減らせるということについて特殊な政策はなくして、これにはどんどん資金を出してやるということが豫算に現われております。第二には民間の生産事業でありますが、これもあまり基礎が確かでない事業がたいへん多いので、それを政府が助けてやる。直接には助けてやらぬでも、復金を通じて助けてやつて生産を起すという形になつております。簡單に言いますと、民間のそういう基礎の薄弱な事業に、巨額な政府の資金を與えて、それを基礎にして、さらに巨額の日銀の不換紙幣をせわしてやるという形になつております。要するにこの三つの豫算を通じて考えられることは、行政はあまり整理しない。官吏はあまり減らさない。人件費、物件費は騰貴のままにしておいて待遇の改善はしてやる。こういうのがこの追加豫算の特色であると思います。この追加豫算を加えますと、本年度の豫算は二千六十六億圓となる計算であります。これが栗栖大藏大臣のいわゆる健全財政、健全金融を堅持して、國民資本の貯蓄に全力を盡すという覺悟をもつてつくられた豫算の實體であります。つまり栗栖大藏大臣の言われる言葉を私の今申し上げたところから飜譯し直すと、こういうことになると思います。とにかく形式的には財政のバランスが合つた、この上はどしどし不換紙幣を發行して、赤字の官業と赤字の民業とを温存し保育したならば、健全に資本が蓄積される、こういうのが大體栗栖大藏大臣の言わんとしておる點であろうと思います。しからばこういうために必要な資金を、政府はどうして調達するか、この豫算はどうして調達するようになつておるかという歳入の方面を見ます。これは三つにわけることができる。第一が直接税すなわち所得税が二百五十六億圓、それから増加所得税が六十億圓、非戰災者税が六十五億圓、合計三百八十一億圓、それが第一類、第二類はタバコ專賣益金の増徴二百五十九億圓、第三類は間接税の増徴、大藏大臣の言葉を借りて言いますならば、酒については十三割程度、清涼飲料税ついては二十割程度、サツカリン、飴などの物品税は十割ないし四十割程度の増徴、この收入が約二百億圓であります。この三つの分類の中で第一類をかりに所有者の税といたしますならば、あとの二者すなわち第二類第三類は大衆の税であります。この大衆税と所有者税との比は六十六と三十四であります。これにつきまして大藏大臣は次のごとく言つております。直接税と間接税との比率は今次豫算と當初豫算とを通算しますと、七對三となつており、間接税の割合は必ずしも大きくない、しかも間接税の増徴については、極力必需品を避けるなど、できる限り大衆課税を避けようと努力したと、こうあります。しかしせつかく努力されましたが、その結果は、右ようの比率でありまして、當初の豫算とは正に逆であります。その大部分は必需品にかかるようになつたわけであります。すなわち大藏大臣は努力して大衆課税をやつているのであります。彼はこの比率が最初の豫算を加えてみると、よほど緩和すると言つておりますけれども、このことによつて、栗栖氏の編成された豫算が石橋氏の豫算よりは反大衆的であるということをごまかすということは、ちよつとむずかしいと思います。そうして大衆の生活費は今日どなたも御承知のように赤字であります。これは經濟白書にも書いてある通りでありますから、この消費税の増徴は、ほぼそれだけ全部ただちに大衆の生活費の赤字となるでありましよう。それはすなわち國民經濟的に言えば、やはりその面からインフレーシヨンが促進されるということにほかなりません。
 これが今度の豫算の大體の性格でありますが、そこでわれわれ國民にとつて重大な問題となるのは、生産がどういうふうに進行しつつあるかということであります。生産の總合指數は、本年に入つてからでも徐々に上伸しております。しかしそれは七月が最高でありまして、八月、九月はすでに下降を示しております。この點先ほど土屋さんも申されたように、毎年後半期はだんだんと下降する傾向にあります。そうして今年の七月は最高と申しましても、戰前に比べましては四三%であります。約四割であります。この四割というのが、御承知の通り石炭や鐵について特別に無理をして、政府がたいへんな金を與えて、尻を叩いてでき上つた數字であります。要するにこういう事情から言うと、生産は今大體において停滯的であるということは疑いない。そういたしますと、どういうことになるか、つまり商品の供給の側から今のインフレーシヨンが多少とも緩和されるという見込みが、絶對にないということになります。そこで今後のインフレーシヨンはどういうふうに進行するかという問題は、もつぱら財政資金の支拂超過がどのくらいになるか。また民間の金融に對して日銀がどのくらい支拂超過をするかというこの二つの問題、この二つのテンポを、この二つの大きさを正確にはかれれば、ただちに出てくるのであります。結論といたしまして、私の豫想では今やこのインフレは、一段と危險な状態に突入しておると思います。