長谷川重三郎の発言 (予算委員会公聴会)
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○長谷川公述人 ただいま委員長より御紹介を賜わりました第一銀行の長谷川でございます。
本日は、四十三年度予算案並びにこれに関する一般的な経済環境等に関し意見を申し述べるようにとの御趣旨でお呼び出しをいただいたわけでございますが、私自身、三十数年銀行業に従事いたしてはおりますが、財政のことに関しましては一向に専門的な知識もございませんし、また、本年度の予算につきましても、具体的に勉強いたしておるわけでもございませんので、したがいまして、以下に申し述べますことが、多少見当違いも多かろうかと考えておりますが、あらかじめお許しをいただきたいと思います。
ただ、今日のように、日本の経済としてきわめて大事な時期に、長年金融に従事いたす者の一人といたしまして、金融と不可分の関係にある財政並びに予算の問題に関しまして、私個人としての考えでございますが、その一端を直接委員各位の前で申し上げ、そしてお聞き取りをいただく機会を得たことをはなはだ光栄に存じておる次第でございます。
本年初頭、予算に関する大蔵原案が内示されましたおり、私は、ある新聞社から、これに対して批評を書くようにとの依頼を受けました。もちろん、予算の内容等に関しまして詳しい検討をいたしたわけでもございませんが、私なりの感じから、点数で申せば八十五点かという答えをいたしておきました。それをごらんになった二、三の方から、その後、あれは少し甘過ぎるじゃないかという御批評を受けたのでございますが、私は、新聞でざっと予算案の内容を拝見したとき、実はほんとうにそう感じたのでございます。
と申しますのは、昨年の夏、私は、ヨーロッパに参ります機械がございまして、そのおり、ドイツ銀行のアプス総裁にお目にかかるおりがございました。そのとき、西ドイツの不況につきましていろいろ総裁から説明がございまして、アプスさんは、口をきわめてエアハルト内閣の財政政策を非難しておられました。
御承知のとおり、西独におきましては、財政のいわゆる硬直化の結果、一九六六年の連邦予算が編成難におちいりまして、ついにエアハルトの退陣とか、キージンガー政権への移行というようなことになったわけで、その余波がドイツ経済の慢性的不況を招来いたしまして、一時は西独の奇跡というようなことを言われた繁栄はあとかたもなく消えてしまいまして、当時の話では、明春——ただいまのことでございますが、明春までは上昇の見込みが立ちがたいとアプスさんは言っておられたのを記憶いたしております。
昨年秋、わが国におきましても財政硬直化の問題が名方面で議論されておりましたが、経済界に身を置く者といたしまして、私は、実はこの問題は最も気になっておった次第でございます。と申しますのは、かりに本年度予算においてこの問題が真剣に取り上げられないといたしますれば、国際収支の問題も多難なおりでもございますし、一、二年後には日本経済は、ただいま申し上げましたような、昨年西独の経済が経験した以上の不況をこうむらなければならない。さらでだに安保改定その他政治的社会的に問題の多い時期にこれは容易ならぬことだと、専門外の問題ではございますが、私なりに心痛いたしておった次第でございます。それだけに、先刻申し上げました、本年度予算の原案を拝見いたし、それが景気抑制を主眼として、かつまた総合予算主義を採用し、いわゆる財政硬直化の打開への第一歩を踏み出そうとしておられる基本的な姿勢をその中に感じ取りまして、先刻申し述べましたとおり八十五点という点をつけて、政府当局の態度に率直に敬意を表した次第でございます。ただ、この採点は、本年度の予算がほんとうに総合予算として貫かれるならば、つまり補正予算が例年のとおり組まれないならばという重大な前提がついておるつもりでございます。財政当局は、本年度の予算が、予算の基本的な特色として財政規模の抑制をあげておられます。確かに一般会計予算規模は、四十二年度補正後予算額に対しまして一一・八%増で、四十一年度の一九・六、四十二年度の一六・二%増の増加率から見ますと、これをはるかに下回って、政府の経済見通しの四十三年度の名目成長率一二・一%ということだそうでございますが、それにマッチする数字かと存じます。しかし、この原案に国立療養所の経費を加え、四十二年度補正予算で増額されました食管会計の繰り入れ額と給与改定費を差し引いて、すなわち四十二年度当初予算の立て方に引き直して比べますると、一四・三%増ということになっておりまして、必ずしも景気抑制型とは申しがたい要素を含んでおるとも考えられまして、ただいま申し述べたとおり、ほんとうに総合予算として貫かれるということがきわめて大事なように存じます。この点につきまして、政府御当局のきびしい決意の御遂行を信頼いたしたい気持ちでございます。
以上、本年度予算に関します概括的な考え方を述べてまいりましたが、次にこの予算の運営に関しまして、私なりの希望やら意見を若干申し述べさしていただきます。
まず第一にお願いいたしたいことは、予算の遂行にあたりまして、きめのこまかい機動的な運営でございます。一九六八年、本年度の世界経済は、ほんとうに何が起こるかわからないほど流動的であり、かつまたきびしいものであることは間違いないようでございます。こうした環境のうちにございまして、わが国経済としては、一日も早く引き締めの浸透をはかり、国際収支の改善を期することがさしあたりの急務かと考えられますが、また時至らば適切に引き締めを解除いたしまして、不当に経済を不況のどろ沼に陥没させないことも肝要でございます。こうした要請によくこたえ得るものは、財政政策の機動的運営、特に金融政策と相携えましたいわゆるポリシーミックスかと存ぜられます。
