湯山勇の発言 (本会議)
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○湯山勇君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま御説明のありました農業の年次報告並びに来年度施策について質問をいたします。
農業基本法が実施されまして五年になります。五回目の報告書を読んでみまして、感じましたことを率直に申し上げますならば、一つは、わが国の農業の危機がいよいよ深刻になってきていること、いま一つは、この五年間、政府は一体何をやってきたかという疑問を深めたことの二つでございます。
わが国の農業の基本的態度については、この講じようとする施策の劈頭に、「「農業基本法」の定めるところにより農業の生産性および農業従事者の生活水準の向上を図るため、同法の定める施策を着実に具体化することを基本的態度とする。」とありまして、過去四回も一貫して同じように書いてございます。はたして、生産性と生活水準が着実に向上したでしょうか。報告書についてこれを見ますと、まず、生産性については、「労働条件は悪くなっているけれども、水利や土地の整備、機械化等によって、他産業との格差は縮小しないけれども、生産性は三十一年から三十九年まで、年率六・二%程度順調に伸びている。」と書かれてあります。生活については、「景気停滞の影響を受けることなく、農家所得は三十九年には一四%伸びて、消費生活の向上、貯蓄の増加等、順調な足取りを示している。」と書かれてあります。これらは、現実のきびしさとはおよそかけ離れた楽観的な見方でございます。「わが国の食糧自給率は、年々低下して、すでに八〇%を割っている。中期経済計画に比べて、三年も早く赤信号になってしまっております。食糧の輸入は、年々増大し、三十九年で十七億九千万ドルに達しております。農業労働力は質、量ともに低下し、兼業農家が八割に達するという事態は、まさに農業の危機以外の何ものでもありません。
かつて、池田前総理が、「農業者が喜んで農業に専念できるよう、思い切った革命的な施策を講ずる。」と、ここで演説されまして、このことばが物議をかもしたのが、昭和三十八年の十月でございました。ことばは別としても、その心境はそのまま実感として理解することができると思います。池田内閣のひずみを是正することを公約された佐藤総理は、わが国農業の現状をどのように把握しておられるか、それに対処する御決意はどうなのか、まず明らかにしていただきたいのであります。
以下、内容について四点お尋ねをいたします。
第一は、生産性の問題であります。
今国会の劈頭、総理はじめ各大臣とも、口をそろえて、農業の生産性の向上を強調されました。しかし、農業は、他の産業と異なって、土地による大きな制約を受けております。この農業の特性を忘れた単なる生産性向上政策は、一歩誤れば農業を破壊に導くおそれがあります。報告書の稲作についてこれを見ますと、動力耕うん機が二・六戸に一台をはじめ、農薬の進歩等で、昭和三十五年には反当百八十五時間の労働力を要したものが、三十九年には百四十七・二時間、三十七時間の節約ができています。しかし、米の生産は、三十七年以後次第に低下し、反当収量も四百キロから三百九十キロと連続低下しています。この減収を計算に入れても、なお生産性は約二〇%向上したことになっておりまして、生産性は上がっていても、収量は減っているのが実情であります。生産性向上のための構造改善事業では、農道、水路が整備され、水田の区画も大きくなりますから、大型機械が使えるようになって、生産性は大幅に向上いたしますが、その反面、農道や水路の拡張によって七%程度の農地がつぶされることになっております。機械使用によるロスもありまして、その分は収量が減ることになっております。生産性の向上によって労働時間が減少した分は、生産者米価の算定にあたってそれだけ米価を引き下げることになっております。その上、機械の買い入れの費用、土地整備の費用等の負担が多くなってまいります。農民は農業の構造改善事業によってみずからがみずからを苦しめることになっているのであります。これで一体どうして稲作の構造改善が進められるでしょうか。土地基盤整備を主とする構造改善事業が進まぬ原因はここにあります。
畜産の伸びが一三・二%に対して、土地に依存する耕種部門の伸びがわずか五分の一の二・九%になっていることは、まさにその裏づけであります。農業の生産性の向上は、それによって生み出された労働力をそのまま農業に振り向けて、農業に活用されてこそ、生産増強、所得の向上に結びつくのであります。しかし、いまのやり方では経営規模の拡大がこれに伴っておりませんため、この生産性向上の技術、物財を活用すべき土地がありません。ここに大きな盲点があります。生産性向上によって余った労働力が農業で消化できないために、やむを得ず働く場所を農業の外に求めざるを得ない。こうして新たに十一万戸の兼業農家がふえております。今日兼業農家の数は全農家の七九%、八割に達してしまったのであります。他産業に職を求めるということになれば、需要の多い新卒業者がまず出ていくことになります。ここで農家は後継者を奪われます。次は若い男子、出かせぎをするのもまた主として男子であります。こうして農業のにない手は次第に女性化、老齢化し、男女の割合はついに女子六〇、男子四〇という最悪の事態に立ち至ったのであります。
