安田敏雄の発言 (本会議)

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○安田敏雄君 私は、日本社会党を代表して、来たる六月十一日をもって有効期間を満了する日米加漁業条約について、政府の所信をただすものであります。
 この漁業条約は、一九五三年すなわち昭和二十八年六月十二日の効力発生以来、来たる六月十一日をもって、十年間に及ぶ有効期間を満了するものでありますが、広大な北太平洋のサケ、マス、オヒョウ等の漁場から一方的に日本漁業を締め出したばかりでなく、その影響は、李承晩によって李ラインを正当化するために利用せられたり、日ソ漁業交渉に際してわが国の立場を弱めるなど、わが国の漁業に、はかり知れない打撃と損失をもたらしたことは、いなめないところであり、世界にもまれな不平等条約であるといわなければなりません。
 このような不合理な条約を当時の日本政府が受諾せざるを得なかったことは、被占領国として、日本漁業がマッカーサー・ラインの狭いワクの中に閉じ込められていたことと、漁業に関する吉田書簡の約束があったからであり、言うまでもなく、講和条約の前提条件としてダレス特使から要請されたもので、わが国が占領治下に置かれたとき調印されたという事情によるものであります。当時の状況としてはやむを得なかったと思いますが、自来、国際情勢の変遷の中で、この条約をめぐる諸条件の変化は、日本漁業にとって、この条約は種々の不合理をかもし出していることであります。まず、この条約の基礎となっております自発的抑止の原則が、資源保護の科学的原則であると、うたっていながら、その内容は、実は資源配分に関する政治的な方式であり、わが国の漁獲を禁止するために考えられたトリックにすぎないことが明らかとなって、一九五八年の国際海洋会議において厳正な批判を浴びた経過もあります。そこで、わが党におきましては、期間満了を前にいたしまして、昨年八月十一日付、河上委員長の名をもって、池田総理に対して申入書を提出した次第であります。
 簡単にその当時の申し出の内容を紹介いたしますと、
 (一) この条約第十一条の規定に基き、期間満了後、本条約を終了せしむべき旨の通告を政府は行なうこと。
 (二) 平等互恵、資源保存、紛争防止等の原則にのっとった新しい条約を結ぶこと。
 (三) 今後の国際漁業に対する、わが国の基本方針の策定を行なうこと。
 以上の申入書は、国際漁業のあり方からいたしましても、わが国漁業の発展のためにも、まことに時機を得た正しいものと私は確信いたしておりますが、この申入書に対する総理の所信のほどをまずもってお伺いいたします。
 次に、質問の第一点は、この条約を廃棄終了させ、新条約を締結することに方針を置くのか、それとも、きわめてつじつまは合わないことでありますが、消極的に改正をはかっていくのか、総理の基本的な方針をお示しが願いたいと思います。条約第十一条によれば、「この条約は、十年間の効力を存続し、その後は、一締約国が他の締約国に対してこの条約を終了させる意思を通告する日から、一年間効力を存続する。」と規定されておりまして、この条約を廃棄して新条約を作るか、それともそのまま存続させるかの、二つの道しかないことになっております。しかも終了させる意思を通告しなければ、さらに引き続き十カ年間効力を持つものと解されておりまして、いわゆる改正はできないことになっているのであります。そこで総理にお尋ねいたしますが、来たる六日から、すなわち明日からワシントンで開かれる日米加漁業条約締結会議で、正式にこの条約の廃棄を通告するように、日本代表に対して、総理、あなたが指示を与えたかどうかをお聞きいたします。聞くところによれば、政府は三国間に無条約状態が生れることは、何としても避けなければならないということと、あるいは先方のアメリカ、カナダの国民感情を刺激しないようにとの理由づけをして、廃棄通告をしないで、改正交渉を進めたいと言っているそうでありますが、もしそれが可能なりとすれば、一体どこに法的な根拠を求められているのか明らかにされたいのであります。
 質問の第二は、この条約は日本漁業にとって片手落ちで不合理なものでありますから、わが党は廃棄終了することを主張しておりますが、農林大臣及び外務大臣の御所見を以下の問題についてお伺いいたします。
