柳田秀一の発言 (本会議)
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○柳田秀一君 私は、日本社会党を代表して、本決議案に賛成の討論を行なわんとするものであります。(拍手)
今日のように、いわゆるPR、マスコミの世の中では、政治に無理は禁物であります。無理あるところ必ず破綻が起こることは、諸君も御異論ございますまい。ところが、現在行なわれておりまする日米安全保障条約改定の交渉ほど、無理また無理の積み重ねは、近世条約史上たぐいまれなるものと思うのでありまして、以下、私は、この無理の数々を指摘しながら、討論を進めて参りたいと思うのであります。(拍手)
無理の第一は、国連においては、過日、八十二カ国が完全軍縮決議を可決し、やがては、世界各国も日本国憲法の崇高なる精神にならわんとする趨勢にある、まさに全人類の歴史的、一大転換期に立って、こともあろうに、平和憲法を誇りとする日本が、アメリカと軍事同盟を結ばんとするところにあります。(拍手)伝えられる条約文第三条に、「自国の憲法の規定の範囲内において」と称し、「武力攻撃に抵抗するための能力を維持し、かつ発展させること」を約束させられていることは、これ、すなわち、バンデンバーグ決議の示す条件であり、明らかにわが国憲法に抵触するばかりでなく、憲法の拡大解釈を得意とする政府が、憲法の範囲内云々と、よくもぬけぬけと言えたその厚顔さに、あきれ果てるのでありまして、全くナンセンスといわなければなりません。言葉をかえて申せば、わざわざこのような文言を挿入せざるを得なかったことは、その裏に、みずからやましさを自認し、暴露しているといっても過言でないでしょう。(拍手)同時に、これは、必然的に防衛費の増大をもたらし、これによって踊るいわゆる死の商人と称せられる兵器生産大資本を除いて、国民大衆の生活はますます圧迫されること、当然の帰結であります。彼ら一連の死の商人どもが、安保改定のPR用に三億円の大金を自民党に献金せんとしている事実を忘れてはなりません。
現に、なお戦争犠牲者の涙はかわいていない。働く意思と能力はあっても、失業者はちまたにあふれている。災害は年中行事のごとく国民を苦しめている。この風水害にしても、戦争によって山や川を荒廃せしめた上に、戦後もその跡始末すら満足にやらなかった結果の人災ではないと、はたして言い切れますか。伊勢湾台風だの、台風何号と呼ぶよりも、責任者の名前を冠して、岸災害何号とでも言った方が、よりはるかに国民感情にはぴったりくるでしょう。この国民感情をよそに、やれグラマンだ、やれロッキードだと、二転三転宙返り、文字通りの源田サーカスのあげく、スクラップ・ダウンの戦闘機を、血の出る思いの税金の中から買わされるざまは、一体何ですか。(拍手)国民は、アメリカ軍払い下げのズボンや中古洋服には見向きもしなくなりましたが、国防はアメリカのお古で間に合うとでも言われるのですか。
無理の第二は、アメリカの極東戦略整備の一環としての軍事同盟の性格を隠蔽せんとして、木に竹を継いだように、数行の経済的協力の条章を挿入することによって条約上の体裁をごまかさんとしていることであります。こうした経済協力関係を防衛のための条約の中でうたって、はたしてどれだけの実効がありますか。松村謙三先生も言われる、金権政治の権化の岸内閣が、おこがましくも、その公約に三悪追放をうたえば、小学生でも笑い出すのと、世人信用せざることにおいて、まさに同類項であります。(拍手)
無理の第三は、日本の施政下にある領域において、いずれか一方の締約国に対する武力攻撃が行なわれた場合には、自国の憲法上の規定と手続に従って、共通の危険に対処するため行動することを宣言する、というのでありますが、これまた、明瞭に憲法違反であります。すなわち、この場合、アメリカ側は集団的自衛権、日本側は個別的自衛権の発動を行なうことになるとの政府の解釈は、日本国憲法が、まさか集団的自衛権までも認めているとは、幾ら一方的な、勝手なごまかし解釈をしても説明ができぬうしろめたさからきたこじつけであって、これこそ、無理が通れば道理が引っ込むことわざの通りであります。
無理の第四は、極東における国際の平和と安全の維持に寄与するために米軍は駐留するというのであるが、この場合の極東は、使用目的の制限にはなっても、行動地域までも規制できないと理解するのが、すなおな受け取り方でありましょう。(拍手)あまつさえ、極東なる概念自体があいまいであるにおいては、在日米軍はどこにでも自由に出動し得るのであって、これが制約はとうてい不可能であります。この条項こそ、本条約の本質が、日本の防衛よりも、アメリカの極東戦略を中心とした軍事同盟であることを、端的に、如実に、遺憾なく現わしておるのでありまして、自民党内においてさえ疑惑を生み、さすがに先の見える河野二郎氏は、この条項の削除を一度は要求してみたものの、アメリカ側の受け入れ得ざることが判明するや、期限短縮に力点を切りかえたのでありまして、本条約が日本の平和に役立つにあらずして、日本国民の意思に反し、欲せざる戦争に巻き添えを食らう危険の可能性を物語っておると思うのであります。
