卜部政巳の発言 (本会議)
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○卜部政巳君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま議題となりました農地管理事業団法案に対しまして反対の討論を行なわんとするものであります。(拍手)
この法案は、農業と他産業との生活水準の格差を是正するために自立経営の育成と協業の助長に関する諸施策を強化すると銘打っておるのでありまするが、高度成長政策に打ちひしがれ、日々困窮を増しつつある今日の農民の姿を正しく理解することなく、また、農民をかかる悲惨な状況に追いやった農政の真摯な反省も行なうことなく、ただ単に一部の自立農家を育成することによって現状を打破し、格差を是正することができるというものでありまして、農民の期待する明るい将来の展望に立ったものでなく、零細農民の離農を国の権力によって推し進めんとするきわめて過酷な法案であることをまず指摘したいと思うのであります。
二町五反、六十万円の収入を得ることによって、他産業に従事する者との所得の格差をなくする、そのために自立経営農家を育成するのだと総理は本会議場において強調されましたが、総理の言う自立経営農家育成というものは、その規模をも含めまして、すでに五年前、前池田総理によって提唱され、農業就業人口六割削減論が物議をかもし出したことは御承知のとおりであります。その自立経営が五年を経過した今日、大きな行き詰まりを来たしている原因は一体何でありましょうか。常に農業や中小企業の犠牲において高度成長を遂げた日本の経済体制にあることは指摘するまでもないところでありますけれども、また、自立経営育成に対する直接的な、そして目的とした総合的な施策に欠けるところがあったことも見のがすことのできない事実であろうと思うのであります。
こうした総合的研究なしに、単に農業管理事業団を設置し、明年度百カ所をパイロット地区に指定する、その面積は大体千町歩にするといったことだけでは、そしてまたやってみなければ来年のことはわからないというようなことでは、どうして農民は安んじた生活を行ない得るでありましょうか。収入の面を見ましても、目標は六十万であります。六十万の収入を得るために、農民は家族五人が懸命に働かなければならぬ規模になっております。家族をあげて働いた収入と四十代の他産業の勤労者の主人一入のかせぎと同様にするというのであります。そしてまた、格差がなくなるというのであります。これでは自立経営が達成されたといっても、就業者一人当たりの勤労所得は他産業の五分の一にすぎないという不均衡が残るではありませんか。西独のグリーンプランは、育成しようとする農家、農場に就業する一人当たりの農業所得は他産業の勤労者一人当たりの所得と同程度でなければならないとしておるのであります。真に格差を是正するというのでありますならば、このグリーンプランが示しますように、格差を取り除くための真剣な、そしてあたたかい政策を打ち出すべきであろうと思うのであります。ことばだけでは決して農民は豊かにはならないのであります。(拍手)このことを強く指摘いたしたいと思うのであります。
次に、冒頭本法案が国の権力によって農民の離農をしているものであるということを指摘した点であります。
政府は、現在年間七万町歩程度が移転しておる、しかし、その内容を見ると、経営規模の拡大の方向に沿ってはいない、したがって、公的機関を設立し、経営の規模の拡大に当たる、こう言っているのであります。だが、政府が行なわんとしておるところの今日までの経営構造の発展を妨げるものといたしまして、農業白書が示すように、農家戸数の減少が進行せないというところにあるのではないでしょうか。その原因となるものに、農業の将来に明るい見通しを持ち得ないから、機会があれば農業から離脱したいと思っておる方のあることも事実であります。しかしながら、大企業は相手にしてくれない。中小企業も簡単ではない。それが可能になったときにも、概して就業条件が不安定である。賃金も安く、社会保障制度が十分確立されていない。さらに、先祖伝来の土地さえあれば何とかなるという。基本的にいうならば、政府のいう経済安定成長に信が置かれていないことになりますけれども、こうした状態にあることは、都市周辺の農地の宅地化、さらには工場化、それを除きまして土地は容易に流動しないことを物語るのであります。
してみますれば、政府のいう土地移動を経営拡大に結びつけるそのことよりも、管理協議会を設置して国の駐在員を町村に配置し、離農促進をはかることにあることは明確であります。(拍手)諸外国の例を見ましても、規模の拡大のために農家戸数の減少を必要とするときには、離農年金制度をはじめとして離農していく人々に対するあたたかい保護がなされておるのであります。だが、一体政府は、との離農者に対して何を与え、また、どのようにあたたかく保護しようとしておるのでありましょうか。残念ながら、離農者を安心させる措置は全然ないのであります。離農年金制度の創設にいたしましても、移転資金の供給等具体的な対策に欠けておるということを指摘せざるを得ないのであります。これでは人間尊重はおろか、農民首切りの法案といわれてもいたし方ないところであります。(拍手)
総理は、先般NHKの電波を通じて開拓農民の問題に触れられております。そして、その生活状況の悲惨さに触れておられるのでありまするが、この開拓農民は、やれ増産だ、さらには食糧確保だということで、政府が鳴りもの入りで募集し、入植させたものであります。政府の対策が万全でないために、当然政府がなさなければならない道路の整備や電灯を、みずからの借金において行なっておるのであります。加えて、自分の借金でもないものを政府に押しつけられて苦吟しているのが、今日の開拓農民の姿なのであります。やれ増産だ、君こそは増産の戦士である、こうもてはやされた姿がこれであります。長期展望に立った措置が行なわれていないところのこの結果がかかる状態を惹起し、さらに、総理をして悲惨であると言わしめたその原因がここにあるのであります。当然こうした問題もとらえ、本法案に国有林、民有林の解放、未墾地の解放など、こういうものに対する具体的措置が含まれていなければならないのに、この点を無視している点は決して納得できるものではありません。
さらに、これに関連し、融資の問題をながめてみましたならば、事業団の設立の構想の中の自立農家に対する融資は、当初二分四十年の償還で承りましたけれども、本法案の提案時には、三分二十年と姿を変えておるのであります。開拓農民が今日借金を積み重ねている原因の中に、こうした融資の問題もあることを思うとき、総合対策の占いままに自立農家育成を急ぐのであるならば、開拓農民と同様な立場に置かれないとだれが保証できるでありましょうか。(拍手)
昨年十月、二百七十一市町村に対し農地管理事業団の設定について調査が行なわれた結果が出ております。これによりますと、この事業団に対し疑問視している町村は七割にも達しておるのであります。農民がいかに不安を感じているか、このことが如実に示していると思うのであります。豊地政策、農産物の価格安定対策、流通機構の確立、貿易、物価、賃金、雇用、社会保障等のあらゆる総合的な対策の欠除がその原因であるととけ言うまでもありません。こうした総合的対策に欠ける本法案、さらに農民に不安をもたらすこの法案には、絶対反対の意思を表明いたしまして、私の反対討論を終わるものであります。(拍手)