労働力の流出に加えて、麦や菜種をつくるのは引き合わない。冬作放棄が次第にふえてまいりました。三十五年から四十年までに、冬作放棄は実に七十二万町歩に達しております。八郎潟の干拓には三百億円を投じ、一万五千町歩の農地の造成を行ないましたが、一方においてその五十倍の耕地で冬作放棄が行なわれているのでありますから、政府はまるで底の抜けたおけに水をくむのと同じようなことをやっているといわれてもいたし方がないのであります。この冬作放棄もまた引き合わない冬作を切り捨てる農民自身の生産性向上ともいえますけれども、しかしながら、経営規模の拡大が重要な課題であり、食糧の自給度が低下しつつあるとき、貴重な生産基盤を遊ばせておくことは放置できないことだと思うのでございます。
以上の見地から、あらたまってここで総理にお尋ねをいたします。
今日、日本の農業が直面している危機は、明らかに政府の見通しの誤りと、条件の整っていない生産性向上政策の矛盾に基づくものであります。この矛盾をどう克服するか、そのためにどのような施策を講ずるか、また、この原因となった農業基本法をこの際再検討する用意があるかどうか、お答えをいただきたいのであります。(拍手)
なお、このことに関連して農林大臣にお尋ねをいたします。
見通しと施策の誤りから、食糧の自給率は予想以上に悪化いたしております。まだまだこれが低下することは必至でありますが、最悪の場合、自給率はどれくらいになる見込みか、それに対する対策はどうなのか。
次に、成長部門である畜産は、濃厚飼料の五二%を輸入にたよっております。その量は実に米の政府の買い上げの全量に匹敵いたしております。飼料自給の面から見ましても、冬作放棄が拡大することはほっておけない問題でありますが、その対策はどうなのか。ことに冬作の中心である麦については、二年前に米審からすみやかに麦の基本方針を示すよう宿題が出ております。まだお答えがありませんが、麦をどうするのか、これらをあわせて明らかにしていただきたいのであります。
第二の問題は、自立農家の育成でございます。
自立農家育成は農業基本法のおもな柱であります。毎年出されるこの施策のほうには、必ず自立農家の育成が強調されております。ところがふしぎなことには、一方の報告書には自立農家がどれだけふえたのかはもちろん、自立農家の数さえ出ていないのであります。こちらに出ておって報告で消えている。頭があって足がない。まさに自立農家育成は幽霊ではないでしょうか。(拍手)二町五反、年収百万の自立農家百万戸育成、この公約は一体どうしたのでしょう。いま経営規模で二町五反以上の農家は、三十五年が二十三万七千戸、四十年は二十五万六千戸と、五年間で約二万戸ふえております。このペースでまいりますと、自立農家百万戸育成には、今後実に百八十年から二百年かかることになっているのであります。さすがに報告書は、良心的にただの一言だけ、「自立経営への発展の胎動が見出される」と書いてあります。ところが、施政方針演説で、総理は、自立農家を育成すると演説され、大蔵大臣は、自立農家育成の施策を着実に実行すると演説されました。報告書の胎動というのはまだ生まれていないということです。生まれていないものをどうして育てていくのか、育成されるのか。総理大臣並びに大蔵大臣は、報告書と演説なさったこととの食い違いをどうお考えになられるかを承りたいのであります。(拍手)無責任を陳謝されるか、さもなくば、自立農家育成の具体策とその見通しを明らかにされたいのであります。(拍手)
総理は、農地管理事業団のことを言われるかもしれません。確かに、わが国の現状では農地の移動に依存する面が大きいことは理解できます。しかし、それにしても四十億円、二千ヘクタールが対象では全くお話になりません。一けたもしくは二けた食い違っておるのではございませんでしょうか。
それに、今回もまた、最も大切な離農対策が何も示されておりません。これでどうして安心して離農できるでしょうか。離農対策をどうするのか、それはいつ示されるのでしょうか、承りたいと思います。
なお、あわせて地価対策をどうするか。異常な土地の値上がりと耕作放棄が同居している、この変則状態の中でこれにどう対処されるか、これを明らかにしていただきたいのであります。いま御説明のあったせっかくの土地改良の長期計画も、農政の根幹がぐらついている今日の状態では、文字どおりどろ田に金を捨てることにもなりかねません。大蔵大臣の御所見を伺いたいのであります。