そうしておそらくは、世界の歴史の上におけるインフレーシヨンの形態としては、最後の段階へ飛び込む一歩手前の形態であるように存じます。その理由を四つばかりあげます。最初の理由は、先ほど土屋さんから御説明ありましたのと同じ理由でありまして、一方においては歳入豫算が、租税の歳入がたいへん惡いということであります。第一・四半期の租税收入の實績は、豫定の七割ぐらいであるらしいです。これにまた新しい税をとるというのですから、この七割を維持することもよほど困難かと思います。他方政府の支拂いの方はどうかと申しますと、それには先ほど土屋さんの申されたようないろいろの困難があり、たいへん今支拂いが遲れておる状態であります。そうしますと、この方面から、この年末より來年にかけての政府の支拂超過はどのくらいになりましようか。あるいは數百億圓に上るのではないかと思われます。第二は鐵道通信、食糧管理等のいわゆる特別會計の事業資金の不足であります。この額は、私には正確にはわかりませんが、五百五十億ぐらいではないかと思います。そうしてこの不足額の五百五十億は、全部日本銀行から借入れるしか方法はないように考えられます。それが第二の金の出方、第三は形式的には民間金融になつておりますが、實質的には政府の金融とまつたく異らない。先ほど土屋君からの御説明のあつた復興金融金庫の事業資金であります。本年度の事業計畫は五百六十億圓となつておつて、政府の出資百億圓としますと、四百六十億圓という事業計畫で、このほとんど大部分は、あるいは九割ぐらいは、日銀の方からの紙幣をもつて融通されるということに、事實上なるのではないかと思われます。以上四つの項目を合計して計算しますと、政府のもつておる金よりは超過する。日本銀行から出ていく金額は、少くとも千數百億圓になります。これが今年の三月までの計算でありまして、これだけはどうしても支拂超過になる計算になるように存じます。それからもう一つ忘れましたが、先ほど土屋さんからお話があつたいわゆる地方財政資金、地方財政の不足の資金であります。これも相當巨額に上ることと思います。それで今の計算が必ずしも正確でなくても、大體の見當が千數百億圓に上ることは疑いないところであります。そういたしますと、年末における日本銀行券はどのくらいになるかという問題が、それに直接つながるわけでありますが、私個人、むろん何ら正確な計算の基礎をもたないのでありますが、今日二千億圓に達するだろうという計算が唱えられておるのは、もとより偶然ではないと思います。それを續けていきますと、來年の三月末、すなわち年度末には、あるいは日本銀行券の發行高は、二千數百億圓に止まればいいのであつて、下手をすると三千億近くになるのではないかということが豫想されるわけであります。そうして今や通貨の速度の増加は非常なものでありまして、それに反しまして信用取引の減退もまた著しいことは、今日銀行界のどなたも御承知の通りであります。そういたしますと、この程度の通貨膨脹、すなわち六箇月の間に通貨が約倍になるということがもし起るといたしますならば、それがインフレーシヨンということに對してどういう影響をもつか。また生活に對してどういう影響をもつかということは、想像にかたくないと存じます。要するに今囘の追加豫算を健全財政の豫算だと言うのは、とんでもない思い違いでありまして、それは日本の財政あつて以來、最も不健全な状態にある財政を示す豫算であります。否、この豫算によりまして、戰爭から戰後へかけて進んでおる日本のインフレーシヨンが、新しい段階にはいり、そうしてその段階への刺戟の一つの段階を、この豫算は示すものであると思います。これを大衆的な、すなわちわれわれ國民の位置から申しますと、千八百圓ベースはどうなるかという問題と、ただちにつながるのであります。一般の配給物價も非配給の物價も、九月には少し下落を示しておりましたが、今やそれがまた少しく上りつつあるよりであります。そうして八月、九月に少し下つたのは、主食の配給の増加ということが、おもな原因でありました。しかも十月は既にその反對を示しておるわけでありまして、配給品も非配給品も、ようやく高いという傾向であります。そしてそれを止むべき理由がどこかに見つかるかと申しますと、それははなはだ困難のようでありますし、また上述のような資金放出の必然から考えると、昨年同樣この下半期も概して物價は上騰の傾向をとる。これは一昨年もそうでありますし昨年もそうであつたように、ことしもまたそうであるということが、むしろ當然性の多い、プロバビリテイの多いところであると思います。しかも今囘の豫算それ自身のうちに、既にその原因がたくさん伏在していると思います。すなわち最低生活費を高める原因がたくさんあると思つております。單にタバコの値上だけを計算いたしましても、一人で三百六十圓、一家族にするならば千七百圓の負擔増加であります。