柳沢文正の発言 (社会労働委員会)

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○参考人(柳沢文正君) 初めに、この問題を研究したことから申し上げます。
 アルキル・ベンゼン・スルフォン酸、学名ドデシル、ベンゼン、スルフォン酸ソーダ一塩、略しましてABS、日本では中性洗剤と申しております。これにつきまして東京医科歯科大学柳沢文徳教授、並びに都衛生研究所のわれわれグループによりまして、昨年の四月から研究を始めました。研究結果が成就いたしましたので、一月二十四日、お茶の水学会において発表いたしました。発表内容は、本物質の生化学的研究並びにその毒性であります。この発表がありましたあと、各報道機関が、一般に問題がありましたことは、これは二十六年に本物質が輸入され、三十一年に通牒となり、一般に使用されましたときに、厚生省におきましては、砒素、鉛、銅、すず、アンチモン、亜鉛を含有しないという試験成績、それと回虫卵の除去並びに衛生試験所の急性毒性試験、それにつきまして、本品は毒性は大ならずとは考えられぬということでありました。しかるに、これに対しまして、外郭団体であるところの日本食品衛生協会におきましては、本品は毒性を有する有害なる不純物を含まずとして発表しました。さらに業者はこのごとく、厚生省なり日本食品衛生協会推薦品、厚生省実験証明、毒性を有せず、衛生上無害であるという発表をしております。これによりまして、国民、特に主婦の方は全く無害のものとして使用して参ったのであります。私どもは、この物質、アルキル、ベンゼン、スルフォン酸というものは毒性があるのだ、こういうものは界面活性剤でありますから、浸透するものであります。物理的性質の上において、いろいろな無害でないことを申し上げたのであります。これは全く化学的な常識でありますが、それに対してこれだけの問題が起こりましたことは、そういう出発点に何かいわゆる問題点があったのではないかと考えられるのであります。そこで私たちが発表したその翌日、厚生省は私たちのデータを見ないで、一方的な見解を発表し本物質は三十一年の通牒どおり無害である、大いに使用すべしというような通達を出されたそうであります。少なくとも、国家の機関でありますから、国家のいわゆる研究所においてそういうことを御審議の上なされたのであろうと考えますが、少なくとも、このいわゆる界面活性剤というものは、今までの慢性中毒、そういうものによっていわゆる毒性を吟味されることはできないものであります。そこにおきまして私たちがどういう実験を行なったか、申し上げる前に、簡単にその趣意書をここに書いて参りましたから、これをひとつごらん願いたいと思うのであります。内容はかなり高度でありますが、これを簡単に申し上げますと、私たちの行ないました実験は、慢性中毒による所見、つまりラット、マウスにおけるところの成長の阻害、それから微量の投与、あるいは注射あるいは皮膚塗布によりましてからだが酸性になる。しかも、この物質は、市販されておるところのサポニンよりも溶血反応が強い、野菜、皮膚に浸透する、われわれの食物を消化するところの酵素を阻害する、こういうことを申し上げたのであります。でありますから、私たちの申し上げることは、従来の化学研究を離れておるのであります。従来は、慢性中毒というものは、従来の薬品の考え方というものは、いわゆる神経毒あるいは触媒とか、そういうものを行なってきたのでありますが、それだけをもってわれわれのいわゆるこの毒性をきめるということはできないのであります。そこで、私たちが、その一例として申し上げるならば、皆さん方は、ABSの体内に入りました場合に、直ちにいわゆるふん便となって外に出るだろうというお考えがありますが、文献によりますと、六〇%以上も血液に移行いたしますと、たとえば脳、骨髄などに侵入するのであります。豚等におきましては、毛の中にまで入るということであります。こういうことは、従来のいわゆる学問と違うことを考えなければならない。そうして血液に侵入したものはどうなるかと申しますと、たとえば私たちの実験によりますと、一キロ当たり四百mcgおより四mcg、こういうような非常な微量をウサギに注射してみますと、下肢にいわゆる麻痺がするのであります。たとえば二十四匹のうち、三例のウサギに麻痺を生じております。こういうことは、いわゆる従来の防腐剤だとか色素剤などというものとだいぶ違うのであります。さらにこの物質が侵入する場合に、結合を生じて入る場合があるのであります。