加藤万吉の発言 (本会議)

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○加藤万吉君 私は、日本社会党を代表して、最低賃金法の一部を改正する法律案について、質問を行なわんとするものであります。
 申し上げるまでもなく、業者間協定を中心とする現行最賃法は、かねてよりわが党が指摘をしてきましたとおり、賃金の決定機構に労使の代表が直接参加し得ない方式は、ILO二十六号条約を引き合いに出すまでもなく、およそ最低賃金決定制度の名に値しないものとして、国際的にも強い非難を浴びてきたところであります。
  〔議長退席、副議長着席〕
 政府は、この業者間協定によって、その適用労働者が五百三十万人をこえ、賃金水準の低い労働者の労働条件の改善に役立ってきたと述べておりますが、これは今日までの事実経過を著しく歪曲し、国民を愚弄するもはなはだしいといわなければなりません。(拍手)すなわち、今日の賃金水準の上昇は、現行最賃法の普及によってもたらされたものではなく、高度経済成長期における若年労働力の不足と物価上昇に追いつこうとする労働者の経済的要求力がこの結果を生んだにすぎないのであって、むしろ現行法は、これらの労働者の賃金水準向上に足かせの役割りを果たし、大手企業の下請加工賃規制の役割りを業者間に押しつけてきたのであります。
 そもそも、最低賃金の決定制度と賃金率の決定は、企業別に賃金を決定しようとする機構を越えた横断的決定機構であり、諸外国にあっては、産業別全国組合の団体協約締結を全産業労働者に一般拡張し、適用することにその源を発したものであり、各国の実情に基づいた方法と手段によって法制化するよう求めたものがILO二十六号条約及び勧告三十号なのであります。したがいまして、産業別周の団体交渉及び団体協約の締結を否認し、企業組合育成を目ざしているわが国の使用者に対して、ILO二十六号条約の精神に沿てっ最低賃金法を確立することこそが、近代的労使関係をつちかうための政府のとるべき指導的政策であったはずであります。しかるに、政府みずからもまた企業内に労働者を封じ込めようとする労働行政を積極的に推進し、近代社会における基本的労使慣行の樹立に逆行し、そのためにこそ今日のにせ最賃法といわれる現行法を施行したといわざるを得ないのであります。(拍手)
 そこで、私は総理に質問をいたします。今回の中間答申を求める際、政府はILO二十六号条約を批准できる内容のものを答申するよう求められたことは、現行最賃法がILO二十六号条約に合致しないことを政府みずからが認めたことになるわけであります。しからば、しばしば現行法が最低賃金決定制度として有効であるという国民へのこれまでの欺瞞に対し、どのような政治責任を感じておられますか。その所信をお伺いをいたしたいと思います。(拍手)
 第二に、今回政府が提案された一部改正は、ガットやOECDの加盟、さらには貿易の自由化等からくる国際的な非難に対して、かろうじてこれを批准しようとするごまかしの最小限度の改正であり、その基本は依然として日本の低賃金の二重構造を維持しようとするものにほかなりません。
 本来、最低賃金の法制化は、労働時間、就業年齢制度、休日休暇の法制化と同様、労働基準の三つの柱の一つであり、すでに述べたとおり、国際的なプロセスの上に立って一九二八年に条約化され、最低賃金制度及び最低賃金率については、労使協議の上に制度化することを取りきめたものであり、各国にILOはその原則に立って批准を求め、一九六七年の今日においては、この条約の批准はいかなる後進国においても可能な条件を持つに至っております。
 言うまでもなく、わが国の鉱工業生産はすでに世界第四位の地位を占め、先進国同様に高い工業水準の上に立って国際競争力に対応する時期にあると思います。このような条件にあるにもかかわらず、なお世界七十数カ国が批准しているこの条約に批准できないわが国の条件は、どこに存在すると思いますか。また、本改正案が先進工業国にふさわしい内容を整えた最低賃金決定法とお考えになりますか。
 第三に、今回の法改正は中央最低賃金審議会の中間答申に基づいて提案をされております。しかるに、その答申においても、いまだ審議を尽くしていない面や、委員間の意見の相違、諸外国の最低賃金制の実態について、なお検討すべき問題も残っていると述べているとおり、本答申を行なう経過の中でも、最も意見を聴取し、尊重しなければならない日本の最大なナショナルセンター総評の欠席と中立労連代表の反対、すなわち、日本の組織された労働者の過半数をこえる代表の反対の中で出されたものを、法律案として早急に提案した真意はどこにあるのでしょうか。また、この事実の経過から、わが国の労使の間でさらに綿密な協議が行なわれ、その上に新たな最低賃金法案を提案することこそが議会政治に必要な審議のルールと思いますが、総理並びに労働大臣にその所信を伺いたいと思います。
