田中稔男の発言 (本会議)

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○田中稔男君 私は、日本社会党を代表して、両法案に関し反対の討論を行わんとするものであります。(拍手)
 両法案によりますと、自衛隊は、保安隊及び警備隊と異なり、外敵の侵略に対抗することを主たる任務とするものであります。従つて、国際通念に照して自衛隊は明らかに軍隊であり、木村保安庁長官もしぶくながらこの事実を認めざるを得なかつたのであります。(拍手)しかしながら木村保安庁長官は、たとい自衛隊は軍隊であつても戦力なき軍隊だという詭弁を弄し、従つて憲法違反にあらずと強弁しております。私は、自衛隊は軍隊たることによつてすでに戦力であり、従つて「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」と規定した憲法第九条にまつ向から抵触するものであると確信するものであります。(拍手)
 日本国民は、憲法前文において「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と宣言しておるのであります。今日、世界各国の平和を叫ぶ人々の声は、ベルリン会議からジユネーヴ会議へとこだまして、国際緊張緩和の傾向はますます顕著でります。ビキニの死灰の戦慄はこの傾向に拍車をかけつつあります。今こそ、日本国民は、かの伝説の鳥フェニックスのごとく原子の死灰のもとから立ち上つて堂々と世界に平和を訴え、みずから再び憲法に約した非武装、不戦の誓いを新たにしなければならないときであると信ずるものであります。これが日本民族に真に永遠不滅の生命を与える唯一の道であります。
 政府は、国の自衛権は憲法第九条においても認められていると主張しております。私も、いやしくも国民が祖国を守る固有の権利を有することを否定するものではありません。しかし、私は、国を守るに武力をもつてせず、外交そのよろしきを得て国を守ることこそ最も賢明な方策だと考えるものであります。(拍手)吉田首相は、第六回国会の衆議院外務委員会におきまして、「日本は戦争を放棄し、軍備を放棄したのであるから、武力によらざる自衛権はある、外交その他の手段でもつて国家を自衛する、守るという権利はむろんあると思います。」こう答えて、私の所見とまりたく符節を合する発言をいたしておるのであります。(拍手)しかるに、今日政府は、首相のかつての正当な憲法解釈を翻して、自衛隊法第八十八条において、明らかに武力をもつて自衛権を行使する方針を打出し、しかも、てんとして恥じるところを知らないのであります。
 すでに一たび武力による自衛権の行使を肯定するならば、自衛と侵略とを区別することは困難であります。自衛隊法第七十六条において、内閣総理大臣が防衛出動を命じ得るのは、外部からの武力攻撃が現実に行われた場合だけでなく、単に武力攻撃のおそれのある場合をも含むことになつております。国際公法の通説として、自衛権は隣接した他国の領土に及ぶという解釈が一般に行われておりますが、政府もまた自衛隊の防衛出動に関連してこの解釈を採用しております。しかるに、攻撃は最善の防禦なりという言葉もありますから、日本が自衛の名のもとに他国の領土において武力を行使する場合、それがはたして自衛行動であるか侵略行動であるか、これを区別することはほとんど不可能であります。
 また、武力をもつて国を守ろうと考えるならば、日本は必然的に米ソいずれかに依存しなければなりません。原子兵器と超音速航空機の出現した今日、日本の貧弱な国力と、米ソ両国の間に戦略的要衝を占める日本の立地よりして、一国の単独の防衛は理論的にも実際的にも不可能であります。政府が日米安保条約とMSA協定によつて対米依存の防衛方針を立てましたことは、政府としては当然のことでありましよう。だから、私は、単に自衛隊が日本の再軍備であるという理由によつてこれに反対するものではありません。自衛隊がMSA再軍備であるということによつて結局アメリカの傭兵部隊となるにすぎないという理由をもつて、日本の独立と平和のために断固としてこれに反対するものであります。(拍手)かくしてでき上つた自衛隊が、アメリカ製の武器によつて装備され、アメリカの軍事顧問の教育訓練を受けて、日米行政協定第二十四条に約した非常時における日米共同防衛の義務、さらにMSA協定第八条に認めた国際緊張の原因を除去するため相互に合意することのある措置をとることの義務、これらの義務を履行するためにアメリカ軍の補助部隊として動員され、必要に応じて海外出動を求められる公算はきわめて大なるものがあるのであります。(拍手)
