藤山愛一郎の発言 (日米安全保障条約等特別委員会)

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○国務大臣(藤山愛一郎君) 本案件につきましては、さきに提案趣旨の御説明をいたしたのでございますが、その後時日も経過しておりますので、若干補足を加えつつ、あらためて御説明を申し上げたいと存じます。
 安全保障条約の改正は、わが国多年の重要懸案であったことは御承知の通りでございます。また日米安全保障の体制は、現在までわが国の平和を守るため重要な寄与をなしてきたのでありますが、他面、現行条約は、平和条約発効当時のわが国の異常な事態に基因する変則的な性格のものであるとして、これが改正は各方面より要望されていた次第であったことは、ただいま総理が述べられた通りでございます。この次第に高まり行く国民的願望を背景といたしまして、昭和三十二年、岸総理とアイゼンハワー大統領との会談により、これが改正の端緒が開かれ、次いで昭和三十三年九月、私がワシントンにおきまして、故ダレス国務長官に対して交渉の開始を申し入れ、自来交渉を進めました結果、本年初めこれが妥結を見ることになり、一月十九日調印の運びとなった次第でございます。
 条約改正に臨みます政府の基本的な方針は、現行条約に所要の調整を加えることにより、国連憲章の原則のもとに、わが国の守りを全うするとともに、他国を脅威せざる体制を確立し、さらにこの体制運営に関するわが国の自主的な立場を確立することにあることは、政府がしばしば明らかにしたところでございます。また同時に、新条約におきまして、わが国の負うべき義務は厳に憲法の許容する範囲内にとどめらるべきものであることは、政府の特にこの交渉の過程において留意したところでございます。この基本方針は、広く各方面の識者及び国民多数の支持するところであると確信いたしておるものでございます。
 交渉は一年以上にわたって行なわれましたが、この間、米国は努めて日本側の意向を尊重し、新条約の妥結に協力的態度をもって終始されたのでありますが、この問、米国の日本防衛援助義務を規定することに関連して生ずる条約地域に、沖縄を含めるかいなかの問題に当面いたしました。この問題につきましては政府は世論の帰趨を見定めて、その最終的態度を決することにしたのでありますが、十分に論議が尽くされた後、現下のわが国の置かれた諸条件よりみて、条約地域は日本の施政下の領域に限定すべきであるということに大勢が決定し、新条約の輪郭が次第に固まるに至ったことは御記憶の通りだと思います。
 新条約のおもなる改正点は、さきに提案趣旨説明の際申し述べました通り、第一に日米安全保障体制と国際連合との関係を明確化したのでありまして、今度の条約は国連憲障に全く準拠して取り行なわれたものでございます。第二に米国の日本防衛の援助義務を明定し、また第三に、条約実施全般を日米間の協議にかからしめるとともに、特に重要事項を事前協議の対象といたしまして、また第四に、日米安全保障体制を広範な政治経済上の協力関係の基礎の上に置きますとともに、第五に、これらの内容を持つ条約に期限の定めをなしたことでございます。
 これらの諸点は、条約改正に関連する国民多数の要望を具現したものと考えておる次第でございますが、以下新条約が国会に提案されてより、その審議の過程において、特に関心の対象となった諸問題につき、若干御説明をいたしたいと存じます。
 第一は、新条約における極東の平和及び安全の概念についてでございます。日米安全保障の体制は、もとより日本の平和を守ることを第一義的目的とするものでございますが、同時に、平和は不可分であり、日本を取り巻いております地域の平和と安全に対し、日米両国が関心を有すべきことは申すまでもないことでございます。この意味におきまして、極東の平和及び安全の概念は、新旧いずれの条約にも共通のものであります。地理的概念といたしましての極東の範囲については、定説のないことは御承知の通りでありますが、本条約における極東とは、日本の安全に密接な関係ある周辺地域を意味するものであり、特定地域またはその地域における事態は、それが国際的影響を持ち、かつ日本の周辺地域の静講を乱すものでない限り、それ自体としては日米両国の関心事でないことは申すまでもございません。