稲浦鹿藏の発言 (災害対策特別委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○稲浦鹿藏君 御報告いたします。
小平委員長、佐多委員ととも一に私は、去る七月二十六日から五日間にわたって、このたびの山陰地方における集中豪雨災害の現地の実情を調査してまいりました。以下、その概要を御報告申し上げます。
まず、日程について申し上げます。二十六日の夜、東京を出発し、二十七日の正午に島根県災害対策本部に入り、当局から県下の被害概況を聴取した後、松江市、湖陵村、多伎村、大田市等の現地を視察、二十八日は大社町、出雲市より斐伊川をさかのぼり、加茂町、三刀屋町、木次町、大東町の各地を視察、二十九日には、斐伊川下流の平田市、斐川村を経て鳥取県に入り、米子市役所において鳥取県当局より県下の被害概況を聴取、後、米子市郊外の現地を視察、各所において被災住民より災害状況の説明を聞き、あわせて、幾多の要望事項を承ったのであります。
今次の災害をもたらした原因は、日本海にあった梅雨前線が、台風第七号の影響もあって、七月十五日には島根県東部、鳥取県西部を中心に、二百ミリをこえる雨量を記録しており、さらに十八日に至って、低気圧が連続的に山陰沿岸を東進したために、前線の活動が極度に活発となり、約十時間にわたって、松江市を中心として、日雨量三百九ミリという、松江気象台開設以来の集中的豪雨に襲われたことによるものであります。
このように再度にわたった、しかも当地方未曽有といわれる豪雨は、山陰一帯に予想外の被害をもたらし、山くずれ等により百九名の死者を出しましたほか、被害の総額は二百五十億に達しておるのでございます。
特に激甚であった島根県下における被害の概況を、県集計の資料に基づき重点的に申し上げますと、まず、人的被害では、死者百七名、行くえ不明二名、重軽傷合わせて三百四十六名であります。死者の大部分は山くずれ、泥流のため、家屋もろとも埋没圧死したものであります。建物関係被害では、全壊七百三十九戸、流失四十九戸、半壊九百四戸、破損浸水は三万戸をこえ、罹災戸数は県下総戸数の三割に近いのであります。公共土木関係被害では、総額六十六億円にのぼり、道路二十四億、河川三十五億、砂防一億六千万円等であります。農地農作物関係被害では、総額七十九億円にのぼり、農地十四億円、農業用施設三十億円、農作物三十五億円であります。そのほか、商工業関係、公益事業関係、文教関係等、全分野にわたり、県下の総被害額は二百二十七億三千万円に達しております。平田市をはじめ二十市町村において災害救助法の適用を見たのであります。
また、鳥取県の集計によりますと、県下の被害は、死者二名、浸水家屋一万五千戸、河川の決壊、はんらんにより、公共土木関係四億三千万円、農林関係六億五千万円、その他、文教、商工関係等被害総額は十四億五千万円にのぼり、米子市における災害救助法の適用を見たのであります。
今回被災いたしました地区は、昭和三十六年にも集中豪雨に襲われ、甚大な被害を受けており、続いて三十七年の長雨、三十八年の豪雨、そのあとの長雨等、打ち続く災害に見舞われ、今年度に入ってやっと復旧の見通しも一つき、新しい地域開発に着手した矢先に、今回また三十六年災をはるかに上回る集中豪雨の被害を受けたのであります。地元民への打撃はきわめて深刻なものがありました。
今回の災害の特徴といたしましては、次の点をあげることができると思うのであります。
第一に、山くずれ、泥流による局地的な被害が非常に多かったことであります。地質学的には、島根県東部前面は第三紀層地帯と呼ばれ、また、山間地帯は花こう岩風化土による特殊な土壌地帯であり、いずれも一破砕しやすい土質であります。豪雨による多量の水の浸透で、風化した表層と下のかたい部分との間に水が流れ出し、瞬間的な小規模な山くずれ、泥流の現象が頻発したことであります。
第二に、決壊あるいは溢水した河川は、いずれも中小河川であることであります。平時は水量も少なく、部落の近くを流れ、田畑ではかんがい用水として住民に直結している河川なのであります。
第三は、数少ない穀倉地帯の冠水により、農業関係に多大な被害をもたらしたことであります。冠水した面積は二万ヘクタールに達し、県下全耕地面積の四割弱に当たっております。水稲をはじめ、たばこ、果樹、桑、家畜に至るまで、大きな被害をもたらしたことであります。
これらの特徴を持つ今回の災害は、大型台風のときの災害と異なり、個人災害が非常に多いことに注目しなければなりません。低所得、後進地区のゆえに、復旧対策にあたっては、この特殊性を十分に把握することが必要であります。
次に、現地におきまして直接受けた印象と要望並びに今後の対策の問題につきまして申し上げたいと思います。
減水したあと、被災地は、山くずれ、がけくずれ、堤防決壊のため、至るところで赤い土はだをむき出しにしており、泥水の中にあった倒壊家屋もむざんな姿をさらし、豪雨のつめあとをまざまざと残しております。しかし、被災してから十日目、災害地におきましては、悪条件を克服しながら、官民一体となって復旧への努力が重ねられており、特に自衛隊の五日間にわたる救援出動が大きな力添えとなり、道路、河川、家屋等も日ごとに応急復旧への一途をたどっておりました。被災住民の再起の意思を一そう励ますのには、今後の行き届いた行政措置が必要であります。
被災市町村でこぞって要望しておりました事項は、おおむね次の諸点であります。
まず、今回の災害がきわめて激甚であった事実にかんがみ、激甚災害援助法に基づく激甚地指定並びに天災融資法に基づく特別被害地域指定をぜひともせられたいとの要望であります。
