千田正の発言 (本会議)
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○千田正君 私は、今次通常国会に際しての岸内閣総理大臣の施政方針及び三大臣の演説を承り、ここに若干の質問を試みんとするものであります。
岸総理及び藤山外相から明らかにされました岸内閣の外交政策の基調、すなわち第一に平和外交、第二には善隣外交、第三には繁栄外交という三つの命題を、しさいに検討してみるとき、しこうしてこれらの命題が今回の日米安全保障条約、日米行政協定の改定として具現したことを凝視するとき、はたして今回の安保条約が、世界の中における、また、アジアの中における日本の進路として適切であるかいなかを疑わざるを得ないのであります。私は、昨秋もまたこの議場において、日米安全保障条約の改定に関する藤山外相の中間報告に対して質問を行なったのでありますが、当時いまだ交渉中であったという事情を差し引いてみましても、首相並びに外相の御答弁は必ずしも満足すべきものではなく、みずから掲げた命題に即しての確信ある御答弁でなかったことをすこぶる遺憾とするものであります。ここに重ねて明快な御答弁をいただくよう首相並びに閣僚に強く要請いたしまして、質問に入ることにいたします。
第一にお尋ねいたしたいことは、何ゆえかくも安保改定を急いだのかという理由及びその根拠であります。すでに多くの論者は、国際情勢はそのおもむくところ次第に緊張緩和の方向を指向しつつあり、一方において科学兵器と軍事技術の異常な発達と相まって、世界は平和的共存ないし競争的共存を自明の前提とする外交が展開される情勢に進みつつあり、戦争不可能論が半ば常識と化していることを指摘しているのであります。もちろん一方において、分析の基調を依然として米ソの対立に求め、旧態依然たる世界観をもって、軍事的包囲網の確立と経済的圧迫の二つを固守する外交政策が今なお根強く存在していることは否定できない現実でありますが、しかし、ヨーロッパの危機を一瞬のうちに硬化させたドイツ統一問題についてのソ連の期限つき通告が首相会談に引き継がれ、アメリカが首脳交換訪問に賛成して以来、単なる米ソの軍事的均衡にのみその根拠を見出していたにすぎない過去の緊張緩和政策は、自滅から絶対に免れようとする共存政策に質的に転換している実情であります。首相は施政方針で述べたように、「国際間の緊張は一日にして消え去ることはできない」とお答えになるでありましょうが、それであればこそ、なおさら、緊張緩和の方向に沿って、国の安全保障についての具体的な方策を見出すために努力することが、岸内閣に課せられた最大の政治的使命であると私は考えるのであります。思うに、国連憲章第五十一条の規定に基づく日米安全保障条約の改定は、憲章第五十一条が国連の精神及び憲章の他の規定に最も矛盾する例外規定とされ、かつ旧来の二国間または多数国家間軍事同盟方式が、北大西洋条約機構についてもワルシャワ条約機構についても漸次膠着化しつつある現状を見るとき、はたして当を得たものであるかどうか。改定によって日本の安全保障はいかなる利益を受けるものでありましょうか。また、基地拡張について、フィリピン政府が米国に対して拒否権を持っている米比基地貸与協定以下の安保改定を急いで行なわねばならなかった理由及びその根拠は、一体どこにあるかをお尋ねいたしたいのであります。
第二に、総理並びに外務大臣にお尋ねいたしたい点は、従来静観政策の名のもとに、あるいは故意に交渉を引き延ばすことにより、等閑視されてきました対共産圏外交の問題について、安保改定との関連であります。安保改定は言うまでもなく、第一に極東及び日本の安全を確保し、侵略の憂いをなからしめることをもってその重要目的といたしておるのであります。しかしながら、今回の安保改定の調印を見るや、はたしてソ連、中国の態度は俄然硬化し、ことにソ連政府は、日本における外国軍隊の撤退実現を見ない限り、歯舞、色丹両島の返還に応じない旨の通告を行ない、また、ソ連極東軍司令官も軍事的観点を主としたこの問題についての見解と主張を公表しているのであります。