無理の第五は、条約期限十カ年をアメリカの要求により押しつけられたことであり、これは、今日の話し合い外交や平和共存に向かいつつある国際情勢を無視するものはなはだしいといわねばなりません。米韓、米華、米比各条約にすら見られないところであります。現行条約の暫定性を取り除いて、十一カ年間固定して拘束されることが、どうして改定即改善と言えるでありましょうか。政府・与党の中にさえ、一年ごとに改廃できる条項を入れよとの要求が出てくるのも当然であり、安保改定の含む危険性と時代逆行性を明らかに示しておるというべきであります。
無理の第六は、例の事前協議についての交換公文であります。このことは、在日米軍の核武装に対する国民の憤りと心配をごまかさんとする窮余、苦肉の策であることだけは了解できます。(拍手)当初、外務当局の原案にあった、同意という字句が、アメリカ側からすげなく拒絶されて削除された、隠れもなき、いわば公然の秘密は、いかに政府が協議には拒否権ありと百万言詭弁をもってしても、三百代言か、しからずんば曲学阿世の徒輩はいざ知らず、カラスは黒い、サギは白いと、黒白を明らかにわきまえる人士には、およそ通用しない、へ理屈であることは、明々白々であります。(拍手)事前協議によって核兵器の持ち込みや米軍の域外出動を規制できるというのは、明らかにインチキであるのみか、特に、最近各紙の伝うるごとく、米軍が国連軍として行動する場合は事前協議の対象外であるというに至っては、何をか言わんや、事前協議はあってなきにひとしき空文であり、国民諸君は、ただ、あ然として、従来社会党が主張したることがいかに正しく、その反面、政府当局が国民をいかにごまかし続けてきたかを、今さらのごとく認識されたと思うのであります。(拍手)たとい百歩譲って、形式的には事前協議の対象になり得ても、わが国に拒否権がないことは、十二月十一日付のニューヨーク・タイムズ紙第一面に、「在日米軍の域外出動に対して日本に絶対的な拒否権を与えることにはならない」と権威筋も言明している旨外電が伝える事実に徴しても、疑う余地がありません。かくのごとき国の安危にかかわる重大関心事を新聞にスクープされ、すっぱ抜かれるまでほおかぶりをしながら、藤山外相のごとき、安保改定交渉は事実上終わったかのごとき態度で秘密外交に終始したことは、主権者たる国民を蔑視し、国権の最高機関たる国会を軽視するもはなはだしく、その責任まことに重大なりといわなければなりません。(拍手)
さらに重要なことは、この規定を条約本文の中に入れること、これまた、アメリカ側の拒否した事実が、何よりも雄弁にこの効果を明白に示していると言うべきであります。すなわち、アメリカ国会の審議の対象にならない交換公文に回されたことこそ、アメリカ側の真意を最も露骨に表わしており、在日米軍の装備の強化、特にその核武装化について、日本側から何らかの拘束を受けるがごときことは、米国上院のとうてい容認し得ざるところであることを証明するものであります。(拍手)もし、しからずというならば、何ゆえにわざわざ条約本文からはずしたか、その理由を見出すのに苦しむのでありまして、結果的には、愚かしくも、日米両国の共同責任体制を確立することに相なるのみであります。
以上、私は、この安保条約改定交渉が、いかに無理から無理の連続であるかを明らかにいたしました。これでは、本条約は、一名無理々々条約といわれてもいたし方がないでありましょう。かかる危険な条約交渉をこれ以上続けることは、アジア、アフリカ諸国の信頼を失い、日本はアジアの孤児となり、世界の期待を裏切る道以外の何ものでもありません。日本が、かつての戦争に対する反省どころか、戦争責任者の岸信介氏のもとで再び戦争準備を着々進めつつある今日の姿が、とりわけ、アジア民族の眼にいかに映りつつあるでありましょう。将来最も緊密に友好関係を保たねばならぬ隣邦中華人民共和国が、この点一番敏感に警戒しておるのも、決していわれなきことではありません。(拍手)
国際緊張の緩和、軍事ブロックの解消、完全軍備撤廃、平和的共存と、たとい、その達成には、かすに時日を要するにしろ、世界が大きく動きつつあることは、だれしも否定し得ざるところであります。国の大小を問わず、その強弱を問わず、世界の大勢に順応するものは栄え、これに逆行するものは、やがては滅びること、古今東西の歴史の教えるところであります。(拍手)無理に無理を重ねて、世界の平和が保てる道理がありません。この際、行きがかりを捨てて、すべからく、改定交渉は即時打ち切るべきであります。
国多難にして、つくづく人を思うのであります。自由民主党にも、憂国の士、烱眼達識の士は多士済々あろうかと信じます。ましてや、かつては軍国日本の輝ける指導者であり、あるときは、巣鴨プリズンでわびしく配所の月をながめながら、悔悟、ざんげの境地から、平和日本への挺進を誓われたはずの総理岸さんに、私は、最後に、心からなるはなむけの言葉を送って、本討論を終わりたいと存ずるのであります。(拍手)
それは、満州事変に始まり、一九三六年二月二十六日頂点に達した軍閥独善の世相のさなか、国民の胸を一瞬強く鋭くゆさぶった千古の名言、今からでもおそくはない、今からでもおそくはないということでございます。(拍手)