鈴木茂三郎の発言 (本会議)
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○鈴木茂三郎君 私はここに上程された両派の日本社会党提案にかかる吉田内閣不信任案に関し、両派の日本社会党を代表いたしまして、ここに提案の理由の説明を行いたいと思います。
決議案の主文はお手元に配付してありますから省略をいたします。
吉田内閣の積年にわたつて累積した失政は、ここに列挙することのできないほど限りなくたくさんありますが、そのうちのどの一つを取上げてみても、その一つだけでも吉田内閣が不信任さるべき理由が十分にあるのであります。(拍手)
私は、ここに三つの理由をあげて、吉田内閣を国会の名において弾劾せんとするものであります。(拍手)吉田内閣に対する不信の声は、全国の津々浦々、農村に、漁村に、都会に、工場に、国民のあらゆる階層の中に満ち満ちて、今や国をあげて憤激のるつぼとなつているのであります。(拍手)私は、国民の名において、ここに吉田内閣の総辞職を要求せんとするものであります。(拍手)
吉田内閣不信任の第一の理由は、吉田内閣は、日本の独立と平和を犠牲にして再軍備を強行するために、国家の基本法たる憲法を踏みにじり、憲法を空文化して、何ら自省するところがない。私はこれをまず糾明せんとするものであります。わが国憲法がいかなる経過をたどつて成立したにいたしましても、わが憲法は、戦争を放棄した、絶対平和と基本的人権を尊重する民主主義の二つの根本精神によつて貫かれたものであることは申すまでもありません。しかも、この憲法は、国土の四分の一を失い、重要施設、財貨を焼き尽し、三百万同胞の血を犠牲としてあがなわれたものであればこそ、それであればこそ、主権が国民の手に確保されていることが宣言されているのであります。(拍手)従つて、日本国民は、すでにこの憲法を自分自身のものとして信奉しているということを私は確信するものであります。しかるに、吉田内閣によつて締結された安保条約、行政協定が憲法違反であることは申すまでもないことである。また、警察予備隊が保安隊となり、さらに自衛隊たらんとして、おたまじやくしは遂にかえるとなつた。いわゆる戦力なき軍隊なるものは明らかに戦う軍隊であつて、それが恒久の平和を念願して戦争を放棄した憲法の前文と第九条に違反するものであることは、明々白々の事実であると思います。(拍手)しかも、吉田内閣は、やがて予定されているいわゆる太平洋軍事同盟に参加し、海外派兵も可能であるという立場から、着々と陸海空の自衛隊の完成を急ぎつつある状態であります。これがため、アジアの重要な諸国とは無協約状態のまましかも一、二の大国を仮想敵として、吉田内閣は、日本をある一国の前線基地として、軍事態勢をとつております。従つて、原爆や水爆の戦略が行われようとする今日、日本の平和は重大な危機にさらされていると言わなければならないのであります。(拍手)
他方、吉田内閣は、憲法に対しまして、公務員の団結権、罷業権あるいは政治活動の自由を抑圧している。石炭、電力におけるスト権を制限している。天下の悪法たる破防法を制定いたしました。その上、この国会に、教育者からすべての政治活動の自由を奪いとつて、刑事罰をもつて処罰せんとする教育法案を提出しております。人事院の勧告、公共企業体の仲裁裁定等を空文化しているのでありまして、これもまた憲法第三章の三十箇条にわたる国民の権利と義務に関する民主主義の基本に違反することは明々白々であるのであります。(拍手)こうした吉田内閣の態度は、国の最高の法規たる憲法の条規に反する法律、命令等はその効力を有しないとなす憲法第九十八条を無視したものであります。特に私が遺憾にたえないところは、吉田内閣のかかる憲法の蹂躙は、ひとり吉田内閣の意思だけによつて行われておるのではなくて、かつてはこの憲法制定に指導的な役割を演じた同じ外国を背景として行われておるということであります。(拍手)秘密と独善による、特定の一国だけに依存する誤つた吉田内閣の外交方針のために、日本の独立が侵され、平和が脅かされておることは、国民とともに、われわれの断じて許しがたいところであるのであります。(拍手)
