藤山愛一郎の発言 (本会議)

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○国務大臣(藤山愛一郎君) 日米安全保障条約改正交渉に関する現在までの経緯に関して、御報告いたしたいと存じます。
 安全保障条約の改正は、日米間の多年にわたる重要懸案でありましたが、一昨年六月、岸総理とアイゼンハワー大統領との会談において、当時の共同声明が明らかにしております通り、安全保障に関する諸問題を検討するため、日米安全保障委員会が設置されることとなり、この委員会は、同時に、安全保障の分野における日米関係を両国の国民の必要及び願望に適合するよう調整することを考慮する任務を与えられ、ここに安全保障条約改正への道が開かれたことは御承知の通りでございます。
 自来、条約改正の問題に関し、日米間に非公式に意見の交換を行なった結果、機ようやく熟するに至りましたので、昨年九月、私はワシントンを訪問して、故ダレス国務長官と会見し、条約改正交渉の開始を提議するとともに、条約改正に関する日本の希望事項を申し入れた次第であります。当時申し入れました事項を要約いたしますと、安全保障条約は現在まで日本の平和を守るため重要な寄与をなしてきたが、現行条約は、その締結当時の事情を反映し、必ずしも日本の国民感情に沿わぬ点があるので、これを現在の日本の国情及び国際的地位にふさわしいように改正する要がある。さらに内容的にいえば、米国の日本防衛に対する援助義務を明確化すること、日本の負うべき義務は憲法の範囲内に限らるべきこと、条約運営に関し日本の発言権を強化し、特に在日米軍の配備及び装備の重要な変更、並びに極東の平和及び安全の維持のため日本の施設及び区域を作戦的目的に使用することを事前協議の事項とすること、条約に一定の期限を設けること、その他現行条約中現状にふさわしくない諸点に所要の改正を行なうことであります。ダレス長官はこれに対して、日本側の事情に対する十分な理解を示し、条約改正の交渉を行なうことを応諾し、現在の交渉か開始されるに至った次第であります。
 その後引き続き、同年十月、東京において、マッカーサー在日米国大使との間に条約改正に関する第一回公式会談を行なう運びとなったのでありますが、さらにこの間、広く国内世論の動向に注目しつつ、新条約の内容につき具体的検討を加えました結果、その大綱につき日米間の見解調整も漸次進捗し、現在まで公式会談を重ねること十六回に及びまして、いまだ案文についての最終的調整は完了していないのでありますが、交渉はほぼ妥結に近づいている次第であります。以下新条約の内容につきまして、その概要を御報告いたしたいと存じます。
 新条約は、まず前文において、日米両国は民主主義の原則を擁護し、両国間の経済協力を緊密化すべきこと、国連憲章を尊重し、すべての国と平和的に共存することを希望すること、及び両国が国連憲章に定める自衛の固有の権利を有することを確認するとともに、両国の極東の平和及び安全の維持に対する関心を表明することとなると存じます。
 条約本文につきましてはその内容となる事項は概要次の通りでございます。
 第一は、日米両国が国連憲章の原則に従い、国際紛争を平和的に解決することとし、国連の目的に違背するような武力の行使または武力による威嚇を行なわない。また、日米両国は、国連の平和維持機構としての機能強化に努力するということであります。御承知の通り、現行条約は、日本の国連加盟前に締結された事情もあり、国連憲章との関係についての規定を欠いておりますので、新条約においては、これに関する明確な規定を設けることにより、日米両国は国連憲章に従い行動すべきこと、及び新条約は国連憲章のワク内における安全保障の措置であることを明らかにし、さらに進んで、日米両国が他の平和愛好国と協力して、国際平和維持の機関としての国連強化に努力すべき旨を表明することといたしたのであります。
 第二は、日米両国は、民主主義の原則を尊重し、安定と福祉を増進して友好関係の強化に努め、さらに経済的協力関係の緊密化に努力するとの趣旨を表明することであります。日米両国が安全保障上密接な協力関係に立つことは、両国が政治経済上の広範な協力の基礎を有することによってのみ可能であります。この点において、日米両国は現に民主主義の共通の基盤に立ち、経済的にもきわめて緊密な関係にありますが、新条約においては、この関係をさらに発展せしめるとの両国の政策を明らかにすることといたしたのであります。
