下平正一の発言 (本会議)

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○下平正一君 私は、日本社会党並びに日本共産党・革新共同、公明党、民社党を代表して、ただいま議題になりました田中内閣不信任決議案について、提案の趣旨を御説明いたします。(拍手)
 まず最初に、本決議案の案文を朗読いたします。
  本院は、田中内閣を信任せず。
   右決議する。
  〔拍手〕
 以下、私は、不信任の主たる理由について、順を追ってその趣旨を明らかにしてまいります。
 田中総理、あなたは、庶民宰相を旗じるしに、自民党再建の旗手としてさっそうと登場したにもかかわらず、わずか二年にして、あなたの期待に反して、このたびの参議院選挙で、自民党は、改選議席数の半数さえも確保できず、保守合同以来かつてない大きな危機に直面しているといわれております。また、田中内閣にはいまや冷ややかなすき間風が流れていると取りざたされております。それは一体なぜでしょうか。あなたはそのことを静かに考えてみたことがありますか。あなたの最近の言動からは、いささかの反省も見られません。こうしたみずからを問い直して政治に当たるという、政治家として不可欠な態度が欠落しているところに、民意があなたから離れていく根本的な要因があると私は思うのであります。(拍手)
 この内閣不信任案は、無能力、無反省で、民主政治と国民生活を破壊し続けてきた、日本の政治史上最悪の総理大臣である田中角榮君に対する、国民の名による峻厳な告発状であります。(拍手)
 田中総理の悪政の数々、失政の数々は枚挙にいとまがなく、これを非難する適当なことばを見つけることにさえ困難をいたしております。私は、その中でも重要な数点にしぼって、ここに告発をいたしたいと思います。
 参議院選挙の結果は、あまりにも明白であります。国民の厳正かつ痛烈な審判と選択の結果は、自民党の徹底した敗北であり、田中内閣の施策に対する国民的拒否の表明であります。(拍手)したがって、選挙直後のこの臨時国会に対する国民の期待と要求は、当然のことながら、田中内閣に対する厳粛な反省を求め、その責任を明確にすると同時に、インフレ、物価、その他重要かつ緊急な課題について、真剣な討議を行ない、適時適切な対策を実施することであります。
 しかるに、田中総理大臣は、この国民の血の叫びを無視し、さらには、国会のよき民主的慣行を踏みにじって、院の構成だけの短期国会とし、所信表明すら行なわない態度に出、しかも、党内の多くの反対を押し切ってこれを強行したのであります。
 選挙中あれほど多弁であった田中総理が、今度の国会では貝のごとく口を閉ざして、とにもかくにも八日間の会期が一日も早く過ぎ去ってくれることをひたすら念じ続けているようでありまするが、この態度は、あなたのわがままとして断じて許すわけにはまいりません。(拍手)
 あなたのこの沈黙は、あなたの盟友であるニクソンの大統領弾劾問題における沈黙、また、隣国韓国において、大統領緊急措置を情け容赦もなく強行する朴大統領の沈黙と並ぶ、現代の恥ずべき世界三大沈黙といえるのであります。(拍手)この三つの沈黙が、いずれも人間の良心と理性に挑戦する沈黙であり、民主主義の原理を否定しているところに、問題の重要性がございます。
 さらに、山積した問題を放置したまま外遊しようとしておりまするが、これは外遊でなく、まさに国外逃亡であります。(拍手)
 このような田中総理の議会軽視、国民無視の民主主義を破壊する行動は、これ一つだけとっても、不信任に値する罪であります。(拍手)
 田中総理大臣に対する第二の重要な告発は、そのインフレ政策、物価つり上げ政策によって、国民生活を破壊した罪であります。
 田中内閣は、わずか二年そこそこの在任中、通算して卸売り物価は実に五一・六%、消費者物価は三六・二%に急上昇せしめたのでありますが、これは、敗戦直後の混乱期を除けば、実に平時の二十年分に相当するものであるといわれており、この意味で、田中内閣は史上最高の物価値上げ内閣であり、あなたは国民生活破壊の総理大臣であります。(拍手)
 すでにOECDの報告にもありまするように、日本は、先進資本主義国の間でも最高の物価高騰国であり、田中内閣によって、まさに物価高騰大国となったのであります。
