原吉平の発言 (商工委員会)
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○原参考人 私は大日本紡績株式会社の原吉平でございます。今回繊維工業設備臨時措置法案について私の意見を聴取せられましたので、簡単に述べさしていただきたいと思うのであります。
まず最初にわが国繊維産業を概観いたしますと、一応飽和点に達しましたと考えられます部門と、また今後大いにその伸張を必要とするような部門もあります。従いまして今後日本の繊維産業全般の健全な発達を期するためには、どうしても総合的な施策を必要とするわけであります。しかも繊維産業は、その産業構造が中小企業と大企業とが並立しておりまして、むしろその基礎はより多く中小企業に依存しておる度合の高い産業であります。従いまして繊維産業全般としての合理的な方向を与えるためには、現在の段階におきましては、これを各企業または各産業の自主的調整のみによることは不可能でありまして、どうしても法的基礎において調整を行うほか方法がないものと考えております。
以下主として私のやっております綿紡績業の立場から、繊維工業設備臨時措置法案について意見を述べたいと思います。
第一番目に、需給関係から見た綿紡績の設備でありますが、わが国の綿業の需給関係が、すでに慢性的な供給力過剰の状態になっておりますことは、内需、輸出を含みまして綿製品の需要が九億三千万ポンドに達しました、戦後の最高記録を示しました昭和二十九年度におきましてさえも、綿糸布の在庫が約十万コリも増加しておりますことから見ましても明らかであります。昨年通産省の提唱によりまして、繊維産業総合対策審議会が設けられまして、その需給部会におきまして決定を見、かつ経済五カ年計画にも織り込まれるに至りました昭和三十五年度綿糸需要見通しは、二十九年度の需要をさらに上回る九億四千万ポンドとなったのでありますが、これを紡績するに必要な錘数は六百七十八万錘と見られておりますが、これを統計法に基いて報告されております本年三月末現在の綿紡績錘数は、実に八百二十五万錘となっておるのでありまして、これを前の六百七十八万錘と比較してみますと、現在の設備は昭和三十五年度の綿糸需要見通し量に対してさえも、なおかつ約百四十七万錘ほど過剰となっておるようなわけであります。このような過剰設備は、国内的に見ますればいわゆる不経済な二重投資であるばかりでありませず、これがために過当競争の原因となることによりまして、日本綿業の健全なる発達を妨げておるわけであります。
それから二番目に、過剰設備の国際的影響について申し上げたいと思います。これを国際的に見ますならば、設備過剰によって引き起される過当競争は、とかく対外的な安売りを招きまして、国際的非難を受ける原因となるわけであります。これは本年一月以降、政府の協力のもとに多くの犠牲を払って実施しておりますところの対米綿製品輸出調整措置を初め、われわれが綿製品貿易の面において常に内外に声明しております国際協調の精神にも反するおそれがあります。しかも戦後におけるわが国の綿紡績設備の増大につきましては、英国を初め世界各国の注目するところでありまして、一九五〇年に開かれました日米英の綿業会談におきましても、英国の代表が、日本における紡績設備の復興問題は、国内消費の水準とか、それから一定時における綿糸布の海外市場売れ行きの事情とか、または日本が必要とする原綿買付資金が得られるかどうかという、互いに相関連する三つの条件を勘案して、そのときの錘数をこれに応じてきめなければいけない、そのほかの方法によれば、必ず不均衡な状態が起るであろうと申しまして、さきに述べました需給関係の重要性を指摘しておるようなわけであります。わが国の綿紡績設備はすでに一九五〇年六月の四百万錘の制限撤廃以後、特に一九五一年には二百万錘、五二年には百十万錘という大幅の増加を示しまして、その後増加を続けて、本年三月末には先ほど申しましたような八百二十五万錘に達したのでありますが、右の事情を考えましても設備の増大を抑制して、さらに過剰生産力の調整を行うことによりまして、わが国綿紡績設備が無制限に増大するものでないことを、従ってまたいたずらに安売りによって国際的協調を乱すものではないことを示すことが、特にこの際重要であろうと思うのであります。