 第三は、日米両国は、個別的に、また相互に協力して、武力攻撃に抵抗するためのそれぞれの能力を憲法の範囲内で維持発展させるとの意図を表明することであります。この条項の趣旨は、日米両国が安全保障上の協力関係にある上は、各自、自衛のための能力を涵養するためみずから努力し、また協力するということでありますが、日本としては、憲法の範囲内でこれを行なうべきことを明らかにする所存であります。なお、自衛力の規模、態様等は、各自その国力、国情等に応じ、自主的に決定すべきものであるとは申すまでもないところであります。
 第四は、日米両国は、条約の施実に関し随時協議するとともに、日本の安全または極東の平和が脅かされる場合は直ちに協議することであります。日米安全保障の体制をすべて両国間の協議により運営していくということは、新条約の基本的考え方であります。従って、条約の実施に関し、常時密接に連絡を保つとともに、日本の安全が脅威されるとか、または極東の平和が害されるような事態を生じた場合は、これに対処するため直ちに協議を行なうことといたしたのであります。
 第五は、日本の施政のもとにある領域において武力攻撃があった場合は、日米共通の危険に対処するため、憲法の規定と手続に従って行動することを宣言するとの趣旨を規定することであります。この場合、国連憲章第五十一条に基づき武力攻撃に対してとられた措置は直ちに安保理事会に報告され、安保理事会が平和回復の措置をとった場合は終止されることとなります。現行条約は、米国に日本駐兵の権利を認めておりますが、少なくとも条文上においては、日本防衛の義務が明記されておりません。現在米軍の撤退が進んでおりますので、米国の日本防衛義務を明確化することは、侵略を未然に防止するため特に重要であると考えるものであります。この点に関連いたしまして、通常の安全保障条約においては、特定の地理的範囲における各締約国の領土に対し攻撃が加えられた場合における相互援助を規定していることは御承知の通りであります。しかしながら、日本の場合、憲法上の関係よりも、外国領土防衛の義務を負うことは考えられないことであり、従って、条約地域は日本領土に限定することといたした次第であります。日本領土で現在日本の施政下にない地域、特に多数同胞の居住する沖縄に対しては、国民感情上も特殊の関心が抱かれることは当然でありますが、この点に関しては、世論の帰趨を見定めつつ、慎重検討の結果、当面、条約地域は現に日本の施政下にある地域に限定することといたしましたが、将来これらの地域の施政権が返還されれば自動的に条約地域に入ることとなる次第であります。すでに申し述べました通り、米国の日本防衛義務を規定するため、日本の施政下にある領域において攻撃があった場合には、両国は、憲法上の規定と手続に従い所要の行動をとるという趣旨の、この種の条約における通常の方式の規定を設けることとなっておりますが、条約地域が日本の施政下にある領域に限定されていることは、新条約の著しい特徴であります。在日米軍に対する攻撃は、日本自身に対する攻撃なしには行ない得ないところでありますから、日本として自衛上これに対処すべきことは当然であり、新条約により実質的に何ら新しい義務を負うことにはならないのであります。
 第六は、日本国の安全並びに極東の平和と安全に寄与するため、米国軍隊による日本の施設及び区域の使用を許すことであります。日本の安全及び極東の平和と安全を維持するため日本に米軍の駐屯を認めることは、現下の情勢より見て依然として必要であると考えるものであります。なぜかならば、極東の平和と安全なくして日本の平和と安全は期し得ないと信ずるからであります。米軍駐屯は、日本の安全及び極東の平和と安全の維持を目的とするものでありますが、米国が国連憲章の目的と原則に従い行動すべきことは、その現実の政策の示すところであるのみならず、新条約においても確認されるところであります。従って、極東の平和と安全の維持のため米軍が軍事行動をとるのは、国連の行動の一環として侵略に対処する場合か、国連憲章第五十一条に基づく自衛権行使の措置として行なうかのいずれかであることを付言いたしたいと存ずる次第であります。
 第七は、条約の期限に関して、条約発効後十年を経過した後は、いずれの当事国も一年の予告でこれを廃棄し得ることとするとともに、国連が日本区域の平和と安全のため十分の定めをする措置をとったときは、この期間内においても効力を失うものと定めることであります。
