柏田新兵衞の発言 (治安及び地方制度委員会)

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○公述人(柏田新兵衞君) 私はこの機會に特に財政上、治安上より見たる市町村警察、公安委員會、國家地方警察、市町村警察相互應援關係、三多摩の特殊事情等地方の實情を申上げたいと思いますが、只今までの方々と多少重複する點があると思いますけれども御了承をお願いいたします。
 先ず財政上及び治安上から見た市町村警察でありますが、御承知のごとく現在は各市町村共に財政は極度に逼迫しておる状況でありまして、一部の市町村におきましては吏員の給與も延滯する状況であります。その上先に六・三制が實施され、初等中學施設の擴充の方へ相當多額の財源を要しまするが、その捻出に困惑し住民に多額の寄附割當を行い、不評を買う等、窮状打開に頭を惱ましておる向もある實情であります。新制度の實施につきましては、市町村當局者は、自治體警察は民主警察の本領であるとして喜んではおりますものの、以上のような實情でありまするので、現在通り國又は都道府縣で賄つて貰えるならばともかく、將來市町村で賄うことなれば財政上困るという意向が一般的であります。これは全く財政苦の實情から出ずる眞意と察せられるのであります。
 又自治體警察の要員は人口數によつて決められるという點から、少數人員の警察署では、今日のような犯罪の多發情勢に對應し、豫防檢擧の十全を期し、よく治安を維持し得るか、これは恐らく維持できないであろうと少からず心配している向が多いようであります。
 こういう點から自治體警察の設置を好まないという風潮も可なり強いように存じます。さればといつて關心がないわけではありません。殊に市町村の體面上から新制度に對する身振りもありまして、例えば市街的な所がないから恐らくできないだろうなどというような警察官があるとすれば、その好むと好まざるとに拘わらず直ちに批判的な空氣を釀成するというような極めて微妙な状態がないでもないと考えます。これは畢竟するに新制度の枠がはつきりせず、模糊の状態から來る焦躁氣分があるのではないかと存じますので、速かに法案の成立を見、實施の限度を明瞭にいたしますことは、人心安定上から極めて必要だと存じます。
 一面かような状態からして、各市町村が連繁して組合警察を設置すれば、財政上は固より數的體制も亦體面も整い、治安維持上からも大いに利益だという考え方も濃厚なものがあるように存じます。併し又設置の必然的状態からして、今後は住民一體の防犯的な態勢を強固にし、大いにこの間隙を防止しなければならんという建設的な考えも目下強くなりつつあります。從つてこの流れは組織の切迫するに伴い一層増大し、不安のうちにも一沫の希望を持つて當らんとする傾向が強くなるように存じます。
 以上は市町村當局者の意見を總合した見解であります。
 一般住民の意向といたしましては、比較的關心が薄く、ただ自治體警察となつて、費用の負擔を加重されることは困る。即ち現状維持の聲が大多數であり、又警察の弱體化を虞れる者、或いはこれと逆に弱體化を豫想し、むしろ喜んでおる者、一部の者は駐在所員に對し、今後は公安委員會の手で警察官の進退が自由になると、いわゆる嫌がらせを言う者等、極めて打算的なものがありますが、大體は本制度は上からの命令だとして観念的な者が多い實情であります。
 そこで市町村警察に對する警察官の關心でありまするが、大體警視廳警察官の考え方は、第一に特別區たる東京警視廳、次に國家地方警察という考え方が強く、殊に青年警察官の殆んどは市町村警察を好まない氣風があります。その原因は人口の少い市町村では公安委員に人を得ない場合が多いので、常にボス政治に禍いされるとなす者、又署員の數が少ないから、昇進の途が塞がれ、希望が持てないとなす者、又少數の人員では兇惡犯罪殊に集團的な強窃盗の檢擧防遏が無力化し、治安維持の責が負い切れないとなす者等であり、更に感情的には、例えば官吏から公吏になること、服裝の違いから限られた區域の警察官となつてしもうこと、財政の點から待遇が惡くなること、或いは公安委員たらんとする者の言動に嫌や氣がさし、安全なる國家警察の要望等でありますが、これらは指導教養と時日の經過によつて漸次是正せられております。そこでかような傾向から若し市町村相互間で人事の交流が認められることとなりますと、警察官の士氣は昂揚し、警察力の充實にも與つて力ありと存ずる次第であります。又このことは全警察官の希望するところでもあると存じます。