島根県の昭和三十九年度における当初予算は約二百四十億、標準税収入は約二十億円でありますが、前述のごとく、今回の被害総額は二百二十七億をこえております。財政の窮迫は被災市町村においても同様であります。地方債及び特別交付税等についても、あわせて考慮を願いたいとの要望があります。
第二は、山地災害の早期復旧とその助成についてであります。現行の緊急治山事業の採択基準額は八十万円となっておりますが、出雲市をはじめとして各地に頻発した今回の山くずれは、いずれも局地的であり、小規模な災害でありますので、採択基準の額を三十万円に引き下げ、なお、それ以下の県単独、市町村単独山地災害復旧事業における負担金についても、起債の対象としていただきたいとの要望がありました。
第三は、改良復旧等の推進についてであります。まず、災害の調査、査定を迅速に実施し、復旧事業にあたっては、原形復旧主義を改め、実情に応じた改良復旧主義を徹底し、また、効率的な復旧をはかるため、災害関連事業を拡大する等、査定基準を緩和して再災害の防止を要望するものであります。なお、査定の際、一部残存施設活用のために改良復旧が阻害されることのないようにしていただきたいとのことでありました。
第四は、災害復旧に要する資金についてであります。政府資金による短期財政資金の融資はすでになされたとのことでありますが、補助災害復旧事業費の地元負担部分に対する低利融資の実施、その他小規模災害等の各種復旧事業の起債適用についての要望であります。
第五は、農林漁業資金の特別措置についてであります。自作農維持資金と天災資金は別ワク融資とし、現在融資を受けているものも対象とし、あわせて借り入れ中の資金返済の延長等を要望するものであります。
第六は、中小企業者に対する融資についてであります。中小企業者に対する政府関係金融機関による災害融資のワク及び中小企業信用保険公庫の信用保証協会に対する融資のワクを拡大されたいとの要望であります。
その他、特殊緊急砂防の大幅な実施、林道の早期復旧とその助成、農業近代化資金の償還猶予措置、医療費給付の充実と防疫費の高率補助等についての要望でありました。
今後の対策の問題点といたしましては、特に次の諸点をあげたいと思います。
第一は、治水についてであります。典型的な天井川である斐伊川の本流は、支流赤川等の決壊のために、かろうじて決壊を免れたのでありますが、宍道湖水位の一メートル六十四センチに及ぶ上昇と相まって、沿岸住民に与えた不安は大きく、沿岸市町村の水防活動は、斐伊川本流に焦点を置き、他の中小河川まで手が回らなかったというのが事実であります。未改修部分の多い中小河川の改修促進はもちろんでありますが、特にこの際、各河川の計画水量の再検討とともに、宍道湖とさらに大橋川を隔てた中海との関連の上に、斐伊川水系を一貫とした抜本的な治水対策の確立が不可欠であると思うのであります。
第二は、治山についてであります。災害復旧としての緊急治山の徹底は、要望点にも触れましたところでありますが、災害予防的な観点より、破砕地帯に対する治山対策がいかになされてきたか、斐伊川が天井河川となるのも鉄穴流しのためばかりではないことは明らかであり、保安林施設及び山腹における砂防対策、地すべり防止対策等、思い切った治山対策が必要と思うのであります。
第三は、危険地帯からの家屋の移転についてであります。今回の災害が山くずれ等により山間の多くの家屋を埋没せしめたことにかんがみ、今後もなお山くずれ等の危険性のある地帯に現存する家屋を安全な場所に移転せしめる必要があり、積極的な助成と指導を講ずるべきであると感じたのであります。現行法規にはこれらの場合の助成規定がありませんが、集団的な移転に際しては、宅地の確保、住宅の建設等についても、また、個人の移転に際しては、災害復興住宅と同様な融資等について法律上の整備をはかる必要があると思うのであります。
第四は、住宅問題についてであります。まず、応急仮設住宅の建設限度率について、現行は市町村ごとに全壊または流失した戸数の三割以内が原則でありますが、応急仮設住宅の趣旨に照らして、被災市町村の実態に適合するよう、この限度率を大幅に引き上げる必要があること。また、被災者の入居を容易にするために、災害公営住宅のワクの確保並びに災害復興住宅の融資について、一般住宅の融資条件の特例を設けるごと等により、住宅問題について被災者の負担軽減と災害復興の促進をはかる必要があると思うのであります。
第五は、災害復旧事業の進捗についてであります。現在、地方公共団体が施行するいわゆる補助災害は、緊要工事については発生年を含めて三カ年、その他の工事については四カ年で完了することとし、全体としては、発生年二五%、第二年度は六五%、第三年度は八五%、その残りを第四年度で完了することとなっておりますが、今回の災害が過年度災害未復旧個所に多発し、しかも、被害が甚大となっておることにかんがみ、すべての災害復旧について、少なくとも緊要工事並みに早期完了をはかる必要があると思うのであります。
第六は、特殊土壌地帯の調査についてであります。今回の災害の特徴が山くずれ、泥流によって大きな被害をもたらした点にあることは、前述のごとくでありますが、山くずれ等が花こう岩風化上等の特殊土壌地帯に頻発しておりますので、これらの地質地形と災害との関連等について、防災科学の見地より調査を早急に実施する必要があると思うのであります。
以上、被災現地のおもなる要望並びに今後の対策の問題について申し述べたのでありますが、国並びに地方公共団体が一体となっての総合的かつ計画的な防災行政の整備こそ、焦眉の急であると痛感したのであります。政府におきましても、これら要望事項等を十分考慮され、必要行政措置を早急にとられることを強く要望し、あわせて被災地が一日も早く復興されんことを祈りつつ、報告を終わります。以上。