まことに皮肉なことでありますが、本来極東及びわが国の安全を保障すべき今回の改定が、かねて予想されたように、ソ連、中国を硬化させ、早くも極東の不安を激化させることにより、逆にわが国の不安全を保障しつつあるこの現象こそ、安保改定がその名にそむき、不安を激化するという本質を内蔵していることをみずから表明するものであると断ぜざるを得ないのであります。安保改定交渉が、かつて岸総理みずから揚言したいわゆる日米新時代到来の一里塚たるべきものとして開始されてからここに一年三ヵ月、その間に行なわれた交渉内容と、その問題点に関する政府側の答弁、または多くの識者の論説は、実に多種多様にわたったのでありますが、その論争点の主要な一つでありながら、しかも具体的に論及されなかった点は、安保改定の不安全性と共産圏諸国の動向との関連、それに続いて日本の対共産圏外交のあり方についての問題であります。一体政府は、安保改定の結果、共産圏諸国との関係において極東情勢の推移をめぐり危機が招来されるということを全く予想し得なかったのでありましはうか。そういうようなことはとうてい私は信じ得ないのであります。そこで、政府にお尋ねいたしたい点は、まず、日米関係において沖縄の早期返還を期待し得ざるのみか、対ソ関係において少なくとも十年間北方領土の問題をたな上げにせざるを得ないような結果を招いた安保改定とそ、極東の軍事情勢の緊迫化の直接的な原因であることを知るべきであります。かつまた一方において安保改定を強行しつつ、一方においていかなる方法によって対共産圏外交の打開に努めんとするのかという、この二点であります。あわせてお伺いしたいことは、政府は、従来も、いたずらに対米協力を強調するのあまり、わが国独自の立場からする自主的判断を基礎とした対共産圏外交に関する積極的方針と具体策とを全く欠除したのみか、ただただアメリカの対ソ・対中国外交方式の先例に従い続け、かつて鳩山内閣時代、日ソ国交回復をはかってこの問題解決への第一歩を踏み出した事例を、あたかも無視するかのごとき態度を独断的にとってきたことに対する反省であります。この対共産圏外交に関する積極的方途を見失い、国際情勢の推移を無視した外交方針こそ、とりもなおさず、安保改定によって極東の不安を醸成し、かつ極東の平和と安全を維持しているがごとき錯覚に陥っている鈍感さの原因と言わざるを得ません。なおまた、現実に派生する問題として、政府代表を派遣して行なわれようとする日ソ漁業条約問題についても、その及ぼす結果については政府は一切の責任を負わねばならないことは言うを待たないのであります。以上の諸点について、もし打開の名案があるならば、総理及び外相の誠意ある御答弁をいただきたいのであります。
質問の第三点として、外務大臣及び防衛庁長官にお尋ねいたしたい点は、今次改定の結果生じた米軍との共同行動における日本の能動的行動についてであります。政府はしばしば、従来の安保条約は自主的でなく、片務性を帯び、不平等であったことを強調し、改定の結果、これら日本にとって不利な点がことごとく解決されたと称し、これによって日本の自主独立が完成されるかのごとき見解を述べておるのであります。私もまた、従来の条約があまりにも自主性に欠け、片務的であり、不平等であることは認めるものでありまするが、しかしながら、その反面において見落としてならないことは、一例をあげて言うならば、かつての朝鮮戦争の場合のごとき、たとえ米軍が在日基地から朝鮮の戦線に向けて出動しても、その出動、その作戦行動は、米軍それ自体の必要によるものでこそあれ、そこには日本側の意思も責任も含まれていないという点であります。それに引きかえて、今回の改正によれば、米軍の行動に日本側の意思と責任が伴ってくるというのであります。すなわち、戦争を前提とせざるを得ないこの場合において、自衛隊の海外派遣、日本本土に対する軍事攻撃を招くのはもちろんのこと、想像するだにりつ然とせざるを得ないような不幸な事態が生ずるであろうことを予想しない者はないと思います。現実にかかる条約が存在している現在、これを仮定の問題として片づけるには、問題はあまりにも深刻であります。行動における形式的自主性の回復が、事実問題においてその逆の場合を招くであろうことが容易に想像される現在、米軍との共同行動において日本側の意思と責任が伴ってくる以上、政府としては当然にその結果を予想されておられることと思われるのでありまするが、その結果を一体どのように予想しておるのかを明確に承りたいと思うのであります。
