田中一の発言 (本会議)
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○田中一君 私は日本社会党を代表いたしまして、ただいま御説明を受けました水資源開発促進法案並びに水資源開発公団法案について、若干の質問をいたすものであります。
ここに提案されましたところの水資源開発促進法案は、一見、政策の宣言のごとく、きわめて抽象的な形のものでありますが、同時に提案されました水資源開発公団法案とともに、わが国の治水及び利水行政に画期的な変革を与えるものと考えるのでございます。かく考えまする理由の一、二点を述べまするならば、元来、河川に関する事務は重要な国家事務とされておりまして、現在の河川法も、その直轄主義等を通じて、この意識は明確に貫かれているのでございます。この法案におきましては、この事務の一部を公団に譲っております。特に河川法における私権制限の排除の規定の適用除外を行なう場合のあるごときは、その著しい例でございます。また河川法におきましては、河川の意義は一種の区域主義でありますが、このたびの法案は水系主義を採用しているのでありまして、この点、技術的に見ましても、行政制度的に見ましても、河川の考え方の一歩前進ではありますが、地方行政との関連においても重要な意味を持つことになるのであります。このように、この法案は、わが国の水行政にとって重大な意義を有するものでありますが、この重要法案を延長国会に何がゆえに提案されたのであるか、これが私のただしたい第一点であります。現行河川法は、会期末日まで余すところ五日の、明治二十九年三月十日に提案されまして、審議時間わずか数時間で衆議院を通過し、貴族院もまた同様短時間で通過いたしております。藩閥政治のもとにおいてすら、このやり方は暴挙であるといわれたのであります。今日の民主政治のもとにおいて、国会の最終日に当たる一昨日、法律案を提案し、その通過をはかろうとする政府の態度に対しては、はなはだ理解に苦しむところであります。この理由を内閣総理大臣から明瞭に御答弁を願いたいと思います。
質問の第二点は、戦後河川に関する法律が次々と断片的に提案され、制定され、またここに二法案が提案されているのでありますが、政府に、これらの法律を集大成し、さらに水利権関係を明定するがごとく、現行の河川法の根本的改正をはかろうとする意図を持っておられるかいなかという点でございます。過去を振り返ってみますと、現行河川法の制定の背景には、淀川の改修問題があったのでございます。淀川の土地買収費の増額のための予算追加案を通過させる一つの手段が、実にこの河川法の制定の一つの背景をなしていたのでありまして、淀川沿岸の代議士、府会議員、水利委員等が、当時の伊藤内閣と提携する自由党への大挙入党というがごとき、政治的取り引きさえ行なわれたのであります。ゆえに、河川法案の討論に際して、当時の議員工藤行幹氏は、淀川の改修を抵当にとってめくら判を押せというがごときは、はなはだけしからぬと言い、また全条六十七カ条の中に命令にゆだねる点が三十八カ条ある。これは法律でなくして命令を保護する法律であるとさえ言っているのでございます。このようにして成立した河川法は、実に七十年近い命脈を保ち、公物法の中で戦後も根本的に改正をされずに存在するものは、この河川法だけでございます。法文が変化せずに、この法律ほど内容の変化している法律は他に見当たらぬといわれておるのであります。大正年代以来、たびたび改正の議を起こして参りました。ことに、最近においては、昭和二十七年一月の建設省試案、六月の衆議院内海安吉議員を委員長とする改正案、さらに、同年八月の国土総合開発審議会に水制度部会を設置、これによる水制度の検討等があったのでありますが、一つも実を結ばず、今日に至っておるのであります。一面、戦後において、二十四年の水防法から始まり、特定多目的ダム法、治山治水緊急措置法、治水特別会計法等、幾多の法律が制定されたのでありますが、依然として基本法たる河川法には手を触れようとはしないのであります。これはいかなる理由によるのか、改正の意思がありやいなや、伺いたいのでございます。この点で内閣総理大臣初め関係大臣の明確な所見を承りたいのでございます。
第三点は、河川法の改正が実現しないのは、実に官庁セクトに起因するためであると私は断じます。水行政に関する官庁セクトを根絶する方策を現政府はお持ちであるかどうか、この点をただしたいのであります。かく申し上げますならば、それなるがゆえに、水資源開発促進法あるいはその実現機関であるところの公団設立の法案を出したと言うでございましょう。しかし、この法案制定の経緯を新聞等によって見るに、本年一月以来、自民党案から始まり、二転三転、ついに首相裁断を見るがごとき事態になったのであります。各新聞の論説も、各省の権限争いに対しまして全面的に不満を表明しておることは周知のことでございます。水行政機関の不統一は諸外国にもその例を見るのでございますが、各官庁が、与党たる政党を動かして自己の主張を貫こうとするがごとき事例を聞いたことがございません。アメリカにおけるフーバー委員会のロバーツ調査班の手になるところの、一九四八年の「水力、灌漑及び治水計画の展望」と題せられるところの上下両院議長に対する膨大な報告のごときは、各省の運営について、米州全域にわたって各種の面から調査したものでございます。セクトの打破のためにはこのような努力が必要なのでありまして、行政庁が政党に働きかけ、自己の意思を貫こうとするがごときは、民主政治を破壊する原因をなすものと言えるでありましょう。この点についで、内閣総理大臣以下、関係大臣の御所見を伺いたいのでございます。
