春日一幸の発言 (本会議)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○春日一幸君 私は、民社党を代表して、先日行なわれたベトナム戦争に関する佐藤総理の発言について、その疑義をただすとともに、去る十五日サイゴンの米当局の発したる北爆一時休止の言明を契機として、ようやくにして大きく転回せんとするベトナム情勢に対し、佐藤内閣の対策、方針はどのようなものであるのか、以下、当面する重要事項について、佐藤総理の所見をただしたいと存じます。(拍手)
 周知のごとく、ベトナム紛争はいつしか果て知らぬどろ沼戦争の様相を呈し、ここ百日間にわたり、米軍の北ベトナム爆撃は、日々深刻かつ激烈に行なわれ、ためにアジアと世界の平和はまさに重大な危局にさらされておるのであります。アジアに位置し、平和憲法を国是とするわが国が、本日までこれを対岸の火災視し、漫然として傍観していたことは、まことに異様なことと申さなければ相なりません。(拍手)わが国に、みずからアジアの指導国としての自負あらば、また、自由陣営の一員たるの自覚あらば、当然東西のかけ橋としての使命感に燃えて、アジアの安定と世界の平和のため最善の努力を尽くすべきことは当然のことであると思うのであります。
 いまや、ベトナム戦争を終息せしむべしとの国際世論は世界のすみずみにまでみなぎり渡り、わけて、去る十五日、ワシントンにおいては、平和を求める全米知識人の辛らつなるベトナム政策批判が行なわれ、学者、学生千五百人の大集会が行なわれたとの趣であります。ここに米当局が北爆一時停止の方針を打ち出したことは、まことに画期的な意義を有するものでありまし、ベトナム戦争の解決に独特の地位に立つわが国は、断じてこの機会をのがしては相なりません。すなわち、佐藤内閣が堅持するという自主外交とアジア外交の真髄を発揮するのは、まさにこのときであると思うのであります。
 私は、かかる認識の上に立って、以下、ベトナム戦争終結のためのわが国外交の進路を内外に向かって明らかにするために、次の諸点について佐藤総理の真意をただしたいと存じます。
 質問の第一は、佐藤・ロッジ会談の真相と、自民党青年部の大会における総理のベトナム戦争の見通しに関する発言内容についてであります。
 佐藤総理は、去る五月七日、自民党青年部第四回臨時全国大会の席上において、ベトナム戦争に論及され、「さきに来日したロッジ米特使は、私に対し、ハノイを爆撃したり、北ベトナムの一部を占領するようなことは絶対しないと約束した。」と述べられました。しこうして、これに対し米国務省当局は、この言明は佐藤・ロッジ会談に関する米国の覚え書きとは完全に一致していないものであると反駁し、かつその確認を拒否したことがあわせて新聞に報道されました。
 私はこの問題の実体を正確に知りたいと思います。もしそれ、これが新聞報道のごとくんば、いまや国際問題の焦点とも目すべきベトナム戦争における米国の方針について、佐藤総理はロッジ米特使の説明をゆがめ、もしくは誤ってこれを日本国民に伝えられたというのでありましょうか。まことに国際問題に関する一国の総理の言明が、その相手国からあたかも不実の事柄であるかのごとくに扱われたということは、国の権威にかかる重大問題であるばかりでなく、このことは、また、現に行なわれているベトナム戦争の動向に対し、世界の判断をことさらに惑わしめるものでありますから、この佐藤言明に関する日米間の応酬は、断じてあいまいに看過せらるべきものではないと思うのであります。したがいまして、総理はみずから言明されたところと、そのいわゆる覚え書きとを厳然と照合されて、この際、日本国政府の権威のためにも、かつまた、米国のベトナム戦争における今後の方針をわれらが正確に把握するためにも、その内容を正確にここにお示しを願いたいと思うのであります。また、かかる重要問題について日米間にこのような不可解な論議のもつれを発生せしめたその事情は何か、総理よりあわせて率直なる御釈明を願いたいと思うのであります。
 質問の第二は、ベトナム戦争に対する総理の御認識と、そのアジア外交における佐藤内閣の姿勢についてただしたいと思います。