 しかるに、田中総理は、参議院選挙のさなかに、物価問題は屋根の雨漏り程度とうそぶいているのであります。総理は、自由民主党総裁として、今度の選挙に一千億円近い資金を投入して、まさに金権、買収選挙を行なったとうわさされているのでありまするが、そうした自民党の諸君にとっては、暴騰物価は雨漏り程度で済むかもしれませんが、しかし、日夜額に汗して働き続ける勤労国民にとっては、まさに死活の問題であります。(拍手)インフレ、物価問題は、国民生活にとって一日一刻もゆるがせにすることのできない政治上の大問題であります。
 田中総理は、国民の声を聞くと言いながら、選挙中はこの物価、インフレの問題から逃げ通して、臨時国会でも施策の表明ができないとあっては、最重要課題であるこのインフレ、物価対策について、みずから無能、無策を表明したものといわなければなりません。(拍手)いや、実は不作為の無能、無策ではなく、石油、電力、運賃、鉄鋼、アルミ、セメントと、ありとあらゆる物価の底上げを行ない、あるいはこれからも行なわんとして、積極的に物価引き上げ、毒を食らわばさらまで式の国民生活破壊の行政を続けているのであります。しかも、これらインフレ、物価高騰の原因を、国際的なインフレ、労働者の賃金上昇になすりつけているのでありまするが、これこそ、盗人たけだけしいというべき態度であります。
 そもそも、物価の急上昇のきっかけをつくったのは、「日本列島改造論」の中に固有名詞で出ている二十五万都市の土地値上がりであり、当然の成り行きとして、続いて起こった木材、セメントなどの建設資材の値上がりであり、そしてあらゆる物価に波及したのであります。
 この物価値上がりの経過を見れば、物価を高騰せしめた元凶は、まさに田中内閣総理大臣その人であり、列島改造論であることは、明々白々たる事実であります。(拍手)
 田中総理大臣は、昨年から、国民に対して、物価を安定させる、責任をとるとまで約束してまいりましたが、まさに口頭禅に終わっているだけでなくて、高度成長政策を転換するという約束も全くほごにして、相変わらず七千キロの新幹線の建設とか、本四架橋の同時着工を唱えて、さらにインフレを助長しようとしているのであります。のみならず、大企業の買い占め、売り惜しみ、物価操作、やみカルテルなどの悪徳商法、反社会的行為を見て見ぬふりをして、ばく大な収益をあげさせ、その不当利得を税で吸収せよという国民的要求には、抜け穴だらけの会社臨時税法などで、千数百億円もの恩典を大企業に与えているのであります。
 土地はどうでしょうか。まさに土地は社会的不正義、諸悪の根源をつくり出していると言っても過言ではありません。大企業の不当な買い占め、不当なつり上げ、ばく大な収益、このことは一体何をもたらしておりますか。土地や株の値上がりによる不労所得が、社会に必要な物資、サービスを生産する労働者や農民の所得を上回るという今日の経済状態は、どんな理由づけをしようとも、正常な姿とはいえません。まさに、日本経済はギャンブル経済化しているのであります。
 インフレと物価高の荒波を最も強く受けているのは、低所得者、病人、生活保護世帯など、いわゆる経済的、社会的弱者層であります。これらに対して、田中内閣は何を一体したのですか。四十九年度予算で社会保障費を大幅に増加したというけれども、しかし、増加をしたのは、社会保険費、いわゆる武見予算といわれる医療費の増加だけであります。五〇%増しにしたといわれる厚生年金も、わずかに月額二千五百円、一日にして八十三円であります。生活保護世帯への給付をふやしたといいますが、これも一人当たり一日八十三円であります。春闘の際の弱者対策として出したインフレ手当も、月二千五百円、一日にすれば八十三円。田中内閣の社会保障は、たった八十三円の社会保障というべきであります。(拍手)
 一体、この物価高の中で、八十三円で老人や病人に何を食べなさいというのですか。血も涙もないということばは、このような政治に対していうことばではないでしょうか。田中内閣総理大臣の政治の中からは、憲法二十五条は完全に抹殺されてしまっているのであります。
 次の告発は、農政についてであります。