 諸君、アメリカは今日自由と民主主義の女神ではありません。国内においては、黒人に対する非人道的な差別待遇は今日依然として行われ、軍需資本家の裏層な生活の陰には悲惨きわまる貧民窟があり、反共ヒステリーのマッカーシズムは、かつてジェフアーソンやリンカーンによつて高揚されたアメリカ自由の精神を窒息させようとしております。国外においては、差迫つた恐慌の襲来からのがれようとして、世界至るところに自国製品、特に軍需品の市場を求めて狂奔しつつあります。特にアジアにおいては、日、英、仏、蘭にかわり、新しい帝国主義的支配者として歴史的に登場しつつあります。インドシナの燃え上る革命的民族運動に対処するためにアメリカが提案した東南アジア防衛体制の構想は、近き将来太平洋反共防衛体制にまで発展する可能性があるのであります。アメリカの、かかる帝国主義的脅威については、戦時中、当時の政府は、米英鬼畜という極端に誇張された表現をもつて国民に宣伝いたしました。その宣伝の当否はともかく、その脅威はそのまま今日においても存在しているのであります。当時に比べて増大してこそおれ、決して減退してはおりません。
 政府は、しきりに、日本がアメリカを中心とする自由世界と共同防衛体制を結ぶにあらぎれば中ソ侵略の脅威に対抗することはできないと説いております。国民の中には、この説を信ずる者が少くないのであります。はたしてソ連は日本に侵略するか。中国は日本に来襲するでありましようか。マレンコフや毛沢東にしても、革命はこれを他国へ輸出し得るものではないということは十分知つているはずであります。また、日本の改革を中ソ両国の軍隊の干渉によつて行おうと企てる者があるならば、民族の誇りがこれを許さないために、国民大慶の支持を失い、結局失敗に帯することは明瞭であります。さらに、中ソ両国は、人口は豊富であり、国土は広大であり、資源の点においては大体自給自足することができるばかりでなく、恐慌と失業を知らない社会主義体制の特徴として、無限に拡大する国内市場を有しているのでありますから、あえて海外に帝国主義的進出を試みる経済的な必要はありません。なるほど、中ソ殉国にとつて日本の工業力は一つの大きな魅力であるかもしれ幸せん。しかし、侵略によつてこれを得ようと欲するならば、日米共同防衛体制はしかれていなくとも、アメリカのこの戦争を誘発し、その結果日本の工業力が一瞬にして潰滅に帰することは容易に想像されるところであります。中ソ両国としては、むしろ平和的な経済交流によつて日本の工業力を利用することがはるかに賢明な方針でありましよう。しかも、中ソ両国の国民は、過去の戦争の悲痛な体験から、何よりも平和を望んでおり、また社会主義建設の大事業は平和なくして成功し得ないことをよく知つているのであります。私は、中ソ両国の平和政策がこの平和を熱愛する広汎な大衆に支持されている事実にかんがみ、その真実を認めてしかるべきだと考えるものであります。(拍手)あるいは朝鮮及びインドシナの事態を目して中ソ侵略を云々する者があります。朝鮮戦争は南北朝鮮の民族的な統一が実力をもつて行われたことに端を発し、これに干渉した国連軍が鴨緑江岸に殺到するに及んで、中国の義勇軍による参戦を誘発したのであります。インドシナ戦争は、フランス帝国主義の覇絆を脱せんとするヴェトナム人民の解放闘争が軍事的様相を呈しだものにすぎないのであります。これらの事態をもつて中ソの侵略を説くことは、すねに傷持つ者の被害妄想であります。(拍手)
 私は、中ソ両国の国民と同じく、アメリカの国民もまた平和を欲していることを確信しております。(拍手)そして、日本国民ももとより平和を欲しております。もし米ソ両陣営の指導者が真に賢明であるならば、そして特にアメリカの指導者が、帝国主義政策をやめて、国内においては軍需資本家の独占利潤のためでなく、国民の福祉のために再びニュー・デイールをより拡大された規模において採用し、国外においては社会主義諸国との平和約通商により経済恐慌を回避するほどに賢明であるならば、イデオロギーや社会体制の相違にかかわらず、両陣営は平和的に共存し得ると信ずるものであります。(拍手)わが日本社会党の自主中立外交政策は、まさに米ソ共存の可能性の上に立つものであります。われらが武力によらず外交によつて国を守ることを決意いたしますならば、外交は本来多面的な接触を特徴とするものでありますから、親米にして同時に親ソたるの自由の立場をとることが可能であります。かかる多面的善隣外交のみが日本の安全を守り、東西市場をともに日本に開いて、日本の経済自立を可能ならしめるものであります。
 汚職と疑獄に包まれた現在の国会は、国民の意向を正当に反映しているものとは考えません。従つて、国民多数の意向に反して、この防衛関係二法案が不幸にして国会を通過することもあり得るのであります。その結果、MSA再軍備ともいうべき自衛隊が実現を見るに至りましたならば、すでに述べました海外派兵等の危険のほかに、その内外に及ぼす影響は実に重大なものがあるのであります。
