林義郎の発言 (本会議)
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○林義郎君 私は、自由民主党を代表して、水銀、PCB汚染問題について、総理をはじめ各大臣に質問を行ないます。
国民のたん白資源の五二%を魚類に依存しているわが国の状況、海外における日本漁業が諸外国から種々の制限を加えられつつある現在、沿海及び内海における水産業の役割りはきわめて重要であります。養殖や栽培漁業の振興をはかることもきわめて大切な施策として進められてきたところでありますが、西日本を中心として魚は食べられない、売れないという声が起こり、全国に広がろうとしております。
去る五月二十二日、熊本大学武内教授らによる「十年後の水俣病に関する疫学的、臨床医学的ならびに病理学的研究」が発表され、この研究によれば、従来の水俣地区以外にも、有明町に十名の水俣病と区別し得ない症状を持った患者が発見されました。その後、徳山にも水俣病類似患者があると報道されて以来、単に八代海、有明海、徳山湾のみならず、全国的に魚は水銀に汚染されているのではないかとの疑惑が広がった。
さらに、六月四日水産庁より、PCB汚染が全国で八水域に及ぶという発表があり、魚は水銀のみならずPCBにも汚染されているのかと、国民の不安が一そう高まったのであります。
こうした疑惑を晴らし、不安を解消し、国民の健康を最重点に考えて公害対策は進められなければなりませんが、公害の問題は、あくまでも学問的、科学的論拠に立ってこれを進めるべきであり、飛躍した論理やいたずらなる宣伝的言辞によって解決さるべきものでないことは当然であります。問題は、冷静なる判断によって解決すべきものであります。
私は、水俣病というのは、魚等の経口多量摂取により人体内にメチル水銀化合物が蓄積され、これが脳神経等に作用して、中毒性神経疾患を生ぜしめたものであると理解している。
医学の分野においても、人体への蓄積の程度、微量の水銀の摂取による影響等について必ずしも定説がないようであり、医学自体においてまだまだ究明すべき問題点が多いのであります。医学研究者からは、研究費の足らざることを嘆く声がしばしば聞かれます。政府は、現在の研究で十分解明がされていると考えているのかどうか。また、研究費について特別の配慮をすべきものと考えるが、どうか。
第二に、魚等を経口摂取するのであるから、魚にどの程度水銀があり、どの程度食べるかであります。
人体への水銀摂取量が問題でありますから、食べる魚の量に魚の中にある水銀含有率をかけたもので判断すべきは当然でありまして、単に高い水銀含有率を持った魚が検出されたからといって、すぐに水俣病になるということに結びつけることはきわめて早計に過ぎるのであります。
今回発表された魚介類の水銀の暫定基準は、そうした意味で一歩進んだものと私は高く評価いたします。しかし、マグロや河川魚が除外されており、これについて庶民はどう考えていいのか、食ってもよいのかどうか、迷っているというのが現状であります。
一体、日本人は古くからマグロを食べており、しかし、その一般人から水銀中毒患者が続出したという話は聞いたことがありません。マグロの中には相当高濃度水銀があるとはつとに知られたところでありますが、それでも病気はなかったということは、水銀は同じものでありますから、特別の原因があってのことと思われるのであります。こうした点について学問的にも詰めてあるのかどうか。また、その上に立ってどのような判断を下したのか、政府にお聞きしたい。
さらに、同時に発表された「水銀汚染から健康を守るために」という資料には、一週間に食べられる魚介類の量として、アジが十二尾、イカが二・三枚、サンマが五・八尾というような数字があげてあります。これだと、庶民には、イカとかサンマは汚染されている、あまり食べてはいけないのだというような印象を受けます。ところが、現在までに行なわれました魚介類の現地調査では、イカやアジやサンマはほとんど水銀を含有していないというふうに聞いております。
厚生省の今回の資料では、「暫定的規制値〇・三PPMをもとに計算してみますと」となっておりますが、この〇・三PPMというのは第一に平均の数字であろうと思います。また、そのような魚が存在いたしますのは、水俣湾であるとか、あるいは徳山の沖合いであるとかという特別の地域でありまして、一般的に泳いでいるところの魚はこんな高濃度に汚染されたものではないと思いますが、どうであろうか。この発表で、実はイカ釣り業者は、漁価が四割も下がったということでありますが、もう少し親切に、また誤解のないように発表すべきではないか。
