板垣修の発言 (農林水産委員会)
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○政府委員(板垣修君) まず、現在までにおきまする日韓交渉の現状を簡単に御説明申し上げますと、御承知のように、日韓交渉は、昨年の四月十五日から全面会談が開かれまして、途中一時停頓いたしましたが、十月一日から再開をされまして、昨年の暮れまで続きました。御承知のように、この日韓交渉のうちで最も大きな問題は、一つは、李ラインの問題でありますし、もう一つは、現在問題になっておりまする在日一部朝鮮人の北鮮帰還問題、この二つが非常に大きな障害になっておったわけでございます。それでいろいろな請求権委員会なり、あるいは文化財の委員会なり、あるいは船舶返還委員会、そういうものにつきまして、数多く委員会が開催されましたけれども、結局、この二つの問題に関連いたしまして、事実上、日韓交渉そのものは、あまり進展をみなかったということは御承知の通りでございます。それで暮れになりましたので、一まず、年末年始ということもありまするし、一時休会をいたしまして、一月の二十六日から再開しようということになっておった次第でございます。
そこで、今申し上げまする一番大きな問題であるところの在日一部朝鮮人の北鮮帰還問題でございまするが、これはまあ数年来この問題は実は日韓間に解けがたい問題として存在していたわけでございます。しかしながら、一昨年まではそう数多くの朝鮮人が帰りたいという意思表示もありませんでしたし、便船の問題などもございまして、事実上大きな政治関係にはならずに済んだのでございますが、昨年の一月、抑留者の相互釈放に関連しまする連絡会議、続いて全面会談が開かれまして、在日朝鮮人の国籍なり、あるいは職務の問題を議論するということになりまして、この問題が非常に大きな問題になったのであります。そもそもこの問題が大きくなりましたのは、大村収容所におりまする戦後日本に不法入国した者の送還問題というものに関連して、この問題が大きくなったのであります。韓国側といたしましては、日本におりまする朝鮮人は全部韓国人である、従って、この不法入国者を送還させるについても、全部韓国に渡せば引き取る、こういうことを主張して参りました。私どもも、建前としてはそれに異存はないのでありまするが、実際問題といたしまして、当時、大村収容所に収容されていました朝鮮人のうち、九十二名がどうしても自分は南鮮に帰るのはいやだ、どうしても北鮮でなければ帰らないという点から問題がもめまして、日本側といたしましては、理論的にはやはり個人の意思の自由を尊重すべきである、いやがる者を手足まで縛って南鮮には帰せないというので、両方の意見が完全に対立したのでございます。それで、日本側が無理を通しますれば必然的に全面会談も開かれませんし、釜山に抑留されておりまする漁夫の問題にも関連いたしますので、日本側としましては、やむを得ずこの問題はたな上げして一年間進んで参ったのでございます。しかしながら、いよいよ現在になって参りますと、御承知のように、昨年の夏ごろから大村収容所におる北鮮系の朝鮮人のみならず、一般に自由に日本に住んでおりまする朝鮮人の一部が、この際、日本でもちょっと生活の道が立たないから、どうしても自分たちは北鮮に帰りたいということを言い出しまして、そして非常に大きな集団運動、全国的な運動になってきたのは御承知の通りでございます。これに対しまして、日本政府といたしましては、やはり日韓会談の問題、それから特に釜山におりまする日本人漁夫の運命の問題に関連いたしまして、この問題の決定をずっと今まで押えに押えてきた。ところが、今の国内の情勢からいきますと、これ以上、日本政府といたしましては、帰りたいという運動をとめる理由が全然ないのみならず、また、とめることができない情勢に立ち至ったということでございます。とめる理由がないと申しますのは、御承知のように、世界人権宣言とか国際赤十字の原則というところから見ましても、やはり個人は自分の住むべき地を選択する自由があるということは、これは大体国際常識であろうと思います。それから日本の国内の法制からいいましても、出入国管理局の出国手続という問題があるだけでありまして、帰りたいという者を無理にとめるという日本の法制的根拠は全然ございません。ただ、現に国際赤十字からも従来しばしばこの問題につきましては関心を持って、もし日本政府が承諾するならば、この一部朝鮮人の北鮮帰還問題についてあっせんをする用意があるということを言って参りまして、間接に日本政府の注意を促してきた事実もございます。従って、こういうような内外理由からいいまして、どうしてもこの問題をこれ以上制限することはできないという非常事態に立ち至ったのでございます。
一面、日韓交渉の関連からいうと、確かに私どもは釜山の日本人漁夫の運命というものにつきましては、一番心配であったのでありますが、この問題につきましては、過去一年間、私どもといたしましても、この問題は交渉の議題となるべき問題でない、純然たる人道問題であるからして、昨年の一月以降、少くとも刑期の満了した者、できれば全部政治問題と切り離して帰してくれということを、しばしば外交交渉において、韓国側に申し入れたのでございます。しかしながら、遺憾ながら韓国側といたしましては、何らか政治交渉と関連いたしまして、絶対帰さないとは言いませんが、事実上、一年間帰ってこないという事実、従って、北鮮帰国問題はかりに延ばしましても、今、すぐ釜山の抑留者が帰ってくるという見込みはちょっとないのであります。従って、私どもといたしましては、むしろこの日韓交渉に横たわる二大問題の一つの李ラインは、どうしても日韓間の交渉で片づけなければならぬと思いますが、それと、われわれから見ますと、政治問題と関係ない人道問題、これが事実上の日韓交渉の大きな障害になっておる。これを片づけた方が、むしろ日韓交渉はしばらくの間あるいは中断するかもしれないけれども、かえって交渉のほんとうの解決を促進するゆえんかもしれない、そういうような奥地からいいまして、そうなれば抑留漁夫が帰る問題も、あるいはかえって早道になるかもしれない。これは多少希望的な観測に陥るかもしれませんが、こういうような考え方も手伝いまして、この際、この返還問題につきまして御方針の決定があった次第であります。しかしながら、御承知のように韓国側は相当非公式には、釜山の抑留漁夫は絶対に帰さぬというようなことを言っております。従って、われわれといたしましては、再びこういう新しい事態に立ちまして、必ずしも日韓交渉をわれわれの方から打ち切る必要はありません。なお、韓国との間に交渉を続けますが、さらに本来の問題、性質に立ち返りまして、まず第一に、赤十字国際委員会に依頼するという方法も考えられましょう。新たな情勢の推移によりまして、さらに国際的な方法をもってこの日本人漁夫の引き取りを促進するということを考えざるを得ないと考えておりますし、現に、いろいろとただいま検討をいたしておる次第でございます。この点につきましては、外務省といたしましても、あらゆる努力を傾倒いたしていく考えでございます。
一応簡単に今までの経過を御説明申し上げました。