第四にお伺いしたいのは、政府の水行政の諸施策の重点は、治水と利水のいずれを指向しているかという点でございます。水資源開発法案は、河川を水系として考えております。これは必然的にダム群の構想を持っていることを示すものでございます。ところで、ダム群の洪水調節の技術はまだ完成していないと聞いておるのでございますが、洪水調節と称しながら、実は利水のための調節作業を行なって、下流部を危殆に陥れた事例は、水力発電において幾多の例があるのでございます。水資源開発の根幹は、何としても洪水防御にある。洪水防御が先行しなければ、利水施設がいかに完備しても、洪水の前に屈服してしまうでございましょう。かように考えるのでありますが、政府はいかに考えられるか。特に、中村国務大臣及び科学技術庁長官たる池田国務大臣に御答弁を願いたいと存じます。
第五点は、水資源開発基本計画の構想について、その大略を伺っておきたいのでございます。特にただしておきたいのは、法案の中に、水源涵養林と砂防及び地下水利用についての配慮がなされていない点であります。と申しますと、条文中には、「治山治水及び電源開発について十分考慮が払われていなければならない。」とあり、公団の業務に、「水資源の開発または利用のための施設」とあるから、これをもって足りるという御答弁がございましょう。けれども、ダム群による洪水調節ということになりますれば、ダムの埋没こそ命取りなのであります。長野県の美和ダムのごとき、砂防施設の欠如のため、一洪水によって実に三〇%余り土砂で埋没をしてしまったのであります。かくのごとく、砂防あるいは水資源涵養林または地下水利用に対する配慮のない基本計画というものは、どういうものでございましょうか。この基本計画の決定は、内閣総理大臣の責任でありますから、総理から伺いたいのでございます。
第六点は、ただいま申し上げました地下水の利用に関連し、特にその規制方法についてお伺いいたします。近年、地盤の沈下による災害が各地に発生し、まことに憂慮すべき事態にあることは御承知の通りであります。大阪及び尼崎市においては、昭和二十五年のジェーン台風後、地盤の沈下に対処して建設された防潮堤が、その後の地盤沈下により著しく機能を低下し、再び高潮の恐怖にさらされておりますし、東京の江東地区についても同様の実情にあります。また、新潟市においては、可燃性天然ガス事業の発展に併い、最近数年間に一メートル数十センチの沈下が記録され、港湾施設等の一部がすでに水中に没しているのでありまして、これらの地域の住民は日夜不安におののいているのであります。これらの地盤沈下の原因は、ことごとく地下水の無制限なくみ上げに起因していることは明瞭でありまして、政府の無為無策を糾弾せざるを得ないのであります。地下水をほしいままにくみ上げるのは、地下水が公有物であるという観念がないからでありまして、西独、オランダ、アメリカ等においては、すでに地下水のくみ上げに関しては許可制をしいております。わが国においては、わずかに温泉法、工業用水法等に、一部地下水の許可または規制の規定がありますが、実際にはその効果を見るに至っておりません。地下水のくみ上げに対する有効適切な規制措置をとる意思があるか。この点に関しわが社会党は、地盤沈下対策特例措置法を一昨日提案しております。総理並びに関係大臣の御見解を承りたいと存じます。
第七点は、本案による水資源開発基本計画と国土総合開発計画等の諸計画との関連についてであります。昭和二十五年制定の国土総合開発法は、経済、社会、文化の総合的見地から、国土の保全と水、土地等の天然資源の開発を主眼として立法されたものでございます。従って、この水資源開発基本計画もまた国土総合開発計画の一環として計画され、実施されるものと解釈いたしております。ところが、国土総合開発法に規定する四つの計画のうち、作成されているのは、わずかに特定地域総合開発計画だけでありまして、他の全国計画、都府県計画、地方計画は、すべて放置されているのであります。法律制定後すでに十一年を経過して、いまだに計画ができないのでありまして、行政機関の怠慢も、ここに至っては、あぜんとするばかりでございます。また、昭和三十一年に制定されました首都圏整備法に基づく首都圏整備計画は、すでに今日の実情に適合せず、政府自身、二、三年前から改訂の必要に迫られているのでありますが、いまだに改訂もしないで放置されております。このように、計画のないものとの調整、古びた計画との調整を、どうやって関連させていくのか、その方法を教えていただきたいのでございます。特に申し上げたいのは、本案によって最初に取り上げられる利根川水系は、そのまま、すっぽり首都圏に入ってしまうからであります。また、この際、淀川水系に関連する琵琶湖総合開発計画と、この基本計画及び公団業務の関係はどうなるか、あわせて伺います。国土総合開発の諸計画はどうするのか、首都圏整備計画の改訂はどうするのか、経済企画庁長官、首都圏整備委員長にお伺いいたします。
第八点は、公団設置の予算措置並びに愛知用水公団との関係をお伺いいたします。この法案が成立いたしますと、本年度中に公団が設置されることになるのでありますが、年度途中において公団発足の場合、その予算はどのように措置されるのでございましょうか。補正予算を組むことになるのかどうか、この点、明確にしておいていただきたいのであります。なお、愛知用水公団は、豊川用水の事業を実施することになっておりますが、この公団と合併あるいは吸収されるのか。吸収するとすれば、時期はいつごろか。また、その場合、愛知用水、豊川用水の施設はどこの管理になるのか、この点、明瞭にしておいていただきたいのであります。
最後に、第九点は、国民所得倍増計画との関係であります。仄聞するところによりますと、水資源開発水系は、さしあたり利根川、淀川、遠賀川、木曾川、吉野川であると言われておるのであります。吉野川を除きましての四河川は、実にわが国の四大工業地帯と大都市を指向しております。この地帯に対して、公団の事業が、政府投資に加えるに公団債券の発行及びその政府保証の手厚い保護のもとに行なわれることになるのでありますが、その際、地域的所得格差を生じ、生活の態様の大きな格差を招来すると思われるのであります。この指定されない地域に対してはいかなる方策をもって臨むか、総理及び各関係閣僚の御所見を伺いたい。
以上九点について簡明な御答弁をいただきたいと存じます。(拍手)
〔国務大臣池田勇人君登壇、拍手〕