 それは条約の不平等性であります。条約は前文において、各締約国は、自由且つ平等の立場に立って、資源の保存を促進する義務を負うべきことを建前とすることを規定しておりますが、その実質は、似て非なる資源保護の原則なるものをわが国に押しつけ、反面、米加両国に対しては、資源保存のワク内という制限を一応付してはいるが、実質的には資源を最大限に利用することを許していることであります。現実に日本漁業を西経百七十五度以東の広大な漁場から締め出している一方的な取りきめは、本来、平等対等たるべき国際条約のあり方にそむくものであり、どのような理由をつけようといたしましても、不平等条約以外の何ものでもないのであります。かかる実情に対する外相の見解をお聞かせ願いたいと思います。
 次に、条約の最大の矛盾は、自発的抑止の原則なるものの上に組み立てられている、この条約の非科学性であります。自発的抑止の原則についてのアメリカの主張を、サケ・マスの場合にあてはめてみましょう。アメリカ産のサケ・マスに対する米加両国の漁獲量は、すでに最大限漁獲量、つまり満限に達しているから、それ以上漁獲すれば資源が枯渇するので、この条約の発効前二十五年間に漁獲を行なっていない日本は、自発的に漁獲を遠慮せよということになっております。このアメリカの一方的な主張は、絶対に承服しかねる幾つかの問題が生ずるのは、当然なことであります。
 その第一は、資源論の面であやまちを犯していることであります。漁獲だけが魚族の数量変動を生ずる要因であるとの独断は、資源の変動に深い関係を持つ自然的な条件を無視していることであります。現実に冷水塊による魚族の大量斃死の場合を見ても明らかなことであります。
 第二に、漁獲量のみが資源の変動をもたらす唯一の要因であるとの独断を認めるとすれば、当該魚族をどれだけ漁獲すれば、最大の持続的生産であり、資源の利用が満限に達するかいなかは、長期にわたる研究によって初めて結論されるものでありますが、これを一方的に満限に達していると称して、日本漁業を締め出す口実に使っていることは、まことに不合理もはなはだしいと言わなければなりません。また、たとえ自発的の抑止が資源保存に有効であるといたしましても、実質的に漁獲を行なっていなかった国、具体的には日本に対してのみ不当にそれを要求することの結果は、アメリカまたはカナダ両国に漁業の独占権を与えることになり、日本は公海から何らの補償なしに締め出されることになります。不公正であるばかりでなく、公海自由の原則にそむくことになります。この点、農相の所見をお示し願いたいと思います。
 質問の第三点は、日本漁民といたしまして承服できないことは、従来実質的漁獲を行なっていないからということの理由で、日本漁業を締め出したことであります。かつてわが国は、この水域を価値なきものとして放棄したわけでは毛頭ないのであります。歴史に徴しましても、昭和十二年のころ、アラスカのブリストル湾に試験操業を行なった際、当時のアメリカから、「たとえ公海で漁獲いたしたにせよ、アラスカのサケは、アメリカ領土内で生まれ、資源保存政策によってアメリカ国民が育成したものであるから、日本が漁獲をすることは、国際信義に反する侵略行為である」と非難されました。当時は日華事変の勃発とも関連いたしまして、米国の対日感情を悪化させることをおそれて、やむなく当時の日本政府は、権利をそのままに、放棄することなく、試験操業のみ中止したものであります。いわば涙をのんで漁獲を中止せざるを得なかった経過があります。しかるに、この条約締結にあたり、これを逆に利用いたしまして、日本漁業を締め出す口実に使うとは、日本に対する二重の干渉であり、断じて納得できないところであります。
 結論すれば、日米加漁業条約の基本的理論である自発的抑止の原則は、日本漁業を北太平洋水域から締め出すための不合理な政治的分配の方式にすぎないのでありますが、この点、外相の考え方をお伺いいたします。