第四点として、問題の多い事前協議に関して外務大臣にお伺いいたします。事前協議が、いわゆる協議することのみを意味し、合意を要する旨の明文化された規定が存在しないがゆえに、事前協議とは実質的には単なる注意規定にしかすぎず、事前協議によって日本側の不同意の意思が明確にされても、それによって米軍の行動を制約し得るものではないことは、野党の同僚諸君が常に問題として終始追及してきたところであり、先般私もまた藤山外相の所見をただしたところであります。当時においても、政府の答弁は、ひたすらに、事前協議には日本の拒否権発動の権利が法律的にも留保されており、彼我の合意なき場合は日本側の意向を無視した米軍の行動はあり得な
いという一点張りであったのでありますが、今回の日米共同声明においても、ただアメリカのこの問題に対する善意ある意向が示されたのみにとどまり、従来の首相、外相の責任ある言明に反して、日本の権利留保は何ら法律上の根拠を有する明確な規定ではなかったことが、逆に明白にされたのであります。私はこの際、はっきりとお聞きしたいことは、事前協議において、日本は明白に不同意の意思をもって米軍の行動を制約し得る根拠ありとするならば、しかもそれが法律上明文化されていないというのに、その根拠を一体いずれに求めることができるのか。さらにもう一点、政府側の解釈によって拒否権を行使し得る具体例をはっきりと示していただきたいのであります。この事前協議について言うならば、当事国は条約上明記されない権利を行使することは絶対にできないはずであります。であればこそ、この点の不安にこたえるために、日米共同声明の中に米国の善意が示されたのであります。しかるに、条約によって「極東の平和と安全を維持するため」に、
日本は米国に軍事基地を提供貸与するものである以上、米軍は、台湾であれ、朝鮮であれ、ベトナムであれ、いつでも出動し得る法律上の根拠と権利とを掌握しているのであります。事前協議において拒否権を行使し得る有効な手段の確定を欠除している改定条約は、ただ単に日本に不利であるという点のみにとどまらず、従来の政府のたび重なる言明にも反して、明らかに日本にとっては非自主的にして不平等なる条約と言うのほかなく、ここに、はしなくも岸内閣の対米隷属政策の完成された姿が露呈されていることを指摘いたしまして重ねて、事前協議に際して日本側が拒否権を行使し得る根拠及びその具体的事例を示すよう、外相の責任ある御答弁を求める次第であります。
第五点として、条約の期限と国際情勢、ことにアジアの情勢の推移について、首相及び外相にお尋ねいたします。私は、いまだかつて一度も、条約の期限を十年とした論拠を政府側の説明として十分納得し得る程度に伺ったことはなく、また世上多くの非難がこの期限十年と定められたことに向けられている事実も承知いたしておるのであります。その論難の多くは、しかして論争の中心点は、第一に、十年に定めた根拠を十分説明されておらず、すこぶる薄弱であること、第二に、変化の激しい現在、世界情勢の激変が予想されるというこの時期に際して、国家の政策を十年間も固定化するということは日本にとって著しく不利益をもたらすであろうこと、この二点であります。およそ今回の条約改定において最も不可解なるものの一つがこの期限十一年であることは、多言を要しないところであります。私はこの際、期限十年の前提となる今後十年間にわたる国際情勢の推移について、その見通しと予想される事態の変化について政府の認識をただしたいと思うのであります。もちろん、いかなる人といえども今後十年間の国際情勢が現在と比較して全く同じ状態であると考える人はないはずでありますと同時に、軽率に次の時代を予想し得るものでないこともまた自明の理であると言わざるを得ません。だれが十年前今日のごときアフリカにおける民族国家の独立の続出を予想し得たでありましょうか。同様に、だれが今後十年以内に中国の国際連合加盟が実現しないと断言し得るでありましょうか。事態の進展の予測は時に全く不可能とさえ思われるような流動する現代において、特に注目すべきはアジアの情勢であります。隣邦中国は決して今後十年間現状のまま推移することはあり得べからざることであります。アメリカともども日本が中国を承認し、中国の国連加盟が実現する場合、安保条約の運命は十年を待たずして一体どこへいくのでありましょうか。さらにまた、かつて藤山外相が本院予算委員会で御答弁なされましたように、極東の平和と安全を維持するためならば沿海州まで出動し得るとする改定条約は、いたずらにアジアの不安を増加させるだけのものであり、かくして今後のアジアの情勢の推移に日本もまた重大な責任を負わねばならない点を考慮に入れるとき、この期限十年の前提となる情勢の分析とその結論は、きわめて重大な意味を持つものと言わなければなりません。