 第四に、わが国の最低賃金法について、全国一律の最低賃金制度確立を強く要求する声があることは御承知のところと思います。今日、全国一律の最低賃金制の確立について、その反対論者は、賃金格差や地域格差、そして大企業と中小企業との二重構造からくる企業間格差のあることをその理由にあげ、全国一律制によって、支払い能力が伴わない企業は倒産するかのごとき幻影を与えておりますが、はたしてそうでございましょうか。戦後、労働基準法は労働時間として実働八時間制を法制化し、地域、企業の格差のいかんにかかわらずこれを実施いたしております。一体、実働八時間労働制が理由で戦後倒産した民間企業があるでございましょうか。今日、地域格差は労働力の流動化によって徐々にその差を縮小し、大橋、石田の前労働大臣が、一部の地域的条件を除けば全国一律は望ましい形であると言明し、問題は実施の方法にあると述べたことによって、本問題は議論の余地のないところとなったのであります。一体、この言明について責任ある政党内閣としての答弁はいつどこで雲散霧消してしまったものでしょうか。
 また、賃金格差は、今日政府統計でも明らかなとおり、五百人以上の製造事業場の賃金を一〇〇とすれば、三十人未満の事業場のそれは六一・一%であります。本来、最低賃金額は企業の支払い能力によって決定されるごときものではなく、その国における労働者の最低生活水準を保障する横断的賃金額であらねばなりません。問題は、その賃金額がその国における経済力に可能かいなかにあるといわなければなりません。
 ちなみに、アメリカにおける一人当たりの国民所得はわが国の五倍に当たります。アメリカ連邦法に基づく最低賃金率は一九六七年で一時間一ドル四十セント、これをわが国に引き直しますと、一カ月九万七千百九十二円になります。わが党が要求している一万八千円は、このアメリカの最低賃金率の五分の一であり、アメリカの国民所得に対して五分の一を有するわが国の最低賃金額としてはきわめて控え目な額の制定といわざるを得ません。また、この一万八千円の額は、イギリスのボタン、かばん製造の最低賃金率の二分の一、フランスのパリ地区の三分の二であります。
 かかる条件を見た場合、わが国における全国一律最低賃金制度と一万八千円の最低賃金額は、地域的にも経済的にもその基盤があると思いますが、それでもなお低額な業者間協定による目安賃金を制定していたところに、各国のソシアルダンピングの非難があったと思いますが、総理並びに大蔵大臣にその見解をお伺いいたしたいと思います。
 また、本件については、全国一律による最低賃金制を提案されている提案者に対しても、その所信をお伺いいたしたいと思います。
 要するに、全国一律の最低賃金制反対論者の真意は、その額や技術的手段にあるのではなく、最低賃金を決定する制度そのものにあるといわざるを得ません。これからの日本の経済は、先進国の名にふさわしい高度の技術を伴った近代的生産体制と、それにふさわしい労働条件の向上を基礎とした経済構造に脱皮しない限り、日本の国際的地位の向上も断じてなし得ないのであります。真の民主的なルールに沿った最低賃金制度の確立はその重要な柱であり、国家のなさなければならぬ最低限度の義務でもあります。いまこそ政府はこの著しく立ちおくれた日本の労使関係を根本から改善し、労働者の労働条件を向上させるためにも真の最低賃金制度の確立をはかり、もって旧来の汚名をそそぎ、日本経済の正常化に寄与されるべきと考えますが、総理の所信をお伺いをいたしたいと思います。(拍手)
 最後に、第十六条について質問をいたします。
 本条は、中央最低賃金審議会においても多くの議論のあったところであります。本条適用にあたって最低賃金をきめようとする事業、職業または地域の発議権が、労働大臣または各都道府県労働基準局長のみにあり、最も必要とする労働団体にその権利を認めていないことは、明らかにILO二十六号に抵触し、本法をもってしては、この条約の批准を行なうことはできません。また、本条における公益委員の地位と役割りは何を示しているのでしょう。勧告三十号は、労使双方が同数の意見に分かれた場合、中立委員は双方が有効なる決定に至るための橋渡しの役であると述べております。今日わが国の労働委員会における公益委員の役割りは、この条件を阻害しているといわざるを得ません。すなわち、本十六条は、団体協約締結権者である労働者の基本権及び発議権を封鎖し、政府の思いのままの産業、地域をみずから選別し、それらに対し、政府の所得政策に似合う目安賃金を最低賃金額として決定するという意図を内包しているといわざるを得ません。すなわち、このことは、新たなる装いをこらした政府の統制賃金ということができるのであります。
 以上の諸点に対する労働大臣の見解を求め、私の質問を終わりたいと思います。(拍手)
  〔川崎寛治君登壇〕

発言情報

speech_id: 105505254X03119670629_015

発言者: 加藤万吉

speaker_id: 21476

日付: 1967-06-29

院: 衆議院

会議名: 本会議