 すなわち、第一に、民主化の耳なお浅い日本において軍国主義的風潮が再現する危険があります。軍官民の社会的序列が復活するおそれがあります。ざらに両法案の内容を検討いたしますならば、自衛隊員の服務に関する諸規定や、防衛出動時に行われる施設の管理、物資の収用、業務従事命令等に関する諸規定は、いずれも国民の基本的人権を侵害するものであり、志願制度による隊員の増員が一定の限度に達し、遂に徴兵制度がしかれるに至りますならば、人権侵害はさらにはなはだしくなるものと考えられます。
 第二に、自衛隊によるMSA再軍備は財政上重大な負担を国民に課することになりましよう。外国の事例を見ましても、MSA援助は、被援助国の軍事費の負担を軽減するどころか、むしろこれを増大する傾向にあるのであります。(拍手)現に、わが国の昭和二十九年度の保安庁経費は、前年度に比し三〇%の増加を示しております。そのために、民生安定や、社会保障や、教育文化関係の経費が著しく圧迫されたことは周知の事実であり、この傾向は、再軍備の発展につれ、ますますひどくなるものと考えられます。(拍手)
 第三に、再軍備の進展につれ、日本の産業構造において軍需産業が畸型的に発達し、平和産業や中小企業が圧縮される結果を来す危険が十分に考えられるのであります。さらにMSA協定がわが国の軍需品に対する域外買付を期待しておりますが、輸出産業としての軍需生産という考えは、やがて日本をアジアの兵器廠たらしめようという構想に通じるものであります。そうなると、アジアの各地に絶えず朝鮮戦争やインドシナ戦争のような局地戦争が行われていることを望む死の商人の非人間的な心理を生むおそれがあるのであります。軍需産業の株が朝鮮休戦で暴落し、インドシナ戦争長期化の見込みで高騰したことによつても、この微妙な心理を示して余りあると考えます。
 第四に、軍隊は必然に軍事上の機密を伴うものであります。しかし、一たび社会の一隅に機密のとばりがおりますならば、やがてこれは社会全体に拡大する傾向を持つものであります。防衛秘密保護法は、今のところMSA援助武器のみを対象といたしておりますが、遠からずして広汎な対象を持つ軍機保護法が制定されるに至るであろうことは必至であります。その結果は、すでに制定されておる破防法や、目下参議院で審議中の教育関係二法案等とともに、言論や思想の自由のない暗黒社会を現出することになり、戦後十年にして日本の文化的後退が再び始まるおそれがあるのであります。(拍手)
 第五に、日本のMSA再軍備がアジア諸国に与える影響は実に深刻なるものがあります。今日の日本は、吉田内閣の方針により、アメリカ帝国主義のアジアにおける買弁の道をたどりつつあります。しかしながら、今や解放途上にあるアジア諸国民にとつては、日米経済協力の一環としての東南アジア開発というような構想は、東亜共栄圏のアメリカ製新版として、どこでも相手にされません。アメリカの完全な植民地と考えられていたフィリピンにおいてさえ、ナシヨナリスタ党の台頭とともに、アジア人のためのアジアという声が起り、日本の対比賠償案の、ごときも、フィリピン人の犠牲において日本の反共基地を推進するものだと非難する言葉が聞えております。爾余の東南アジア諸国における対日感情は一層険悪なものがあるのであります。かかる際、MSA再軍備を強行することは、日本がアメリカ帝国主義のアジアにおける番犬となることであり、アジア諸国民の恐怖と侮蔑の的となることでありましよう。(拍手)日本がMSA再軍備を捨てない限り、アジア諸国との真の友好を結ぶことは不可能であり、日本は永遠にアジアの孤児にとどまらなければなりません。(拍手)
 第六に、率直に言つて、自衛隊は一朝有事の際ほとんど役に立たないでありましよう。それは装備や編成の問題ではない。隊員の志気の問題であり、愛国心の問題であります。国民の生活が安定せず、国民の権利と自由が次々に失われつつある今日の日本において、青年にこの国こそ守るに値する祖国なりと感激せしむる何ものもないのであります。(拍手)従来単に有利な就職と考えて保安隊を志望した青年が多いことは事実であります。だから、保安隊が自衛隊となつて、いよいよ本格的な軍隊的性格を滞び、ちまたに海外派兵のうおさが高まるにつれ、現在実施中の保安隊員の募集が全国的に応募者の激減を見て難関に逢着していることは、木村保安庁長官の御存じのところであります。(拍手)アメリカの副大統領ニクソンは、奈良県下の若き一貧農から海外移住の希望を訴えられたとき、ただ一言、保安隊に入れと答えたのであります。確かに、保安隊は、そしてやがてできるかもしれない自衛隊は、日本の青年をアメリカの防衛のために大砲のえじきとするには役立つかもしれません。しかしながら、日本の防衛のためにはとうてい役立つものとは考えないのであります。(拍手)
 以上の理由に基き、私は、両法案が日本の平和と安全と繁栄をむしろ阻害するものと信じ、絶対にこれに反対するものであります。(拍手)

発言情報

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発言者: 田中稔男

speaker_id: 27262

日付: 1954-05-07

院: 衆議院

会議名: 本会議