新条約は現行条約同様、米軍の日本駐屯を認めておりますが、米国は日本周辺の地域において、安全保障上の責任を負う立場にあります。この意味におきまして、日本に駐屯する米軍は、第一義的には日本の平和維持に寄与することを目的といたしておりますが、なおこれら周辺地域における武力攻撃の発生を阻止する使命を有するものであることは当然でございます。同時に、米国がこの地域の平和及び安全のため、何らかの軍事行動をとる場合、その行動が国連憲章のワク内のものであることはむろんでございます。また日本の施設及び区域を使用する限りにおきましては、事前協議条項の適用を受けなければならぬことは、申すまでもないのでございます。
 第二は、新条約第三条についてでございます。この条項はいわゆるバンデンバーグ条項と称せられ、米国を相手とする安全保障条約には、類似の条項が掲げられていることは御承知の通りでございます。米国の防衛援助を求める国々は、その国自身応分の努力をなすべきであるとの趣旨を表明いたした条項であります。さらに本条項は、締約国がみずからの努力により、また相互に協力してその安全を守るための能力を涵養するとの基本原則を述べたものであり、狭義の防衛力を今後機械的に増強することを意味するものではないのでございます。すなわち、防衛計画の規模、態様などは、各締約国がみずからの判断に基づき、自主的に決定すべきものであることは申すまでもございません。
 第三は、第五条、米国の日本防衛援助義務でございます。通常の安全保障条約は、条約地域を定め、この地域へ武力攻撃が発生した場合における相互援助の方式をとっておりますが、本条約は条約地域を日本の施政下にある領域に限定している点におきまして、他の諸条約と本質的に性格を異にしているのでございます。すなわち、形式的には、米国の他国に対する防衛援助義務を規定する形式として、上院において歴史的背景を有するいわゆるモンロー・ドクトリン・フォーミュラを採用しておりますけれども、日本としては、その国土に対して武力攻撃が行なわれた場合にのみ、憲法上の規定及び手続に従い、所要の行動をとるものであることを明らかにいたしている次第でございまして、日本は当然みずからなすべきことをなすという点において、実質的には新たな義務を負うことにはならないのでございます。
 なお、この際、日米安全保障体制の実情及びその推移と本条約との関係について一言いたしますれば、昭和三十二年の岸総理及びアイゼンハワー大統領との会談に基づき、米軍地上戦闘部隊は全面的に撤収し、その他部隊も漸減し、今後情勢の変化なき限り、この傾向は継続することとなっております。しこうして、この間、自衛隊は、漸次整備されまして、日本防衛のため、次第に重要な役割を担当するに至っているのでございます。在日米軍の規模の縮小は一面国民感情に沿うものでありますが、同時に、日本の平和を守るためには一朝有事の際における備えをなす必要のあることは申すまでもないことでございます。この意味におきまして、本条約第五条による米国の日本防衛援助義務は、戦争を未然に防止するため重要な意味を有するものであることを強調いたしたいと存ずるのであります。
 第四は、事前協議条項についてでございます。現行条約においては米軍の行動を規制する何らの規定もないことは御承知の通りであります。本条約一は、付属交換公文により、米軍の行動中、特に重要事項を事前協議の対象といたしたのでございます。その事前協議をいたしますことに了解をいたしておりますものは、米軍の日本国への配置における重要な変更並びに同軍隊の装備における重要な変更及び日本国から行なわれます戦闘作戦行動のための基地としての日本国内の施設及び区域の使用ということが事前協議の対象となっているわけでございます。この条項は、政治的信条を同じうする日米両国の相互信頼の基礎に立つものであり、これら事項につき事前協議を行なう以上は、米国は日米間に協議がととのわない限り、また日本政府の意向に反してこれらの行動に出ることはないということを、ここに確言いたすものでございます。