 過般の米価審議会を中心とする米作農民の激しい戦いは、労賃、生産資材の大幅値上がりに対して、農家の生活を守り、米の再生産を確保するための要求でありましたが、単に米作農民だけでなく、畜産、果樹、養蚕など、あらゆる農民の要求を代弁して戦われたものであります。同時に、日本農業の立て直し、食糧自給への農政転換の要求として受けとめるべき問題であり、これは、とりもなおさず、政府・自民党の農政に対する鋭い告発にほかならないのであります。(拍手)
 歴代内閣のもとで、農民切り捨て政策が続けられ、外国農産物の輸入増大による国内農業の圧迫が強まり、とりわけ、田中内閣の日本列島改造論によって農地の取りつぶしが行なわれ、耕作面積の異常な減少、専業農家、農業就業人口の急減で、日本農業はまさに後退と荒廃の一途をたどっているのであります。
 この結果、諸君御承知のとおり、昭和三十五年に八三%であった穀物自給率は四三%に半減し、米を除けば、その自給率は一〇%に満たないという現状であります。
 世界的な食糧危機、資源不足のもとで、もはや、安い食糧を自由に輸入することは、きわめて困難な状況であります。こうした国際的状況の中で、食糧の大部分を海外に依存をすることは、将来に大きな禍根を残すことは明らかであります。
 政府・自民党の諸君は、安全保障といえば、日米安全保障条約の堅持、自衛隊増強を異口同音に強調するのでありますが、食糧自給もできずして、何が安全保障といえるでありましょうか。農政の失敗を安易に消費者米価の値上げに転嫁することは許されません。農政を転換して食糧自給率の向上をはかることこそ、わが国が必要とする最大の安全保障の課題であり、国民に責任を持つ政治のあり方であります。農業を荒廃せしめた田中内閣の罪は、まことに重大であります。(拍手)
 さらに、中小企業の問題についてであります。
 大企業はインフレでぼろもうけをしているが、中小企業はインフレで倒産が続出をし、ことしに入っても、史上最高の倒産が続いております。特に、繊維の倒産、レイオフが行なわれ、経営者、労働者ともに、インフレの波にまさにのまれようとしております。
 政府は、中小企業振興を口では唱えておりますが、その本心は、大企業と一体になって、中小企業の自然淘汰を願っているのであります。
 そのことは、昭和四十九年度予算を見れば明瞭であります。中小企業対策費は、予算規模に占める割合がわずかに〇・六%、昨年も、その前年も同じく〇・六%台、まさに、田中内閣は、中小企業をコンマ以下にしか扱っていないことが歴然であります。(拍手)
 次の重要な問題は、目に余る金権選挙、企業ぐるみ選挙などの腐敗選挙、時代錯誤の道徳論を振りかざして反動教育を推し進め、教職員に対して権力的弾圧を加えている民主主義に対する罪であります。
 田中総理は、選挙中も、五つの大切とか十の反省などと言ってきましたが、東京の都心のまん中に三千坪の大邸宅をかまえ、その庭には、一匹数百万円ものコイを放っているとうわさされております。さらに、選挙の際には、五当三落という、果ては十当七落といい、新型ヘリコプターを飛ばして全国を叫び歩いた田中総理に、一体節約の道徳を語る資格があるでありましまょうか。(拍手)国民は大きな疑問を持っております。金権選挙を放任して政治を腐敗させた責任を、一体、田中さん、あなたはどうとりますか。(拍手)
 自民党総裁として公認をした糸山英太郎議員派の悪質な買収選挙違反は、その容疑が底なしのどろ沼の様相を呈し、すでに多数の逮捕者を出しております。公認した総裁として、この責任を感じませんか。少しも反省をしない田中総理の態度には、これが国民に向かって道徳を説いた同一人物かと、ただただあきれるばかりであります。(拍手)
 金権選挙、企業ぐるみ選挙の害毒はもちろん、定数のアンバランスの是正、その他、民主政治の基礎となる選挙の公明を期するため、緊急に改革しなければならない問題が、今次選挙においても明白になっているのであります。総理は、目下ほおかむりをきめ込んでおりまするが、これを持ち出せば、さきの小選挙区制問題のときのように、それなら小選挙区制だと、制度論にすりかえ、逆手にとって開き直る姿勢をちらつかせております。これは脅迫者の態度であります。居直り強盗の態度であります。一国の総理大臣の断じてとるべき態度ではないと思います。
 次には、外交の失政であります。