第三は、魚の地域的汚染度の問題であります。
たとえば水俣湾等には高度に水銀ヘドロがたまっているように推定されるが、外海の魚にそんなに水銀が含まれているとは考えられない。私は、暫定基準を拝見して、こうした汚染漁場については、漁獲禁止措置を早急にとることが、それにより逆に庶民の魚に対する不信感を取り除くことになると思う。
ところで、現行の法制のもとでは、こうした異常な事態を想定した体系になっておりません。政府は、今国会にでも特別立法を提案するところの意図はないのか。
第四は、一般的環境調査の問題であります。
有明海は、今回の暫定基準をもとにして、県調査の数字を見れば白であります。しかし、さらに周到な調査をし、国民の疑惑をぬぐいさるべきであると思うが、どうでしょうか。
第五、去る六月二十一日、水銀及びPCBに関し、漁業者に対するつなぎ融資を政府は発表されました。しかし、末端金利三分と聞いております。借りるほうの漁民は、全く自己の責任なしに生計の道を断たれ、とほうにくれておるのであります。しかも、その汚染源らしきものはすぐ隣に存在している。各地で漁民から工場への補償請求は相次いでおるのであります。こうした場合でありますから、このつなぎ融資は無利子であるべきであり、全く生活補償的な性格のものであるべきと考えます。事態は緊急を要するのでありますから、現行法のもとでそれが許されないのであるならば、汚染原因者と想定されるところの企業群に負担させるべきだ。さらにいうならば、汚染の原因、因果関係というものが、後日明白になった場合には、このつなぎ融資は、金利も含め、企業に、求償すべきものと考えるが、どうか。
さらに、漁業者のみならず、鮮魚取り扱い業者、市場仲買い人はもとより、旅館等からも苦情が出ております。これらの関連事業に対してはどのような手を打つのか。
第六に、汚染原因者の責任問題であります。
現行法によれば、水質汚濁防止法においても、無過失賠償責任を追及し得るのは健康被害に限られておる。生業被害をはじめとし、財産権侵害については一般原則に戻ることになっておる。すなわち、今回のつなぎ融資の対象となるような被害につきましては、現在の法体系のもとでは、民法七百九条または七百十七条により論ずるというのが、法律解釈論としては私は正しいのだろうと思うのです。しかし、法律論だけであったならば、再びあのチッソの長年にわたる訴訟の二の舞いになりかねないと思うのであります。私は、政治責任として、この際いかなる形で、またいかなる方法で政府は企業の責任を追及されるのかお伺いし・たい。
最後に、私は水俣や有明海、徳山湾等に現地を視察してまいりました。概していうならば、その汚染原因は、主として公害問題がやかましく論ぜられるようになったとき以前の排出であります。水銀の汚染は確かにおそるべき害毒であり、これから絶滅するように努力を傾けるべきであることは当然のことでありますが、科学的知見の得られる前のものまで企業に責任を押しつけるというところに問題がある。
さらにいうならば、たとえばDDTであるとかBHCのような農薬は、かつては有益であるとされ、政府もその使用を推奨したが、自後になってその毒性が明らかになるにつれ禁止された。その場合、政府も、また学者も、当初はこれを認め、あとでこれを改めたというのが歴史であります。こういった種類の被害はチクロその他多くにあると私は思うのであります。こうしたものは、かりに無過失賠償責任だけで片づけるにしても、あまりにも大きな問題だと思います。
換言すれば、科学は進歩します。その成果は人間として十分に享受すべきものであります。しかし、科学、科学者といったところで万能ではありません。そのあやまちを償うのは一体だれか、私はきわめてむずかしい問題であると思いますが、それをきめるのは、お互い国会であります。与党、野党の立場をこえて、現代科学、現代技術に対する反省というこの基本問題に取り組むべきであると考えます。議員各位の御検討を心からお願いするとともに、総理のこの点についての御見解をお尋ねして、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣田中角榮君登壇〕