柳岡秋夫の発言 (本会議)
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○柳岡秋夫君 私は、日本社会党を代表して、ただいま趣旨説明のありました最低賃金法の一部を改正する法律案について、総理並びに関係大臣に質問いたしたいと思います。
八年前に、多くの労働者の反対を無視しまして制定をした業者間協定による最低賃金の決定が、本来の最低賃金制としての役割りを果たし得ないことは、日とともに明らかになってまいっております。わが国の賃金水準が、近年少しずつ高まってきたと言われておりますが、欧米諸国に比しましてなお著しく低いことは御承知のとおりであります。そしてその生活水準も、実質賃金の上昇に伴って向上していることは事実でございますが、エンゲル係数が低下したといいながら、国民栄養調査によれば、栄養上問題のあるものは消費世帯の一八・七%に達しております。それは、所得水準に大きな格差があり、所得差による食物内容の違いが大きいことであります。今日、一人でぎりぎりの生活を維持するには二万円は必要であるとされております。しかしながら、その二万円にも満たない労働者が二六・九%もいるのであります。四十年九月の調査によれば、新規保護世帯のうち三七%は働いているものがいる世帯であり、その大部分は、日雇い、家内労働者並びに小零細企業の労働者であります。こうして世界第三位の工業国といわれながら、国民一人当たりの所得は世界第二十一位という不均衡を現出しているのであります。
本来、最低賃金制は、社会発展の基礎ともいうべき生産に従事する労働者の労働の価値を正しく評価し、労働者が再び誇りと希望をもって労働できるよう、その再生産に必要な生活をなし得るに足る賃金を国が保障する政策であり、国家の果たすべき最低の義務であります。
そこで、私はまず総理にお伺いしたいのでありますが、今日わが国労働者のかかる低賃金の現状をどう認識されておりますか。また、現行最低賃金法が施行されてから八年を経過しておりますけれども、なおこのようにその効果が発揮されていない理由はどこにあるのか。近年の賃金上昇は、最低賃金法の効果というよりも、経済の異常な成長による労働力の需給関係にその大きな要因があると考えるのでありますが、総理の所見を伺いたいのであります。
質問の第二は、最低賃金制と社会保障についてであります。労働者の生活確保にとって、最低賃金制と社会保障は車の両輪であります。すなわち、最低賃金は労働者に対して賃金の面で少なくとも最低生活を保障しようとするものでありますが、しかし、それだけでは最低生活を維持できない現実にあります。労働者は常に、疾病、災害、失業、老齢などの事故、労働不能の脅威にさらされているのであります。そこで、こうした所得の喪失に対する必要な保障のための社会保障の充実が叫ばれているのであります。しかるに、政府は、国民皆年金、皆保険といいながら、保険主義を強調して医療保険や失業保険を改悪し、社会保障の後退をはかろうとしていることは、きわめて遺憾であります。かつて、総理の諮問機関である社会保障制度審議会は、わが国社会保障について、四十五年までに欧米諸国と肩を並べることができるよう全体のレベルを引き上げること、そして、そのための予算を確保することを勧告いたしております。政府は、いかなる計画をもって憲法第二十五条の理念を実現しようとするのか。また、生活保護を本来のあるべき姿に戻すためには、有効な最低賃金制と家族手当制が必要でありますが、政府は児童手当制度をいつから実施しようとするのか。さらにまた、ILO百二号条約の批准についても、この際総理並びに厚生大臣に伺いたいのであります。
