大来佐武郎の発言 (予算委員会公聴会)
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○大来公述人 本日、私は四十三年度予算案についての公述をいたすことになっております。この四十三年度の予算案、一つには四十三年度の経済情勢、国内及び国際経済情勢という観点からどういうふうに見てまいるかということ、さらには、予算の案が国の将来にも関係する点もございますので、やや長期的な点から見た問題、二、三気づいておりますようなことを申し上げてみたいと存じます。
まず第一に、予算案自体が、四十三年度につきましては従来の惰性を排しまして、かなり勇断をもって財政硬直化の防止につとめられたということは、やはり注目してよろしい点だと考えます。予算規模の伸びが一一・七%程度であった、政府見通しの国民総生産の成長一二・一%程度に対してやや内輪になっておるという点が指摘されておるわけでございます。そのほか、公債依存度をかなり下げまして一〇%強程度のところに持ってまいった。その辺は、とにかく近年の財政の規模の拡大が超均衡から均衡、さらに赤字といいますか、公債発行という形で財源をふくらまして歳出の規模をふやしてまいった。いずれにしても、そういう形での財政の規模の膨張にあるところでブレーキをかける必要があるということは、早晩出てまいることだと考えられるわけであります。まあ、どこかでそういうブレーキを一たんかける必要があると存ずるわけでございまして、その点では、今年度そういう形になっておると見てよろしいかと思うのであります。ただ内容につきましては、後ほどいろいろ申し上げたい点もあるわけでございます。
次に、経済動向でありますが、昭和四十三年度の経済につきましては、私ども経済専門家と申しますか、エコノミストといたしましてもなかなか判断のむずかしい情勢でございまして、昨年の暮れにニューヨークに参りましていろいろあちらの経済専門家に会いましたときに、そのうちのある一人が、明年度の経済は落石注意だ、いつ石が頭に落ちるかわからない、世界経済全般あるいはアメリカ経済としては拡大の基調にあるけれども、そういった不測の事態に備える必要がある年だというようなことを申しておりましたが、確かに本年度の世界経済の動きということになりますと、いろいろと予断を許さない事情がございます。ただ私ども、ポンドの切り下げからドルの不安という一連の情勢、さらにドル防衛策の成り行きによっては、ドル平価の問題あるいは金価格の変更というような問題も絶対にないとは言えない情勢があるように感じております。しかし、金融面のいろいろな変動ということが、第二次大戦前でありますと経済の実態面に非常に大きな深刻な影響を与えてまいったわけでありまして、一九三〇年代初期の不況期には、欧米諸国の工業生産指数がほぼ半分に落ちた、世界の貿易額も、金額で見ましてやはり一九二九年の三分の一以下に縮小するというような、非常に大幅な世界経済の実態面の縮小、各国における深刻な失業者の発生というようなこともございましたが、戦後、とにかく世界各国ともいわゆる完全雇用、成長政策というような面で実態面の大きな動揺を防ぐ政策が進行いたしておりますので、確かに金の面から見れば、世界経済はいろいろ問題を含んでおりますが、私ども、実態面としては、四十三年度、一九六八年は前年に比べましてやや拡大基調であろうと考えております。アメリカの経済も、昨年二・五%の成長が、ことしは四%強といわれておりますし、ヨーロッパの西ドイツも、昨年マイナス一%というような成長率でございましたが、今年はたぶん三−四%伸びるだろう。いろいろな点を考えまして、実態面から見た世界経済の環境というのはそれほど悪いとは必ずしも言えないというふうに見ておるわけでございます。
そういたしますと、日本の国内経済の面におきまして、昨年来の国際収支の悪化、従来の例に従いまして引き締め措置がとられ、目下その引き締めが浸透しつつある段階だと思います。ごく最近の指標等から見ましても、この四、五月以降にはかなり引き締めの影響が広く出てまいるのではないかと予想されるような情勢でございます。従来の例から見ますと、引き締めがございましてある時期たちますと、鉱工業生産が横ばい状態になってまいる。そういう状態に入ってまいりますと、輸出が停滞ないし幾ぶん減少する。反面におきまして、国内の供給圧力が高まって輸出が伸びてくるということで国際収支が改善してまいる。ある期間国際収支の改善が続きますと、再び引き締め解除という時期を迎える。これは過去五回ぐらいの日本の戦後の景気の循環のほとんど共通した形と見られるわけでありますが、本年の場合に、この国内の引き締め政策が浸透いたしまして、どういう形で国際収支の改善につながるか、その点は、いまの日本の国内で輸出の圧力がふえましても、海外の市場がそれを十分に吸収していくかどうか、この情勢が悪いというとかなり長期にわたって不況が長引くという可能性がございますし、もし世界の貿易の拡大の中で日本の輸出も相当伸びるという可能性があれば、それほど長い引き締めでなくても済むかもしれない。