守屋典郎の発言 (治安及び地方制度委員会)

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○公述人(守屋典郎君) 警察法のような非常に人民の生活に關係の深い法律を參議院の公聽會で審議されますことを、參議院に對しまして敬意を表する次第であります。
 誰もが知つておりますように、今度の警察法案は、これはマツカーサー元帥が片山首相に宛てました九月十六日の書翰によつておるものでありまして、政府を初め支配階級の人々の意思から出たものであるとは考えられないものであります。例えば片山内閣の副總理芦田外相が、六月五日の外人記者團との會談におきましても、警察力の強化、機關銃、自動小銃の携行というようなことを訴えておりますし、又反對黨たる自由黨の大村内相は先の議會で警官二十萬人の増員を訴えております。而もこれらの人々は同じように、警察を強大にしなくては治安の責任を全うすることができないということを主張されております。併しこれらの人人の言葉の中には、マツカーサー元帥の書翰にありますように「警察力を現在の中央集權的形態において保存することは、新憲法の精神および意圖と全く相容れないものであり、民主的發展に對し害をなすもの」であるという考えはどこにも見出すことはできません。この警察法案が不十分ながら自治警察制を採用したということは、これは極めて中途半端な内容であるにも拘わらず、我々はその進歩性を認めるものであります。併しながら支配階級の代表者の先の言葉でも明らかなように、彼らの意思は、この警察法案を提出されたにも拘わらず、獨占資本と官僚との指揮下にある武装しておるところの人間の、特別な、民衆から掛け離れた、民衆に對して向けられた組織として強化するということであります。この法案がいかに民主的に美しい言葉で飾られておるといたしましても、獨占資本と官僚との統制を命令との下に最も忠實に從う制度を築こうという精神が、法案の中を貫いております。法案の前文及び第一條には、新憲法の精神に從い、個人の權利と自由を保護し、國民に屬する民主的權威の組織を確立するというようなことが美しく書き立てられております。併しながらこの法案のどこにこれらの美しい言葉を人民の實際生活において保障する規定がありますか。これは地方自治法が認めたる程の地方分權をも蹂躙し、ボス制度の導入と地方の財政的負擔とで新らしい官僚主義を作ろうとするものであつて、芦田外相や大村内相の先の希望と正に合致したものであるということができます。
 内容にいま少し入つて申しますというと、この法案が國家地方警察と自治體警察とを分離して、双方の運營管理、地方行政管理を原則として別個なものとしたことはこれは進歩であります。併し都道府縣警察長とその區域内の市町村警察長との關係が、單に緊密に連絡するというだけではなくして、この法案によりますというと、國家地方警察が自治體警察に對して著しく優位の關係に立つて、地方の負擔において全體が一體をなすように組立てられております。第四條によりますれば、國家公案委員會は警察通信施設、犯罪鑑識施設、それから警察教養施設の維持管理を掌ることになつており、これらのことは國家地方警察の專任事項となつております。この三つの組織はいうまでもなく警察組織の中樞的施設である。これを何人が握るかによりまして、これが何人のために、何人に對して働くかということが決定するのであります。明治政府が警察國家を築き上げるために最初に着手強行したところの事業は、全國の通信網と警察電話網等を作り上げることでありましたし、又從來の天皇制警察制が世界に誇つた施設というのは警察電話であります。又犯罪鑑識の統一ということは、法律の解釋或いは惡用の統一ということと相通するものでありまして、從來治安維持法或いは經濟法規違反等の事例で、專斷的な解釋が行われ、これが檢事局、豫審を支配し、更に公判でも裁判官を著しく支配しておつたものであります。このように警察の權威を天皇制警察は能率主義という言葉で誇つておつたのでありますが、法案はこれを統一的に強化しようとするものであります。この警察精神こそ從來の警察の教養の内容をなすものでありますが、法案はこの教養施設を國家地方警察で專任的に握り、新らしい官僚主義を再教育しようといておるものであります。警察大學であるとか、菅區警察學校であるとか、その施設の名稱は法案で規定されておりますが、その教科目、その教師資格、その入學資格、このようなものは何ら規定しておりません。從來の警察制度を打ち壊して、新らしい民主的な警察制度を築き上げるということが要請せられておる際に、從來は從來だけに、この内容は明らかにせられ、法律で以て規定せられなければならないことであります。このような官僚主義が法案を一貫しておるところの精神であります。先に多くの方々からも言われましたが、例えば第十七條の人事權の問題、或いは第三十五條その他におけるところの官僚主義の上下體統制度、又附則第五條及び第七條によりますれば、新法の警官は從來の警官が横辷りになつておる。或いは又第六十條におけるところの報告教務、更に第四條第六號で、國家公安委員會は國家非常事態に對處するための警察の統合計畫の立案及び實施をすることになつておりますが、この最後の問題は、曾て軍が戰争の準備のために毎年やつていた動員計畫を思い起させるものであります。從來の天皇制警察制度を何時でも直ちに復活させ、且つこれを政治的に再び用いんとする準備をするものであります。