これにその他の間接税の増加を入れますと、一家族數千圓の負擔増加になるでありましよう。そのほかに米を初めとする主食の値上りも何割かであります。郵便、鐵道の料金の値上りも豫想せられないことはない。從つてこれらのことを前提といたしますと、すべての配給品、非配給品は、さらに一層値上りするものと考えられる。簡單に言いますと、この豫算自身が千八百百のベースを破つて、これをはるかに擴張せねばならぬようにしておると思います。しかし問題はそこに盡きるのではなくして、これより後終戰以來の惡循環がより擴大した形において再生産せられるということにあるのでありまして、端的に申しますと、千八百圓のベースが單に今すでに維持がないのみならず、かりに維持しておつても、再び短時間のうちにさらに大いなる距離において維持しがたい事實が現われるということのうちにあるのであります。こう申しますと、皆さんが質問されるかもしれぬ。それではこの健全豫算が實行できぬではないかというのであります。むろんこの豫算の不健全性そのものは、つまりそこに現われるわけでありまして、明年度の初めの議會におきまして、何ほどかの追加豫算が必ず出るという事實となると存じます。しかもその追加豫算は、そう小さなものではあるまいと想像されるのであります。しからばそれは今の豫算すなわち八百五十億圓よりは小さいかどうかということ、そういう計算を正確にする材料を私はもつておらないのであります。役所でもなし、またそういう研究機關をもつているわけでもありませんから、何ら正確な材料をもたないのであります。しかしこういうことだけは言えると思う。終戰當時の日本の一般會計豫算は二百九十億圓でありました。それが二十一年の九月、すなわち石橋大藏大臣の當初豫算というものが六百五十八億圓でありました。それが六箇月經ちまして、二十二年の三月の追加豫算が五百三十三億すなわち本豫算とほとんど同じくらいであります。それでもつて二十一年度の豫算は千百九十一億圓となつた。すなわち最初豫算、九月の豫算が六百五十八億で、實際の成績は千百九十一億圓となりました。そして今度は二十二年の三月に提出された豫算によりますと、すなわち本年度の本豫算は千百四十五億であります。それに對して、今や八百五十六億圓の豫算が補正豫算として出たことになります。すなわち六箇月で本豫算の八割程度の追加があつたわけであります。全體が二千幾らと今日なつております。もし今申し上げた數字をずつとごらんになりますと、つまり昨年の九月に出した豫算が、半年後には九割の追加がある。それから石橋氏のつくつた本年度豫算は來年にしてまた八割の追加があつた。そうしてまた私の見るところによりますと、この豫算の方が石橋氏のつくつた豫算よりもより不健全であります。つまり私に對して、どのくらいのことか何らか推論しろと申しますならば、來年の春の豫算が、すなわち今の豫算八百五十億以下であるというふうに言うことははなはだむづかしいのであつて、もしそれ以下であればむしろ僥倖であると言いたいのであります。もしそういうふうになりますと、昭和二十二年度の豫算が全體として約三千億ということになるわけであります。しからばそのさき二十三年度、來年度はどうなるか。これはすでに大藏省が今問題にしておるところでありましようが、私はそれについて、これ以上むりな推論をすることは必要ないと存じます。
 そこで結論を申し上げますが、安定本部は今年こういう計算を出したのであります。日本の本年度の國民所得は八千五百億圓である。これをどうわけるかと言うと、千二百億圓を産業資金に使う。國民消費のためには六千二百億圓が必要である。そういう話であります。それによりますと、財政資金としては千百億圓以上であつては計算が合わぬということであります。しかるに今計算したところによりますと、一般會計でさえ三千億ということになりそうなわけであります。これにまだ地方財政の會計や、特別資金の會計やにおけるいろいろの資金を加えますと、どういうことになりましようか。かりにそれが四千億圓となるとして、今申し上げた産業資金を安定本部に從つて千二百億圓といたしますと、殘りはたつた三千三百億圓ということになりそうであります。そうするとどういうことになりますか、われわれ國民は去年今の安定本部が一應計算したと稱する生活資金の半分でもつて、約四割で生活しなければならぬということになるのであります。これがつまり健全財政、通貨に對する信用を維持増進するということに命をかけてつくられた豫算の全體のわれわれに對する意味であります。

発言情報

speech_id: 100105262X00119471111_004

発言者: 大内兵衞

speaker_id: 24309

日付: 1947-11-11

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会