田島四郎の発言 (逓信委員会)

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○参考人(田島四郎君) 田島でございます。私は単なる学究でございまして、しかも専攻が簿記、会計でございます。従いまして、そういう点から、現在の郵政省が出しておる数字について私の考えるところを申し上げまして、そしてこの今回の改正が、私はむしろ至当ではないだろうかということを申し上げてみたいと思います。
 まず第一に、郵便事業の特質でありますけれども、経営的な性格から申しますというと、郵便事業は比例費的な経営の特徴を多分に持っておる事業でございます。ちょっと考えますというと、相当膨大な設備をかかえておる。従って固定費が大部分を占めるのではないだろうか、こういうようなふうに考えられるわけでありますが、しかし他の公共事業、特にたとえば鉄道あるいは電信電話というものに比べますというと、比較的設備に投資しておる額というものは割に少ない。そうして、その経営の形態は、いわば非資本主義的な経営の形態、こう言わなければならないのではないかと、こう考えております。と申しますのは、非常に人間的な力、労力というものに頼って経営が運営されておるのであります。いわば原始的な、工場制工業の出現する以前のような状態、こう言っても差しつかえないようなところに一つの特質があるのではないか。しかも、それらの人力依存主義の経営が非常に各地に広く、非常にへんぴなところまで散在しておりまして、これについての近代的な労務管理というような合理化手段が非常にむずかしい事業である、こういうことをまず言わなければならないかと思うのであります。もとより一面これは非常に文化的な性格を持っておりまして、私が考えておるような、ただ単に数字の面からのみ料金を云々する、制度を改善するということは、これはできないかも存じませんが、一応現に現われておる数字から申しますというと、結局物数が増加すれば増加するほどコストがよけいかかっていく、こういう現象を呈しております。本来設備経営であるとしますならば、その設備は——われわれの方では固定費と申しますが、大体費用の発生総額はおおよそ全体としてきまっておりまして、物数が増加すれば物数当たりのコストは安くなるのが建前なんです。その安くなるのに、物数が増加すれば反比例的に減少する。一つ当たりのコストを計算しますというと、物数が倍になれば二分の一になる、こういう性格を持つのが近代的の設備経営の特徴なのであります。ところが現在の郵便事業はそういうことはちょっと言えない状態にある。非常に機械化その他の新しい設備の導入も不十分であるのではないだろうか、こう考えます。
 ところで、そういう状態のもとに成立しておるところの今のコストでありますが、これはこのコストを回収するだけの料金収入、つまり収入の基礎になる料金を決定するということでは、私はもうそもそも郵便事業のこれからの運営というものは、これは困難を感ずるのではないか。その理由は、このコストを分析してみますというと、非常に重要な項目として、近代的な経営としますならば、それは減価償却費というものがあるのでありますが、この減価償却費は、郵便事業に関する限り非常に低いのであります。こういうような現在のような物数の増加、利用の増加ということはおそらく考慮しないでその耐用年数を定めております。それから、お話がありましたが、すでに老朽施設になったものを使っておる、こういうようなこともありますが、そうでないものでも、物数の増加ないしは新しい経済的な運営をするためには、耐用年数が尽きる以前にでもこれを更新しまして、そうしてサービスの提供に資すると、こういうようなことが必要であるにもかかわらず、それができない。そうして非常に低い減価償却費が盛り込まれておる。それが原価の一構成部分であります。もしもこのコストを回収するだけの料金をきめたとしましても、それは今の設備を更新するだけの料金収入しか望めないものであります。ところが、一般の郵便事業の利用という点から考えますというと、ますますこれは増大する。もしもその増大する需要に応ずるということになりましたならば、もしも独立採算ということが動かせるとするならば、たとえば一般会計からの繰り入れが可能だとするならば、そちらの方から資金を出してもらうということは、それは可能でありますが、私は現在のところ、これは相当困難性があるのじゃないかと、こう考えますので、根本的な料金改正をする場合の、まさにあるべきコストというのはいかなるものかということについては、これは相当時日をかけて考え直さなければならない問題が多々あると思いますが、現在算定しておるコストを回収するだけでは、とうていそういうようなことは不可能である。本来は事業の伸びというものに対する相当額の必要経費を料金の中へ盛り込んで、そうして料金で償うということでなければならないと思いますが、そういうようなことは、全然今の料金には入っておりません。減価償却費が不十分である。