それから第三番目に、各国綿業の動向を簡単に申し述べて御参考に供したいと思うのでありますが、過剰生産力調整の問題は、自由企業を建前とする限り、もとより多くの困難を伴うものでありますが、このような傾向はひとり日本綿業においてばかりではなくて、世界綿業共通の傾向として注目されるわけであります。自由世界の綿業が生産能力と販売市場との間のアンバランスをどう調整するかという、いわば一つの転換期に立っていることは明らかでありまして、貿易自由化率の引き上げにより、またあるいはその他の政治的理由によりまして、国内市場の保護策及び植民地市場の確保策の望みを断たれた西欧諸国綿業が、自力更生ないし調整のための対策を真剣に考慮し始めて、またその一部がすでに具体化しておるようなことは、われわれとしても注目しなければならないわけであります。すなわち従来政府に対しまして綿業の保護政策を強く要望して参りました英国の綿業におきましても、昨年十月のコットン・ボードの総会以後、過剰設備の処理、設備の近代化、優良紡織設備の交代制、その他の機運が強まって参りまして、フランスでは業界の運営委員会によって、操短が実施せられておりますし、特にアルサス地方の多くの工場では、アルサス綿業事業団を設立して生産調節、過剰在庫の軽減及び非能率的な紡織設備の廃棄を企図し、すでに紡機三十万錘、織機五千台のスクラップ化が決定しております。イタリアでは三〇%の操短が計画されておる。またこのほか国際綿及び関連産業連合会でも全欧州的規模で過剰設備の処理問題を計画し、検討中といわれておるようなわけであります。
以上によって明らかなごとくに、日本綿業におきます過剰生産力調整の問題は、単なる綿業の縮小や後退を意味するものではなくて、局面を打開し、安定を通じて健全なる発展を遂げるための一つのステップとするところに重大なる意義があるのでありまして、世界綿業の動向をあわせ考えるならば、総合的な見地からすみやかに過剰生産力の調整をなし遂げることが国際競争力を増大し、輸出を振興する契機となるものと言えると思うのであります。
第四番目に、繊維工業設備臨時措置法案について申し上げますと、これはどうしても早急な成立が必要だと私は考えております。本法案はまだ不十分な点もあると思うのでありますが、もしもその成立がいたずらに遅延するということになりますれば、当初の目的を達成しがたいのみならず、かえってこの法律ができることを見越して設備増加を行なった者が得をし、設備の過度の増設を差し控えた者が損をするという弊害のみを残すこととなるのであまりすから、若干の不備はとにかくとして、早急に成立、公布、実施の必要があると思うのであります。すなわち登録制の実施を中心とする設備規制や過剰設備の処理を予想して、いわゆるかけ込み増設が行われていることは皆さんも御承知の通りでありますが、本法案がもしも不成立に終りますならば、今後の設備制限ができないばかりではなく、かえっていたずらに設備増加を誘発したにすぎないことになり、国内的には二重投資のむだを助長し、国際的には再び過当競争の原因を増大する結果を招来しますから、われわれとしては早急にその成立をはかっていただきたいと考えております。次に、本法案が施行されますならば、紡機メーカーとしての非常な大きな影響があると考えるのでありまして、本法案が設備規制や過剰設備処理を内容としておりますために、その成立が紡機メーカーに打撃を与えるおそれがあるとする向きもあるようでありますが、綿紡績におきましてはただに消極的な設備制限や過剰設備処理ということではなく、積極的に設備の近代化、合理化、すなわち量より質への発展ということが国際競争力強化の上から重要でありまして、これらの努力は一日もゆるがせにできないものであります。特に綿紡績業におきましては、業界が安定してこそ初めて近代化や合理化を強力に推進できるのでありまして、紡機メーカー自体としても紬紡績業の安定を通じて初めて紡績設備の量的増大にのみ依存することなくて、積極的に設備の改善、近代化の上にその基礎を築くという近代機械工業本来の姿に立ち戻ることができるのではないかと考えておるようなわけであります。
最後に結論的に申しますならば、まだ日本の経済全体としては私は平常化していないと考えておるようなわけでありまして、人のからだにたとえますならば、第二次大戦後においてようやくからだが回復しかけたところであります。従いましてわれわれがとる食事も、蛋白質とか脂肪質とか、いろいろな計画的な食事をとる必要があって、いたずらに暴飲暴食をするようなことがありますならば、また自分のからだをそこなうおそれがある。だからこの際に法律的にこれを規制して、適当な食事をやって、健康なからだに回復していくのが最もいい方向ではないか、健康なからだになりましたならば、そこで自由な、少々暴飲暴食してもかまわないのじゃないか、こういうふうに私は考えているわけであります。はなはだ簡単でありますが、私の意見をこれで終りといたします。どうもありがとうございました。