 佐藤首相は、同じく自民党青年部第四回臨時全国大会の席上、さらに、「米国の北爆にはそれなりの理由があり、爆撃されるほらにも責任がある。」と演説されて、米国の北爆を支持するかのごとき方針を表明いたされました。これは、平和憲法を国是とするわが国の首相の発言としては、きわめて重大であります。総理は、しかるべき理由がありさえすれば戦争や侵略は行なってもよいと考えておられるのでありましょうか。
 去る十五日、ワシントンにおけるベトナム政策批判の全米学者集会において、シカゴ大学のモーゲンソー教授は、「ベトナム戦争の本質は外国の侵略ではなく、南ベトナムの内部崩壊であり、北部の共産主義者がこれを利用しているにすぎない。また、この戦争は南ベトナム国民から支持されてはいない。政府はこれらの事実を無視しておる。したがって北爆も成功するとは思われない。」と、自国の政府の態度、方針を手きびしく論難、糾弾しておるのであります。
 総理は、わが国憲法第九条の精神に照らし、ベトナムにおける米国の戦争行為をどのように認識されておるのでありましょうか。
 また、佐藤首相は、組閣以来自主外交を強調し、特にアジア外交を重視すると述べられてまいりました。もとよりこれは当然のことであります。しかしながら、この佐藤総理の北爆支持の言明は、自主外交やアジア外交にまっ向正反対の逆コースを示すものでありまして、これはあまりにも明白なアメリカ一辺倒の追従外交であり、そこには自主外交の片りんだもうかがうことはできません。わけて、ベトナムに対しては、わが国が地理的に、歴史的に、民族的に独特の立場に立つものであることをおもんみるならば、かくのごとく一方的にアメリカの側に立って言動することは、いたずらに国際間のひんしゅくを買うばかりでありまして、問題の解決にはいささかも貢献するものではないと思うのであります。
 われわれはアジアの民族でありますから、常にアジア諸国民の信頼を確保せなければなりません。外交に自主性なく、かくのごとくにして常に米国に従属するならば、やがてはその存在を軽視されて、ついにはアジアの孤児になり果てましょう。いまこそ、わが国が自主外交とアジア外交の本領に立ち返るのときであると思うのであります。この際、ベトナム戦争に対する佐藤総理の認識と、ベトナム戦争解決のための政府の決意について、あらためてその信念のほどを明らかにいたされたいと存じます。
 質問の第三は、ベトナム戦争の解決について佐藤内閣の具体的方策は何であるか、これをお伺いいたします。
 ベトナム戦争のその根底にあるものは、米国と中共との角逐にあることは明らかであります。すなわち、中共、北ベトナムのベトコンに対する指導と軍事援助の強化に対し、米国が北爆強化を中心とする武力介入を行なうことによって、戦場は次第に拡大してまいったのであります。したがって、ここにベトナム問題を解決するためには、交戦の当事国双方は、単に相手国の一方的軍事行動の停止を求めるだけではなくして、この際は、無条件に国際会議のテーブルに着いて、まず事態の解決をはかるための場所を持つべきでありましょう。いまこそ、わが国が当事国並びに関係国に対し、無条件話し合いの呼びかけを行なうべきときでありまして、情勢はようやくにして煮詰まってきたと見るべきであります。すなわち、この無条件話し合いの主張は、四月八日のジョンソン大統領のボルチモア演説においてその意思が明確に表明され、また、四月十八日のソ連・北ベトナムの共同声明において話し合いの可能性を含蓄する態度が示されたのでありまするが、ここに去る五月十五日米当局による北爆一時休止の言明が行なわれた現在、もはやわが国はその呼びかけを行なうことをいっときもためらっては相なりません。ベトナム戦争の解決をはかるために、わが国がアジアの指導国としての使命感に徹するならば、いまこそ、わが国が、全面和平へのイニシアをとり、強く国際世論に訴えて、この手段を尽くすべきであると思うが、佐藤総理の御見解はいかがでありますか。この際、重ねて真剣なる御決意を促したいと存じます。
 質問の第四は、ベトナム問題解決の精神的支柱とも目すべきベトナム国民の民族民主主義について、総理の所見を伺いたいと存じます。