 ここでこの問題についていま一つ述べて置かねばならんことは、都道府縣警察のことであります。御承知の通り、地方自治法は、府縣の地方公共團體としての性格が市町村の性格と全く同じであるということを規定しております。然るに地方自治法の施行は、警察については無期延期されております。今度の警察法案で決定しようとしております。ところが、この法案によりますれば、市及び市街地的町村以外は、自治體としてのみずからその秩序を維持するところの機能を奪われ、國家の官吏によつて權力的に支配されるというのであります。これは明らかに矛盾であるばかりでなく、地方の封建的性格を權力によつて維持し、農民の供出その他の負擔を經濟外的力で以て強制しようというものでありまして、又官僚制度の社會的基礎であるところの封建的な零細農耕制度の下にある農民の惨めな生活を維持し、それを確保しようとするものであります。法案が若し眞に民主主義の警察制度に改められるというのであるならば、都道府縣警察から古い警察組織と警察精神とを一掃することがなくしてはこのことは不可能であります。
 次に法案において重要な特徴は、ボス制度と警察との結合を意識的に圖つておる點であります。現在の警察がブルジヨア、ボス、顏役、闇屋といかに深く結合しておるか、又腐れ切つておるかということは、國民の周知の事柄であります。このような警察の腐敗は獨占資本主義の全體が腐敗しており、闇とインフフと詐欺と恫喝とが支配階級がみずから權力を握り、その體制を維持するための基本的な戰術、武器となつておることに對應するものでありますが、この法案はそのような關係はそのままにし、或いはそれを前提として、ボス制度との結合を制度化せんとしておるのであります。その最も特徴的な規定は、國家、都道府縣及び市町村の公安委員の任命及び就任方法であります。この任命はそれぞれの首長が議會の同意を經て行うということになつておりますが、四月選擧における民主主義勢力の不成功の後、支配階級は今や最大の安心を以てこの任命方法を法案に規定したものであると考えられます。併しながら現在の状態のままでこの方法で全國一齊に任命されるところの公安委員は、さぞかし御立派な顏觸れであると思うのでありますが、この公安委員は、任命されるや否や忽ち人民と無關係なものになつてしまいます。而も彼らは最高の待遇の下に、任期の間その地位を法律で保障せられております。この制度の下では、公安委員は警察の腐敗を防止するどころか、恐らくで警察の腐敗を率先して深めるような人で構成されるであろうということは今日においても豫想されるのであります。眞に人民のための警察制度とは、このような法案の持つ内容ではこれは建設されません。この法案では、戰後の再建と秩序とをできるだけ從來の天皇制警察制度の經驗で以てやろうとしておるものであります。
 併しながら人民のための制度を眞に作るためには、先ず第一に自治體警察制度の確立が本當に起らなくてはならないと思うのであります。人民の生活の安全と人民的秩序の確立とを圖るということは、今人民が最も痛切に必要を感じておる問題であります。然らば、これを人民みずからの責任で以て自治體警察制度を確立するということこそが法律の本則でなければならないのであつて、國家地方警察は横の連絡機關として存すれば足りるのであらうと考えられます。それが法案では逆になつておる。
 序でながら、この法案の第四十二條で、自治體警察に要するところの經費は當該市町村の負擔を原則としております。附則第八條で、地方自治財政が確立されるときまでは、國庫及び都道府縣が負擔することになつております。これは古い民主主義の形式的な適用でありまして、地方の負擔とボスの介入とで官僚的な國家權力を固めようとするものであります。人民のための警察制度では、運營は人民の直接的な意思を基としてなさなければなりませんが、その財政的負擔は國庫が全額負わなければなりません。尚警察官が廉潔を旨とし、腐敗と職權濫用とに陷ることを防ぎ、且つこれを嚴禁するために、警察官とその家族が必要な生活手段と待遇とを國家は保障しなければならんと思います。これは千八百圓ベースではとてもできんことであります。又警察官の勞働組合の組織、その爭議權の自由を認めなければならんことであると考えます。
 第二に、人民の警察權への直接參與の問題であります。その方法は、公安委員及び警察の長公選とその召還權の確立であります。地方自治法すら、知事の公選と召還權とを規定しております。これは憲法第十五條の精神であります。況んや人民の生活に更に直接關係するだけでなくて、從來テロと抑壓の中心であつたところの警察におきましては、公安委員と警察の長とに對するところの人民の監視は更に嚴重であり、且つ效果的でなければなりません。警察の長の下にあるところの警視から巡査に至るすべての警察官吏についても亦その通りでありまして、これらのものに對しまして、人民の彈劾權が規定され、實行さられ、そうしてその腐敗行爲に對しては嚴罰を以て臨まなければならんことであります。こうしてのみ警察制度が人民に對立したところの支配階級のための官僚的支配機構として固著が防がれるであろうと考えるのであります。
 この法案は美しい言葉を以て始まつております。その提案理由も、日本國憲法の精神に則り、警察制度を改革して、その民主化を圖る必要があるためだとされております。併しその内容は、凡そそのような趣旨とは相反しております。人民が參與し、人民のために、人民に對して責任を持ち、人民のために働くところの警察制度こそが、正に現在の日本がその眞實の獨立と名譽とのために、最も必要としておるものであるということを我々はここで強調したいのであります。

発言情報

speech_id: 100114398X01819471126_023

発言者: 守屋典郎

speaker_id: 24339

日付: 1947-11-26

院: 参議院

会議名: 治安及び地方制度委員会