その意味では、この予算の水田大蔵大臣の演説にもございますが、弾力的運営ということが、ことしの予算にとって特に必要なように思われるわけでございます。もちろん、この弾力的というのは二つの面がありますので、大蔵大臣がはたしてどちらの面を考えておられるのか必ずしも明らかではありませんけれども、つまり一つは、国際情勢が悪い。国内の引き締めにもかかわらず、国際収支が長期にわたって改善されなければ、さらに引き締めを強化するというような意味の弾力性がございます。もう一つは、ある時間たってまいりますと生産、経済活動の停滞が出てまいる。ところが昨年度——まだ今年度でございますが、四十二年度には民間設備投資が三割前後ふえたと予想されておりますので、その結果新しい設備が続々稼働する、供給能力がふえる。反面におきまして需要が横ばいであるということになりますと、かなり需給のアンバランスといいますか供給過剰、生産過剰の状態が出てこないとも限らない。そういう場合には、場合によっては購買力補給的な意味での財政の出動といいますか、弾力的運営が必要になるかもしれない。この四十三年度につきましては、弾力的運営ということにこういう二つの面が考えられると思うのでございます。そういう点から申しますと、現在の経済の動きから申しますと、四十三年度の予算の施行にあたりましては、上半期やや押えぎみに、下半期に必要によっては景気をややささえる形で働き得る、そういった年度内の調整ということも考慮しておく必要があるように感じておるわけでございます。
これは当面の問題でございますが、やや長期の立場から考えてみますと、確かに財政硬直化を防ぐために予算の規模の膨張を抑制した。中でも、公共事業の支出の伸びを低い率に押えたということはうなずけるわけでございますが、長期に見ました場合には、日本の経済には従来から社会資本の不足ということがございます。昨年の、四十二年度でございますが、民間設備の伸びが、前年度に比べまして政府の経済見通しによっても二七・五%の伸び、しかし、実際は三〇%を突破するのではないかと見られておりますが、それだけ大きな民間設備投資の増加がございまして、政府の投資的資本的支出は一六%くらいの伸びということでありまして、四十二年度におきましてもこのアンバランスが拡大する姿になっております。四十三年度は、民間設備投資が停滞すれば、ほぼその社会資本投資と民間設備投資と同じ率くらいになると思いますけれども、全般としては、やはりこのギャップが拡大する傾向がある。
昨年の政府の「経済社会発展計画」の中にも「社会資本の整備」という一項がございますが、その中で、この「計画期間中に総額二十七兆五千億円の投資を行なう。これにより、社会資本整備の遅れは緩和の方向に向い、三十年代を通じて低下気味であった社会資本ストックの国民総生産に対する比率は上昇すると見込まれる。」ということが計画にうたわれておるわけでありますが、短期的に見れば、この方向と四十三年度予算あるいは四十二年度の経済動向は相反する方向に向かっておるということが言えるわけでございます。
もちろん社会資本と一口にいいましても、その内容が非常に問題でございます。この内容について検討はもちろん必要でございます。たとえば最近の人口動向などを見ましても、府県別の出生率の動向というようなものに非常に注目すべき変化が起こっておりまして、昭和三十年代の初めごろには南九州とか東北とか、いわゆる農村地帯の県が全国で一番出生率が高く、大阪とか愛知とか東京とか大都会の出生率が低かったわけでございますが、四十年の国勢調査を見ますと、この関係が全く逆転しておりまして、鹿児島その他の農村県の出生率が全国で最低になりまして、大阪や愛知その他の大都会の府県の出生率が最高のグループに入っておるということは、今後日本国民の大部分は都市に生まれて都市に育つということになってくる可能性を示すわけでございます。そういう意味では、やはり都市の生活環境、ことに幼少年に対する生活環境の改善ということは、今後の政策の重点としてもかなり考えていかなければならない。いままでは若い働き盛りの人たちが農村から都市に来たわけでありますが、これからは子供が生まれ、それが育つという都市になってまいりますので、そういう点からいっても社会資本を充実する必要があるように存じます。