 次に公安委員會でありまするが、このことにつきましては相當の關心を持つておる者が多く、名譽職又はいわゆる有力者間ではすでに暗躍を續け、來たるべき機會に地位を得ようとする者もあるようで、又中には公安委員が内定したと稱し、内定者のおのおのが異つた警察官を署長として推薦方當該署長に依頼する等、すでに暗鬪を展開するは想像に難からざるものあり、或いは自分は今度公安委員になるからと警察官に暗に利權を強要する等、露骨な方途に出ずるような惡質な者もあり、とかくの風評を生じつつあります。從つて識者間では大いに顰蹙すると同時に、前途に對し心配も可なり強いようであります。これは單なる杞憂として一笑に付すべきものではなく、公安委員の人選がいかに重大であるかを證左する一面だと存じます。即ちこの人選を誤れば、直ちに運営管理の公正を傷い、社會の信用を失墜いたしますのみならず、警察民主化による少數分散の弊と發し、市町村警察の墮落、無力化を招來し、延いては反動的氣運をさへ生ずるの虞れがないではない。誠に重大なことでありまして、市町村當局者は政黨政派を超越し、私事、交友に禍いされず、常に公正を保ち、範を將來に埀れるの卓見が必要であり、又地方議會は自治警察擁護のために遺憾なく本領を發揮し得るよう、指導育成に御考慮を拂われるよう、職を警察に奉ずる者といたしまして特に痛感する次第であります。かくいたしますれば、本法案の公安委員制度は、むしろ公選制度に勝るものと思考いたします。
 次の國家地方警察、市町村警察相互間の關係でありますが、法案においては、國家地方警察の應援に關する規定はありますが、これと逆に市町村警察の應援條項はなく、一方的規定に終つております。勿論全國の實情は概ねその構成要員において又警察諸施設において主從關係が餘りに明瞭でありますが、ただ東京のごとく、特別區警察と國家地方警察とを對比いたしますと、これは又全く前者と地位を轉倒し、特別區のいかに有力であるかは言を俟たないところであります。この有力なる特別區警察との相互應援關係を規定いたしますることは、特に三多摩の實情から見て必要緊喫のことだと存じます。
 更に三多摩の事情を申上げますが、御承知のように東京區部に近接し、犯罪發生状況から見ますれば、全く首都の延長であり、亳も區別すべき開きはありません。のみならず中央線を利用する沿線居住者の被害は區部以上のものがあります。殊に三多摩地帶には多くの軍施設があります關係上、交通輻湊し、他地域に異る實情がありますから、人口比率によつてのみ要員を決めることは治安上危惧の感があります。これがため一面では有力なる國家地方警察隊の設置を必要とするという意見さえ聞くことがあるのでありまして、かような特殊事情も御考慮の上、民生安定の方策をお立て願いたいと存じます。
 次に新制度が發表された後の三多摩を中心とした治安のことでありますが、その直後におきましては相當動揺の兆を見たのであります。即ち九、十兩月の休暇日數を對比いたしますと、後者が遙かに休暇日數が多く、その一面を物語るものだと考えます。併しその後段々外貌を掴み得たのと、上司の適正なる御指導とによりまして、兩月の犯罪檢擧數を對比いたしますと、各署共後者の方が檢擧率がよい署が多いのであります。從つて本制度には尚相當の關心を持つてはおりますが、治安維持の重大性をよく認識し、職責の遂行に搖ぎなきことが分ります。これは三多摩の事情を中心に申上げましたが、恐らく全國を通じてかような状態ではないかと存じます。
 最後に本法案に對する檢討でありますが、本法案の骨子は、先に發表せられましたマ元帥の書翰によるものであるように察せられ、誠にその内容は嚴なるものがあると思います。從つて私共といたしましては、檢討そのものよりも、本案成立後に來る實施によつて生ずることあるべき各種の弊害を、私共の力を以て匡救し、警察民主化の要請に深く應え、國民の信頼に副わんとする覺悟であります。

発言情報

speech_id: 100114398X01819471126_021

発言者: 柏田新兵衞

speaker_id: 2259

日付: 1947-11-26

院: 参議院

会議名: 治安及び地方制度委員会