第二に、以上申し上げたこととやや重復いたしまするが、金融政策に不当のしわ寄せがまいらないように特別な御配慮が願いたいのでございます。
目下私ども金融界、特にいわゆる都市銀行は、極端と申してもよいほどの日本銀行の窓口規制のもとに苦心しておる状態でございまして、国際収支の改善という点からは、これもやむを得ぬ試練とは存じており、またその効果も徐々に産業界に浸潤してまいっているように見受けられまするが、金融政策が不当に重荷を背負わされますると後になって国民経済にそれが意外に深いつめあとを残すものでございます。近ごろ新聞紙に報道されておりまする中小企業倒産の問題もそのはしりかとも考えられまするが、たとえば外国におきましても、一九六六年の米国の金融引き締め政策が、終局において金融恐慌に近いものになり、国民の住宅建設に大きな支障を与えたことや、先般の西独の極端な景気後退をもたらした金融引き締め政策の苦い経験なども、私どもは常に他山の石として顧みるべきものかと存じます。
第三に、国債及び政府保証債が民間金融市場を不当に圧迫いたさないように御配慮をお願いいたしたいのでございます。
確かに本年度の公債依存度が前年に比べてかなり引き下げられますることは、本年度予算の特色の一つであろうと存じます。すなわち、一般会計の公債依存度は一〇・九%となりまして、四十一年度の当初の一六・九%、四十二年度当初の一六・一%に比べまして相当の低下が予定されておりまして、この限りにおきましては、財政運営に節度が取り戻されるきざしが出てまいったものとして大いに賛意を表する次第でございます。
しかし、これを少し長期的に見ますると、次のような数字に相なります。すなわち、昭和三十二におきましては、債券や株式等いわゆる長期資金の調達が、わが国経済全体のうちで、政府等公共部門に対して一三%、民間部門に対しまして八七%というふうに配分されておりました。それが四十一年度に至りますると、公共部門が六六%、民間部門が三四%と、配分の比重が公共部門に大幅に移っております。そして、そのうち最も大きな部分を公債の発行が占めておることは申すまでもございません。私は、結局のところ国債依存率は、なるべく早くできれば五%程度にまで引き下げていくことが国民経済上も、あるいはまた公共、民間両投資の均衡の上から申しましても、かつまた財政硬直化対策の上から見ましても必要なことではないかと考えております。
なお、この公債の問題は予算の中でわれわれ金融機関として最も直接の関係ある問題でございますので、多少こまかな点になりまして恐縮ではございますが、付随的に二、三気のつきました問題点だけを指摘さしていただきます。
第一点は、国債の消化の環境、なかんずく消化の中心となっておりまする金融機関の資金事情が、金融の引き締めによりましてきわめて現在苦しく相なっておるという点でございます。本年四月以降の金融状態を考えますと、国債の発行につきましては四十二年度と同様、情勢に応じて弾力的に対処していただきたいと存じておる次第でございます。
第二点といたしましては、地方公共団体、公営企業等のいわゆる縁故債の発行についてでございます。これらは財政投融資計画のワク外にあるのではございますが、結局は市中の金融にしわが寄ってくる結果と相なりまするので、これの規制につきましてもしかるべく御勘案をいただきたいものと考えております。
第三点といたしまして、国債の売りさばき方、これは基本的な方向といたしましては、どこまでも個人その他機関投資家の安定的な消化につとめるように持っていくべきものと考えております。したがって、いろいろ事務的に支障もあることとは存じますが、金融機関、郵便局等の窓口でこれを販売するというような手段も、この際考慮していただいてはいかがかと考えております。
以上、るる本年度予算案を中心にいたしまして私の考えを申し述べてまいりましたが、最後に、国民の一人といたしまして国会の皆さま方並びに政府当局にぜひとも心にとめていただきたいとお願いいたしたい点がございます。それは、現在のような世界経済の激動期にあたりましては、自分の国の円の通貨の価値の安定こそが何ものにもかえがたい大切なものであるという国民全体の認識をこの際確立しだいという点でございます。これは裏を返せば、物価の安定でございますが、これが、長い目で見た場合、国民経済の成長の上にもまた民生の安定の上にも最も重要なことであるという事実を、この際あらためて国民も政府も認識し直して、いろいろの政策立案の基礎としていただきたいということでございます。ドル防衛に対抗して申すわけではございませんが、この際、円の防衛策がほんとうの意味で考えられてよいのではないかと考えられます。予算ないし財政のみに限りませず、本年度のわが国経済の運営にあたりまして、政府当局におかれましては、まず消費者物価をこの程度に押えるというめど、まあ四%増程度のめどを希望いたしまするが、これを立てまして、それに順応していろいろの経済諸政策を遂行していただきたいと考えるのは、私どもの従事いたしまする金融機関の預貯金が通貨価値の安定によってふえるというてまえみその議論からだけ申し上げるわけではなくて、国民全体の希望でもあり、かたがた自由化を控えましたわが国経済の明日の躍進の基礎条件でもあろうかと存ずる次第でございます。
以上をもちまして私の公述を一応終わらしていただきます。どうも長らく御清聴いただきましてありがとうございました。