吉田内閣不信任の第二の理由は、その財政経済政策の無方針、無定見による自由放任の結果、国家の独立を促進し、産業を起して国民生活の安定を裏づけるために、すみやかに達成しなければならなかつた経済の自立をまつたく不可能とし、さらに現在重大な経済危機に直面せしめるに至つておることであります。日本の財政の確立、経済の自立の上に、吉田内閣のこうした誤れる外交政策は何をもたらしておるか。国際的には、まず国家の独立を保障する経済の自立に不可欠な条件である中共やソ連等との通商はほとんど杜絶した状態のままに放置され、東南アジアとの貿易の発展は著しく阻害されておる次第であります。政府は、アメリカのいろいろな形における援助をあげて、その誤れる外交を弁護しようとされておる。しかし、これに対し、その反面において、われわれは二十一億ドルの負債を背負おされておることを見のがしてはならないのであります。政府は、また、年々七、八億ドルに達した特需が一時的には日本の軍需産業と国際収支に寄与したと強弁をされております。これも、その反面において、われわれは、米軍の駐留に年々支払う五百五十六億円の防衛分担金と、七百三十箇所に及ぶ軍事基地挺供の代償をわれわれは背負わされておることを見のがしてはならないのであります。(拍手)軍需産業に幾らかの利益をもたらしたといたしましても、これまた、その反面において、多くの平和産業と貿易の市場がこれがために犠牲となつて、日本経済の自立が不可能となつたという事実をわれわれは見のがしてはならないのであります。すなわち、吉田内閣の誤れる外交のために、日本をアメリカの軍事的、政治的な支配下に置いただけでなく、こうして国民を経済的な貧困と隷属のもとに置いたと言うことができるのであります。
私は、こうしてもたらされた最近の経済に関しまして、特に重大な危機の状態を国際収支の上に見ることができると思います。貿易の赤字を保有外貨の食いつぶしによつてまかなつて来た国際収支が悪化いたしまして、円為替レートはただいま最大の危機に直面をしておるのであります。こういう事態を招いて参りました国内の対策として、政府は自立経済確立の計画と熱意を持たなかつたこと、アジア大陸との平和的貿易を犠牲にしたこと、必要な国家産業の復興と開発を放擲したこと、そうして一切の努力を再軍備に集中して来た失政の累績した結果が今日の経済の危機をもたらしておることは疑いないのであります。(拍手)現に、吉田内閣は、今期国会において、外国に強要されたにいたしましても、外国となれ合つて保安隊を自衛隊に強化し拡大するために、わが産業を危うくし国民生活を窮乏に陥れるような耐乏予算を国民に強制しておるではありませんか。こうした政府の失政の影響をまつこうに受けてその犠牲となつているものは、経済力のきわめて弱い中小商工業者であることは申し上げるまでもありません。農民はもとより、物価に追いつけない低賃金と失業におびえておる労働者も、こうした一切の政府の財政経済政策の失策が働く勤労大衆にしお寄せされておる。これが吉田内閣の財政経済政策の特徴であると断ぜざるを得ないのであります。(拍手)
吉田内閣不信任の第三の理由は、いわゆる汚職事件に対して、吉田内閣の政治的責任を、私は国民とともに、あくまでもここに追究せんとするものであります。(拍手)吉田内閣のいわゆる汚職問題は、その深さ、その広さ、すなわちその規模において、またその醜さ、きたなさ、すなわちその内容において、わが国の議会政治始まつて以来初めてのことで、天人ともに許さざる不祥事件であります。(拍手)検察当局の手が延び、事件の発展に対応して吉田内閣のとつた態度は、ことごとく国民の疑惑を深め不信を高めた結果となつているのでありまして、ことに逮捕許諾の請求が党の最高首脳部にまで及ぶにあたつて、吉田内閣のとつた検察庁に対する不当な政府的干渉は、国民の良識をもつてしては判断することのできない、まことに言語道断の暴挙と言わなければならぬのであります。(拍手)私がここに追究せんとする点は、刑事上の問題ではありません。吉田内閣の政治上、道義上の汚職事件に対する責任を国民の前に明らかにせんことを要求するものであります。(拍手)