次に首相に特にお伺いいたしたい点は、今後の日米友好関係、その協力体制をどのように設定すべきかという基本的問題についてであります。私は、軍事的観点にのみ主力を置いた対米協力政策に疑問を持ち、それに対しては否定的見解を表明するものでありまするが、さればといって一切の日米協力体制を否定するものではありません。今回の安保改定にあたって、政府は軍事的色彩が強調されるのを恐れて、条文表現上に深甚な注意を払い、調印に際しても財界代表を全権団に加える等の措置を講じておりますが、現今世界の大勢は、多くの紆余曲折を経ながらも、戦争回避、全面的軍縮の方向に動きつつあり、平和的共存または競争的共存の旗のもとに、世界政治は新しい局面をようやく迎えようとしておるのであります。すなわちこれは戦争によらず、国際的競争を主として経済と社会に求めようとするものであります。国家的独立あるいは国民的統一のすべてを軍事力として表現し、戦争によって勝敗を決した時代は過ぎ去ろうとしているのであります。かつて対ソ封じ込め論者の一人言あったアメリカのジョージ・ケナン氏も、最近のある論文で、今日ではある種の資本主義とある種の社会主義の間には明確な境界線はないと述べ、またある論者は、資本主義圏の社会化政策と共産圏の自由化政策がともに必然性を有していると説き、その転換の形態は何であろうとも、世界の大勢が経済競争の方向に傾いていることは、今日その端緒についたばかりとはい、え、否定できない現実であると考えるのであります。従ってわが国としても、この方向に沿うべき日米友好関係の設定とその協力体制を確立するために、主力を、加速度の再軍備と軍需生産、そうしてアジアの兵器廠化を軸とした軍事的方面ではなく、経済的、文化的協力を主軸とした日米関係の結合を求め、それを強化していかなければならないと考えるのであります。これは決して抽象的一般論や政治哲学的理念の問題ではありません。一九四七年三月のいわゆるトルーマン・ドクトリンによって、第二次大戦中の米ソの協力体制にピリオドが打たれて以来、冷たい戦争の時代、緊張緩和の時代を通過して今日に至り、恐るべき破壊兵器による自滅を避けねばならないことが至上命題として認められている今日、米ソ両国の最高首脳者によってその方向を唱道されている現実であります。首相はこの世界情勢の変化発展に対応して、この際思い匂った政策転換を行ない、日本の命運を守るべきであると思うが、明確な御所信を承りたいと思うのであります。
最後に一点、私は、今次通常国会における最大の問題は、よかれ悪しかれ、今後の日本の国是となり、その運命を制するであろうと考えられます問題、すなわち、この改定条約をめぐる諸問題についてのみ質問を行なった次第七ありますが、ここに特徴的なこととして、新条約調印のための出発に際して、全学連の一部過激分子による妨害を恐るるのあまり、異例の行動をとって、あたかも逃げるがごとく羽田を出発されまして、一国の首相としてその不面目を露呈されたことは、国民とともに深く遺憾とするものであります。もし首相が常に青年にさとす誠意と確信あらば、彼らを説得することは不可能ではないはずであります。次代を背負う青年に対して首相はいかなる見識をもって指導さるる所信かを承りたいと思うのであります。
以上、安保条約改定の重要性にかんがみ、若干の苦言を呈するとともに、多くの反対論者の言論にも謙虚に耳を傾け、声なき民の声も聞き取って今や日本の運命を左右すべき巌頭に立って、あえて大胆な政策転換を行なうことが岸内閣の使命であることを指摘して、首相の答弁を期待しつつ、私の質問を終わる次第であります。(拍手)
〔国務大臣岸信介君登壇、拍手〕