第三の問題は、所得についてであります。
報告書で所得が順調に伸びているというのは、実は農業所得ではなくて農家所得であります。三十九年、一農家平均六十六万七千円の年間所得のうち、五二%は農業以外の所得であって、その伸び率は年一七・五%にも達しております。これが実は農家の生活を向上させていると述べております。佐藤総理は、施政演説において、「兼業農家増加の傾向にかんがみ、その所得を増大するための施策を推進する。」と述べておられます。このお考えは明らかに農業基本法とは違っております。基本法には、農業従事者の所得と明記されております。総理の言われるのは、兼業農家の所得、すなわち農業よりも農外所得の増大に重きが置かれております。農業はうまくいかなくても、農外の兼業のほうで所得をふやせというのが総理の御趣旨でございますから、これではもはや農業政策ではありません。農民が農業軽視であるとして憤慨するのは当然でございます。(拍手)政策を誤ったために予期しなかったほど兼業がふえて、その所得が大きくなったという事実を見てから牛を馬に乗りかえる、こういう便宜主義は断じて許されないところであります。(拍手)総理は、なぜこのように基本方針を変更し、なぜこのようなお考えをお持ちになるに至ったか、この際明らかにしていただきたいのであります。兼業農家が生活をささえていくために、どれだけ大きな犠牲を払っているか、重労働で疾病が急増している農村婦人、出かせぎで行くえ不明になったたくさんの農民、最近も二月二十一日の朝日新聞の「今日の問題」にこう出ております。
もうすぐ春がくる、出かせぎのとうちゃんが 帰ってくる——その「もうすぐ」を前に、名古屋でタンカー火事が起きた。下請けの作業員十五人が死んだが、そのうち四人は出かせぎ農民だった。留守宅の四人の妻や母たちは、電報を手に「貧乏人はどうしてこういじめられるのか」と泣くばかり。大きな工場や事業場で大きな事故がある。死ぬのはきまって下請けの労務者である。冬だと、その中にかならずといってよいほど出かせぎ農民がいる。先月末本紙社会面に「母恋しさに三百キロ」という記事が載った。六年生の男の子が保護された。和歌山のみかん畑へ出かせぎに行った母親に会いたかった、という。公開調査で三年ぶりに帰ったトッチャを迎える三人のこどもの写真が、大きく載ったこともあれば「とうちゃんの消息を知っている」と留守宅でサギを働く男の記事も載る。二月もなかば過ぎた。かあちゃん農業できたえたかあちゃんだが、やっぱり一番うれしい時だ。「駅まで迎えにゆこう。その前にパーマをかけて……。」
総理並びに農林大臣は、こういう事実をどうごらんになられるのでしょうか。総理がほんとうに農業のことをお考えになっているのであれば、兼業農家の所得を増大する、こういうことをお取り消しになって、この際兼業や出かせぎをしなくてもいい、りっぱにやっていける農業を私は全力をあげて実現します、こう約束してそれを実行することではないでしょうか。総理の御所信を承りたいのであります。(拍手)
最後に、米価について簡単にお尋ねいたします。
昨年は冷害が予想され、その対策にたいへん努力をいたしました。労働時間、物財費は相当多くなっております。その上、物価や賃金が上がってまいりましたから、四十一年産米は、現在の生産者米価一万六千三百七十五円を大幅に上回ることは、これはもう農林大臣もお認めになられるところだと思います。消費者米価は、この四十年度の生産者米価に伴って生じた逆ざや、つまり消費者米価が生産者米価を下回っているその逆ざやを解消しなければ、食管制度の運営に支障がある、これが最大の理由で、一月一日から消費者米価を引き上げました。しかし、いまこの二つを比べてみますと、消費者米価と生産者米価との間に逆ざを生ずるまでのゆとりはわずかに百七十三円、生産者米価を本年、四十一年度百七十三円以上上げれば逆ざやが生じます。これはもう、生産者米価を今度きめれば逆ざやになることはきまっております。そこでその場合に、本年同様、逆ざや解消の名のもとに消費者米価を上げられるのか、上げられないのか。物価対策上、逆ざやになっても消費者米価は上げないと言われるのか。その他に方法がおありになるのか。これは具体的に数字をあげてお答えいただこうとは思いません。ただ、その方針を明らかにしていただきたいのであります、いま、消費者米価、生産者米価が、今日の公債発行を伴う国家財政でも、大きなウエートを持っております。いま全然見通しが立たないとは大蔵大臣も言われないと思います。もし、それができないようであれば、物価対策も、あるいは農業政策も公債政策も行き当たりばったりのそしりを免れないと思います。この米価について、農林大臣、大蔵大臣からはっきり御答弁いただくことをお願いいたしまして、質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