 ベトナム戦争の平和的解決のために最も肝要なことは、アジア諸国におけるほうはいたる民族民主主義の本質を関係国が直視し、洞察し、理解し、尊重することにあると思うのであります。アジア諸国における民族民主主義は、米国の自由主義とも、中国の共産主義とも、その本質と動向を異にするものであると見るべきでありましょう。アジア諸国は、多年欧米の植民地として隷属を強制され、その人権も民族の自主性も、長きにわたって全く圧殺されてきたのであります。さればこそ、アジア諸民族の政治的、経済的独立の願望は熾烈なものでありまして、今日、アメリカをはじめ西欧諸国が、これらの民族感情を正当に理解し、これに共感することは、容易なことではないと思われるのであります。わが国がここに地理的に、民族的に東西のかけ橋たらんとするならば、わが外交の論点は、このアジア諸国民の民族民主主義に関する切実なる願望について特に関係諸国の蒙を開き、公正なる認識を求めるところにその重点を置くべきであると思うが、佐藤総理のこの点に対する御見解をお示し願いたいと存じます。
 質問の第五は、ベトナムの真の独立とその安全保障に関する総理の見解について伺います。
 ベトナム戦争の平和的解決のために特に肝要なことは、南ベトナムの政情を正確に把握することであります。一国の政治において最も必須不可欠な要件は、政権と民心との融合にありと思うのであります。もしそれ、政権が民心から離反するならば、その政権の価値と意義はむなしく、その政権の生命は遠からずして失われるものであります。民心の離反した政権が権力や武力をもってその統治を強行するならば、それはみずから転覆の災いの度合いをそれだけ大きくするだけであります。
 ここに、南ベトナムの自主独立を確保するためには、真に民意を反映した政府の実現をはかることが前提とならなければなりません。そのためには、外部のいかなる勢力の介入をも遮断排除して、南ベトナム自身の民意を反映した民主民族政権が樹立されるべきであると思うのであります。しこうして、米国、中共等の諸国は、これに対して、一九五四年のジュネーブ協定の精神に基づき国際会議を開いて保障を与えるとともに、さらに国連を中心とした有効適切なる安全保障の措置が具体的に講ぜられるべきであると思うのであります。
 佐藤総理は、これらの点を強調して、国際世論を喚起とその指導に挺身すべきものと考えるが、これに関する総理の所信をお述べ願いたいと存じます。
 以上、ベトナム戦争に関し、わが国が当面する重要なる諸点について質問いたしました。
 いまやベトナム戦争は、米国の北爆一時休止の言明を基礎にして、和戦両様のかまえにあり、まさに、アジアは戦争と平和の分かれ道に立たされていると思うのであります。もしそれ、この機会をむなしくすることによって平和への道が閉ざされるがごときことになるならば、その後のベトナム戦争の展望は、思うだにりつ然たるものがあるのであります。
 従来の米軍の北爆は、ベトコンヘの軍需物資の補給基地を破壊するためのものといわれてまいりました。このことは、北ベトナムやその背後にある中共等に対して、わが国の米軍基地に同様の攻撃を加うるの口実を与えることにならないとはだれが保証し得まし、ようか。このようにして、わが国民の生命は、ときに戦火の前面にさらされるおそれなしとはしないのであります。
 事態はまことに重大であります。ここに、平和を希求し、戦争の恐怖を身をもって痛感する大多数の国民の願望にこたえられて、総理が猛省とともに一大決意をもって奮起されんことを、しこうして適切なる対策を直ちに実行されんことを衷心より切望し、これに対する総理の御決意の表明を求めまして、私の質問を終わります。(拍手)
  〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕

発言情報

speech_id: 104805254X04519650517_012

発言者: 春日一幸

speaker_id: 27998

日付: 1965-05-17

院: 衆議院

会議名: 本会議