この汚職事件について私が特にここで指摘したいと思う点は、こうした未曽有の汚職事件は、単純なる汚職ではありません。第一は、吉田内閣の政策の行き詰まりの必然的な結果であるということを指摘いたしたいのであります。(拍手)第二は、五箇年間の長期にわたつて政権の座にあつて、これをあたかも玉座のようにふるまつて来た吉田内閣の政治的道義が、その骨の髄まで腐り切つた結果であると言わなければならぬのであります。(拍手)第三は、吉田内閣の構成と政策が、すべて外国の勢力を背景として、近来急速に復活して来た財閥的独占資本との結託の上に運営されて来た結果であるということも指摘しなければなりません。(拍手)第四としてさらに指摘しなければならないことは、国会に絶対多数を有しない吉田内閣が、外には外国の強力な要請と、内には財閥的な独占資本の不当な請託に奉仕するために、自衛隊なる再軍備を強化するためのMSA条約、耐乏軍事予算や、勤労階級を抑圧するための諸法令等、一切の施策を強行せんとして、昨年来不純なる多数派工作を行つて来て、すでに命脈の尽きておるはずの吉田内閣を今日まで延命させて来たその多数派工作によつてこうした汚職疑獄の起つたことを、私はここに指摘しなければならないのであります。(拍手)従つて、この汚職は、吉田内閣の基本的な政治的基礎と性格、さらに特殊の国際的背景とからみ合つたその間違つた政策から、必然のできごととして起つたものであり、自主性を失つた政府の当然たどるべき運命であると言わなければならないのであります。(拍手)
吉田総理は、一国の総理が外国との約束を履行しないで海外への渡航を中止しなければならぬようなことは国際的信義にもとると言われておるということが伝えられておる。これが事実であれば、吉田総理の心情あわれむべきであつて、汚職事件に問われるような人を総理の特使として海外へ派遣して重要なとりきめをさせたり、または汚職内閣の首班と見られているような立場の総理が海外に使いして恥を外国にさらすことこそ、私は国際信義の上から慎むべきであると考えるのであります。
吉田総理は国家や国民の利益のために辞職するわけに行かないとも言われておるということが伝えられておる。事実であれば、総理自身の利益や吉田内閣の利益を国家や国民の利益とすりかえて国民をたぶらかさんとする驚くべき欺瞞であつて、(拍手)私は、吉田内閣の総辞職することこそが、今や国家のため国民のための利益であり、世論があげてこれを要求していることを、総理は率直に知らなければならないと思うのであります。(拍手)
あるいは、総理は、現下の政局の混迷した状態に対して、重要法案が国会で審議の過程にあるとか、自分だけが政局担当の資格があるとかいうような考え方を持たれているようにも伝えられておる。事実であれば、それはとんでもない思い上つた考え方であつて、国民は吉田総理が一日も早く政治的責任を明らかにして総辞職することが現下の政局の混迷を解決する唯一の道であると期待しておることを総理は知らなければならないのであります。(拍手)
私が憂慮いたしておりますことは、こうして国会に対する国民の不信が高まつて参りますと、やがてはそれがテロリズムの風潮を生むおそれのあることであります。わが国の憲政史を振り返つて見ましても、多くの場合、スキヤンダルか、しからずんばテロリストの手で政権の転換が行われているということが忌まわしい事実であります。また、近代の世界史について見ましても、第二次大戦前において、政党政治に対する不信からフアシズムが生れるに至つたことは歴史によつて明らかでありまして、私は、吉田内閣がフアシズムを生み暴力を誘発するというよりは、むしろ吉田内閣それ自体が次第にフアツシヨ化しつつあるのではないかということを深く憂慮いたすものであります。(拍手)
吉田総理は、七十余才の老躯をもつて、複雑な国際情勢の中で、国家建設の困難な政務を担当せられ、今や身も心もともに疲労困憊されておるように見受けられることは、まことに御同情にたえないところであります。私は、吉田総理が、総理自身の晩年を汚さない唯一の道として、潔く国民の前に政治的責任を明らかにし、もつて民主政治への大道を切り開くこと、これ以外には日本を明るくする道はないということを、総理みずから知らるべきであろうと思います。(拍手)最近の地方選挙の結果は、国民のさし示す方向が端的に現われております。自由党を中心とした保守派と両派社会党の結束した革新派の京都知事の選挙の結果をごらんなさい。革新派は保守派をはるかに引離して圧倒的に大勝したではありませんか。(拍手)天下の人心は吉田内閣を去り、国民の支持は革新派にあることがこれによつて明らかにされたとわれわれは見なければならぬのであります。(拍手)
私は、日本の独立と平和を守るために、憲法にのつとつて民主主義を確立するために、計画と見通しを持つた財政経済の政策を実行し、日本の経済自立を達成して、働く人たちの生活を守るために、さらに、汚職によつて汚された議会政治の権威をとりもどし、国民の要望にこたえて民主的なまじめな政治を行うために、総理大臣吉田茂君の退陣を要求し、吉田内閣不信任決議案の提案理由の説明を終るものであります。(拍手)