悪い物質と結合して入った場合には、非常な危険性をもたらすものでありますから、野菜などで、洗浄した場合に、野菜に浸透して入っているところのABSが、ある悪い物質と結合した場合には、非常な害毒を流すということが考えられるのであります。なおかつ、この物質に対しまして、発ガン性の補助物質になるという知見がございます。それはすでに日本食品衛生協会から出されておりますところの、いわゆる「食品衛生研究」において、国際ガン対策連合の委員長であるW・C・ヒーパーが、いわゆる食品添加物及び異物の中に加えておりまして、その中に明らかにドデシル・ベンゼンをマウスの皮膚に塗布し、ガンを作ることに成功したという報吉があります。しかも、そのほかにおきまして、いわゆる国立衛生試験所の川城技官は、発ガン補助因子または促進因子が存在する、界面活性剤や洗浄剤などがこれに当たると申しております。
 また、皮膚の場合におきましては、これがどういうように働くかということはありませんが、本邦の医学者においても疫学的の調査がありますが、これも明らかにABSによって発ガン性補助物質ができるということを発表されております。ついこの間来朝されましたサスキンド博士は、いわゆるアレルギー感作実験により考察しまして、無害ということを言っておられますが、それはいわゆる十分なる検討がされていないものと考えられるのであります。皮膚浸透につきまして、わが国の論文が一つございます。その文献は、本ABSを許可されたときの担当官である日本食品衛生協会の常務理事、事務局長をされているところの小谷博士が、日本公衆衛生学会——昭和三十五年十月九日に発表されたところの中性洗剤に関する皮膚の問題につきまして、中性洗剤をラットに四センチ塗布実験しますと、通常の使用範囲であるところの〇・二五%におきまして、わずか八日間において光沢を失い、さらに皮毛は汚染され、粗鬆となるということを申しております。しかも十五日塗布したラットは、十五日以内に全部死亡するという報告を出しております。この作用は、単なる皮膚の局所に影響するにとどまらず、侵入した皮膚よりABSが臓器に侵入したことが考えられるものであります。一面、ABSの障害がきわめて強いことを立証するものであります。毒性の有無の論では、同教授と私は見解を全く一致するところでございますが、教授は、日本食品衛生協会の常務理事であり、事務局長で、唯一の医科大学教授兼任の方であるのに、同協会で、本品は毒性を有せずと言っておられます。そういう推奨広告をし、学会では、皮膚塗布による死亡を発表しております。この見解の相違は、常識的に見ても疑問を持たざるを得ず、本問題が学問的知見に基づき論議されている点から見ても、学界を信ずるか協会の発表を信ずるか、国民も迷わざるを得ない状態であります。特にこのABSに関しましては、今日私どものところにおきまして、免疫を成立せしむるところの研究ができております。この知見は文献的にもなく、また、所見とも考えられ、これよりABSアレルギーの解明にも役割を果たし得るものと、考察並びに研究にも努めております。しかし、これらの問題は、臨床的には皮膚科の専門家の判定に待つより仕方がないのであります。
 以上が私などの考えておる実験の内容でありますが、多くの学者が、界面活性剤の特徴を考えた上で、この毒性が人体にいかに影響を与えるかという新しい研究方法並びに考え方に立って、慎重に実験を行なうことを認めるのであります。それで、昭和三十一年の通牒は、界面活性剤である、また、本物質が容易に分解しないという特性を無視して、生体の影響を考慮した結果に導かれたものであります。特に公害の問題に対しましては、いわゆる外国において、特にドイツの先進国においては本年の六月、アメリカにおいては来年におきまして、いわゆる分解物質に変えようとしておるのであります。そういうときにおきまして、通常の塩で無害であるという結論を出すに至ったということは、全く科学的な根拠を認ゆることができないのであります。したがって、科学的行政をうたっておるところの厚生省では、すみやかにこの通牒を撤回し、新たにわれわれが主張しておるところの考えに基づき、ABSを吟味した上で、国民にいかに利用すべきであるかということを検討すべきであると思います。

発言情報

speech_id: 104014410X01019620227_009

発言者: 柳沢文正

speaker_id: 30887

日付: 1962-02-27

院: 参議院

会議名: 社会労働委員会