吉田初次郎の発言 (商工委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○吉田参考人 私は日本羊毛紡績会会長の吉田であります。
 近年の繊維工業の情勢にかんがみまして、長期的に見た総合的対策の必要であることは、業界のつとに考えておるところであったのでありますが、政府におかれましても、昨年の夏に学識経験者並びに業界の代表によって繊維総合対策審議会ができまして、諮問されたのであります。審議会におきましては、きわめて慎重に将来の需給の予想を立てまして、そのもとに必要なる総合対策を検討いたしまして政府に答申したわけであります。法案はまだ十分とは申されませんが、審議会の答申の骨子、趣旨を入れましてできたのであります。しかしながら他の産業との関係、ことに立法上の立場から非常に緩和されまして、繊維工業の現状におきましては、この措置は必要最低の限度と思いますので、ぜひともこの法案の実現を要望する次第であります。つきましては、何ゆえにこれを要望するかということにつきまして、少し御説明いたしたいと思います。
 まず第一に、繊維品は輸出における過当競争の排除が必要であることを感ずるのでありますが、繊維産業は戦前戦後を通じまして、輸出産業の第一位を占める重要産業の一つであります。しかしながら近年繊維品の輸出の数量が急増いたしまして、その価格が乱れるに及んで、米国等国際間に相当批判の的になっておることは皆様すでに御承知の通りのことでありまして、米国におきましても、ダラー・ブラウスの問題、また四月の初めにおきましては、羊毛製品の輸入制限に関する公聴会も開かれましたし、カロライナ、アラバマにおきますところの日本製品の販売を制限する法案通過のことも御承知の通りであります。もちろん輸出品の品質なり価格面の規制はある程度行われておりまするが、生産過剰による過当競争を続ける限り、根本的な規制は困難と思うのであります。しかして過当競争によって起る主たる原因は、設備の過剰にあると思います。また最近海外市場の動向を見ますると、後進諸国の自給度が非常に進みまして、あるいはアメリカを見ますように、輸出量の増大に伴うところの自己防衛のための織物関税の引き上げの動きであるとか、今後繊維製品の輸出の方向は、数量の増大よりはむしろ高級品の輸出ということに進むべき時期にきておると思うであります。このようなところに過当競争を排除しなければ、輸出市場を失うことは明らかであるということが心配されるのであります。
 次に重要な点は、繊維関連産業の慢性的の不況を打開するということであります。繊維関連産業におきましては、中小企業によって構成されておる割合が比較的多いのでありまして、一般的に申しますると、紡績業は比較的に大資本によって経営されておりまするが、織布等の加工部門の生産者はほとんど中小企業であります。また毛紡績におきましても、紡毛紡績は中小企業による経営がはなはだ多く、紡毛カードを一台ないし二台有する零細な企業が企業者の半数を占め、十台以下の業者が全体の九割を占めておるというような現状であります。これらの業種におきましては、小資本で経営できますために、好況時には設備が直ちに乱立し、設備過剰のために、たとえば紡毛、紡績のごときものは最近におきまして、継続的な不況に見舞われておるような状況であります。もちろんこれらの業種にありましては、すでに中小企業安定法に基きまして調整組合を設け、自主的に設備制限等を行い、あるいは同法に基きまして通商産業大臣の命令によって需給調整をはかってはおりまするが、これらの製品の種類別、個別的な需給調整では、各種の繊維が競合的あるいは補完的な関係にありますので実効がはなはだむずかしく、どうしてもこれには根本的に繊維産業全体の構造的の不権衡を是正するところの策が必要であると思うのであります。
 繊維産業全般にわたることは以上簡単にいたしまして、次に私の関係しますところの紡毛、羊毛工業の立場から簡単に公述していきたいと思います。
 紡毛紡績につきましてはすでに触れておりまするが、その設備は戦後、戦前の二倍になっておりまして、そのためにその不況を打開すべく調整組合を結成して、自主的の調整に努力しておる次第であります。一方梳毛紡績におきましては、設備は戦前の水準を少し上回っている程度で、比較的順調の経過をたどっておるのであります。その理由といたしましては、従来原料が割当でありまして、昭和二十八年の十一月末の設備によって割り当てておる関係上、その後ほとんど増設が見られおらないわけであります。原毛の輸入が外貨割当の面で制約を受け、操業度が低下しておるために、過剰設備の問題が今までは現われてこなかったのであります。しかるに最近わが国の対外収支が好転いたしまして、貿易の自由化への転向が明確化するにつれまして、一部梳毛設備の増設もすでに行われ始めたのであります。ことに貿易自由化の一環といたしまして、最近羊毛輸入に自動承認制、いわゆるAA制を採用しようという声が盛んでありますが、もしこのAA制が採用されますと、今まで羊毛輸入が割当制を通じて抑制されていたものがその押えがなくなるために、その反動として輸入が急激に増加することが考えられます。この場合に設備の新増設が自由になっておれば、従来より羊毛輸入が抑制されていたために押さえられてきたところの増設がこの際に急に微増して、一般羊毛の輸入が自由になればその輸入も急増いたしますから、毛製品の生産過剰に陥るおそれが多分にあるわけであります。この意味におきまして、もしも貿易自由化の傾向になり、AA制が採用されるところの機会が近ければ近いだけに、その前にぜひとも設備面を規制しておく必要があるのであります。最近羊毛業界におきましても、設備の合理化、近代化が盛んに叫ばれておりまして、老朽設備を近代的な設備に切りかえる向きが非常にふえてきました。これによりまして毛製品のコストを下げ、品質を向上するという動きが盛んになってきたわけであります。今後の毛紡績の行き方は、ただ単に設備をふやすということだけでなく、既存の老朽設備をできるだけ新式ものにかえていくことにあるのでありまして、いたずらに設備のふえることは業界の行き方に逆行するものでありますので、これも設備制限をいたしまして、その範囲内において老朽設備をどんどん新しくかえていく、これによって機械の注文も出る、製品の質も上る、能率も上るという方に進むのが行くべき道ではないかと考えられる次第であります。
 以上簡単に繊維工業設備臨時措置法案につきまして意見を述べましたが、繊維産業は国民生活に不可欠な衣料を供給するとともに、近来輸出産業としても非常に重要な地位を占めるようになりましたので、かかる産業の正常な発展のために、本法案の早期実現を強く要望いたしまして、私の説明を終ることにいたします。

発言情報

speech_id: 102404461X04419560508_010

発言者: 吉田初次郎

speaker_id: 24673

日付: 1956-05-08

院: 衆議院

会議名: 商工委員会