 だからこそ、この原則なるものは、一九五五年海洋生産物資源保存に関するローマ国際会議や一九五八年ジュネーブでの国際海洋会議で、米加代表が懸命の努力を払ってその科学性と正当性を認めさせようとしたにもかかわらず、逆に、国際的な厳正な批判の前に、アメリカの当時のヘリントン首席代表みずから、「抑止の原則は、本質的には科学的な原則ではないことに同意する」と言わざるを得なかった次第でございます。自発的抑止の原則は、条約締結の当時より、日本の漁業者によってもその不当性が叫ばれて参り、以上述べましたように、国際的にもその矛盾が確認された以上、今日新しい時点に立って漁業交渉を行なうにあたり、米加両国がどのように強い主張をしようとも、公海の自由、資源保存の立場に立って、平等対等の新条約を結ぶことは、日本の外交上重要課題であります。また不平等条約を解消する絶好の機会でもあります。総理は、米加両国の不当の要求を断固として拒否し、わが国の正しい主張を認めさせる努力を払う決意を持っているのかどうかを、お聞きしたいと思うのであります。
 次に、質問の第四点は、新条約を締結する場合必要なことは、長期の発展計画を策定することについて、であります。今日わが国土における著しい臨海工業の発展に伴い、漁業は沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へというように、その操業が迫られているとき、国際漁業の解決は重大な課題となって参ります。したがって、少なくとも十カ年間ぐらいの長期にわたるわが国の漁業を、どのような方向で、どのくらいの規模で発展させようとしているかの基本的路線をつかんでおくことであると考えます。今回の漁業交渉に限らず、すべての国際条約を結ぶ場合でも、相手次第でよくもなり悪くもなるということでは、あまりにも自主性がないことを暴露するものであります。由来、政府の水産行政は計画性に欠け、場当たりな行政だとの批判もありますが、日本漁業の長期発展計画を策定し、それに基づいた水産行政を前進せしめる意思があるかどうか、農林大臣の考えをお聞かせ願いたいと思います。
 質問の第五は、日米加漁業条約は、締約国を縛るだけで、第三国に対する何らの拘束力を持っていないことであります。この条約を締結した当時はそれでもよかったかもしれませんが、今日となってはきわめて不十分であります。たとえば、最近のソ連漁業の進出はめざましく、条約水域にトロール漁業がオヒョウを公然と漁獲しておりまして、日本だけが漁獲を抑止する意義が全くなくなってきたわけであります。条約は何らこれを規制をする方法を持っていないのであります。資源を各国が平等に保護し、平等に利用する立場からいたしまして、同一水域で全く何の拘束も受けずに自由に操業する国もあれば、完全に締め出されて漁獲ができない国が存在することは、国際正義に反するものであります。総理は、今回の交渉に際して、条約に参加していない第三国を規制するため、いかなる方法をとられるのかを明らかにされたいのであります。
 また、サケ、マスについては、その習性の特異性に基づいて、沖合と沿岸を包括し、統一的な資源の管理と増殖を行なうようすべきであると思いますが、農相の御意見をお示し願いたいと思います。この点、代表団は心得ているのかどうかをあわせてお尋ねいたします。
 最後に申し上げたいことは、外交交渉についてであります。特に対米外交交渉となりますと、政府は常にたいへんみえばって、りっぱそうなことを言いますし、あるいは美しい表現で誇張いたしますが、実際は常に弱腰であり、その結果は追随交渉に終わり、従属的仕組みに帰することになってしまいます。したがって、国民の中からも、戦敗国だからしようがないというあきらめの声も聞かれますが、まことに情けないことであります。しかし、これは、裏を返して見ますると、政府の自主性のない外交交渉をあざけっているやの一面の風刺でもあります。日米加漁業条約が不平等であることは、国民も政府も異論のないところでありましょう。この際、かつてない蛮勇をふるい起こすの決意を持って国民の期待に沿ってほしいことを総理に要望いたしまして、私の質問を終わる次第であります。(拍手)
  〔国務大臣池田勇人君登壇、拍手〕

発言情報

speech_id: 104315254X02319630605_010

発言者: 安田敏雄

speaker_id: 14760

日付: 1963-06-05

院: 参議院

会議名: 本会議