 そうしてまたさらに、もう一つの郵便事業の特殊性は、非常に複雑多岐にわたっており、たとえば銀行のような仕事もやっておるし、運搬、運送業もやっておるし、あるいは保険会社のような事業もやっておる。こういったようなものが、比較的ウエートの軽い固定費が全部割りかけられておるわけですから、そうした意味において、それぞれ業種別に原価を計算してみますというと、その原価の大部分が、固定費的な部分がごくわずかで、主として比例費だ。もしもこの比例費中心のコストが算定されておるとして、これをどこから負担したならば最も適当なのか、こう申しますというと、先ほど発言がありましたように、少なくとも直接費だけは——直接費と申しますのば、今申しました固定費を差し引いた比例費に該当する部分であります。変動費ともいいます。これは物数が増加するに従って増加する費用であります。これだけは受益者が負担する、これの方がかえって私は実質的には公平じゃないだろうか、こういう考えを持っておるわけであります。そうした意味で、設備の改善の費用などは、これはできるならば国の一般会計からまかなっていただけばこれはいいんですけれども、これは政治的な大問題になるかと思いますので、私はこの点どちらが負担するかということは別にしまして、コストの大部分を占めておる比例費は、これは料金でまかなう建前をとるのが至当じゃないか。そういう見地からこの料金改正の原案を拝見しますときに、実は当座は料金の中で比例費のまかないはできると思います。ただ、この比例費のまかないができるのは、はたしてどの程度であろうか、これは私は将来の見通しは、いずれもこれは見通しであって、結局過去の趨勢から推していかなければ、神ならぬ身のだれにも判断できない問題だと思いますけれども、今までの情勢からしますというと、ただいま岡井参考人が申されましたように、ここ三、四年しかできないのじゃないだろうか、このような考えを持っております。そうしますというと、やがてはまたこの問題が生じてくるのではないか、こういう心配を持ちます。と申しますのは、むしろ今回の料金値上げが、私は漸進主義をとったのではないだろうか、こう推定いたしまして、こうした推定が正しいとしますならば、この料金の値上げは、むしろ私は全面的に賛成、こう言わなければならない、こう思います。もとより、非常に利用者が広範囲に散在しておりますから、今回のこの値上げは、たとえコストを十分取り戻すことのできない値上げであるとしましても、この及ぼす影響はいろいろな面から考えなければならないかと思います。
 その一つとして、一番大きい反対論になっておるかと思いますが、値上がりムードを醸成する、私はこれは否定できないのじゃないか、こう考えます。問題は、一つは、こういう時期に問題になりましたから、この時期が非常に悪かったのじゃないだろうか。ふだんのときであるならば、この程度の料金の値上げは、決して値上げムードの醸成ということには関係がなかったのではないだろうかということを考えます。それから第二には、国民経済、ないしはわれわれの消費経済への料金値上げのはね返りということがしばしば言われております。これも料金の値上げによる部分だけは結局受益者が負担する、こういうことになりますので、利用する人は確かにそれだけ余分に出費を負担しなければならない、こういうことになりますから、私はそのパーセンテージはきわめて軽微なものであって、たとえ小包などが大幅な値上げをしたとしましても、それの家計に及ぼす影響というものは比較的、るいはきわめてといってもいいのじゃないかと思いますが、軽微なものであって、運賃などの比、ないしは電灯料などの比ではないのではないか、こういう考えを持っております。
 それから文化事業としての郵便事業にとって、料金の値上げというものは、これは矛盾しているのではないだろうか、こういうような批判が出るだろうと思います。およそ郵便のごとき公共事業、これを経営する基本的な理念を、企業主義に置くか、あるいは文化主義によるか、これは相当大きな問題じゃないかと思いますが、私は確かに公共性は認めるけれども、現在の郵便事業の経営の前提条件と考えてよろしい特別会計による独立採算——これは完全な独立採算でないにしましても、独立採算の方針を否定することができない場合には、一般会計からこれを補助することによる一般国民の負担、受益者の負担ということを考えるとき、かえって料金を値上げすることによって、利用者がそれぞれこの経費の一部を負担するということの方が実質的な公平性が望めるのではないだろうか、こういう考えを持ちます。そうした意味で、確かに文化的な使命を帯びた事業ですけれども、この際、企業主義的な要素を若干取り入れるということは矛盾したものではないというような考えを持つわけでございます。
 ただいまも局舎改善、その他のサービス改善ということについては、はたしてどの程度までできるか、非常に御心配の向きがありました。これはやはりできるだけサービス改善ということについては努力してもらわなければならないと思います。その点について申しますというと、やはり特別会計のワク内でまかなうということの方が、合理化の要素を推進させることができるのではないだろうか。ただ単に赤字が出たならば一般会計からそれを補てんしてもらえるのだというような考えよりも、いろいろな創意工夫を働かせて、そうしてコスト・ダウンを実現させるということは、むしろ現在の郵政当局に与えられた大きい問題でありまして、これは料金を値上げする、値上げしないということとは関係なしに、やはり常に考えていかなければならない問題で、ぜひやってもらわなければならない問題である。こう考えて参りますというと、この料金値上げということに関連しましては、いろいろな面からいろいろな批判はあるかと思いますが、私は現在のコストが、料金算定の基礎として当然あるべきコストに比べて非常に低いコストである。それを料金値上げによってできるだけ回収していく、こういうのですからして、この際値上げは認めてしかるべきじゃないか、こういう考えでございます。
 以上で私の口述を終わります。

発言情報

speech_id: 103814816X02319610511_008

発言者: 田島四郎

speaker_id: 16948

日付: 1961-05-11

院: 参議院

会議名: 逓信委員会