それから、従来景気調整政策の面におきまして、いわゆるフィスカルポリシーということで財政の弾力的運営をはかる、だんだんと日本もそういう形になってまいったわけでありますが、同時に、これが民間設備投資の伸びと政府の財政支出の伸びとの関係におきまして、もう一つくふうを要する面があるのではないかということでございます。昭和四十二年度に民間設備投資が三〇%増大するということ、これは二年くらい前のレベルからいいますと五割近く上がっておるわけでございまして、こういうふうに大幅に民間設備が増大するということに対して、これをもう少し波を小さくするための有効な手段がまだ十分にとられておらない。ことに民間の資本も大きくなってまいりましたし、ある程度企業の内部留保もふえてまいりますと、従来のように単に金融引き締めという形では十分に設備投資の波を押えることができない。ことに金融引き締め手段によりますと、どうしても資金の調達力の強い大企業は比較的容易に資金の調達、設備投資の遂行、実行ができる。しかし、調達力の弱い中小企業等におきましてこの引き締めの影響をより強く受ける。これは従来も見られてまいったわけでございますが、私どもそういうような点から考えまして、今回にはちょっと間に合いかねるわけでございますけれども、国会でも十分御検討願いまして、設備投資の波を小さくするための政策、手段、それを幾つか整備していくという制度上の御検討をお願いしたいということを感じておるわけでございます。
これは諸外国の例などでも、たとえばスウェーデンなどでは、景気の過熱のおそれのある場合におきましては、企業の内部留保の一部を中央銀行に設けられた勘定に払い込ませまして、それを今度は景気が下降期に向かう、設備投資をふやしたほうがいいようなときにはこれを解除する、そういう形で設備投資が行なわれた場合には、法人利益の税負担が軽減されるというようなやり方がございますし、他のヨーロッパ諸国などでは、また減価償却、特別償却等を景気調整、設備投資調整に使っておる例もございます。今回、特別償却はわが国ではちょっとそういうことに使えないようなかっこうになったようでございますけれども、とにかく金融引き締めという形だけで設備投資の波を調整するのにはかなり大きな困難がある。在庫投資の調整には金融引き締めが有効でございますけれども、設備投資の調整には必ずしも有効でない。それには景気調整の大工道具を、単にのこぎり一丁ということではなくて、のみもかんなも備えるというような形で、制度的な充実をはかってまいるということが今後必要になるのではないか。そういたしませんと、景気調整の場合に、長期的に見て必要な社会資本の増大が過度に押えられるというようなこともございましょうし、いまのような企業間のアンバランスという問題もございますので、これは今後の課題としてぜひ御検討を願いたいことだろうと存じております。
なお、長期的に見まして財政の支出面の問題でございます。これもいろいろと苦心のあとを拝見いたすわけでございますし、いろいろな点で日本の経済社会の要求にマッチしておる点が多いと思うのでございますが、やや、長期的には、やはり私ども日本の経済の将来を考えます場合に、日本の経済がだんだんと先進国段階に入ってまいりましても、いかにして日本の経済社会が硬直化しないといいますか、財政の硬直化ということが言われましたが、私どもは経済社会の硬直化ということを心配するわけでございまして、なるべくダイナミックな動きというものが経済社会に常に保たれる、それがやはり発展の原動力でございまして、いろいろな意味での固定化ということを避けなければなりませんし、また競争という要素も常に重視していかなければならないと思います。また、特に長期的には人に対する投資、将来の発展の原動力となりますのは、やはり人の能力、経営の能力、技術の能力、あるいは労働者の能力というところに基本があると思いますので、短期的な財政規模の変動がございましても、将来の日本人の能力といいますか、そういうものを高めるための人的投資、これは学問の研究奨励というようなことも含めまして、十分に考慮する必要があるんじゃないか。
また、これは非常に卑近な問題と申しますか、あるいはじみな問題でございまして、あまり一般の注目を引いておらないかもしれないと思うのでございますが、たとえば政府機関における統計の整備というような問題、統計の質の改善というような点で、私ども、実は統計の利用者の立場にあるわけでございますが、こういう仕事はわりあいじみな仕事でございますので、どちらかというと日が当たらない。そういうことを通じましてだんだん統計のクオリティ、質が低下するおそれがあるというようなことを、これは経済の学界の方々も近ごろ心配しておるわけでございます。そういう仕事もじみではございますが、政府の役割りとして非常に重要なことでもございます。また、ことに経済政策をだんだん高度化し、計量的にもいろいろ扱うということになりますと、計量の基礎になります統計がしっかりした科学的なものでありませんと、いかに高等な方法論を使いましても結果があやしいものになるという点もございますので、こういう点も長期の立場から考慮する必要があるのではないか。
以上、ごく大ざっぱにこの四十三年度予算をめぐります私の印象を申し上げたわけでございますが、時間がまいりましたので、以上で陳述を終わりたいと存じます。(拍手)