 第五に、条約の期限の問題でございます。本条約は、国連が日本の平和及び安全の維持のため有効な措置を講ずる場合及び十年後において一年の予告をもって終了させることができる旨を定めておるのでございます。申すまでもなく本条約の目的とするところは、日本の平和を守る上に後顧の憂いなき備えをなし、わが国の発展をはかることにあるわけであります。これがためには、安全保障体制に一定の安定期間を必要とするものと信ずるものでございます。国内の一部には、安全保障条約に関する他国の事例を引用し、一年の予告をもって廃棄し得る方式を可とするとの議論もございますが、私は本条約の基本的性格より見て、また広く歴史的諸事実を参照いたしまして、日米安全保障体制が日本の民主主義を基調とする基本的進路にとり桎梏と化することはあり得ないと信ずるものでございます。むしろ安定期間の欠如こそ日本の安全保障にとり好ましからざる要因をはらむことになると言わざるを得ないのでございます。
 次に、行政協定の改正について御説明を申し上げます。行政協定は申すまでもなく米軍駐屯に関する諸事項を規律するものでありますが、条約改正に関連して現行協定を全面的に再検討をいたし、協定実施の経験、諸外国の事例などを考慮いたしまして新協定を締結いたした次第でございます。特に重要な改正点は、施設外の米軍の権利、出入国、通関、労務、特殊契約者、民事請求権などの改正及び防衛分担金の条項の削除でございますが、今後協定実施面についても改善をはかり、国民と米軍との関係の円滑化に一そうの努力をなしたいと考える次第でございます。
 さらに協定改正に伴いまして、これが実施のための諸法律の改正を整理法案として提案いたしておりますが、協定改正に伴う一部実質的改正のほかは、現行法に対する技術的修正を行なったものでございます。
 本案件に関する私の説明は以上の通りでございますが、条約改正の交渉開始以来、特に国会の審議に入ってより、本条約に対し、国の内外より悪意の中傷と攻撃が加えられつつあることは御承知の通りでございます。しかしながら、すでに申し述べました通り、今回の条約改正は、日米安全保障体制堅持の基本方針のもとに、現行条約の不備を是正し、現状に沿うよう調整を加えたものであり、基本的には現行条約の延長でございます。また、純軍事的負度より見れば、条約改正の主要点は、米国の日本防衛援助義務の明定と、事前協議事項に要約されると思うのであります、米国の日本防衛援助義務の明定は、それ自体としていかなる国をも脅威するものではなく、また事前協議事項は、現行条約においては、米軍の行動に対して何らの規制が存しないのに対して、新条約においては、日本の意思により米軍の行動に対する制約が加わることを意味するものでございます。すなわち、新条約の内容には、極東に軍事緊張を強める要因は何ら存在しないことはきわめて明白でございます。極東の平和維持こそ全日本国民の何よりも希望するところであると考えるのでございます。
 私はこの機会において、本条約の防衛的性格を明らかにするとともに、異なる政治体制の平和的共存及び善隣関係の確立こそ、わが国の基本的性格であることを強調する次第でございます。
 国会御審議に関連し、国内に重大なる局面が生じていることは否定し得ないところでございます。しかしながら、日本が、国民の自由な選択により、民主主義国として再生し、民主主義国家群の一員として現在の姿まで復興し、今後この進路を守るため有効な安全保障の体制、すなわち日本の置かれている客観的諸条件より日米安全保障体制を堅持すべきであるとの基本方針については、国民多数の支持するところであると確信するものでございます。
 私はここに、本委員会がこの案件にっき慎重御審議の上、すみやかに御承認あらんことを希望いたす次第でございます。

発言情報

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発言者: 藤山愛一郎

speaker_id: 10389

日付: 1960-06-08

院: 参議院

会議名: 日米安全保障条約等特別委員会