辻政信の発言 (本会議)
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○辻政信君 私は「社会党の皆様とはまつたく異なる立場において、この法案をよりよくしたいということを念願いたしますがゆえに、多くの欠点を持つ政府の原案を無修正で通すことには遺憾ながら賛成し得ないものであります。
この法案は、三党協定の要綱に基いてつくられたものでありますが、協定に漏れた部分が事務官僚によつて不用意に瀕制化され、もしくは意識的に三党協定の精神をゆがめられた疑いが多分にあるのであります。木村長官の御答弁によれば、自衛隊は軍隊なりとの前提で法案を提出されたとのことでありますから、以下、その見地に立つて、最も重大なる三つの欠陥を指摘いたしまして、政府の反省を促したいと思うものであります。
その第一は、指揮官と幕僚の性格に対する認識を誤つておられる点であります。指揮官は、任務に基いて意思を決定し、部隊を指揮命令するものであり、幕僚は、指揮官の意思決定に必要な意見を述べて、それを補佐するものであり、部隊に命令する権限を持たないというのが常識であります。卑近な例を引用いたしますと、吉田総理大臣は指揮官であり、福永官房長官は幕僚であります。総理が御病気のときでも、官房長官が総理を兼ねることは許されないのであります。このようにわかり切つた道理が原案には無視されています。すなわち、陸海空の幕僚長は、その名の示すごとく、一面においては長官を補佐する幕僚であると同時に、他面において長官にかわつてその命令を執行する指揮官を兼ねるものとなつております。平時においては大した不便を感じませんでしようが侵略を受けて出動するような場合においては、統帥上の重大なる欠陥を暴露することは火を見るよりも明らかであります。このような非常識な制度は、おそらく日本以外の世界のどこの国にも見当らないのであります。自衛隊に直接侵略に対抗する任務を与える以上、これは明らかに軍隊であります。従いまして、幕僚と指揮官とを区別されて、陸、海、空自衛隊にはそれぞれ専任の最高指揮官を置き、その下に幕僚部を設け、その幕僚長をもつて統合幕僚会議を構成するように原案を修正されることは当然であり、かつ絶対に必要と考えるものであります。
欠陥の第二は、幕僚フアツシヨの危険をこの法案は多分に持つているという点であります。幕僚の下剋上を防ぐためには、その権限を適当に分散すべきであり、一つの部局に過大の権力を集中してはならないのであります。しかるに、本法案は、防衛局長に軍事と政治の基本的権限を集中し、統合幕僚会議は実質的には防衛局長の下請機関たる権限を与えられているにすぎないのであります。三党協定において、統合幕僚会議を新たに設け、その趣旨は、陸、海、空自衛隊の対立を防ぎ、訓練と運用と補給を調整し、純軍事の最高幕僚として長官を補佐するにあることはきわめて明瞭でありますが、協定に際し一つのミスを犯されております。それは、統合幕僚会議の権限のみを検討されまして、これと密接な関係にある防衛局の権限を調整されなかつた点であります。この過失に乗じ、事務官僚が特有の技巧をもつて彼らの希望しない統合幕僚会議を骨抜きにするように巧みに法制化したものであり、その結果は、防衛局長を中心とする官僚軍閥発生の重大なる危険を包蔵するものと断ぜざるを得ないのであります。この不安を除くために、防衛局長の権限を政務に関するものに制限をされて、純軍事に関しましては、三党協定の精神を生かして、統合幕僚会議をもつて長官の最高幕僚たらしむべきものと考えるのであります。
欠陥の第三点は、この法案がクーデターを企てるのにきわめて都合よく立案されているという点であります。すなわち、自衛隊法案の第百十九条の罰則を見ますと、自衛隊員が多数共同して上官の職務上の命令に反抗し、または指揮権を有しない者が上官の命令に違反してかつてに部隊を指揮した場合においても、三年以下の懲役または禁錮という、きわめて軽い刑罰を科しておるのであります。自衛隊は平時から兵器を持つておる十六万四千五百三十人名の集団であることを忘れ、また暴力革命を企てる者は、右と左を問わず、いずれの国、いずれの時代におきましても、必ず軍隊を扇動し、これを利用するものであるという歴史的事実を、吉田総理大臣以下政府の責任者も国会議員の各位もお忘れになつておるのではないかという[点であります。二・二六事件を再び起しても、その首魁が三年以下の懲役という寛大な処置をおとわになり、それで軍の規律が維持できるものとの自信をお持ちになつておるかどうか。私は、過去における苦い経験を回想いたしまして、傑然たらざるを得ないものがあるのであります。総理大臣は、昨日の内閣委員会におきまして、私の質問に対し、御意見はよくわかりました、今後よく検討したいとお答えになつております。
国家公務員法の第百十条には、一般公務員が給与規定に違反した場合においてさえ三年以下の懲役となつております。また、現在審議中の秘密保護法案におきましては、防衛機密を漏泄した者に対し十年以下の懲役と規定されております。これらに比べて、はるかにはるかに重大なる集団抗命罪と指揮権濫用の罪を三年以下とするがごときは、正気のさたとは考えられないのであります。元の軍隊ではもちろん、どこの国でも、この種の重罪には死刑もしくは無期をもつてしても、なおかつクーデターを防ぎ得なかつた幾多の事例があるのであります。三党協定では、この点について真剣な検討が加えられず、事務当局が事の重大性を理解しないで不用意に立案されたものと考えますが、このような恐るべき欠陥を知りながら無修正で法案を通過させることは、クーデターを助けるものと言われても御弁解の余地はないはずであります。少くともこの一点だけは、政府も与党も野党の皆様も、面子にこだわらず、党派を越え、心をむなしゆうして反省せられ、禍根を将来に残されないよう、国会の権威にかけて修正されんことを心から望むものであり、それをあえて無視されるならば、私は私の良心に対し絶対に同意し得ないものであります。
以上申し上げた三点のほかに、この法案はなお幾多の不合理と欠点を持つものであり、政府はきわめて近い将来に進んでその誤りを修正されんことを希望いたしまして、私の反対討論を終ります。(拍手)