質問の第三は、最低賃金の決定基準についてであります。最低賃金制においてその金額をどうきめるかということは最も大切なことであります。現行法が、低賃金労働者の保護というよりは、むしろ初任給をめぐる中小企業相互の競争条件に一種の基準を設けるという経済政策的性格の強いものであることは、いなめないのであります。したがって、その金額の決定も、法第三条で、一応、生活賃金、公正賃金、支払い能力の三原則によると規定しているのでありますが、生計費の定義が明らかにされず、業者間協定方式ということで、いわゆる支払い能力に重点が置かれ、労働者の生活保障が忘れられているのであります。かつてアメリカの産業復興法制定にあたって、ルーズベルトは、「労働者に生活賃金よりも低く支払うことによって存在を続けている企業は、この国では存続する権利を持たない。生活賃金とは最低生存水準以上のものを意味している。それはていさいを保てる生活水準の意味である」と言っております。また、労働基準法第一条には、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」と規定されております。政府は、最低賃金額の目安をいかなる基準で算定したのか、その算出根拠を明らかにしていただきたいのであります。また、それは法定金額と同じ性格を持つものではございませんか。この際、生活賃金の概念等につきましても労働大臣にお伺いしたいのであります。
質問の第四は、ILO条約との関係についてであります。現行法制定に際し、当時の政府は、業者間協定方式が条約に違反しないとして、すみやかに批准することを約束されたのであります。しかるに、昨年二月、政府は中央最低賃金審議会に対し、最低賃金法がILO二十六号条約に適合するよう答申をいただきたい、と依頼したのであります。このことは、現行法が条約に違反していることを認めたものであり、当時の政府は、明らかに国民をだまして法律を制定したことになると思うのであります。政府はいつ条約に適合しないということがわかったのでございましょうか。その政治的責任はまことに大きいと考えるのでありますが、総理の御見解をお聞きしたいのであります。また、今回の改正案は条約に適合すると考えているのでしょうか。もしそうだとすれば、それは再び国民を愚弄するものであります。
ILO二十六号条約には、この制度の運用にあたっては、「関係ある使用者及び労働者は、如何なる場合に於ても、同一の員数に依り、かつ同等の条件に於て、該制度の運用に之を参与せしむべし。」と規定し、さらにまた、同時に採択されました三十号勧告では、よりこの点を具体的に述べております。すなわち、「決定せらるべき賃金率の権威を一層大ならしむる為には、関係ある使用者及び労働者が員数又は投票力を等しくする代表者を通じ共同して賃金決定機関の審議及び決定に直接参加すること」、また、「一ないし二名以上の中立者を包含する必要があるが、これは労使同数に分かれた場合に決定に到達することを助ける任務を持つものであり、選任にあたっては、労使の代表者の同意を得て、またはこれと協議の上できめるべきである」、と述べているのであります。しかるに、わが国における多くの審議会が、中立あるいは公益委員の名のもとに政府の任命による委員が最終的な決定権を持っているように、この法第十六条による最低賃金審議会もこの例外たり得ないのであります。したがって、私は、改正案もなお条約に違反するものと思うのでありますが、労働大臣の見解をいただきたいのであります。また、違反でないとするならば、なぜ今国会に批准案の提案をしないのか、また、いつ、しようとするのか、あわせてお伺いをしたいのであります。
質問の第五は、家内労働対策についてであります。家内労働に従事する労働者は、近年増加の傾向にあります。高度経済成長のもとで、またその間、労働者の実質賃金が上昇したにもかかわらず、家内労働が増大をしていることは、基本的には労働賃金の低いことにその要因があります。最低賃金が有効な実施を確保されるには、関連家内労働がそれ以下の工賃で供給されることを規制しなければなりません。今日、都市の内職的労働、農村の副業的家内労働は特に賃金が低く、政府の調査によっても、全国平均一時間当たり二十六円弱となっているのであります。これは労働力供給が多いということもございますが、何ら規制が行なわれず放置をされているところに、このような低賃金を可能にしているのであります。しかも、これら労働者は、労働保護法の恩恵の外にあって、きわめて悪い作業環境の中で働いているのであります。かかる労働者こそ最低賃金制を最も必要といたしているのであります。政府は、現行法に基づく最低工賃さえもきめようとせず、単に標準工賃の設定と家内労働手帳の実施でお茶をにごしているのであります。しかも、その行政措置の指導を受けている者はわずかに十万人余りであります。政府は、この際、最低賃金法の改正とあわせて、家内労働法を制定し、総合的家内労働対策を樹立をすべきであります。政府の方針と、家内労働審議会の答申がいつ出されるのか、労働大臣のお答えをいただきたいのであります。