 安全保障の体制において特に重要なことは、安定性であると考えます。すでに申し述べたところに明らかなように、新条約の性格は全く防衛的のものであり、今後における国際情勢の進展において、日米間に安全保障の体制が存在することにより困難な事態が生ずることは考えられないところでありまして、日本が今後平和的に発展をはかっていく上にも、十年という安全保障上の安定期間を持つことは重要であると考える次第であります。もちろん国連により日本の平和が保障される時期のすみやかに到来することは強く希望するところであり、新条約にもこの趣旨を明らかにすることといたします。これに関連し、日米両国が国際平和維持の機関としての国連の強化のため努力すべき旨を表明することとなることは、すでに申し述べた通りでございます。
 第八は、条約の付属交換公文において、米軍の日本への配備及び装備における重要な変更、並びに極東の平和と安全のために日本領域以外に対して作戦行動するため、米国が日本の施設及び区域を基地として使用することは、日本政府との事前協議を要する事項とすることを明らかにすることとなっております。なお、これらの事項に関して、米国は一方的行動をとらないということは、日米間の交渉の過程においてすでに明確に了解されているところであります。現行条約においては、少なくとも条文上は、これらの事項に対して何らの規制がなされていないことは御承知の通りであります。米国はこれまで条約の運営にあたり、事実上努めて日本政府及び国民の意向を尊重しているのではありますが、新条約においては、日本の発言権を確立し、国内の不安を一掃するため、条約の運営、特にこの二つの事項について、明文上、日本の自主的立場を明確化することとにいたしたいと考える次第であります。
 なお、行政協定につきましては、協定締結後現在までの運営上の経験及びNATO協定及びNATO諸国の協定運営状況などにかんがみ、現行協定の内容を各条にわたり検討いたしました結果、第二十四条緊急事態に関する規定及び第二十五条二の(b)項の防衛分担金条項を削除し、第二条及び第三条施設及び区域、第九条出入国、第十一条通関、第十二条調達及び労務、第十四条特殊契約者、第十八条民事請求権等の規定に、所要の改正及び運営上の改善をはかるとともに、その他の条項につきましても必要な調整を行なうこととし、交渉を進めて現在に至っておりますが、行政協定につきましても交渉は妥結に近づきつつある次第であります。
 以上申し述べました通り、このたびの交渉は、今日まで日本の平和を守るため重要な役割を演じてきた日米安全保障の体制を堅持しつつ、両国の相互信頼と協力の関係を基礎として、現行条約を現状に即するよう改正することを目的とするものであります。しこうして、この交渉における日本側の基本的立場を重ねて要約すれば、新条約は、国連のワク内における安全保障の措置として、厳に防衛的性格のものとすること、日本の負うべき義務は憲法の範囲内にとどめること、及び日米対等の基礎に立って条約の運営における日本の自主性を確立することの三点を根幹とするものであり、幸いにして、米国側の理解ある態度により、交渉はこの線に沿いとりまとめることができると確信いたしている次第でございます。
 世界における緊張緩和は、わが国外交の最も重要な目標でありまして、国連を中心として今後ますますこの方向へ努力すべきことは申すまでもないところであり、現在大国間に話し合いにより局面の打開をはかる気運が起こっていることはむろん歓迎するところであります。しかしながら、東西両陣営ともに集団安全保障の体制をゆるめる兆候は何らうかがえず、むしろ集団的安全保障体制の基礎に立つ話し合いと見るのが正しいと考えるものであります。政府といたしましては、現存する安全保障の体制を合理化して、日本の平和を守ることに遺憾なきを期し、安全保障上の安定性を基礎として日本の平和的発展の道を開くことを念願とするものであります。
 以上、安全保障条約改正に関する日米間の交渉の経緯について御報告いたしたのでありますが、政府といたしましては、交渉の妥結とともに、すみやかに新条約及び新協定に調印し、次期通常国会においてこれが承認を求める運びといたしたいと考えている次第であります。(拍手)

発言情報

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発言者: 藤山愛一郎

speaker_id: 10389

日付: 1959-11-11

院: 参議院

会議名: 本会議