 国を守るということは、主権を守るということであれば、自衛隊の増強の前に、現実に日本の主権を侵害している韓国政府に対して、一切の援助を取りやめるなど、断固たる態度で対韓外交に臨むべきであります。
 現在も、身柄が事実上拘束状態にあり、また、過去の大統領選挙に関連して朴軍事政権から起訴されております金大中氏は、かつて、腐敗した朴政権をささえているのは、アメリカの軍隊と日本の円であると強調しておりまするが、このことばは、現在の韓国の状況を正しく指摘したものといえます。
 すでに、あの忌まわしい金大中氏拉致事件が起きてから一年を経過しておりまするが、当時、田中内閣は、時間をかけて筋を通した解決をすると言いながら、今日、経済援助という名のもとに、ファッショ政権の維持にきゅうきゅうとし、そこからまた新たな利益を得ているのであります。大統領非常大権をはじめ、一連の弾圧措置のもとで、韓国の民衆が血みどろの苦しみにあっているにもかかわらず、世界に冠たる悪名高い軍事政権に経済援助をとり続ける田中内閣の体質は、まさに朴大統領と同質であり、同罪であるといわなければなりません。(拍手)
 いま、政府が韓国に対してとっているような、相手国政府と人民間の隔たりを無視して、一方的に政府のみに加担をする形で行なわれている援助の姿勢は、他のアジア諸国に対しても共通のものであります。これに対する人民の反発は、昨年の総理の東南アジア歴訪時のあの激しい反日デモによって、いやというほど見せつけられたはずであります。田中内閣の、外交の上での誤りをおかした重大な罪であります。
 田中総理は、本年初頭の通常国会における施政方針演説において、結果について責任をとると、明確な態度を表明されました。このことは、確かにすべての政治家に問われることであります。昨年来の世界の諸国に見られる首班、指導者の交代の中に、まさにこうした民主主義原理の貫徹を見ることができます。
 ところが、田中総理のインフレ、暴騰物価に対する無責任きわまる対応、金権、企業選挙に見られる厚顔無恥な態度、沈黙が得だとばかり今国会で所信表明すらできない無能な姿からは、責任の片りんさえもくみ取ることができません。
 アメリカ議会におけるニクソン大統領弾劾審議において、フラワーズ議員は、私が一番気にしていることは、巨大化する政府が人民の自由を侵害しているのではないかということである、人民のための、人民によって設けられた制度は、一人の人間や一つのグループの政治的利益のためにつくられたものではないと述べております。また、共和党のバトラー議員すら、権力の誤用こそ圧制の本質であると、弾劾発言を行なっております。ここに見られるニクソン大統領弾劾発言は、海の向こうのアメリカ政治におけるできごとだけではなく、そっくりそのまま田中総理に当てはまることであります。(拍手)
 田中政治のこの二年間は、まさに田中角榮という一人の人間のための、あるいは自民党内の限られたグループのための政治でありました。(拍手)権力を誤用してきたのであります。それは、私が言うまでもなく、あなた方の先輩である三木副総理、福田大蔵大臣の辞任が何よりも証明をしているではありませんか。(拍手)
 われわれ国民にとって、このような無策、無能、そして徒党的な内閣が一日存命することは、一日だけよけいに国民的損失となり、不幸を増幅させることになることは、だれの目にも明らかであります。
 田中総理、あなたは、この際、選挙の結果に示された国民審判を率直に受けとめ、この二年間の政治的結果に対する責任のとり方に、いまこそ決断と実行で臨み、不信任決議を待たずに総辞職すべきであります。(拍手)
 以上、私が申し上げました数々の問題点は、細部において多少の異論はあっても、国民の選良として本院に在籍する者の、党派を越えてひとしく憂うるところであると確信をいたします。また、このような総理、総裁を持つことは、自民党にとっても不幸であります。自民党の良識ある諸君の積極的賛成を心から訴えまして、趣旨説明を終わります。(拍手)
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発言情報

speech_id: 107305254X00319740731_013

発言者: 下平正一

speaker_id: 32280

日付: 1974-07-31

院: 衆議院

会議名: 本会議