質問の第六は、今回の法改正に関連してでございますが、現行最低賃金法は、最低賃金制度が具備しなければならない条件を全く逸脱した悪法の最たるものとして、国内はもちろん、国際的にもその非難を浴びてきたものであります。わが党はかねてより、わが国経済の二重構造によってもたらされる企業格差や賃金格差、さらには地域間の格差を是正するには、全国一律の最低賃金の実施こそ不可欠の要件であると主張してまいりました。労働者の最低生活は、いかなる条件下にあろうとも平等であるべきだとして、その実現を求めてきたのであります。そして、かつての大橋労働大臣はその意義を認め、「ある程度の地域的な例外を認めるならば全国一律制も無理ではないと思う。したがって、四十年末からの通常国会に提出することも考える」との公式の言明をし、それを受け継いだ石田元労働大臣も同様の意思を表明したのであります。しかしながら、このたびの改正は、九条、十条などの業者間協定を削除しているにすぎないのであります。全国一律制実施に対する両大臣の言明は、当然、同じ自民党内閣として、今日なお、政府の責任において引き継がれていると思うのでありますが、総理並びに労働大臣のお答えをいただきたいのであります。
さらに、この政府の労働者に対する裏切り行為に反省を求めるということで、総評の代表者は、昨年三月以降、中央最低賃金審議会に参加をしていないのであります。そして、その参加をしていない中で答申をきめ、今回の改正案となったのであります。このことは、最低賃金制度の運用にあたっては労使の対等の原則をうたっているILO条約の規定に照らしても、不当な行為と言わざるを得ないのであります。政府は、労働者代表の参加を求めるために、本改正案を撤回し、あらためて審議会の意見を聞くべきであると思います。労働大臣は、労働者代表の復帰を期待するいかなる方策を持っておるのか、伺いたいのであります。
最後に、最低賃金の決定方式と、その機関についてであります。今回の改正案は、今後は第十六条の最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金方式によって運用をはかっていくというものであります。しかしながら、その発議権は、あくまでも労働大臣及び地方労働基準局長にあり、最も必要とされる労働者にはその権限がないのであります。労働者が、みずからの生活と労働条件を守るために決定さるべき最低賃金に対して、みずからその改正を要求する権限がないということは、それはまさに、審議会という名を借りた業者間協定方式の再現であると断ぜざるを得ないのであります。
いわんや、現行法が実施されて以来八年になりますが、業者間協定方式を含めて、その適用労働者はわずかに五百五十万人にすぎません。一千三百万人に及ぶ中小企業労働者の大部分は、業者間協定方式によっても適用困難な労働者であり、労働組合すら結成できず、劣悪な労働条件のまま放置されているのであります。したがって、決定に対して異議を申し立てることができるとあっても、これら未組織労働者は、一体いかなる手段と方法によって、その発言の場を確保されるのでありましょうか。これら低賃金政策のもとで呻吟している労働者を救済するためには、全国一律の方式以外にないのであります。そうして、その決定機関は、行政委員会の性格を持ち、全国的な労使の代表者による対等な立場での交渉を経て決定することが、ILO条約にも適合する本来の最低賃金制度であり、そのことがまた、国の中小企業に対する助成、育成政策を促し、いたずらに労使関係を紛糾させることなく、国民経済の健全な発展につながる道であると信ずるのであります。
政府は、労働者の最低生活を保障する制度本来の目的を達成するために、この際、法の抜本的な改正を行ない、今日の最低賃金行政の混乱を収拾し、もって正常な労使関係を樹立することが、行政府の当然の措置と思うのでありますが、総理並びに労働大臣の見解をただしまして、私の質問を終わるものであります。(拍手)
〔国務大臣佐藤榮作君登壇、拍手〕